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テンセントがグループでロゴタイプ書体を統一

中国IT企業大手テンセントが、企業ロゴタイプを変更した。単なるロゴタイプ変更ではなく、テンセント字体を作り、グループ企業もこの字体を使ったロゴタイプに統一をすると好奇心日報が報じた。

 

既存フォントを使って企業ロゴタイプを作る欧米企業

日本では、企業のロゴタイプを1から作るレタリングをすることが多いが、欧米のアルファベット圏の企業では、既存フォントを使ってロゴタイプを作るのが普通だ。有名なのはヘルベチカという書体で、ルフトハンザ、ノースフェイス、マイクロソフトパナソニック、ジープ、スコッチ、3M、ターゲット、ネスレなどが採用している。多少、カスタマイズをすることもあるが、多くの場合は、書体そのままが使われる。

ロゴタイプを作成するデザイナーは、書体を選ぶだけで、日本的感覚だと、手抜きのようにも思えてしまうが、アルファベット書体は何万種類もあり、それぞれにイメージが異なっているので、適切な書体を選ぶだけでも、かなりの知識とセンスと議論が必要になる。

1からレタリングをしたところで、結局、既存フォントのどれかに近いものになってしまいがちで、それだったら、最初から既存フォントを使った方がいいという考え方だ。特に、歴史のある書体の場合、その書体のもつイメージを企業のイメージとして伝えやすく、また、どのような文字組みにしても自然な感じに仕上がる。

しかし、日本や中国の漢字圏の場合、既存書体を利用しようとしても、アルファベット圏ほど書体の数が多くなく、企業が表現したいイメージにぴったりの書体が見つからないことも多い。そういう場合は、1からレタリングをして作ることになる。

テンセントは、ロゴタイプだけでなく、6763字あるテンセント書体を作り、これを使ってロゴタイプを作成した。この書体には、ギリシャ文字、ひらがな、カタカナ、キリル文字なども含まれている。

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▲テンセント書体。グループ内で使われる書体なので、外部に公開される予定はない。元々はテンセントのロゴタイプ刷新のプロジェクトだったが、結局6763字をデザインする書体を作ってしまった。

 

グループ全体で同じ書体を。書体作りが始まった

テンセントでは、「Tencent騰訊」というロゴタイプだけをオリジナルで作成して、創業以来18年間使ってきた(騰訊はテンセントの中国名)。2年前から、このロゴタイプを一新する作業が進められてきた。

最初に行われたのは、英文のバランスを整えることだ。小文字をやや小さめにして、従来右に14度傾いていたものを11度に修正した。漢字部分も、英文のフォントに合わせ、線を細くし、ハネなどをゴシック風に変えた。また、文字色もパントーン2945Cからパントーン2728Cに変え、明るく鮮やかな印象にした。

このロゴタイプを、社内で1年間試用をして意見を集めた。すると、評判がよく、グループ内企業でも同じ書体を使いたいという希望が殺到した。それで、企業ごとに新しいロゴタイプをデザインするのではなく、テンセント書体を作り、グループ企業はその書体を使ってロゴタイプを作るということになった。

だとしたら、漢字と英字だけでなく、ひらがな、カタカナ、繁体字なども入れなくてはならない。そこで、日本の東京支社から小林章、土井遼太、米国本部からスティーブ・マターソン、ジュアン・ビルニューブ、香港支社から許瀚文、許大鵬、馮景祥などのデザイナーが集められた。

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▲上が以前のロゴタイプ。下が新しいロゴタイプ。一見似ているが、色合い、小文字のバランス、傾き、ハネの処理など、変更点は多い。

 

漢字に斜体は合わない。難航するデザイン作業

しかし、作業は難航した。なぜなら、漢字には、右に傾く斜体という概念が存在しないからだった。以前のロゴタイプでは、漢字は「騰訊」だけだったので、そう大きな問題ではなかったが、多くの漢字を作る書体となると、この斜体の扱いが難しい。

漢字は、字画が複雑なので、斜体にするとバランスが悪くなり、字によっては、右に傾き崩れるような不安感を感じてしまう。そこで、以前のロゴタイプでは14度傾いていたものを11度まで弱めたが、それでもバランスが悪い字が出てくる。

そこでデザイナーたちは、漢字の終画のハネ、ハライに注目をした。このハネなどをなくして、ゴシック風に断ち切ってしまうと、傾いている感覚が視覚的に弱まるのだ。この小さな工夫を積み重ねることで、実際は11度傾いて設計されているものの、視覚的には8度程度しか傾いていない感覚に仕上げることに成功をした。

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グループ全体がテンセント書体を使ってロゴタイプを作る

このようにしてテンセント書体が生まれた。グループ企業は、ロゴタイプを1からデザインしなくても、このテンセント書体を使って、文字を並べるだけでロゴタイプが作れることになる。

テンセントのグループ企業にの中には、「テンセント」の名前が含まれていない企業もある。それでも、同じ書体を使うことで、消費者にグループ企業の一員であることをそれとなく伝えることができるのだ。

ひとつの書体を作るには、時間もコストもかかる。しかし、グループ企業が多いのであれば、各企業がバラバラにロゴタイプをデザインするよりは、コストが節約でき、なおかつ消費者にグループの一体感を伝えることができる。

今後、中国企業、そして日本企業でも、このような企業書体を作って、グループ全体で使うというケースが増えていくかもしれない。

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▲テンセント書体を使ったグループ企業のロゴタイプ。同じ書体を使うことで、ロゴタイプのデザインコストを抑えるだけでなく、グループ企業としての一体感を消費者に伝えることができるようになった。