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インドで始まったシェアリングレスキュー

インドで、スマホで呼べるレスキュー「ワンタッチレスポンス」サービスが話題になっている。スマホで呼べば、1分で駆けつけてくれるというレスキューサービスだ。治安が改善しないインドで、警察よりも頼りになると加入者が増えていると今日頭条が伝えた。

 

女性に対する犯罪が問題化しているインド

経済成長の頭打ち感が出てきた中国に代わり、今、アジア圏で経済が急成長しているのがインドだ。しかし、経済の成長とともに、治安も悪化している。

特に女性の地位が低く、モノ扱いされている旧習が残っており、未だに女性が金銭で売買される事件が起きている。レイプは15分に1件起こり、女性に対する暴行事件は1分に1件起きている。これは世界の大都市の平均の3倍になるという。外国人旅行者の女性が、このような事件に巻き込まれる事案も起きており、どの国でもインドへの旅行者に対しては渡航安全情報で注意喚起をしているほどだ。


One Touch Response

▲OTRのプロモーションビデオ。防犯だけでなく、自動車事故、急な病気など、警察、救急、消防の代わりをしてくれる。

 

頼りにならないインドの警察

このような治安を改善する要の警察が頼りにならない。なぜなら、警察官の数があまりにも少なすぎるのだ。統計によると、市民1000人あたりの警察官は1.3人でしかない。世界平均では3人なので、半分以下だ。

しかも、警察官という職業の地位が低く、報酬も低く、月100ドル(約1万1000円)でしかない。そのため、警察官は、危険だと思われる現場には行こうとしないし、わずかな額の賄賂の誘惑に負けて、犯罪を見逃してしまう。

政府は女性に対する犯罪を減らすために、武装した女性警察官チームを設立し、効果を上げているが、大量のチームを運営する予算もなく、効果は限定的だ。

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▲女性に対する犯罪を防ぐため、武装した女性警察官のチームも設立されているが、人数が少ないため、効果は限定的だ。

 

1ヶ月440円で雇えるレスキューサービスOTR

インドのビジネスマン、アービンド・カーナ氏は、この状況を変えたいと考え、ワンタッチレスポンス(OTR)というサービスを始めた。「交通事故を起こしたときどうしますか?深夜寂しい道で、怪しい男性につけられたらどうしますか。家に一人でいて、突然体調が悪くなったらどうしますか?インドでは、警察、救急車、消防署はあてにできません」。

OTRは、スマートフォンアプリの形になっていて、アプリ内の緊急ボタンをタップするだけで、緊急通報がセンターに送られる。もちろん、GPS情報も伝わるので、これだけで、バイクに乗った2人の緊急レスポンスチームがあなたの居場所に急行する。

そのままオペレーターと話をすることができ、状況を伝えると、その内容が急行中のチームに伝えられる。

現在、ニューデリー市では、180組の緊急レスポンスチームが待機をし、市内であれば、どこでも1分以内に緊急レスポンスチームが到着するという。

驚くのはその価格だ。利用料は月単位の契約で250ルピー(約440円)、1日あたりの価格にするとわずか15円程度でしかない。

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▲OTRを始めたアービンド・カーナ氏。インドの課題を解決したいという気持ちで始めたが、きちんと黒字化も見据えている。

 

女性には心強いOTRサービス

すでにこのOTRは、利用者の命を救っている。インドの女性、サーシャ・シンは、友人の結婚式に参加し、車を運転して帰宅途中に、突然パンクしてしまった。すると3人の男性が寄ってきて、修理を手伝うと言うが、サーシャはその男性たちの態度に危険なにおいを感じた。3人に取り囲まれてしまったサーシャは、スマートフォンを取り出して、OTRに緊急通報。緊急レスポンスチームがやってくると、3人の男たちはすぐに逃げてしまった。さらに、緊急レスポンスチームは、パンクの修理を行い、サーシャの自宅まで護衛をしてくれたのだ。

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▲OTRは、スマートフォンアプリのボタンをタップするだけで、緊急通報がかけられる。位置はGPS情報が自動的に送られる。都市部では1分以内に緊急レスポンスチームが駆けつける。

 

治安がよくなれば、コストが下がって黒字化する

OTRは、サービスを開始して約2年。すでに1万名の利用者がいて、インドの800都市でサービスを提供している。OTRは現在は、事業としては赤字だが、ニューデリーの治安が改善し、緊急レスポンスチームの派遣回数が減れば減るほど、コストが下がることになり、世界の都市と同程度の治安が確保できれば、じゅうぶんに黒字化できる見込みだという。

インドの安全市場は、すでに50億ドルの規模があるとも言われ、OTRはインドのスタートアップとしてもIPOにいちばん近いポジションにいると、投資家たちから注目をされている。

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▲緊急レスポンスチームは、2人組でバイクで急行する。いずれも、屈強な男性で、粗暴犯罪から緊急救命措置、自動車修理まで、さまざまなトラブルに対応できる。