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シャオミのスマホが夜景撮影で2冠。ディープラーニングを使うナイトオールアルゴリズムとは

小米の夜景補正アルゴリズム「ナイトオール」が、国際的なAIコンペ「NTIRE2022」の夜景部門で2冠を達成した。ディープラーニングによりノイズ軽減、色彩再現をするというもので、夜景写真の美しさがシャオミのスマートフォンのセールスポイントになっていると小米技術が報じた。

 

進化をするスマホのカメラ機能

最近のスマートフォンのカメラ機能は、一眼レフカメラを超えている部分がある。例えば、夜景などは圧倒的に鮮明に美しく撮影することができるようになっている。これはアルゴリズムによる補正、場合によっては画像の生成をしている。これをよしとするかどうかは考え方次第だ。行き過ぎた補正はフェイクであり、写真としての価値はないと考える人もいる。フェイクであっても現実に近く、美しく撮れるのであればその方がいいと考える人もる。

スマホカメラはアルゴリズムで画像を生成するカメラであり、一眼レフは撮影者のテクニックにより画像を生成するカメラになっている。写真という結果が欲しいだけならスマホカメラが向いていて、撮影というプロセスを楽しみたいのであれば一眼レフカメラが向いている。

▲Xiaomi 11 Ultraで撮影した夜景写真

 

ベンチマークで高評価を受けるシャオミの夜景アルゴリズム

小米(シャオミ)から発売されているスマホ「Mi 11 Ultra」には、「夜梟」(ナイトオール)というアルゴリズムが搭載され、カメラのベンチマーク(DXOMARK、https://www.dxomark.com)でも、143点を獲得し、高い評価を受けている。現在は、オナー、ファーウェイのスマホに抜かれたが、2021年3月から6月までの間は1位を獲得していた。

さらにコンピュータービジョンに関する学会CVPR(Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)が、NTIRE(New Trends in Image Restoration and Enhancement workshop and challenges、https://data.vision.ee.ethz.ch/cvl/ntire22/)というコンペを開催している。AIのオリンピックとも呼ばれるもので、中国からも南京大学、南開大学、アモイ大学、ファーウェイなどが参加し、NTIRE2022では小米も初参加をした。

このNight Photography Rendering Challenge(夜景写真補正チャレンジ)で、小米が2部門で最高得点をマークをし、2冠となった。

▲カメラのベンチマークDXOMARKでは、Xiaomi 11 Ultraが1位を獲得した。現在は、後続のオナー、ファーウェイに抜かれて3位になっている。

 

「美しい」夜景写真を生成するチャレンジ

このNight Photography Rendering Challengeは、主催者が元となるRAW形式の写真を参加者に配布をし、これをアルゴリズムにより補正をしてもらう。これを一般審査員と職業写真家審査員による投票で優勝を決める。小米は一般、プロ両方の投票で一位となった。

このチャレンジが難しいのは、どのような写真がいいかという指針は示されず、そこから参加者が自分たちで考える必要があることだ。「美しい夜景写真」とは何かを自分たちで考えなければならない。また、審査員となる一般人と職業写真家では「美しい夜景写真」の考え方が違う。この両方で、最多の投票を得て2冠となったことは大きい。

▲Night Photography Rendering Challengeでは、シャオミのチームが一般審査員部門、プロ写真家審査員部門の両方で1位となった。

 

ディープラーニングで写真を補正する

このコンペに参加をしたのは、小米の夜梟チームのメンバー。結成されて3年で、20人ほどのメンバーがいて、小米のスマートフォンに搭載される夜梟アルゴリズムの開発をしている。多くが小米に就職をして3年以内の若いメンバーで、画像系のディープラーニングの専門家だ。通常は、画像のノイズ軽減やダイナミックレンジの拡大、色彩補正などをディープラーニングを使って行う技術研究、技術開発を行なっている。

 

ノイズと細密描写をAIが判別する

この夜梟アルゴリズムは、夜景写真で大きな効果をあげ、小米のスマートフォンの大きなセールスポイントにもなっている。

夜景写真を撮影すると、そのままでは暗くつぶれた写真になってしまうために、ダイナミックレンジ(明暗の幅)を拡大する操作を行う。この時、光量不足により各画素のデータ密度が低いために大量のノイズが発生してしまう。いわゆるざらついた質感の写真になってしまう。

このノイズの除去が難しい。なぜなら、被写体の細密な部分なのか、ノイズなのかを簡単には見分けられないからだ。髪の毛の一本一本の表現なのか、ノイズなのかを見分けるのは難しい。

そこで、夜梟チームは、ディープラーニングのAIモデルを構築して、ノイズを学習させ、AIに見分けさせることを考えた。

デジタルカメラ(右)とXiaomi 11 Ultra(左)で撮影した夜景写真の比較。ディープラーニングを使ってノイズ除去、色再現を行なっている。

 

ノイズを模擬発生させて大量の教師データを生成

しかし、開発は難航した。ノイズといっても原因はさまざまある。そのため、まずノイズの発生するメカニズムを解析し、ノイズの数学モデルを構築し、ノイズを分類できる理論構築を行なった。

それから、種類別にAIにノイズを学習させていくが、問題は教師データがほとんど存在していないということだ。本来であれば、明るい状態で撮影した写真と暗い状態で撮影した写真の両方が必要になるが、その両方が揃うということはまずない。そのため、夜梟チームは、通常の写真の明度を落として、ノイズの数学モデルに基づいてノイズを発生させるというシミュレーションモデルを構築した。こうして、大量の教師データを生成をし、AIモデルに学習をさせていった。

▲Xiaomi 11 Ultraは、カメラのベンチマークDXOMARKで、写真、広角、動画の3部門で1位を獲得した。

 

夜景写真に存在する複数の光源が色再現を難しくしている

夜梟アルゴリズムでは、同じ画角の夜景写真を複数枚撮影をする。複数枚の写真を連続して撮影することで、手ブレの補正がしやすくなる。さらに、ノイズの乗る場所も異なってくるので、複数枚の写真を比較することで、ノイズなのかどうかを見分けることがやりやすくなる。

また、問題はノイズだけではなく、色の再現も大きな課題となった。暗い写真のダイナミックレンジを広げ、明るい写真にしても、元の色がどのようなものであったかを推定しなければならない。課題となったのが、夜景写真というのはしばしば複数の人工光源があることだった。昼間の屋外での写真の光源は、ほぼ太陽だけでなので、色情報が失われていても、太陽光のもつ色彩から推定をすることができる。

しかし、夜景では、街灯やビルの照明、テーブルランプなど、光源色が異なる複数の光源が物体を照射している。これにも、写真の各部分での色彩を比較して、不自然がギャップが生まれなくなるように色彩再現AIモデルを学習させていく必要があった。

この夜梟アルゴリズムは今後も改善が続けられ、Xiaomi 12 Proなどのフラグシップモデルに搭載をされていく。スマホのカメラにディープラーニング技術はもはや必須のものになっている。

 

 

SNS「小紅書」から生まれた「種草」とKOC。種草経済、種草マーケティングとは何か

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今回は、種草経済についてご紹介します。

 

「種草」(ジョンツァオ)とは、種まき、作付けといった意味です。この場合、「種」は動詞で「植える」の意味、草は植物、作物のことです。田んぼに稲の苗を植えていくようなイメージです。

ネットで使われる種草という言葉が意味するのは、SNSやショートムービーを使って商品やサービス、ブランドの宣伝、露出をすることを言います。いずれの場合も、SNSプラットフォームが持つ拡散力を利用して、その商品やサービスの情報を必要としている人に到達するのが目的です。

マスメディアの場合、視聴者のうち誰がその商品やサービスを欲しているかはわからないので、全員を網羅するような形で情報を届けます。そのため、コストがかかり、コンバージョン(購入率)は非常に低いものになります。一方、SNSやショートムービーではその商品やサービスを必要としている可能性が高い人にソーシャルマップ経由で拡散をするため、低コストで高いコンバージョンが期待できます。

このようなことは、日本でもツイッターやインスタグラムの公式アカウントなどでごく当たり前に行われています。このような商品、サービス、ブランドの情報を拡散すること全般が「種草」と呼ばれますが、これは広義の種草です。

 

一方、狭義の種草とは、ショートムービーやSNSの投稿に商品タグを埋め込み、直接購入や資料請求などに結びつけることです。公式アカウントが直接行うこともあれば、アフィリエイト広告のような仕組みを利用して、一般の投稿主に商品タグを埋め込んでもらうこともあります。

このような仕組みがどこで始まったのかは定かではありません。しかし、はっきりと種草が利用されるようになったのは、SNSの「小紅書」(シャオホンシュー、RED)です。小紅書はインスタグラムとよく似ていて、テキスト、写真、ムービーなどを投稿することができ、気に入った投稿主をフォローすることで、その人の投稿が自分のタイムラインに表示されるようになります。その投稿の中には商品を紹介したものも多く、タグをタップすると、商品の購入ページや、小紅書内のショップのページに飛べるようになっています。

小紅書がこのような種草で成果をあげたため、ショートムービーの「抖音」(ドウイン)、「快手」(クワイショウ)なども取り入れ、大きな流通総額を獲得するようになりました。

現在のところ、種草が盛んなのは、小紅書、抖音、快手の3つで、種草経済と呼ばれるようになっています。

 

この種草の仕組みはバナー広告の進化系です。バナー広告は、ウェブの空きスペースなどに表示される画像で、クリックをすると、商品購入ページや資料請求ページなどのいわゆるランディングページに飛ぶというものです。

しかし、スマートフォンがネットデバイスの中心になると、バナー広告は使い勝手が悪くなりました。スマホの画面は狭いので、バナー広告を入れるスペースを確保しづらいのです。それでも無理にバナー広告を入れると、ウェブの表示スペースが削られ、ユーザー体験が悪くなります。そのため、アプリ開発者、モバイルウェブ開発者は、どこにバナー広告スペースを取るかで苦労をしています。

一方、種草では記事そのものが広告のようなものなので、広告スペースの場所を考える必要はありません。その代わり、記事の内容を考える必要があります。

例えば、次のリンクは、小紅書の欧陽娜娜(オーヤン・ナナ)の小紅書です。

https://www.xiaohongshu.com/user/profile/5a747a7ce8ac2b215c98d8ef?xhsshare=CopyLink&appuid=61a7ff54000000001000e1d0&apptime=1655276949

 

欧陽娜娜は台北出身のチェリストですが、父は元俳優で台北市議会議員、母は女優、姉も女優、妹はバイオリニストという有名一家で、日本でも活躍した歌手の欧陽菲菲(オーヤン・フィーフィー)は叔母にあたります。

このリンクからは投稿のごく一部しか閲覧できませんが、小紅書アプリで見ると、すでに340以上の投稿がされていて、860万人以上のフォロワーを獲得しています。いわゆる網紅(ワンホン=インフルエンサー)の一人です。

彼女の投稿は、「帰ってきたよ」という言葉から始まるのがパターンになっていて、忙しく活動をして、自宅に帰ってきた時に「今日はこんなことがあった」「こんな面白いグッズを見つけた」と紹介する内容になっています。その中に、だいたい全体の1割から2割ぐらいに、商品タグが埋め込まれているものがあります。タップをすると、化粧品などのメーカーの小紅書アカウントのホームに飛ぶという仕掛けです。

もちろん、メーカーから依頼を受けて報酬をもらって紹介をしているわけです。普段、化粧品、食べ物、ファッション、音楽などの話題が多いので、その中に化粧品の種草記事があっても違和感はありません。また、多くの網紅が依頼をされたらなんでも紹介するのではなく、自分のキャラクターと適合するかどうか、紹介しても自分のキャラクターに傷がつかないかを考えます。

小紅書だけでなく、ショートムービープラットフォームなどでも、このような販売業者と網紅のマッチングプラットフォームを用意していて、そこで網紅のファン層の構成などを見て、販売業者が依頼をし、条件などを打ち合わせて、種草が成立します。

 

種草により、商品が売れると、その利益は三者で分け合うことになります。

1)販売業者:商品が売れれば利益があがります。

2)プラットフォーム:小紅書などのプラットフォームは販売手数料を徴収し、重要な収入源になっています。

3)投稿主:投稿主にも手数料が配分されます。トップクラスの網紅になると、大量に商品を販売することで莫大な手数料を稼ぎ出します。

 

このような種草経済が広がっているのは、網紅だけではありません。ごく普通の人でも工夫をすることで人気の投稿主となり、手数料収入で生活をしていけるようになります。そのため、投稿の収益化を図ろうとする人は山ほどいて、そのような人に収益化手法を教えるオンラインセミナー、スクールなども山ほどあります。

このようなSNSなどを使った販促活動というと、「インフルエンサーの起用」ばかりに目がいきますが、力のあるインフルエンサーはそれなりの有利な条件での契約を求めてくるため、数は売れても利益が上がらないということも起こります。そこで、各企業が注目をし始めているのが、このような普通の人々です。マイクロインフルエンサーやKOC(Key Opinion Comsumer、影響力のある消費者)と呼ばれます。種草経済では、このようなKOCをどのように活用していくかが大きなテーマになっています。

今回は、小紅書を中心とした種草経済についてご紹介をします。

 

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抖音が子どもの化粧ムービーの投稿を禁止。問題視される子ども用メイクキットの健康問題

ショートムービー「抖音」が、幼い子どもが化粧をするムービーの投稿を禁止した。禁止をされるのは販売、宣伝目的のもので、一般の人が日常の記録として投稿するものについては除外される。禁止をした理由は、子どもの健康に対する被害が未知数だという理由だと中国化粧品雑誌が報じた。

 

流行する子ども用化粧品セット

この数年、中国版TikTok「抖音」(ドウイン)などで、子ども用化粧品が人気となっている。リップやアイシャドー、ネイルカラーなどのコスメセットが、アニメのキャラクターなどが描かれたケースに入っているというものだ。

子ども、特に女の子が欲しがるということもあるが、親が子どもの日、誕生日などのプレゼントとして買い与え、誕生日会などには化粧をして子どもが集まり、ムービーを撮るということが流行し始めている。

▲人気になっている子ども用メイクキット。内容は大人のものと変わらない。母親が誕生日のプレゼントに贈る例が多いようだ。

 

5歳の化粧の先生も登場

それだけでなく、抖音、快手、小紅書、ビリビリなどには、7歳から8歳の「化粧の先生」が登場し、子ども用の化粧の仕方を指南する配信主も登場している。「ネットでいちばん若い化粧の配信主」「女の子に学ぶ化粧」などの幼い配信主が登場し、その中には5歳の女の子もいて、肩を露わにしたドレスを着て、大人びた化粧をするところを中継している。

このような流行にどう感じるかは人さまざまだ。当然ながら、よく思わず、眉をひそめる人はたくさんいる。一方で、容認派も多い。多くの場合、母親がコスメキットを買い与え、自分の娘に化粧の方法を教え楽しんでいる。母と娘のいいコミュニケーションになるという意見もある。

▲ビリビリで紹介された5歳の化粧の先生。SNS「小紅書」に投稿されたものを転載して、子ども用化粧品の問題を訴えている。

https://www.bilibili.com/video/BV1rq4y1Z7ZG?spm_id_from=333.337.search-card.all.click

 

子ども用化粧品の販売、宣伝目的のムービーを禁止

2022年4月、抖音は「子ども化粧品の公開と宣伝についての実施細則」を公開し、子ども用化粧品の販売目的、宣伝目的のショートムービーの公開を禁止することを発表した。

消費者が、生活の記録の一コマとして子どもが化粧しているショートムービーは投稿可能だが、そこに商品タグをつけたり、ライブコマースに誘導するような内容があった場合は違反となり、削除される。メーカーや販売業社は、商品を紹介するムービーを公開することはできなくなった。

▲まだ幼い女の子が化粧をするムービーが投稿され、以前から問題視はされていた。道徳的な観点で否定をする人が多かったが、抖音は健康被害の可能性を考えて、投稿を禁止した。

 

健康上の問題が懸念される子ども用化粧品

抖音がこのような措置に出たのは、良俗の観点からではなく、健康への安全性に問題があるからだ。

子ども用化粧品であっても、フェイシャルパック、バスソルト、シャンプー、保湿クリームなどの皮膚に直接影響を与える可能性がある衛生用品は、化粧品類として厳しい安全基準が設定されている。安全評価試験や含有物などの基準をクリアしないと販売することができない。

しかし、ルージュやアイシャドー、ネイルカラーなどの子ども用化粧品は、玩具として、一般的な3C認証を取得すれば販売することができる。3C認証はCCC(China Compulsory Certificate、中国製品安全強制認証)で、ほぼすべての製品に対して課せられている安全基準だ。ケーブルから電子製品、照明器具、ガス器具など多くの製品が対象とされ、この安全基準をクリアしないと販売をすることができない。この3C認証の対象には玩具も含まれており、子ども用化粧品は玩具として、この3C認証を取得して販売をしている。

しかし、3C認証はあくまでも一般の製品としての安全基準にすぎない。使用をしてケガをしない、火災などの重大な被害を引き起こさないなどの観点の安全基準だ。子ども用化粧品も、ミニカーやフィギュアと同じ安全基準で認証を取り、販売業社は3C認証を取得していることを強調する。しかし、肌につけて健康上の問題を引きおこなさいという観点の安全基準ではない。

多くの消費者が、この3C認証の基準についてよく知らず、「3C認証があるから、子どもに使っても安心」として使ってしまっている。抖音はここを問題視した。

淘宝網タオバオ)では多くの子ども用化粧品が販売されている。しかし、このような基礎化粧品は化粧品に分類されるため、含有物など化粧品としての厳しい安全基準をクリアしている。

▲一方、子ども用メイクキットは、化粧品ではなく玩具に分類されるため、一般的な3C認証のみを取得している。健康に対する安全性は、各メーカーの考え方に任されているため、問題のある子ども用化粧品も指摘をされている。

 

国家薬品監督管理局は使用を不推奨

現状の子ども用化粧品が子どもの健康にどのような影響があるのかはわかっていない。大手メーカーでは、独自の試験を行ったり、原料を厳選して、健康に対する安全には最大限の配慮をしている。水溶性原料使用、食材原料使用、防腐剤不使用などを多くの子ども用化粧品がうたっている。

しかし、子どもの皮膚の構造は成人とは大きく違い、皮膚は薄く、毛が少なく、汗などの分泌は少なく、皮下の毛細血管は密になっている。外界からの刺激を受けやすく、子ども用化粧品は成人向けよりもさらに厳しい基準が必要だとする専門家も多い。

2021年12月、国家薬品監督管理局は「玩具を子ども用化粧品として使ってはならない」という文章を発表している(https://www.nmpa.gov.cn/directory/web/nmpa/xxgk/kpzhsh/kpzhshhzhp/20211209151801110.html)。この文章によると、12歳以下の児童、特に3歳以下の幼児は、皮膚の抵抗力が未成熟であり、外来物質の刺激に敏感であり、容易に損傷をしてしまう。玩具に分類される子ども用化粧品の中には、着色料など化粧品に適さない原料を使用している例もある。また、鉛などの重金属が検出された例もあり、児童の発育に大きな悪影響を与える可能性があるという内容で、国家薬品監督管理局としては、成人向け化粧品よりもさらに厳しい監督管理をしていくとしている。

抖音の措置も、このような政府の動きを受けてのものだと見られる。現在、他のプラットフォームでも、子ども用化粧品の販売そのものは続いているが、ショートムービーの広告はほぼすべて消えている。個人的な投稿や子ども配信主の映像もほぼすべて検索されなくなっている。

▲良心的なメーカーは「環境にやさしい原料」「食材原料」「防腐剤不使用」などを独自におこなっている。

 

 

過熱をする東南アジアEC。地元系vsアリババに、SHEIN、TikTokも参入

成長の限界が見え始めた中国資本が東南アジアに熱い視線を送っている。すでに大量の投資資金が流れ込み始めている。アリババはラザダを買収し、タオバオ化をねらっている。さらに、アパレル「SHEIN」(シーイン)やTikTok Shoppingも参入したと人人都是産品経理が報じた。

 

中国の投資家が熱い視線を送る東南アジア

中国の景気が後退をし、共同富裕を目指す中国政府のテックジャイアントに対する規制が強化される中で、中国企業の海外での活動が活発化をしている。特に、言語や文化などで親和性の高い東南アジアでは「白熱」という言葉が合うほど動きが激しくなり始めている。もはや中国内では成長は求められない、成長する東南アジアに視線が集まっている。

 

地元系のショッピーも華人が運営

特に白熱をしているのがECの分野だ。アリババの子会社となったLazada(ラザダ)、地元系のShopee(ショッピー)、企業価値H&MZaraの合計を超えたリアルタイムアパレル「SHEIN」(シーイン)、さらにここにTikTok Shoppingが参入をしている。

中国企業が意識をしているのがシンガポールを拠点にする地元系のショッピーだ。東南アジアのテンセントとも呼ばれるSEAグループ傘下のEC企業だ。しかし、地元系と言っても実際は中国企業的だ。SEAのCEOは李小冬であり、ショッピーのCEOは馮陟旻と、いずれも中国系の華人であり、中国のECの発展史やビジネスモデルは当然理解をしている。馮陟旻CEOの前職は国際的なコンサル企業「マッキンゼー」であり、中国と東南アジア地区のECの専門家とも言える。

▲東南アジア地元系EC「ショッピー」。東南アジア各国のまだ所得が低い人々をターゲットにし、Lazadaに対抗をしている。https://shopee.com

 

ラザダを東南アジアのタオバオにしたいアリババ

アリババは、ラザダを東南アジアの淘宝網タオバオ)にしようとしている。東南アジア各国で、タオバオとほぼ同じ運営手法を実施し、シンガポールのように所得の高い地区では天猫(Tmall)とほぼ同じ運営手法を実施している。国別にシステムやプロモーションを現地化するのではなく、東南アジアをひとつと捉えて、一気に拡大をしようとしている。

さらに、アリババはラザダをタオバオの補助として考えている。ラザダでは大量の中国製品が販売され、頭打ちになっている中国小売業を成長させ、さらには過剰になっている中国製造業を成長させようとしている。

一方、地元系のショッピーは東南アジアが主戦場であり、東南アジア各国の文化の違いにより、品揃えから販売手法まで、きめ細かく現地化を行なっている。シンガポールのように所得が高い人たちは、東南アジア全体から見ればごく一部にすぎず、所得が低い人にフォーカスをあてている。

これは、中国の地方都市、農村の下沈市場におけるタオバオと拼多多(ピンドードー)の競争の構図とよく似ている。ショッピーは親会社のSEAがゲームとスマホ決済で拡大をしており、これによりショッピーも好調に成長をしている。ラザダは苦しい立場に追い込まれている。

▲アリババ傘下に入ったラザダ。アリババはLazadaをタオバオ化しようとしている。https://www.lazada.com/en/

 

SHEINはシンガポールから東南アジアと欧州へ

そこに、ユニコーン企業のSHEINとTikTok Shppingが参入をし、ラザダ、ショッピーともに警戒をしている。

特に、ファストファッションを超えたリアルタイムファッションだとまで呼ばれるアパレルECのSHEINは、2021年のiOSのECアプリランキングで、全世界54カ国で1位を取り、ダウンロード数ではアマゾンを超えた。また、2021年の営業収入は100億ドルに迫り、連続8年、前年比200%成長を達成している。

SHEINも2021年からシンガポールで拠点を築き始め、シンガポールから東南アジア各国に進出をしていく計画だ。

シンガポールは東南アジア各国への進出のハブだけでなく、欧州への物流拠点にもなっている。SHEINはシンガポールに拠点を築くことで、東南アジア市場だけでなく、欧州への物流を加速することもねらっている。

▲米国で好調な売れ行きを示しているSHEINも東南アジアへの進出を始めている。https://www.shein.com/

 

TikTokはライブコマース文化の浸透が鍵

TikTok Shoppingが東南アジアに進出することは以前から予想をされていた。中国内での「抖音」(ドウイン)によるECが流通総額(GMV)8500億元という成功をし、その国際版であるTikTokの利用者が多い東南アジアでもECを展開するのは自然なことだ。東南アジアは以前から中国製品になじみもあり、文化的な影響も受けている。2021年のTikTok ShoppingのGMVは約60億ドルだったが、2022年は倍の120億ドルを目標に置いている。

しかし、死角もある。中国で短期間で小売チャンネルとして定着をしたライブコマースが中国以外では人気がない。中国のライブコマースでは、大幅な割引価格と効率的な物流により、欲しいものが安く、すぐに手に入ることからライブコマースが利用されているが、東南アジアでは割引価格を設定することが難しく、物流も中国ほど整っていない。

また、中国と東南アジアでは文化的な壁もある。中国のライブコマースはスタジオにMCが座り、早口で商品の説明をし、いかに安く、早く手に入るかをアピールする。しかし、このようなスタイルは東南アジアでは受けない。見てもらうには寸劇やコントなどのコンテンツが必要だ。テレビのバラエティーショーのような演出が求められている。

TikTok Shoppingも米国、英国、インドネシアなどでサービスを始めている。https://shop.tiktok.com/business/en

 

中国の東南アジア進出が始まる

中国の経済に頭打ち感が出てきたことで、東南アジアが新たな成長市場として注目を浴びるようになっている。今後も、あらゆる分野で中国企業が東南アジアに進出をすることになる。中国企業と地元企業の激しい競争が始まる。2022年は、将来の大勢を決める重要な年になりそうだ。

 

 

SNSのメッセージはテキストがいいのか、音声がいいのか。考え方が異なる若者と中高年

SNS「WeChat」でのメッセージ交換は、若者は普通にテキストを使うが、中高年は音声を録音して送信する人が多い。中国語の文字入力は意外に難しく、面倒な面があるからだ。しかし、これが若者と中高年の間でトラブルを起こすことがあると新華報業網が報じた。

 

メッセージ読み上げ機能が波紋

中国では、スマートフォン利用者のほぼ全員が使っているSNS微信」(ウェイシン、WeChat)。日本のLINEとよく似ていて、友人知人の間でテキストメッセージをやり取りできるというものだ。

2022年4月に、中高年向けの新機能が追加された。送られてきたメッセージを音声読み上げしてくれる機能だ。この機能が議論を呼んでいる。特筆すべき機能とは思えないこの機能がなぜ波紋を呼んでいるのだろうか。

 

中高年の間で定着をしている音声メッセージ

WeChatでメッセージをやり取りするのには2つの方法がある。ひとつはテキストメッセージを送り合う方法で、ごく一般的なものだ。もうひとつが音声でやりとりする方法だ。音声ボタンを押して、メッセージを吹き込む。これを送信すると、相手側は再生することができる。音声といっても、電話のように同時に話ができるのではなく、留守番電話のメッセージを送り合うような感覚だ。

このような音声メッセージによるやり取りは主に中高年が使っている。大きな理由になっているのが、中高年は文字入力が苦手ということだ。中国語の文字入力は意外に難しいからだ。一般的には、発音をローマ字表記した拼音入力をするが、pinとpingを区別するなど、外国人にとっても中国人にとっても意外に難しい。中高年は、拼音の教育をしっかりと受けていない人もいる。さらには、中国語は方言が多く、地方の人にとっては実際の発音と拼音表記にずれがある。

手書き文字入力も可能だが、一文字ずつ手書きをしていくのはあまりにも手間がかかる。そこで使われるのが音声入力で、変換率も実用レベルになっているものの、中高年はだったら音声のまま送ればいいじゃないかと考える。こうして、中高年の間では、音声でメッセージを送り、音声でメッセージを聞くというスタイルが定着をしている。

▲中国の街角ではスマホを独特の持ち方で話をしている人をよく見かける。スマホのマイクが下部にあり、周りの迷惑にならないように小さな声で音声を録音する。これをWeChatで送信する。

 

若い世代は音声メッセージが苦手

ところが若い世代は、この音声メッセージが好きではない。ちょっとした内容でも20秒、30秒の長さになり、それを聞く時間、他のことができない。

仕事中や商談中、会議中にメッセージを受け取った場合は、テキストであれば、チラ見をして、緊急の要件でないかどうか判断できるが、音声メッセージでは聞かなければならない。上司が音声メッセージを多用する人で、商談中に緊急の音声メッセージを送られ、再生することができず、後でなぜすぐに対応しないのだと叱られるという理不尽なこともある。

あるいは地下鉄に乗っている時に、上司や取引先から音声メッセージを受け取り、再生をするが、走行音がうるさいために何と言っているのか聞き取れない。何度も再生し直して聞き取らなけれならないこともある。

▲よくあるパターンのトラブル。中高年が音声でメッセージを送ってくるが、会議中などで再生して聞くわけにはいかない。そこで「テキストで送ってください。音声は都合が悪い」と返すと、顧客がアポイント日時を変更してくれという重要な内容だったというもの。

 

テキストと音声で分断する若者と中高年

音声は、メッセージとしての効率も悪い。テキストであれば、100文字を読み理解するのに必要な時間は平均9秒ほどだが、音声の場合は22秒ほどかかる。

さらに、若い世代が音声メッセージを嫌う理由は、相手のことを思いやる気持ちが感じられないということかもしれない。音声メッセージは送る方は話をするだけで楽だが、聞く方は時間もかかり、音声メッセージを聞けない状況のことも多い。それを考えると、メッセージはテキストにしておくのが送る方も受ける方もやりやすい。自分のことしか考えず、相手の手間を考慮に入れない中高年世代への反発もあるようだ。

▲音声とテキストの分断を笑いにした漫画。音声メッセージが大量に送られてくるが、再生できる環境にないので、内容を尋ねると、「5元貸して」という大したことがない内容。「挨拶もしないで音声を大量に送っていいのは社長だけ。社長じゃなければ、音声を送る前に相手の同意を得よう」というもの。

 

読み上げ機能搭載で心配をする若者たち

WeChatにテキスト読み上げの機能が搭載されたことで、中高年は音声メッセージが使いやすくなると喜んでいる。テキストでメッセージが送られてきても、それを音声で再生し、音声で返すといういつもの自分のやり方ができるようになるからだ。その一方で、若い世代は音声メッセージに悩まされることが増えるのではないかと心配をしている。

 

tamakino.hatenablog.com

 

 

生花デリバリーが成長中。なじみのある生花店の商品が購入できることが魅力に

フードデリバリー「ウーラマ」が生花の配達を始めており、好評を得てている。なじみのある生花店の商品を配達してもらえるからだ。部屋に生花を飾る習慣も広がり、生花が有望な商品になってきていると中国花卉報が報じた。

 

贈答需要に加えて鑑賞需要が増える生花

デリバリー、新小売スーパーで、今最も伸びている商品が生花だ。アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、デリバリーサービス「ウーラマ」では、最も成長率が高い商品となり、両社は力を入れている。

生花のひとつの市場は花籠、花束などのプレゼント需要だ。以前の中国では、生花は大きな都市の市場にでも行かないと手に入れることができない希少な商品で、それだけに花をプレゼントすることに意味があった。生活が豊かになり、生花が簡単に手に入るようになっても、プレゼントとしての花の価値は高いままで、現在でも広く贈られている。夫婦の記念日などに花を贈るのは珍しいことではない。プレゼント需要は現在でも伸び続け、しかも単価も上がる傾向にあり、生花業界としては利益が望める優秀な商品になっている。

さらに、生花が手に入りやすくなって以降伸びているのが個人需要だ。生活の中で、花を飾るという習慣が広がりつつある。こちらはコストパフォーマンス重視だが、利用が広がり続けている。

▲大都市には生花市場があり、巨大な建物の中に生花店、卸店が軒を並べている。新鮮な生花を買うには、このような生花市場に足を運ぶ必要があった。

 

知っている花屋さんからお届けがポイント

ウーラマの生花デリバリーが人気になっている理由は、その契約店舗の多さだ。伝統的な街中の生花店からショッピングモールの生花店、アレンジメント店など、契約店舗は数十万店にのぼる。

ウーラマが仕入れた生花を販売するのではなく、自分がよく利用する店舗の生花を届けてくれる。電話などでアレンジメントを依頼し、ウーラマで配達してもらうということも可能だ。パーティーなどで使う場合は、自宅に配送してもらうのではなく、直接会場に時間をして届けてもらえる。

全国96%の地域をカバーし、1時間で届けてもらえることから、利用者はすでに累積1000万人を超え、人気店ではウーラマ経由の注文で1000件を超えることもあるという。

デリバリーに対応することで、販路が最も拡大されたのが生花業ではないかと言われることもある。

▲デリバリー配達員に商品をわたす北京市内の生花店。デリバリーでは、消費者が知っている店の商品を届けてくれるため、実体店舗のビジネスを拡大することにつながっている。

 

生花はモノではなくサービスが商品

ウーラマの生花デリバリー「鮮花緑植」の責任者、王倩氏は中国花卉報の取材に応えた。「生花の購入は、B2C型ECから、ウーラマのようなO2Oに移り始めています。短時間の市内配送であるため、鮮度が保たれること、配送時間を細かく指定できることが歓迎されています」。

生花も商品だが、通常の商品とは大きく異なることがある。それは実用価値がほとんどないに等しいということだ。どんな生花でも1週間もすれば枯れてしまい、捨てるしかなくなる。その短い間に、食べて栄養になるわけでもなく、何かの役に立つわけでもない。それでアレンジメントなどはちょっとした家電製品ぐらいの価格になる。

しかし、それで贈った相手が喜んでくれ、互いの関係がより深まったり、生活の中に花を置いて癒される効果は何物にも代え難い。家電製品のような実用価値はほとんどないものの、人の気持ちに与える価値はとても高いという特殊な商品だ。

王倩氏は言う。「生花の本質はサービスを売っているのです」。そのため、鮮花緑植も鮮度の問題や配送時間の遅れなど、改善しなければならないことはまだまだ多いという。パーティーで使う生花が、指定時間に間に合わなければ、いかに素敵な花束であっても価値はゼロになってしまうのだ。

ウーラマでは、生花店向けのスクールを設置し、デリバリーに対応する生花店のサービスレベルを上げるための活動を行い、一定レベルのサービス品質を達成した生花店には「安心花坊」の認定をし、それを利用者に示すことで、生花店のサービス品質をあげ、利用者に安心をして使ってもらえる工夫をしている。

▲新小売スーパー「フーマフレッシュ」内の生花コーナー「フーマガーデン」。店頭で購入することも配達をしてもらうこともできる。売上比では大きくはないものの、成長している商品だ。

 

実体店舗のビジネスを支援するデリバリー

ウーラマは本来は飲食店の食事を配達するフードデリバリーだが、現在では薬品、モバイルバッテリー、映画やテーマパークのチケット、鉄道、飛行機のチケットなどあらゆるものを自宅だけでなく、オフィスなど指定した地点に届けてくれるようになっている。

重要なのは、商品をウーラマが販売するのではなく、店舗で販売されている商品をウーラマが届けるという点だ。そのため、生花でも「あの花屋の花」を買うことができるし、飲食でも「あのレストランの料理」を買うことができる。ECの拡大により、実店舗のビジネスは縮小する一方だが、ウーラマのようなO2Oサービスにより、生き延びることができているだけでなく、ビジネスを拡大している店舗も多くなっている。

▲デリバリー配達員に商品をわたす北京市内の生花店。デリバリーでは、消費者が知っている店の商品を届けてくれるため、実体店舗のビジネスを拡大することにつながっている。

 

 

アルゴリズムvs人間店長。業務効率では人間の完敗。しかし、アルゴリズムが成長の限界をつくっている未来型コンビニ「便利蜂」

セルフコンビニ「便利蜂」が苦しんでいる。セルフレジを基本にし、スタッフは接客をせず店舗運営だけを行うという運営手法で拡大してきたが、ここへきて、閉店、リストラが続いている。店舗運営はすべてアルゴリズムによって決められるが、アリゴリズムが洗練されれば洗練されるほど、効率化はするものの、個性が失われていく。アリゴリズムの限界が成長の限界になっているのではないかと注目されているとTech星球が報じた。

 

セルフコンビニ「便利蜂」の経営難

創業して5年で3000店近くと急拡大をした新興コンビニチェーン「便利蜂」(ビエンリーフォン)の経営が苦しくなっている。閉店、リストラ、ボーナスの取り消しなどが起きている。

便利蜂は、無人コンビニの中で唯一生き残ったと言われるコンビニチェーン。無理に無人化をするのではなく、スタッフは常駐をして商品の品出し、管理などの作業を行い、来店客はセルフレジまたは専用アプリで決済をして購入する。さらに、近隣には配達もするという「セルフ決済+宅配」という理にかなった無人コンビニ形態にたどり着き成功した。特に、大都市でありながらコンビニが少なく、コンビニ砂漠と呼ばれてた北京で受け入れられ、未来型のコンビニとして注目されていた。

▲セルフコンビニ「便利蜂」。スタッフは常駐しているが接客はしない。アルゴリズムが支持をする商品管理系の業務に専念をする。コンビニが少なく、コンビニ砂漠と呼ばれた北京を中心に急拡大をした。

 

アルゴリズム運営で急拡大、アルゴリズム運営による経営難

創業者の庄辰超(ジュワン・チェンチャオ)は、子どもの頃から数学が得意で、北京大学を卒業し、2005年5月に旅行サイトの検索サービス「去哪児」(チーナール)を起業し成功をした。2016年1月に去哪児を売却し、便利蜂を起業した。

そして、便利蜂の特徴が、独特のアルゴリズムによる管理だ。仕入から販売まで、独自のシステムを構築し、効率を極限にまで高めている。このアリゴリズムの優秀さが成功の鍵だと言われていた。しかし、現状の経営難を迎えて、アルゴリズムにも限界があることがわかった。いったい、アルゴリズム運営のどこに問題があったのだろうか。

▲便利蜂では、基本がセルフレジ。自分で商品をスキャンし、スマホ決済などで支払う。監視カメラにより、万引きなどの対応策もされている。

 

U字成長曲線を描くコンビニビジネス

コンビニのビジネスモデルは、そもそもがU字型成長をする傾向がある。出店をし始めた時には利益が出るが、拡大を始めると、利が薄いたために、店舗同士での売上の奪い合いが起こり始め、店舗あたりの売上が下がり始める。ここで、運営コストなどを下げる適切な手を打たないと、チェーン全体が赤字経営となってしまう。このため、盲目的な拡大により、失敗をしてしまうコンビニチェーンは少なくない。

2017年、北京を中心として拡大をした「好隣居」は、創業15年目で、8400万ドルで身売りをすることになった。2018年、「隣家」は資金がショートをし、168店舗が突然に閉店した。同年、蘇寧の蘇寧小店は大きな損失を出し、蘇寧から独立をして運営されることになった。さらに同じ年に、京東は5年をかけてコンビニに参入する計画を断念している。その多くが、急速な拡大による店舗売上の減少を乗り越えることができず、U字型成長曲線の底の部分で破綻をすることになった。

 

U字型成長に成功をした便利蜂

このコンビニにとって厳しい状況となった2018年、創業して間もない便利蜂はそれまで既存のERPシステムを使っていたが、これを独自のアリゴリズムに基づいたシステムに入れ替え、この優秀さにより業務効率があがり、コンビニ冬の時代となった2018年を乗り切り、他チェーンが撤退する中で生まれた空白市場を獲得して成功曲線をつかむことができた。

便利蜂は、創業以来、従業員に高等数学の試験を行なっている。この成績が悪いと降格されるケースもある。試験は微積分など大学レベルの内容だ。

強制ではなく、希望者のみが受験する仕組みだが、データサイエンティスト、アナリスト、運営、プロダクトマネージャーなどの職種に就くためには、この試験に合格をする必要がある。大学の数学など学んだことがない文系学部の出身者でも合格することが必要で、高等数学が便利蜂の共通言語になっている。創業者の庄辰超も、2019年にこの試験を受けていて91点をとったという。

さらに、百度、美団、ケンタッキーなどからデータサイエンス、アルゴリズム、AIなどのCTO級人材をスカウトすることも行なっていった。

▲便利蜂では、従業員に高等数学の試験を行なっている。強制ではなくあくまでも希望者のみだが、合格をしないと就けない職種がある。高等数学が便利蜂の共通言語になっている。

 

アルゴリズムと人間店長の対決実験

こうして生まれた独自アルゴリズムはどの程度優秀なのか。便利蜂内部である実験が行われた。10人の店長とアルゴリズムを対決させたのだ。セブンイレブンで経験を積んだ10人の店長に、一人一店舗をまかし、1週間をかけてSKU(商品種類数)を10%減少させる改善を行わせた。同じことを独自アルゴリズムに基づいて行い比較をした。

すると、人間の側は売上が5%低下をしたが、アルゴリズム側は0.7%しか低下をしなった。SKUを低下させることにより、運営コストが下がるため、アルゴリズム側は利益率が確実にあがるが、人間側は利益率が上がるかどうかわからない。

便利蜂は、このような実験を通じて、ある結論を得る。「人間が介在をすると、業務効率は確実に低下をする」という人間にとってはなんとも受け入れ難い事実だった。創業者の庄辰超は、運営プロセスのすべてを自動化することを目標にした。

 

惣菜の味付けもアルゴリズムが決める

庄辰超では、お惣菜の味付けもすべてアルゴリズムが決める。すべての食品は酸甘苦辛の味が数値測定され、じゃがいもの硬さ、豆の扁平度、炒める時間などもすべてが測定され、A/Bテストを行い、売れるものが正解だとして標準化をされていく。在庫数もすべてはアルゴリズムが管理をし、消費期限を考慮して製造数が決められる。

しかも、チェーンすべてに同じ味付けの商品を配送するのではなく、地域、店舗による違いも考慮され、その店に適した味付けの食品がカスタマイズされて配送される。

 

アルゴリズムの奴隷となった人間

しかし、大きな問題が存在した。それは店舗スタッフが、アルゴリズムの奴隷となってしまったことだ。店舗スタッフは、業務中、来店客と接触することはほとんどない。専用のタブレット端末と向き合いながら仕事をする。

アルゴリズムは、消費期限が近づいているのにまだ売れていない商品があるとアラートを出してくる。スタッフはこの商品を手前に出す、あるいはポップをつけて販促活動をするなどして売り切らなければならない。消費期限がきてしまった場合は、タブレットのカメラで商品を撮影し、報告の後、廃棄をする。

その他の業務もすべてはタブレットが指令をし、その業務が完了したことを写真を撮影して報告する必要がある。ある従業員は「1日の業務時間の1/3は、写真撮影をしている」とまで言う。

しかも、各業務には標準時間が定められていて、タブレットは指令ともにカウントダウンを始める。たとえば、店頭調理品を盛り付けて提供するまでの標準時間は40秒で、この時間以内に作業を完了しないとスタッフの評価が下がることになる。

この業務システムは常に進化をしていて、現在では、店内の防犯カメラ映像をAIで解析することにより、30以上のチェックポイントが自動で検査されるようになっている。たとえば、床やカウンターの上にゴミが乗っていると自動的にスタッフにタブレットにアラートが飛ぶ。

▲便利蜂では、基本がセルフレジ。自分で商品をスキャンし、スマホ決済などで支払う。監視カメラにより、万引きなどの対応策もされている。

 

ワンオペ標準となった店舗運営

このような効率化を突き詰めた結果、1店舗の運営は1人のスタッフでじゅうぶんまかなえるようになった。いわゆるワンオペが標準となった。しかし、多くの店舗で12時間勤務のワンオペが行われており、休憩時間はもちろん、食事の時間やトイレに行く時間も取れない。食事は、事務室で店内監視カメラを睨みながら食べ、トレイは来店客が途切れた時に行くしかない。夜間は、不用心なので入り口のドアを施錠し、トイレに行き、戻ってきたら鍵を開けるという具合になっているという。

店舗スタッフは、せめて8時間シフトにするか、あるいは複数のスタッフが重なる時間を設け、業務環境を改善してほしいと本部に申し入れているが、人手不足の時代でもあり、なかなか改善されないという。

ある店舗スタッフは、不満を述べる。「店内の監視カメラは、万引きなどを監視するのではなく、スタッフの監視に使われています。私たちは、店内では常に業務のために動き回っていないと、監視カメラに補足をされ、評価が下げられてしまうのです。便利蜂のアルゴリズムは確かに素晴らしいものだと思いますが、人間は機械ではありません。効率的なアルゴリズムのためにスタッフが消耗をすることになっています」。

 

ヒット商品は生み出せないアルゴリズム

しかし、アルゴリズムは無駄を排除してくれるが、ヒット商品はつくってくれない。ヒット商品は人間にしか生み出すことができない。

2021年、中国ではコーヒーがブームになった。一度は縮小した瑞幸珈琲(ルイシン、ラッキンコーヒー)が再び拡大をし、スタンド型のMannerも拡大中。さらにはM StandやSeesaw、アルジェブライストといったサードプレイス型カフェも人気となり、大型投資を獲得している。

これを見て、2021年3月に、便利蜂もコンビニコーヒー「不眠海」を始めた。平均単価15元という安い価格帯で、コンビニコーヒーとしては最高レベルの品質だと評判になった。便利蜂も力を入れクーポンなどを配布し、実質3元から5元で飲める状況をつくり出し、滑り出しは上々だった。

しかし、アルゴリズムはそう判断をしなかった。サイドメニューであったより価格の低いミルクティーなどの方がより利益が望めるとして、ミルクティーなどの販売強化をスタッフに指示をした。さらに、アルゴリズムは低品質の牛乳を使った方がより利益率が高くなると判断し、街中のミルクティースタンドとたいして品質の変わらない商品を出すことになっている。

 

tamakino.hatenablog.com

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アリゴリズムを強化すればするほど平凡になっていくジレンマ

便利蜂のアルゴリズムは優秀だが、それが特徴のないコンビニに向かわせている。これにより、次の成長曲線が描けない状況のまま停滞をすることになってしまった。

便利蜂は2020年に「3年以内に1万店出店」を目標に掲げた。しかし、現在は3000店であり、その目標には遠く及ばない。2021年には目標出店数を4000店に修正したが、それでも後1年で達成できるかどうかは微妙なところだ。便利蜂はコロナ禍を理由に掲げているが、次の成長が見えてこないのはそれだけの理由ではないようだ。優秀なアルゴリズムで成長が可能なのか。便利蜂はコンビニ業界だけでなく、多くの小売業からも注目をされる社会実験となっていて、その真価が今問われようとしている。