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社会運動とビジネスと事業の継続。スタートアップに必要なものとは。シェアリング自転車競争史

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今回は、シェアリング自転車の競争史についてご紹介します。

 

中国ではどの都市、観光地でもシェアリング自転車が利用できるようになっていることをご存知の方も多いかと思います。スマートフォンのアプリやミニプログラムから、自転車についているQRコードをスキャンすると鍵が開き、使用して、別の駐輪場に返却をすると、自動的に使用料が引き落とされるというものです。15分単位で借りられる、別の駐輪場に返すことができるということから、「最後の1km」の公共交通ツールとして定着をしています。

この領域のビジネスを興したイノベーター企業は2016年1月に創業したofo(オッフォまたはオーエフオー)です。それに続いてmobike(モバイク)が登場し、豊富な投資資金を背景に壮大な焼銭大戦を展開しました。

数々の社会問題を起こしながら、最終的に2018年にofoは破綻、モバイクは美団(メイトワン)に買収され、規模を大幅縮小することになりました。では、生き残ったのはどこなのでしょうか。それはアリババ系のHellobike(ハローバイク)でした。ofoとモバイクが華々しい焼銭大戦を繰り広げている間、ハローバイクは地方都市を中心に展開をし、激しい競争に巻き込まれないようにしていました。しかし、1位が破綻、2位が身売りと消えていったために、1位に浮かび上がっていったのです。現在、シェアリング自転車で最も大きなシェアをとっているのはハローバイクです。

 

この面白い競争史が、経営学や起業セミナーでのケーススタディの教材になっています。1位と2位が自滅をし、3位が浮かびあがりシェアを握るというのは、普通ではあり得ない経緯だからです。

中国で新しい領域のビジネスが生まれた場合、上位2社が激しい競争をし、631局面に達して競争が落ち着くというのが一般的です。631局面とはシェアが6:3:1の状態になることです。理論的な根拠があるわけではありませんが、なぜか631局面になると競争が沈静化します。1位と2位がダブルスコアになるため、2位が競争を仕掛けづらくなるからです。

例えば、フードデリバリーの世界では、美団、ウーラマ、百度外売が登場し、ちょうど6:3:1のシェアになり、百度外売はウーラマに吸収され、安定をしています。また、スマホ決済でも、アリペイ、WeChatペイ、銀聯が6:3:1の時代が続きました。ただし、WeChatペイがWeChatのビジネス利用を背景にアリペイに追いつき始め、そこにデジタル人民元が登場をしたため、シェアは大きく変動しそうです。社区団購でも、ピンドードーの多多買菜、美団優選の上位2社が激しい競争をしています。

いずれも、上位3社または2社が激しい競争をして、それを勝ち抜いた1社が市場を支配するという推移をするのが一般的です。

しかし、シェアリング自転車はそうならず、まさかのダークホースの3位が市場を制することになりました。

 

もうひとつ教材に使われる理由が、3社とも異なったミッションに基づく企業だったということです。ofoは社会運動です。創業者の戴威(ダイ・ウェイ)は、元からツーリング自転車が大好きであり、世界中の人は自転車で移動すべきだという信念を持っている人でした。自転車をもっと使ってもらうためにはどうしたらいいのか、それが起業の原点になっています。

モバイクはビジネスです。創業者の胡瑋煒(フー・ウェイウェイ)は、ウェブメディアの記者をしていましたが、10年働いても車もマンションを買えないことを嘆いて、「極客汽車」(Geek Car)というウェブメディアを立ち上げます。この取材をする中でシェアリング自転車というビジネスと出会い、株式公開を目指して起業します。そのため、美団に売却できたことは大成功であり、15億元(約300億円)のお金を得て、現在は悠々自適の人生を送っています。

ハローバイクは事業です。創業者の揚磊(ヤン・レイ)は、ofoとモバイクの派手な焼銭大戦に挟まれて、生き延びるためにはお客さんに好かれるサービスを提供する以外ないと、地道な努力を続けていきます。揚磊はサービスを運営することが楽しくなってしまったため、アリババの資金を受け入れる時も、買収されるのではなく、あくまでも投資をしてもらい、自分で運営する道を選びました。現在でも揚磊は忙しく働いています。

一言で言えば、思想か金か事業かであり、最後に勝ったのは事業という教訓話にもなっています。

 

ただし、ハローバイクが最後に市場を制したのは、道徳の時間の教訓のようなものではなく、シェアリング自転車が公共サービスの側面を持っているという点も大きかったはずです。公共サービスとしては、過度に偏った思想や、利益だけを追い求める合理性はそぐわない部分があり、地道にサービスをつくりあげていくハローバイクが適合したという部分も大きいのではないかと思います。

ofoについては、「vol.003:シェアリング自転車は投資バブルだったのか」でもご紹介していますが、ずいぶん前のことでもあるので、ofo、モバイク、ハローバイクの成り立ちや考え方についてご紹介してきたいと思います。それを知ることで、起業や事業を成長させるにはどのような考え方をすべきなのかという学びを得られるのではないかと思います。

今回は、シェアリング自転車についてご紹介します。

 

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vol.127:WeChatマーケティング。私域流量の獲得と拡散が効率的に行えるWeChatの仕組み

 

 

赤字運営でも投資が集まる「京東」。強さの秘密はキャッシュフロー

京東は、創業以来ほぼ赤字運営だ。2019年、2020年はコロナ特需で黒字化をしたものの2021年には再び赤字転落をしている。それでも投資が集まり、株価は安定をしている。その秘密はキャッシュフローにあると捜狐が報じた。

 

株価の優等生「京東」

中国大手EC「京東」(ジンドン)。アリババのライバルであり、経営が安定していることから、株価の優等生とも言われる。2014年5月に米国のナスダックに上場して以来、株価は非常に安定をしている。

投資も順調で、高瓴資本(ヒルハウスキャピタル)、テンセント、ウォルマートなどが投資をしている。

▲京東のナスダック市場での株価の推移。赤字経営ながら安定した株価を維持していた。2020年の大幅黒字で株価が上昇し、2021年の景気後退と米中貿易摩擦により中国企業の株価が暴落をした。その中でも京東は下げ幅が小さく、堅調な推移をしている。

 

赤字経営でも投資家から信頼される京東

しかし、業績を見ると、営業収入は順調に成長しているものの、最終的な純利益は惨憺たるものだ。創業以来、赤字運営が続いていて、2019年にようやく黒字化を果たした。2020年には493億元(約9380億円)という巨額の純利益を出したが、2021年には再び赤字転落をしている。

つまり、純利益を見ると、とても安定経営には見えない。それでいて、なぜ株価は安定しているのだろうか。さらには、ヒルハウスやテンセント、ウォルマートはなぜ京東に投資をし続けるのだろうか。

▲京東の営業収入の推移。方程式で自動生成をしたようなきれいさで、毎年着実な成長をしている。

▲京東の純利益の推移。2019年、2020年はコロナ特需があり黒字となったが、2021年には再び赤字転落。赤字運営が続いている。



京東の強みはキャッシュフロー

京東の経営の強みは、利益はなくキャッシュフローにある。常に大量の現金を保有するビジネスモデルになっている。

京東は、商品を仕入れ、販売をし、配送をするという家電や電子製品の小売店がオンライン化をしたものだ。一般的な小売店では、まず商品を仕入れるのに元手が必要になる。テレビを8万円でメーカーから仕入れるには8万円のお金がいる。これをなんとか用意しなければならない。そして、店頭に置き、来店客が12万円で買っていく。ここでようやくお金が手に入り、次の仕入れができるようになる。

しかし、売れなかったらどうするのだろうか。価格を下げるしかない。場合によっては仕入れ値の8万円を切る価格で売らざるを得ないこともある。すると、次の8万円の商品の仕入れはできなくなり、借金をしなければならくなる。つまり、商品が動かないとあっという間に経営が破綻する構造になっている。

 

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元手なしで商売が回る仕組み

京東の強みは、メーカーに対して、仕入れ代金の支払いを、商品納入後60日にしたことだ。先に商品を納入させて、後からお金を払う。このようなことが可能になったのは、京東が強い販売力を持っているからだ。メーカーも大量に売ってくれる小売チャンネルに対しては、支払いを多少であれば待つことができる。

納品された商品は、すぐにECで販売をする。京東の棚卸資産回転日数(在庫回転日数)は35日前後で、最近は30日前後にまで改善されている。つまり、納品された商品は平均して30日で売れることになる。

これが京東の強いキャッシュフローを産んでいる。0日目に商品が納入される。+30日に商品が売れ、その場で消費者は決済をするので商品代金が京東に入る。そして、+60日に仕入れ先に対して仕入れ代金を支払う。つまり、一般的な小売店とは逆に、先にお金をもらって、後から支払いをする仕組みになっている。

▲京東の棚卸資産開店日数(在庫回転日数)の推移。現在は入荷をしてから30日で商品が売れる。棚卸資産開店日数の短縮が京東の経営上、重要なKPIになっている。

 

強いキャッシュフローにより新規事業に投資ができる

この仕組みにより、京東の内部には売上が大きくなればなるほど莫大なキャッシュがあふれることになる。仕入れに必要な元手がなくても、仕入れることができ、商売ができるのだ。

この膨大なキャッシュを、EC事業を強化する業務に投資することができる。物流、金融、健康医療、クラウド事業など、次々とEC事業とシナジー効果がある事業を広げていくことができる。新しい事業の当初は赤字であるのが当たり前だ。しかし、京東の主力事業であるECは元手なしで商売ができるので、新事業の赤字補填をしても怖くない。

この経営の強さがあるために、株価は安定をし、投資機関は安心をして投資をすることができている。

 

 

素人集団の挑戦。12年でiPhoneに追いついたスマホ素人集団「シャオミ」

自動車製造の経験がないシャオミが自動車製造に挑戦をすることが話題になっている。しかし、シャオミがスマートフォンを製造した時も、素人集団の挑戦だった。素人だからこそ、先入観のないイノベーションが起こせたと騰訊網が報じた。

 

素人集団が自動車をつくる

スマートフォン、家電などのメーカー「小米」(シャオミ)が自動車製造に乗り出したことが話題になっている。シャオミがつくるのだから、当然、テクノロジー感覚に溢れたものになるという期待もあるが、製造をする子会社の「シャオミ汽車」のメンバーが話題になっているのだ。設立発表会には、経営陣と主要メンバー17人の集合写真も公開されたが、自動車業界出身者が1人しかいない。その一人とは元BMW中国のデザイナーで、その他はみなスマホや家電の事業に携わっていた人たちだ。つまり、まるっきりの素人が自動車を製造することになる。

これに賛否両論が寄せられている。自動車づくりを甘く考えているという否定的な意見から、先入観のない門外漢だからこそイノベーションを起こしてくれるのではないかという肯定的な意見まである。ネットメディア「テンセント科技」が行なったアンケートでは、シャオミ汽車に期待できるが63.1%、期待できないが36.9%となった。

▲小米自動車の設立発表会での写真。自動車産業出身者が1人しかいない素人集団の挑戦であることが話題になった。

 

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iPhoneのあるフレーズにより生まれたシャオミ

そもそも、シャオミがスマートフォンを製造すること自体、素人集団の挑戦だった。シャオミの創業者、雷軍(レイ・ジュン)は、起業前は金山軟件キングソフト)のCEOを務めていた。キングソフトは、中国語ワープロWPS」、セキュリティソフト「金山毒覇」、MMORPG「剣侠情縁」(ソードヒーローズフェイト)などを開発していたソフトウェア会社だった。ハードウェアの製造はまったくと言っていいほど経験がなかったのだ。

しかし、どうしてもスマホ製造に乗り出したくなってしまったのが、2007年にiPhoneが発売されたことだった。雷軍は発売するとすぐに手に入れ、その斬新さや工業製品としての質の高さに驚嘆をした。

そして、背面に書かれたあるフレーズが雷軍の心を捉えた。

「Designed by Apple in California, Assembled in China」(カリフォルニアのアップルが設計、中国が製造)というフレーズだった。当時の中国には、これだけの先進的なデバイスを設計する能力はない。しかし、製造することはできる。もし、自分たちで設計ができれば、iPhoneと同じレベルのものや、あるいは超えるものもつくれるのではないか。

しかも、iPhoneは米国設計、中国製造という国際製品だ。それが世界中に受け入れられようとしている。中国設計、中国製造のスマホも世界中に売れるのではないか。雷軍は、過去の経験など関係なく、スマホ製造企業をつくりたくなってしまった。

走り回って、キングソフト、グーグル、マイクロソフトなどから創業メンバーを集め始めた。

▲シャオミの創業メンバーは、お粥を炊いて全員で食べた。これがシャオミの創業の儀式となった。

 

ユーザーに近いところから開発をしていく

2010年4月6日、北京市の銀谷ビル807号室でシャオミが設立された。創業メンバーでお粥を炊いてみなで食べるという儀式が行われた。

集まったエンジニアは、多くがソフトウェアエンジニアだった。そこから、雷軍はソフトウェア主導の開発計画を立てた。Androidをベースにし、まず必要なアプリの開発を進めた。それからそのアプリ群を使うのに最適なUI/UX(インタフェース、使い勝手)を開発する。その後でスマホのハードウェアの設計に入るというものだった。つまり、ユーザーに近いところから開発を始め、それに合わせてハードウェアを設計するというやり方だった。

これで使いやすいスマホができ、なおかつ、ハードウェアはそれに合わせて設計されるため、動作は軽く、不必要なハードウェアがなくなるためコストも抑えられるはずだった。

雷軍はこのスマホを1499元で発売しようと考えていた。なぜなら、当時のフィーチャーフォンの高級機と呼ばれる携帯電話は1500元以上するのが常識だったからだ。ほぼ同じ価格、1元安い価格で発売すれば、フィーチャーフォンの高級機を買っている層が買ってくれることを期待したのだ。

▲雷軍は武漢大学を卒業後、キングソフトに入社をし、ITエンジニアと働き、後にCEOとなった。ソフトウェアエンジニアだった雷軍がスマホというハードウェアを開発するのは経験のないことだった。

 

どこからも製造を断られる

しかし、最もハードルが高かったのが製造だ。中国にはフォクスコンを始めとした技術力のあるEMS(受託生産)企業があったが、実績がまるでないシャオミが依頼をしても、どこからも断られてしまう。しまいには、シャオミや雷軍の名前を出すだけでアポイントを取ることすら断られるようになってしまった。

その中で、唯一話を聞いてくれたのが、南京市の「英華達」(インホワダー、OKWAP)だった。OKWAPはそれまで簡易型携帯電話PHSを主力に製造していたが、2011年にPHSサービスが終了することになり、苦境に立たされていた。そのため、実績のないシャオミの話に応じてくれたのだ。

▲シャオミ1の製造を受け持ったOKWAP。PHSを製造していたOKWAPは、経営状態が苦しくなり、新興メーカーのシャオミに賭けた。

 

発売前からコミュニティーを育成

同時に雷軍は、インタフェース「MIUI」を洗練させる仕事を進めた。100人のモニターユーザーを募り、意見を聞き、改善をしていく作業だ。

これはコアユーザーを育成することにもなった。このコアユーザーたちが、ネットでシャオミのスマホについて発信をし、発売前なのにネットのシャオミフォーラムには50万人以上が参加をするようになっていた。みな、中国初の本格スマホに期待をしていたのだ。

 

1999元という圧倒的な低価格

2011年8月16日、シャオミはスマホ「シャオミ1」を発表した。北京のアート地区、798の芸術センターで発表が行われた。

会場が大いに沸いたのは、価格の発表だった。雷軍は価格を発表する前に、サムスンやHTC、LG、モトローラーなどのスマートフォンとのスペック比較表を見せ、スペック的にはシャオミ1がこれらのライバルから比べても劣っていないか、部分的には優れていることを示した。ライバル製品の価格も表示され、多くが3500元から4000元になっていた。

そして、雷軍はシャオミ1の販売価格を発表した。1999元というものだ。この衝撃でシャオミはあっという間に人気になり、売り切れる事態となった。

雷軍は本来は1499元を目標として、直前まで1499元の価格にこだわっていたという。しかし、製造コストがどうしても2000元になってしまう。もし、1499元で30万台を販売したら、シャオミは1.5億元の赤字を抱えてしまう。さすがにそれは耐えられなかった。

価格を1999元にすれば、1台あたりの赤字は1元となり、広告やアプリ販売などで赤字を補うことができる。この決断により、シャオミは安定経営が可能となり、投資資金も獲得をし、成長をしていくことになる。しかし、機能と価格のバランスをギリギリまで追求するコスパ戦略はその後も続いていくことになる。

▲雷軍は、ライバルになりそうなスマホのスペックと価格を並べて見せた。多くのスマホが3500元以上の価格になっている。

▲そして、1999元という驚きの価格を発表する。雷軍は本来は1499元という価格を目指していた。

 

12年でアップルに追いつく

2021年Q2、携帯電話の出荷台数ランキングで、1位はサムスンだったが、2位にシャオミがランクインした。秋の新製品発表前の需要が落ちる時期だとは言え、アップルを抜いたのだ。素人集団が挑戦を始めて、ちょうど12年で目標としていたアップルに曲がりなりにも追いついたことになる。

シャオミの自動車も素人集団の挑戦となる。どのようなものが登場してくるのか、期待をしている人は多い。

 

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TikTokとMusical.lyとMindie。「真似で終わる真似」と「真似で終わらない真似」はどこが違うのか

ショートムービーSNS「抖音」とその国際版であるTikTokは、もはやインフラとも言えるほど普及をしている。抖音の前身のプロダクトはA.meであり、このA.meはMusical.lyの真似だった。そして、Musical.lyはMindieの真似だった。しかし、抖音にはAIリコメンドエンジンがあったため、ただの真似では終わらなかったとXYY読書筆記が報じた。

 

マンションをアルゴリズムで探したバイトダンス創業者

バイトダンスの創業者、張一鳴(ジャン・イーミン)は、1983年、福建省の竜岩市に生まれた。2006年に天津市の南開大学を卒業すると、旅行予約サイトの酷訊網(クーシュン)に入社をし、ITエンジニアとして頭角を表す。2008年には離職をして、マイクロソフトアジア研究院に転職をした。

この時、張一鳴は北京市にマンションを購入している。張一鳴は、ネットから北京市の不動産情報を読み取り、自分が希望する条件でスコア化をし、最もスコアが高くなる地域を選び、そこでマンションを探したという。

▲バイトダンスの創業の地「錦秋家園」。マンションの一室がオフィスで、食堂がないために昼食はベランダで食べていた。

 

不動産情報をキュレーションする九九房

マイクロソフトという大きな組織の中で働くことは、張一鳴に合わなかったようだ。唯一の僥倖は、同郷の王興(ワン・シン)と知り合ったことだ。王興は中国版ツイッター「飯否網」(ファンフォー)を創業し、張一鳴は大きな刺激を受けた。王興は2009年7月に飯否網を手放し、美団(メイトワン)を創業する。

張一鳴が創業したのは「九九房」(ジウジウファン)だった。自分がマンションを買った時の経験を活かして、不動産情報を提供するサービスだった。評判はよく、中国の三大不動産情報サイトのひとつに数えられるようにまでなった。

しかし、iPhone4が発売され、中国の地下鉄の中でもスマートフォンを使う人が目立つようになった。この変化に、これからはスマホがデバイスの中心になると考え、九九房のアプリを5種類開発して公開した。そのうちのひとつである「不動産情報」というアプリは、大手不動産情報サイトの人気物件情報を収集して、読者の好みに合わせて配信をするというものだった。これが後の「今日頭条」(トウティアオ)につながる。

 

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情報を拡散させる企業「バイトダンス」を創業

世の中はスマホ時代に入っているのに、九九房でできることは限られていた。不動産業界に特化をした情報ビジネスだったからだ。より広い情報を扱うビジネスであればもっといろいろなことができる。PCからスマホという時代の転換点にあって、張一鳴はもう一度起業をすることにした。

北京市の知春路にあるマンション「錦秋家園」の一室を借り、バイトダンスという企業を創業した。情報を拡散させ、バイト(情報)が社会の中を踊り回る(ダンス)を目指した企業だ。

拡散させる情報として選んだのが娯楽だった。不動産情報は家を買おうとしている人にしか価値がない。買ってしまったらもう不動産情報は見なくなる。しかし、娯楽はどんな時でも見る。どんな人にも価値がある。

そこで面白小話、面白写真、面白動画をネットから集めて配信する「敲笑途」「内涵段子」など開発して公開した。利用者からは歓迎されたが、これにより、バイトダンスはサブカル的な企業だと見られるようになり、エンジニア採用の障害にもなったと言われる。

 

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情報の拡散は、人ではなくアルゴリズムが行う

2012年の間、張一鳴は、どのような情報であれば、拡散することにより社会の役に立つかを考え続けた。張一鳴は、拡散の方式は人に頼ってはいけないと考えるようになった。どの情報を拡散させるのかは、情報の受け手の行動を機械学習し、AIが判断をして、機械的に拡散させるべきだと考えた。

拡散に人が介在をしてしまうと、必ずバイアスがかかってしまう。雑誌などは編集長のバイアスがかかった情報メディアだが、それはそのような情報が好きなコミュニティーの中だけで閲覧されるもので、社会全体に拡散はしていかない。社会全体に情報を拡散せるには、機械が選び、色をなくした情報にしなければならない。

この発想から生まれたのが「今日頭条」だ。ネットのニュースサイトからニュース記事を収集して配信するが、どの記事を配信するかは、すべて読者個人の過去の閲覧行動を機械学習して決められる。今日頭条のチームにエンジニアはたくさんいるが、いわゆる編集のプロは一人もいない。

この今日頭条が、「知りたいニュースが次々と出てくる」と評判になり、すぐに100万人以上に使われるヒットサービスとなった。

▲バイトダンスの最初のヒットプロダクト「今日頭条」。ネットニュースを収集して、AIが利用者の興味に応じて配信をする。どの記事を配信するかはすべてをAIが決定している。

 

AIによるリコメンドエンジンの開発がスタート

この頃、YouTubeが大きく成長をした。YouTubeでもバイトダンスと似たような発想で、トップページのおすすめ動画を機械学習による表示をするようになっていた。Sibyl(シュビラ)というシステムが使われ、後にGoogle Brainに置き換えられた。

張一鳴は、これを見て、自分の考え方の方向性は正しかったと確信をし、機械学習によるリコメンドエンジンの開発をする計画を進めた。優秀なリコメンドエンジンがあれば、そこにニュース記事を入れれば今日頭条になるし、動画を入れればYouTubeになる。

張一鳴は、開発チームに電子メールを送った。タイトルは「リコメンドエンジン」というもので、「情報プラットフォームを構築するには、パーソナライズされたリコメンドエンジンが必須になる。準備はいいか?」というものだった。

そして、開発チームとともにAIやディープラーニングの学習を始め、百度などからAI人材をスカウトしてきた。

 

Vine、Mindie、Musical.lyのショートムービーのトレンド

この頃、ショートムービーが流行する兆しが現れ始めていた。2013年1月にリリースされた「Vine」(バイン)は、6秒のループ動画を投稿して共有するサービスで、後にツイッターに買収された。

2013年10月には、フランスで「Mindie」(ミンディー)がリリースされた。これはショートムービーに音楽をつけるというもので、感度の高い若者から支持をされた。

そして、上海で起業した朱駿と陽陸の2人が開発したMusical.lyが登場する。2人は当初、オンライン教育のビジネスを考えていたがうまくいかず、教育的な知識を動画で配信する仕組みを考え出した。

2013年にはそのプロトタイプが完成し、最初に投稿されたのは朱駿自身が2時間かけてつくった「コーヒーの歴史」という2分の動画だった。しかし、動画をつくる手間はものすごくかかったのに、できあがった動画は退屈なものだった。

どのような題材であれば、2分から3分程度の動画に合うのか。朱駿はある日、サンフランシスコのケーブルカーに乗っていた時に、大きな発見をする。若者の半分はiPodで音楽を聴き、若者の半分はiPhoneで動画を見ていたのだ。音楽と動画を組み合わせれば100%になる。これにSNSを組み合わせられないか。

こうして、Musical.lyが2014年4月にリリースされた。

 

米国でヒットしたMusical.ly

このMusical.lyは中国ではなく、米国で受け入れらた。陽陸は「私たちが米国市場を選んだのではなく、米国市場が私たちを選んだ」と言う。米国の若者たちは、音楽が大好きで、ムービーも大好きだった。しかし、中国の若者は、学校の宿題や大学の課題に追われており、音楽や動画を楽しむ時間が少ない。

Musical.lyが爆発的に流行するきっかけになったのがリップシンクだ。2015年の頭、Dubsmash(ダブスマッシュ)という動画にアフレコができるアプリが人気になった。Musical.lyの開発チームはこれを見て、Musical.lyのリップシンク機能を強化し、リップシンク大会を開催した。著名曲のリップシンクをし、自分が主人公のミュージックビデオをつくれるようにし、投稿が簡単にできるようにした。これによりMusical.lyの人気は次第にあがっていった。2015年の4月にはiOSアプリランキングで1400位前後をうろうろしていたが、これ以降毎週100位のペースで上昇するようになり、7月にはDon’t judge meチャレンジが自然発生した。化粧などで自分の顔を醜くした動画と本来の姿の動画を合わせたもので、そのギャップや醜く見せるアイディアを競うものだ。

このチャレンジはFacebookなどで拡散をし、1週間で40万本のショートムービーが投稿され、累計閲覧数は10億回を突破し、Musical.lyはiOSアプリランキングで1位となった。


www.youtube.com

▲Musical.lyの人気が高まるきっかけとなったDon’t judge meチャレンジ。あえて汚い顔をするというもの。

 

不発に終わったTikTokの前身のA.me

張一鳴は、このような動きを見て、動画コンテンツに参入をし、自分たちが開発をしているリコメンドエンジンを適用すれば、勝機があると見た。そして、3レベルで動画コンテンツに参入する計画を立てた。

ひとつはYouTubeのような比較的長時間の動画を共有するもので、これが「西瓜視頻」となった。もうひとつはSNSの色彩を濃くした動画共有「快手」を模したもので「火山視頻」となった。最後のひとつはショートムービーを共有するものでMusical.lyを模したもので、これがA.meとなり、後の「抖音」(ドウイン)、TikTokになっていく。

しかし、この3つのプロダクトの中で、A.meは最も前途が暗いと見られていた。なぜなら、Musical.lyは中国でも流行の兆しが見え始めていたからだ。しかも、露骨なMusical.lyのコピープロダクトだったからだ。

実際、A.meは迷走をした。リリースしてしばらくは利用者の半分はバイトダンスの社員だとまで言われた。Musical.lyのDon’t judge meチャレンジに刺激を受け、さまざまなチャレンジを企画しても不発に終わる。ターゲットも当初は「流行に敏感な都市部の若者」という狭いもので、これが普通の若者からはとっつきにくい印象を持たれることになった。

▲抖音の開発チーム。多くが経験の浅いメンバーだった。経験がないだけに自由な発想ができた。

 

スクラブダンスでブレイクをした抖音

張一鳴は、A.meをいったん白紙に戻し、大幅にアップデートをし、サービスの名称を「抖音」(ドウイン、音が振動するの意味)に変えることにした。ショートムービーの面白さは、体を動かすことと音楽の2つであるという基本に立ち返ることにした。そのために、サービスのロゴを音符が躍動しているものにして、投稿したショートムービーにはこのロゴのウォーターマークが自動的に入るようにした。これにより、他のプラットフォームに転載をされることで、抖音の利用者が増えることになる。

そして、芸術系の学生を大量に利用者に加えることにした。芸術系大学を周り、抖音を紹介し、テスト運用に参加をしてもらい利用者になってもらった。学生たちは感性を活かして、面白いショートムービーを投稿するようになっていく。

2017年2月、その中からヒットが生まれた。「スクラブダンス」だ。左腕を水平に置き、右のこぶしを上下に突き出すというダンスというよりは振り付けに近い。しかし、ダンスとは呼べない単純さが鍵になっていた。誰でも真似ができ、それでいて、今まで見たことがない斬新さがあった。多くの人が自分も真似をして、ショートムービーを投稿するようになり、抖音はスクラブダンスであふれることになる。これが他のプラットフォームにも転載されて、抖音の利用者は急速に増えていくことになった。

▲抖音のロゴ。Douyinの頭文字であるdを音符に見立てて、音符が踊っているというもの。

 

真似で終わらない真似

抖音が他の動画プラットフォームと異なっていたのは、どの動画を配信するかをAIが決定をしていることだ。バイトダンスの基幹技術とも言えるAIによるリコメンドエンジンが採用されている。

これにより、抖音は、それぞれが見たいショートムービーが次々と配信されてくる状態になった。どのようなムービーが好みかは個人により異なるため、人によって抖音の印象は大きく違う。ニュースを見たい人にはニュース映像が、ダンスが見たい人にはダンス映像が、車が好きな人には車の映像が配信されてくる。自分の好きな映像が無限に出てくる感覚になる。

元々の発想は、VineYouTubeから得たものであり、プロダクトとしてはMindieの真似をしたMusical.lyのさらなる真似だ。しかし、「真似で終わらない真似」にしたのがバイトダンスのAIリコメンドエンジンだった。

そして、この抖音の国際版としてTikTokが開発され、海外に浸透をしていくことになった。中国では若者だけでなく、中高年にまで広がり、テレビは見ないけど抖音は見るという人が増え始め、インフラのひとつになってきている。

 

 

公的機関が運営するシェアリング自転車は、テクノロジーの力で良質なマナーを促す

国営企業「人民出行」が電動のシェアリング自転車サービスの展開を始めている。ヘルメットの着用、二人乗りなどを自動検知する仕組み、正しく駐輪するジオフェンスなどのテクノロジーを使い、マナーの問題が起きないように配慮されていると電動車行業平台が報じた。

 

交通インフラとして定着をしたシェアリング自転車

中国ではシェアリング自転車が生活の中に定着し、以前のような過剰投入による放置自転車問題もほぼ解消されている。このシェアリング自転車は公共交通としても重要視されるようになっている。都市部では地下鉄やバスが届かない最後の1kmを補う交通ツールとして、地方では短距離の移動ツールとして必要とされるようになっている。

さらに、中国は電動自転車がある。アシストではなく、バッテリーで自走する自転車で、制限速度は25km/hであるものの、実質的な低速電動スクーターだ。この電動車であれば10km程度の移動までカバーできる。

▲政府は距離に応じた公共交通ツールを配置する方針だ。3km以内の短距離は民間のシェアリング自転車でカバーをし、10km以内は公共の電動自転車でカバーをする。

 

公共交通を強化するために生まれた人民出行

この電動車を公共交通のツールとして普及させる目的で設立された国営企業が「人民出行」(PeopleGo、http://www.peoplego.cn)だ。国家発展改革委員会、公安部、工信部などの中央組織が共同で設立をし、5Gスマート交通を普及させることが目的になっている。

この人民出行が独自の電動車を開発し、湖南省岳陽市などの地方都市からサービスの展開を始めている。当面の目標は100都市でのサービスを展開することだ。

▲人民出行の電動自転車。自転車だが、電力で自走をする。実質的な低速電動スクーターだ。

 

テクノロジーで良質なマナーを促す

この人民出行の電動車の特徴は、テクノロジーによってマナーを制御しようとしていることだ。

電動車は16歳以上であれば免許不要で乗ることができるが、ヘルメットの着用が義務付けられており、2人乗りも小さな子どもを除いて禁止をされている。しかし、このヘルメット着用、2人乗り禁止がなかなか守られない。

そこで、人民出行の電動車は、テクノロジーによって利用者の安全を守る機能がある。ヘルメットにはセンサーが備えられていて、着用しているどうかを感知し、未着用では電動車のスイッチが入らないようになっている。

また、重量センサーが内蔵されていて、2人乗りをした場合、バッテリー駆動が停止をするようになっている。

▲テクノロジーだけではなく、スタッフによる整理もこまめに行われている。駐輪場がきちんとしていると返却をする人もきちんと返却をする。

▲コロナ禍では、スタッフが整理だけでなく、1日3回以上の消毒をおこなっている。

 

正しく駐輪しないと返却ができない仕組み

また、シェアリング自転車で問題になっていたのが、駐輪場での駐輪マナーだ。駐輪の仕方が乱雑であるため、通行のじゃまとなることがあり、わきに積み上げられてしまうことがある。これを見て、返却する人がさらに乱雑に返すようになり、駐輪場のマナーが大きな問題になっていた。

人民出行では、BluetoothRFID電子タグなどを使ったジオフェンスを設定し、駐輪場の枠内に返却をしないと、返却処理ができないようになっている。また、停止線に対して直角に停車する「90度駐輪」も感知するようになっているため、1台分の枠内にきちんと収めないと返却処理ができない。

また、駐輪場には監視カメラが設置をされ、AIが電動車などを物体認識し、違法な駐輪状態、他の自転車の駐輪、盗難、イタズラなどを認識し、スタッフにアラートをあげる。また、駐輪場の空き台数もリアルタイムで認識できるため、利用者に利用できる駐輪場、返却可能な駐輪場をスムースに案内することができる。

使う人のマナーに頼るのではなく、テクノロジーでマナーを誘導するというコンセプトのシェアリング電動車になっている。このような公共性の高いシェアリングによる公共交通の整備は、地下鉄建設の予算が組めない地方都市などから注目をされている。

▲話題になっているのが90度停車。ジオフェンスの中に入れても、停止線に直角に置かないと返却処理が完了しない。

 

 

成長の限界に悩むシェアリングモバイルバッテリー。次の成長曲線はどこにある?

スマホが生活ツールとして重要になるとともに成長をしてきたシェアリングモバイルバッテリービジネス。どこでも借りることができ、充電をしたら、どこにでも返すことができる。しかし、スマホバッテリー容量があがるとともに需要が減り始めている。各社ともに次の成長曲線をどこに求めるか悩み始めていると創業最前線が報じた。

 

上場企業も生まれた充電宝ビジネスの苦境

出先でスマートフォンのバッテリーがゼロになりそうになった時の強い味方、シェアリングモバイルバッテリー。中国では「充電宝」と呼ばれる。駅や飲食店などに設置をされていて、簡単に借りることができ、返却はどこのステーションでもOK。利用料はスマホ決済で行われるというものだ。

2021年4月には、この市場で34%のシェアをもつ「怪獣充電」が米ナスダック市場に上場をした。

この市場は、上位4社でシェアの96.3%を持っている。街電、来電、小電、怪獣の4社で「三電一獣」と呼ばれていた。しかし、街電が吸収合併をし、竹芒科技と改称したため、勢力図が変わり、現在は「小竹獣」の状況になっていると言われる。

この充電宝ビジネスが苦境に立たされている。

▲充電宝企業の「怪獣充電」はナスダックに上場をした。しかし、各社ともに次の成長曲線が描けずに苦悩するようになっている。

 

スマホの進化とともに伸びた充電宝

2010年以降の10年は、スマートフォンの普及と進化の時期で、ディスプレイの解像度やチップ性能は上がり続け、バッテリー容量も増え続けたが、機能に対して追いつけず、スマホ利用者は常にバッテリー切れを心配しながら使う状態だった。さらに、スマホ決済を中心とし、スマホが生活必需品になるにつれ、バッテリーの問題は重要になっていった。

これにより、公共交通施設、飲食店、ショッピングモール、観光地などに設置された充電宝は多くの人が利用する社会インフラのひとつになっていった。

特に、地下鉄やバスがスマホ決済で乗れるようになってからは、バッテリーが切れると、移動もできず決済もできない状態になるため、バッテリー残量を常に気にする人が増えていった。

また、学生にとっては充電宝は必須のアイテムとなっている。大学や高校ではコンセントの数が少なく、学生の数が多いため、なかなか充電をすることができない。そのため、学内に設置された充電宝を使うのが一般的になっている。

▲街中のあちこちに設置されている充電宝ステーション。レンタルをして、充電をしたら、別のステーションに返すことができる。

 

バッテリー容量があがるにつれ、需要が下がった充電宝

しかし、次第にスマホのバッテリー性能があがり、充電宝の利用にも変化が見られる。錦緞研究院の調査によると、2018年の利用時間、総利用回数は2.3時間、13.9億回だったが、2019年になると2.1時間、15.6億回と、回数は増えたものの時間が減少し、2020年になると1.3時間、16.2億回と、利用時間が減少する傾向にある。

利用料金も上昇し続けている。2017年は1回あたりの平均利用料が1.3元だったが、以降、2.3元、4.1元、5.3元と上昇し続けている。従来は、問題にするほどの金額ではなかったため、気軽に利用することができたが、1回5元を超えるようになると、数十元で購入できるモバイルバッテリーを自分で持ち歩いた方がいいと考える人も増える。

以前の充電宝は「スマホを充電するための主な方法のひとつ」だった。学生などは、夜は学生寮で充電し、昼間は学内の充電宝を利用して充電をする。しかし、価格が上昇し、さらには充電サービスを提供しているカフェなども増えてくると、充電宝は緊急用に使うものになっていった。

 

tamakino.hatenablog.com

 

次の成長曲線が描けない充電宝

充電宝企業側でも、利用料金だけではなく、収入源の多角化を進めている。例えば、小電では、主力は充電宝ビジネスだが、広告ビジネスも行なっている。しかし、充電宝ビジネスの収入割合は2018年が97.8%で、以降98.8%、97.3%と高く、なかなか広告ビジネスが拡大していかないのが実情だ。他の充電宝企業も、充電宝利用料からの収入が95%を超えている。

一方で、人流の多いバーや飲食店に充電宝を設置する場合、設置場所に対して利用料を支払う必要がある。いわゆる家賃に相当するものだ。特に人流が多く、数時間の滞在をするため充電宝の利用率が高くなるバーなどでは、利用料の40%から50%をバーに対して支払う契約になっている。

この負担も、充電宝企業にとっては重荷になっている。小電の場合、このような支払いが2018年から、1.05億元、7.15億元、10.13億元となっており、それぞれ営業収入に占める割合は25%、44%、53%にもなる。

スマホが生活の中で重要なツールになるとともに急成長をしてきた充電宝ビジネスだが、現在は停滞をし始めている。少なくとも次の成長曲線を描けない状態になっている。

 

次の主力事業が見えない各社

竹芒科技は、マスクの自動販売機やAED自動体外式除細動器)と一体になった充電宝ステーションを開発することを発表し、新たな収入源の確保と社会貢献を両立させることをねらっているが、どこまで売上に貢献できるかは不明瞭だ。

シンプルなビジネスであるため、消費者の理解も早く、一気に普及をしたが、シンプルであるが故に他のビジネスと複合させることが難しい。スマホ側も大容量バッテリーや省電力化の技術が進み、以前のようにバッテリー切れに不安を感じることも少なくなっている。

充電宝は、早急に次の成長曲線が描けるビジネスを見つける必要に迫られている。

▲竹芒科技では、AEDと一体型の充電宝ステーションを開発し、社会貢献をしながら、設置場所を広げようとしている。

 

 

WeChatマーケティング。私域流量の獲得と拡散が効率的に行えるWeChatの仕組み

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今回は、微信(ウェイシン、WeChat)での私域流量の獲得についてご紹介をします。

 

前回、読者の方からもご要望をいただいた通り、私域流量(プライベートトラフィック)は、中国の小売業にとって大きなテーマになっています。それはあたりまえです。私域流量の獲得とは、オンラインでお客さんをどう集め、お得意さんに変えていくかという話なのですから、そこに無関心な消費者向け企業というのはあり得ません。

私域流量に対応する言葉が公域流量(パブリックトラフィック)です。公域流量と私域流量の違いは、ショッピングモールや百貨店、商店街などのオフラインビジネスに例えると理解しやすくなります。モールや百貨店の運営者は、ブランドを構築し、セールを行い集客をします。たくさんの集客をすることが運営の価値となり、店子として入る小売店からより多くの家賃や運営管理費を徴収できるようになります。このモールや百貨店が集めた客流が公域流量です。店子としては、この公域流量の中からどれだけ自店に客流を呼び込めるかが売上に大きく影響してきます。

しかし、このような店子の中で、公域流量に頼らなくても、自力で集客ができる小売店が登場してきます。日本では一時期のユニクロ無印良品がそうで、モールの運営者は頭を下げてでも出店してほしいと考えるようになります。この独自集客が私域流量です。

こうなると、運営と店子の関係性が大きく変わります。このような私域流量を獲得できる小売店はモールの家賃や運営管理費でも大幅優遇されていますし、条件や環境についても運営に意見を言うことができるようになります。

 

インターネットでも、この公域流量と私域流量の関係は変わりません。例えば、グーグル検索はその検索性能の優秀さから莫大な公域流量を獲得しています。この公域流量を広告主に分配をすることで利益を生み出しています。

広告主は、グーグルのもつ公域流量を少しでも多く分配をしてもらうために、SEO対策(サーチエンジン最適化)をして検索順位をあげたり、競争の少ないキーワードを探して広告を出稿するという工夫をします。より多くの公域流量を分配をしてもらうことで、売上もあがるからです。

グーグルがうまいのは、このような広告主の活動が、Google検索の精度をより上げ、多数の検索キーワードが売れるようになり、検索品質と売上の向上に直結をしているという点です。広告主が自社の売上を上げたいと思ってやっていることが、グーグルの売上を上げることにも寄与しているという関係になっています。

また、アリババの「淘宝網」(タオバオ)も、この公域流量と私域流量をうまく利用したビジネスモデルになっています。タオバオは、何でも売っている、何でも買うことができるという多様さで消費者を惹きつけ、莫大な公域流量を獲得しています。参加をする販売業者はこの公域流量の分配を受けることで商売を成り立たせています。

販売業者は売上をあげるためにより多くの公域流量の分配を受けようとします。そのためには、タオバオにお金を払ってタオバオ内に広告を出したり、セールなどのプロモーションに参加をします。これがタオバオの収入源になります。このような有償サービスを利用すればするほど、タオバオでの商品検索で上位に表示されるようになるため、販売業者は競ってタオバオにお金を払おうとします。これがタオバオの収益力の源泉になっています。

 

しかし、SNSやショートムービーが登場をすると、このようなツールを利用して、自力で流量を確保できる小売企業が増えてきました。日本でも、ツイッターで告知を行い、インスタグラムで商品訴求をし、TikTokで拡散をさせ、LINEでコミュニケーションを取るという手法は当たり前のことになりつつあります。

私域流量の確保というのは、このようなツールをいかに組み合わせて、公域流量に頼らないビジネスを確立するかが大きな目的になります。ただし、実際の事例は非常に複雑です。なぜなら、私域流量の獲得は、何もオンラインツールの活用だけに頼る必要はなく、屋外広告、屋外イベント、店舗なども組み合わせるのが一般的です。vol.087:洗脳神曲「蜜雪氷城」の背後に隠されたプロモーションロジック」でご紹介したのは、店舗来店に着地させることを目的とした手法でした。ビリビリ、TikTokを駆使して最後は近隣店舗に来店させるというものです。

このように実際の事例は、その企業により異なった組み立て方をしています。おそらくは、シンプルな形で始まった私域流量の獲得手法が改善を積み重ねる間に、その企業にとって最も効果がある形に落ち着くのでしょう。以前、読者の方からのご要望に回答させていただいた通り、このような私域流量の獲得手法を体系的に整理分類した資料というのはまだ見つけられていません。きれいに分類をするのはかなり難しいと思います。

 

そこで、今回は、WeChatだけを使って私域流量を獲得するのにどんな手法があるのかをご紹介したいと思います。WeChatには、SNS、公式アカウント、ミニプログラム、ショートムービー、ECショップと、私域流量を獲得するための道具立てがすべてそろっているため、WeChatを中心に置いている小売企業は少なくありません。ひとつのツールに限ってご紹介することで、手法がシンプルとなり、理解をしやすくなるのではないかと思います。また、私域流量のビジネスセミナーなどをのぞいてみても、まずはWeChatで私域流量の獲得手法を理解をして、それから外部のサービスを活用するという説明をしていることが多いようです。

 

WeChatでの私域流量の獲得手法をご紹介する前に、WeChat特有のピープルランクという重要な概念をご紹介させてください。おそらく多くの読者の方がWeChatをお使いだと思いますが、WeChatでは人間関係(ソーシャルグラフ)に基づいて、利用者全員がランク付けされています。重要な人なのか、どうでもいい人なのか点数評価されているのです。これに基づいて、WeChatでは、「誰でもいいから大量に確保する」だけでなく、「重要な人をピンポイント」で確保するということも可能になってきます。

どのように重要なのかと言うと、それは消費に関する他人への影響力です。たくさんの人に対して、「この製品はいいよ」と勧めると多くの人が買ってくれる。そういう影響力を持つ人が高く評価をされ、このような人物はKOC(Key Opinion Consumer)と呼ばれるようになっています。プロのインフルエンサーではなく、あくまでも消費者の中で影響力のある人という意味です。マイクロインフルエンサーと呼ばれることもあります。

現時点での網紅(ワンホン、インフルエンサー)の第一人者は口紅王子のリ・ジャーチですが、2022年になって視聴者数の低下に悩まされるようになっています。昨年、トップ網紅のウェイヤーと雪梨シェリー)が巨額脱税で摘発をされ、アカウントが凍結されライブコマースができなくなるという状況になりました。この一件以来、「網紅は結局、商売で商品を紹介し、莫大なお金を稼いでいる」という感覚が消費者の間に広がっているのかもしれません。

 

WeChatのピープルランクは、グーグルのページランクの人間版です。グーグルの創業者であるラリー・ペイジセルゲイ・ブリンは、スタンフォード大学で、ウェブページの重要度をどう決定すべきかという研究に取り組みました。ウェブページの重要さに得点をつけて並べられないかと考えたのです。

答えは意外と簡単でした。「他のウェブページからたくさんのリンクが張られているページは重要」というものです。リンクを張るという行為を一種の投票行動だとみなしたのです。

しかし、個人のブログが張っているリンクと、Yahoo!が張っているリンクは価値が違います。投票の重みが違います。これを解決するためには、先に個人ブログは1点、Yahoo!は100点というように点数を決めておく必要があります。しかし、Yahoo!の得点は、Yahoo!に対してリンクを張っている数(投票数)を調べなければ決めることができません。どんどん遡っていくことになり、永遠に点数が確定できない状況になります。これを数学とプログラムで解決をするというのが2人の研究テーマでした。

その研究結果が正しいことを実証するために、試験的に検索エンジンを立ち上げて、検索結果を重要度順に並べるようにしたところ、多くの人から精度の高い検索エンジンだと称賛され、投資家がつき、ビジネス化をしたというのがグーグルのそもそもです。

 

ちなみに2人がどう解決をしたかを簡単にご紹介をしておきます。世界中のウェブからまったくランダムにひとつを選んで、それを1点と仮定をし、リンク関係をたどりながら他のウェブの得点を計算していきます。どこにもリンクを張っていないウェブやすでに計算済みのウェブにあたると、突き当たりとなり、そこで計算が終了します。今度は、別のウェブページをランダムに選び、同じ計算をします。これを何度も繰り返し平均をとると、すべてのウェブページの得点が計算をできます。正確ではないかもしれませんが、実用的な得点を決定できるのです。

WeChatでも、フォロー、友人関係、メッセージの転載などのソーシャルグラフに基づいて似たような計算を行い、利用者の得点を割り出しています。たくさんの人にフォローされ、たくさんの友人がいて、自分のメッセージがよく拡散をする人の得点は高くなります。このような人はある分野におけるKOCである可能性が高いと考えることができます。

では、WeChatでは、このような数値、ツールを使って、どのような私域流量獲得手法が可能になるのでしょうか。今回は、WeChatでの私域流量獲得手法についてご紹介をします。

 

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vol.122:ハーモニーOSで巻き返しを図るファーウェイ。ファーウェイのスマホは復活できるのか

vol.123:利用者層を一般化して拡大を目指すビリビリと小紅書。個性を捨ててでも収益化を図る理由

vol.124:追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網

vol.125:5分でバッテリー交換。急速充電の次の方式として注目をされ始めたバッテリー交換方式EV

vol.126:SoCとは何か。中国と台湾の半導体産業。メディアテックとTSMCを追いかける中国