中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

優良企業「京東」のリストラショック。リストラをしない京東の賢い戦略

「京東兄弟の一人たりともリストラしない」と創業者が宣言をしていた京東がリストラを行ったことが波紋を呼んでいる。しかし、京東がなぜリストラをしてこなかったのか、なぜ今回はリストラをしたのか、その背後には京東の賢い戦略があったと東哥解読電商が報じた。

 

卒業という名のリストラを始めた京東

中国テックジャイアントが軒並み大型のリストラを実行している。滴滴、アリババ、テンセントに続いて、EC大手の「京東」(ジンドン)までがリストラを行い、業界はショックを受けている。

なぜなら、京東の創業者、劉強東(リウ・チャンドン)は、2018年に「京東兄弟の誰一人とも永遠にリストラはしない」と宣言をしているからだ。実際、京東は事業の組み替えなどを除き、業績悪化を理由にしたリストラは行ったことがない。その京東までが「卒業」という言葉を使い、リストラを行ったことが波紋を広げている。

▲京東の創業者、劉強東。2018年に公の場で、「私たちは京東兄弟の一人たりともリストラをしない」と宣言をしていた。

 

社区団購部門がリストラの中心

しかし、京東でリストラが行われたのは本体ではなく、京喜(ジンシー)事業グループだ。このグループの従業員は4000人前後で、400人から600人規模のリストラが行われる予定だ。

京喜事業部の事業内容は、拼多多に対抗する共同購入サービス「京喜」、社区団購「京喜拼拼」、短距離宅配サービス「京喜達快逓」、店舗向けEC「新通路」の4つだ。いずれも地方都市や農村の下沈市場を対象にしたビジネスを展開している。

この中で、リストラは社区団購である「京喜拼拼」に集中をしている。

 

総崩れとなった社区団購ビジネス

2021年は、京東だけでなく、社区団購が総崩れとなった。社区団購は生鮮食料品などを前日までにスマートフォンなどで注文をしておき、翌日、拠点に受け取りにいくというサービス。前日に注文が確定をするため、配送に無駄が出ない。通常は、生産地からいったん卸業者に入れ、需要を見て、卸業者が調整を行い再配送をする。それでも、過不足は生じ、あるスーパーでは欠品が起きたり、あるスーパーでは食品ロスが生まれたりしてしまう。

社区団購では、購入量が事前に確定をするため、卸業者による調整は不要で、生産地から直接配送することができる。卸業者が不要、食品ロスが出ないため、販売価格は大幅に安くすることができ、そこが社区団購の魅力になっていた。さらに、テック企業が参入したことにより、低価格キャンペーンによる競争も行われた。

このような社区団購に2021年は規制が入るようになった。社区団購が卸業者を不要とするのはいいとしても、卸業者の経営が成り立たなくなると、通常の生鮮食料品物流も成り立たなくなる。また、実質的な販売価格も不当廉売に近いもので、ここに調整が入り、極端な割引などが規制をされるようになった。

ところが、社区団購が常識的な販売価格になってみると、多くの消費者が価値を感じなくなってしまった。スーパーで買えばいいし、生鮮ECなどで注文をすれば宅配もしてくれる。これにより、滴滴の「橙心優選」は店舗向けECに業態転換をし、アリババが投資をした「十薈団」は倒産をし、「美団優選」「多多買菜」は大幅縮小をしている。

 

アリババと京東はビジネスよりも新規顧客の獲得をねらった

2021年6月の規制が始まる直前の段階で、美団優選と多多買菜が1日の注文量2500万件前後でトップグループを形成していた。橙心優選、興盛優選、十薈団が1000万件程度で第2グループ。アリババ直営の「盒馬集市」が300万件程度、「京喜拼拼」が200万件程度。アリババと京東は、この社区団購ビジネスに深入りをしていなかった。

では、両社は何を目的に社区団購ビジネスに参入をしたのか。売上ではなく、利用者数の拡大だ。アリババ、京東ともにECビジネスは都市部で浸透をし、利用者数が頭打ちになっているため、地方都市と農村の下沈市場への浸透を図っている。

特に京東は、京喜拼拼を京東のアカウントと共通化し、京喜拼拼の利用も京東のアプリ、ミニプログラム内の一コーナーという位置付けにした。2019年から京喜事業を始め、京東全体の利用者数を30%伸ばすことに成功した。新たに増えた京東の利用者の80%は、下沈市場の消費者になっている。2021年Q4の段階でも、四半期で1800万人の新規会員を獲得しているが、そのうちの70%は下沈市場からのものだという。

つまり、京喜は、ビジネスそのものがねらいではなく、新規顧客を獲得するための仕掛けだったのだ。京東の場合は、想定した下沈市場の消費者を獲得し、政府による規制も始まったため、ビジネスを縮小させると判断したものだと見られている。

▲京喜は、地方や農村の消費者向けのサービスだが、京東ミニプログラムの一コーナーという位置付け。低価格商品で新規顧客を獲得し、京東全体の利用者数を増加させることがねらいだった。

 

従業員数と営業収入がきれいに比例をする京東

京東のリストラは各方面にショックを与えているが、京東のリストラがこれ以上広がる可能性は少ないと見られている。

なぜなら、京東は小売店をそのままオンライン化したECであり、自社で商品を仕入れ、自社で販売をし、自社で配達をする。これには巨大な倉庫、物流網、配送網が必要になる。大量の人手を必要とするビジネスで、従業員数も多いが、従業員数が増えると営業収入も増えるというきれいな比例関係にある。鶏とたまごの関係にあり、従業員を増やせば業績があがるというわけではないが、本体の大規模リストラをすれば業績が悪化することは確実で、悪いスパイラルに入ってしまうことになる。

2022年通年は、社会全体の景気悪化の影響で、京東の成長も停滞するのではないかと見られている。2018年から2021年までは、毎年20%台後半の成長をしてきたが、2022年は20%を割り込み、15%から20%程度の成長にとどまると見られている。しかし、緩慢にはなるものの成長はする。つまり、京東は例年ほどではないにしても、今年も新たな従業員を必要としている。

京東の本体が大型リストラをすることは考えづらく、もしそんなことが起きるとしたら、それは京東のビジネスが縮小をする時だ。

▲京東の営業収入と従業員数の関係は、きれいな比例関係にある。リストラをしてコストダウンをすることは営業収入の減少につながり、悪いスパイラルに入ってしまうことから、京東はこれ以上のリストラはしないと見られている。

 

 

自動化が進むレストラン。北京五輪の無人レストラン報道がきっかけに。変わるコロナ後の飲食業

北京冬季五輪で、メディアセンターの食堂が自動化をされていたことが国内外で報道され、国内でも無人化、自動化を進めるレストランが増加をしている。配膳、食材のピックアップなど本質的ではない業務は自動化をして、味や接客という本質的な部分で勝負をするためだと餐飲培訓伍sirが報じた。

 

北京冬季五輪でブレイクしたロボット食堂

コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食業界。それが変わり始めている。以前から無人レストランの試みは行われていたが、加速をして広がりが出てきている。そのきっかけとなったのが、北京冬季五輪のメディアセンターの食堂で、調理から配膳まで全自動というロボットレストランが導入され、これが国内外に大きく報道されたことだ。

この北京冬季五輪無人システムを担当した千璽機器人(チエンシーロボティクス、https://www.qxfoodom.com)では、北京冬季五輪以降、問い合わせが相次いでおり、すでに複数の導入事例が生まれている。

北京冬季五輪で話題になった無人レストラン。注文した料理が天井から降りてくる。このシステムを納入した千璽機器人には多数の問い合わせが殺到をしている。

▲千璽機器人が展開する広州市の「Ai小鍋ロボット火鍋レストラン」。ロボットが注文した食材をピックアップしてくれる。

▲千璽機器人は複数の無人レストランの展開を始めている。注文した料理が天井から降りてくる広州市白雲区の「天降美食ロボット中華レストラン」。

▲Ai小鍋ロボット火鍋レストランは、外観もメカを強調して、独特のルックスになっている。現在11店舗を展開中。

 

ロボットによる自動化を進める火鍋チェーン「海底撈」

人気の火鍋チェーン「海底撈」(ハイディーラオ)では、2018年から無人レストランの開発に着手をし、2021年には無人厨房2.0を発表し、無人厨房を活用した店舗の展開を始めている。すでに1.5億元(約28.4億円)の研究開発費を投じている。

火鍋は、調理そのものは客席で客自身が行うため、厨房での作業は具材の下拵えをすることが主になる。これをキッチンで行い、密閉容器に入れ、厨房にセット。タブレットなどから注文が入ると、ロボットアームが必要な具材をピックアップし、移動ロボットが客席に配膳をするというものだ。火鍋専門店という特殊な飲食店業態が自動化になじみやすかった。

▲海底撈は、2018年に北京市中駿世界城店をスマートレストランにした。具材は配膳ロボットが運んでくる。

▲海底撈の厨房では、ロボットアームが具材をピックアップし、配膳ロボットにわたす。

 

自動化により顧客体験をアップグレード

自動化だけでなく、顧客体験もアップグレードされている。海底撈の楽しみは、火鍋のタレを自分好みのものにできること。多彩なタレが用意され、それを自分でブレンドし、好きな薬味を入れ、自分好みのタレで火鍋を楽しむことができる。多くの場合、フロアスタッフが好みを確認して、おすすめのタレの調合を教えてくれるので、これをベースに好みの挑戦をしていくことができる。

会員になると、どのタレが気に入ったが記録をされ、次回からは自分が調合したタレが出てくることになる。スタッフは配膳などが自動化されたことにより、接客に多くの時間を割けるようになった。

2018年11月に北京市に開店をした自動厨房店舗では、客席フロアの装飾にも凝り、人気店として定着をしている。この店舗では、壁面がすべてディスプレイになっており、表示される映像により雰囲気ががらりと変えられる工夫がされている。

▲海底撈の中駿世界城店は、壁面がディスプレイになっていて、店内の雰囲気が一瞬で変えられるようになっている。

 

顧客体験に貢献しない業務は自動化をしていく

海底撈の魅力は情熱接客だ。その接客ぶりは「変態級」とまで言われることがある。スタッフがハネ防止のエプロンを着させてくれたり、タレをつくてくれ、調理も手伝ってくれる。キャンディやポップコーン、果物を無料で配ってくれる。変面や麺打ちのパフォーマンスも随時行われる。さらには、店内に無料の靴みがきコーナーやネイルアートコーナーまで設置されている。

自動化を進めると、このような情熱接客が薄れてしまうのではないか。海底撈ではまったく逆だと言う。飲食店の基本は、料理と接客で、下拵えや配膳は、顧客の体験を変えることのない業務にすぎない。このような業務を自動化することにより、顧客体験に寄与する接客にスタッフの労力を集中させる。海底撈にとって、自動厨房や配膳ロボットというテクノロジーは、先進的な技術を導入したというよりは、より海底撈の魅力を高めるための当然の改善なのだという。

▲海底撈の厨房には、どのテーブルが何を注文をしたかが表示されるディスプレイがある。フロアスタッフはこの情報を元に、各テーブルに対し適切な接客を行う。

 

本質的ではない業務を自動化し、本質的な業務で競争をする

飲食店により、何がその飲食店の本質なのかは違う。海底撈のように接客が本質である飲食店もあれば、味が本質であったり、価格が本質である飲食店もある。その本質以外の部分では自動化を進め、本質部分をより高めていく。それがコロナ禍以降の飲食店の基本的な考え方になっている。

コロナ禍による営業制限、人数制限は飲食業界に大きな打撃を与えた。飲食店は自店の本質をより際立たせていかないと生き残っていけない状況になっている。その危機感が飲食店を進化させている。

 

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ウーラマに騙されるな。安易に始めてはいけないフードデリバリーの仕事

北京市でウーラマのデリバリー機種をしていたあるネット民が、匿名で、ウーラマに騙されるなと訴えている。確かにデリバリーの仕事は報酬は悪くはないが、さまざまな理由で天引きをされて手元にお金はわずかしか残らない。ウーラマから委託された企業ではこのようなことが常態化していると民間故事茶が報じた。

 

若い世代の人気の職業となったデリバリー騎手

デリバリーの配送員である「騎手」(ライダー)は、若い世代から人気の職業のひとつとなっている。決して高給の仕事ではなく、体力的にもつらい仕事だが、自分の好きな時間に働けるということが魅力になっている。また、フードデリバリーが地方都市でも普及をするようになり、近隣の農村の若者からすると、就職活動をすることなくすぐに始められる仕事でもある。地方都市では報酬も他の職業と比べれば決して低いわけではない。

2022年の全国人民代表大会では、小康集団の張興海会長が「若者をフードデリバリーではなく、工場に向かわせなければならない」と発言して話題になった。決められた時間で働き、仕事中に一服することも許されない工場で働くよりは、フードデリバリーの騎手の方が気楽で、工場よりも稼げる。そう考える若者が増えている。

▲デリバリー騎手の仕事は、自由な時間に働くことができ、体力があれば稼げる仕事だとして若者に人気になっている。しかし、それはウーラマに直接雇用された場合の話であって、委託企業に所属をする多くの騎手は天引きに苦しめられている。

 

待遇がまったく異なる委託企業

しかし、デリバリー騎手もそう気楽なものではないと、先月、ウーラマを離職したネット民が、これからデリバリー騎手をしようとしている若者に向けて、「騙されるな」と忠告をした。この人は、北京市朝陽区のステーションに所属をして働いていた。待遇は正社員だ。しかし、だまされてはいけないという。

フードデリバリー「ウーラマ」は、元は独立したスタートアップ企業だったが、アリババに買収をされた。そのため、ウーラマで働く人は、アリババ関連会社で働いていることになり、聞こえはいい。しかし、実際にウーラマの社員になれる人はそう多くない。

このネット民が所属をしていたのは、デリバリー業務をウーラマから委託をされている企業であり、ウーラマの制服を着て、ウーラマの配達をするが、ウーラマの下請け企業にすぎない。待遇もウーラマとはかなり違う。ウーラマは、社員の平均給与などの統計を公表して、北京などの大都市でも家族を養えるレベルの収入が得られるとか、体力のある若者が長時間働き、高収入を得て、起業する資金を貯めたなどと宣伝しているが、それはウーラマに直接所属をする騎手の話であって、大半の騎手は委託企業に所属をするため、生活はかなり厳しくなるという。

 

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仕事に必要なグッズは自腹購入

このような委託企業に入社した場合、登録料のようなものを取ることはウーラマにより禁じられている。しかし、必要な道具を自腹で購入しなければならない。ヘルメットが80元、制服のTシャツが2着で80元、デリバリーボックスが260元で、合計420元(約8100円)が必要になる。

ウーラマの公式グッズは、タオバオなどで購入すればもっと安く手に入る。しかし、それは許されず、万が一発覚をすると500元の罰金を取られる。この420元は、支払うのではなく、仕事を始めた後の報酬から天引きをされていく。ウーラマはこのような制度を行ってなく、委託企業が自分たちの利益にするために勝手にやっているのだと思われる。

▲ウーラマの専用バッグは自腹で購入しなければならない。バイクも契約会社からレンタルをすることが強制される。

 

配達スクーターも自腹レンタル

そしてひどいのが、配達に使う電動スクーターだ。委託企業は、ある電動スクーター企業と提携をしていて、そこからレンタルをすることが必須になっている。バッテリー交換式の電動スクーターであるため、スクーターのレンタル費用が月600元、バッテリーの利用料が月299元もかかる。さらに、この人がレンタルした電動スクーターは故障が多く、その修理費用も自腹となるため、月に1000元以上の出費となる。

 

社員寮は1部屋に8人住まい

地方から出てきてこの仕事に就いた場合は、ウーラマが社員寮を提供してくれる。しかし、当然ながら無料ではない。普通の民家を借り上げたもので、二段ベッドが4つ置かれ、1部屋に8人で住むというものだ。これで月500元の家賃がかかる。

環境は最悪だ。トイレに鍵はなく、40人以上も住んでいるのに、トイレは1つしかない。コロナ禍の間は、寮などで密集して住むことが禁止をされた。それで環境が少しはよくなるのかと期待をしたが、寮の管理者は「1部屋8人で住んでいることは絶対に口外してはならない」と緘口令をしいただけだった。さらに、電気代が月40元、水道代が50元取られる。

また、食事代として、3食分が1日45元、仕事中の水として支給される水が3本で10元とられる。多くの騎手が夜遅くまで働いているので、朝と昼しか食べず、夜は自分でコンビニなどで買って食べてしまうが、それは関係なく、食事代が天引きをされる。

▲筆者が住んでいた社員寮。二段ベットが4つ入れられ、1部屋に8人で住む。自分のスペースはベッドの上だけだ。これで家賃、光熱費、食費はしっかりと取られる。

 

保険料は支払っても、事故処理はしてくれない事故保険

その上に、ウーラマからは保険加入料として月120元が天引きされる。その他にもいろいろ天引きされるものがあり、大体300元は引かれる。

この保険料も多くの騎手が疑っている。同僚が車との接触事故を起こした時、ステーション長は適当な理由をつけて、その騎手を解雇してしまった。もはや社員ではなくなったので、保険に関しても無効だとして、取り合ってもらえなかった。

 

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稼ぎは月5000元、天引きは月4000元

一体、いくら天引きをされるのか。初期に必要なグッズ類が420元、電動スクーターが月1100元、寮が月590元、保険料などの天引きが月300元、さらに食事代など最低限の生活費が1500元はかかるので、月4000元は必要になる。

ウーラマで月4000元以上稼ぐことはできるのか。1日に配達できる件数は、20件から25件程度だ。25件、30日として計算をすると、1件あたりの報酬は7元前後なので5250元となる。必要経費を取られると、1200元程度しか手元に残らない。最低限の生活は保証されているので、これでもいいと考える人もいるかもしれない。しかし、委託企業はこの辺りの計算をした上で、理由をつけては天引きをして自分たちの利益を確保している。

ネットの就職サイトでは、月1万元以上は稼げるという話をよく見かけるが、それはよほど頑張っている騎手か、騎手が不足をしたためインセンティブとして一時的に報奨金をつけた月での話だ。また、グッズや電動スクーター無償支給、保険完備などと書いてあるが、それはウーラマに直接雇用された場合の話であって、多くの場合は委託企業採用になる。委託企業は、ウーラマと騎手の間に入って、天引きをしていくのが仕事だ。

デリバリー騎手は若い間の一時的な仕事としては決して悪くはない。しかし、こういう仕組みになっていることを知ってもらい、騙されないようにしてもらいたいと筆者は結んでいる。

 

 

TikTokのバイトダンスが始めた中古品取引サービスはブランド品専門。盛り上がる中古品取引サービス

バイトダンスが中古品取引サービス「二手好物」を始めている。扱う商品は、高級ブランド品が主体だ。以前の中国では、中古品を購入することを嫌う文化があったが、それを気にしないZ世代が利用をしていると媒体が報じた。

 

中古品売買サービスにバイトダンスも参入

「抖音」(ドウイン)、「TikTok」を運営するバイトダンスが、中古品を売買するサービス「二手好物」(アーショウハオウー)を始めている。

中古品の売買サービスは、アリババの「閑魚」(シエンユー、https://goofish.com)が先行をしており、続けてEC「京東」(ジンドン)が「拍拍鯨置」(パイパイジンジーhttps://apps.apple.com/cn/app/拍拍置/id1582170284)をスタート、さらには快手(クワイショウ)もライブコマースで中古品の扱いを始めている。さらには、「転転」(ジュワンジュワン)、「愛回収」(アイホイショウ)などの独立系もあり、バイドダンスの参入により、にわかに中古品取引サービスが賑やかになってきた。

▲バイトダンスが始めた「二手好物」。扱う商品はラグジュアリーブランド商品に限定されている。ライブコマースでの売上が好調だという。

 

二手好物は高級品の中古品が中心

現在、二手好物は専門の販売業者がライブコマースを中心に中古品を販売している。中古品と言っても、不用品ではなく、高級品が多い。ルイヴィトンやグッチといったブランドもの、高級腕時計、iPhone13などの中古品が主体になっている。

また、買取のサービスも行われていて、バッグ、腕時計、服飾品、宝飾品などは、宅配便で送ると査定が行われ、査定額に納得をすればそのまま買取となり、二手好物で販売されることになる。

アリババの閑魚は家具から日用品まで含み、不用品でも別の誰かにとっては価値があるというコンセプトでの中古品売買サービスだが、現在の二手好物は誰にとっても価値が感じられる高級品、デジタル製品などが主体になっている。

 

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中古品に対する抵抗がなくなっているZ世代

中国人は中古品を嫌うという文化がある。しかし、それは自分の使っている物を人にあげるということが特別な意味を持つからだ。よくあるのは、社長が従業員に自分の腕時計や自動車をあげるというもの。これは信頼の証になり、仲間として認めたという証になる。同時に、上下関係が確定をする。そのため、対等な人同士で、自分のものを相手にあげるという行為は、相手を下に見るということになり失礼にあたる。

このような文化であるため、中古品を利用する習慣が根づかないままにきた。しかし、それを変えたのが、95年以降生まれのZ世代だ。

Z世代は、社会課題に強い関心を持っているため、環境保護は当たり前のことになっている。まだ使えるものを捨ててしまうのは環境に負荷を与えることになる。木製家具などは補修をし、リデザインすることで、レトロ感という新しい価値を付加することもできる。服飾品なども古着をアレンジすることで新しい価値を与えることができる。このような感覚が広まり、中古品に対する抵抗感はなくなっている。

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オタク文化が不用品取引の感覚を産むきっかけになった

さらに大きいのが、Z世代に広がるオタク文化だ。程度の違いはあるものの、中国のZ世代ほぼ全員が、ACGN(アニメ、コミック、ゲーム、ノベル)に興味を持っている。オタクが特殊な趣味ではなく、若い世代の基本教養になっている。そのため、フィギュア、漢服、コスプレなどの中古品が取引されることも珍しくなく、フリーマケットサービスを通じて、欲しいものを購入し、不要なものを売却するということを普通に行なっている。中古品というより、自分が不要なものをシェアして、必要なものを手に入れるという感覚だ。

このようなことから、若い世代を中心に、中古品を購入する習慣が根づこうとしている。

 

不用品取引はC2B2Cビジネスモデルが主流

調査会社iResearchの調査によると、2015年の中国の中古品取引市場は3000億元に満たなかったが、2020年には1兆元を突破した。2025年には3兆元を突破すると予測されている。

中古品売買サービスはいくつも登場して、すでに過当競争気味になってきているが、スタイルがそれぞれに異なっている。アリババの閑魚はC2C型からスタートをした。消費者同士が中古品を売買するプラットフォームだ。しかし、品質や値付けの問題から、運営がいったん買い取り、修繕、洗浄などをして販売するC2B2C型に転換をしようとしている。

愛回収、回収宝などはC2B2B型だ。消費者から不用品を買い取り、それをリサイクルなどして必要な企業に売却をする。中古品売買というより、リサイクル買取サービスだ。

バイトダンスの二手好物は、最初からC2B2C型でスタートしている。

現在、シェアでは閑魚が圧倒的で、86.8%、次が転転で12.4%と、閑魚が市場の中心になっている。

▲中古品売買サービスでトップシェアを持っているアリババの「閑魚」。中国に中古品を購入するという習慣を根付かせることに成功した。

 

中古品サービスは新品の販売を加速する

二手好物がこのような中古品売買市場でシェアを取りに行こうとしているのかどうかはわからない。むしろ、新品を扱う通常のECの販売を加速するために、二手好物を始めたと見ている人もいる。

高級ブランドや高級腕時計は、普通の人は頻繁に購入するものではない。場合によっては、一生ものと考えて買うこともある。しかし、中古品市場があれば、購入をしてみて、気に入らなかったり、飽きたりしたら、中古品として売却をすればいいと考えるため、新品の購入頻度があがる。ここを期待しているのではないかと見られている。

そのため、二手好物は、価値が下がりづらい高級品やデジタル製品に限定されたままになる可能性がある。

バイトダンスの2022年は、ECの成長が大きなテーマになっていて、2022年の流通総額の目標は2兆元(約39兆円)となっている。抖音で1兆元、TikTokで1兆元の流通総額をねらう。

ただし、バイトダンス広報は、ECを加速するために中古品売買サービスを始めたという見方を否定している。いずれにしても、販売チャンネルとしてポテンシャルの高い抖音とTikTokが、今後のEC市場に大きなインパクトを与えることはもはや間違いのないことになっている。

 

 

拼多多が3四半期連続で黒字を達成。下沈市場をめぐるアリババと拼多多の確執

拼多多が3四半期連続の黒字を達成し、安定経営のモードに入った。これはアリババが最も恐れる事態だった。タオバオの販売業車が拼多多に移籍をしてしまう現象が起き始めているからだ。下沈市場をめぐり、アリババと拼多多の競争が激化しそうだと財経故事薈が報じた。

 

拼多多の安定経営を恐れるアリババ

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が黒字化をし、堅調だ。2021年の財務報告書によると、2021年Q4の純利益は66.20億元(約1290億円)となり、3四半期連続の黒字となった。これはアリババが最も恐れていた事態だ。

アリババは、拼多多に対抗するために、激安EC「淘宝特価版」を2020年3月にスタートさせ、後に「淘特」(タオター)に名称変更をした。淘特は拼多多に市場を蚕食されることを一定程度食い止める効果はある。しかし、大方の見方は投入が遅すぎたというものだ。

▲拼多多の業績。赤字運営が続いていたが、2021年から3四半期連続で黒字を達成している。拼多多が安定運営になることはアリババが最も恐れていた事態だった。

 

オンラインとオフラインを接続する農村タオバオ

アリババと拼多多には、少なくともアリババ側には確執がある。なぜなら、自分たちが開拓をした市場を、拼多多にまんまと奪われてしまったからだ。その市場とは下沈市場と呼ばれる。最も有効な消費者層の下に沈んでいる低所得者層のことで、一般的には地方都市と農村の消費者のことを指す。

2014年、アリババは米ニューヨーク市場に上場をし、莫大な資金を調達することに成功した。アリババが上場後の成長戦略のひとつとして挙げたのが、下沈市場の開拓だった。2014年10月には、最初の「農村タオバオ」のステーションが、浙江省の桐廬県に開店した。これは、タオバオの商品を購入できる実体店舗だ。当時の農村では、まだスマートフォンがじゅうぶんに普及をしてなく、アリペイなどの電子決済も普及をしていない。店舗や露店で現金で買うというのが一般的だった。そこで、農村タオバオでは、来店客が欲しい商品を告げると、店長がタオバオを検索して探してくれる。気に入った場合は、店長が代わりに購入し、届くと連絡がいき、現金で支払いができるというものだった。つまり、オンラインとオフラインを接続する店舗だ。この農村タオバオを起点にタオバオで買い物をする習慣を広げようとした。

さらに、アリババはタオバオ村の設置を行なっていった。こちらは、アリババが地元企業を支援して、農村を商品の生産基地にしていこうというものだ。つまり、アリババは農村で商品を生産し、現金収入が得られる状況を生み出し、そしてアリババのタオバオで買い物をしてもらうという循環を考えていた。これは農村の貧困や都市との収入格差を解消する社会貢献活動にもなる。

▲農村タオバオの店舗。下沈市場でオンラインとオフラインを接続する拠点として、全国に3万店舗が設置された。アリババの計画では2019年までに10万店舗なので、計画は順調に進んでいるとは言えなくなっている。

 

農村には向かなかったECの仕組み

しかし、なかなかうまくはいかなかったようだ。農村タオバオアプリは、2017年6月にタオバオ内に統合をされてしまった。これが決定打になってしまった。農村の消費者にタオバオアプリは使いづらいものだったのだ。

操作が難しいというのではない。商品名を検索して、商品を探し、レビューを読んで評価をし、注文をして決済をするというプロセスが、都市住人にとっては先端的でゲーム性もあり楽しいものだったが、農村の消費者にはなじめなかった。露店や店舗で、目の前にあるものを買って現金で払うというのが一般的な消費スタイルだったからだ。

そして、アリババはもうひとつの大きな戦略ーー新小売に注力をしていくようになる。

 

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下沈市場にうまく参入した拼多多

この空白となっていた下沈市場に拼多多が非常にうまく入り込んだ。農村の消費者は、お金はあまり持っていないが時間はたっぷりとある。拼多多で販売される商品は驚くほど安い。1元、2元の商品もたくさんあり、多くが10元以内だった。その分、品質についてはそれなりだったが、この安さであれば品質には目をつぶる。そのため、レビューなど読む必要がなかった。拼多多のアプリを開いて、おすすめの商品が安いとなればタップして購入してしまう。この単純さと安さが、下沈市場では受けた。

さらに、アリババがやろうとしてできなかったことを前進させた。農村に生産基地をつくり、農村の経済を上昇させていった。地方都市の政府は歓迎をし、拼多多に対する支援を行うようになり、社会貢献の観点からも歓迎され、ますます多くの下沈市場の消費者が拼多多で買い物をするという循環が生まれた。

 

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淘特が激安価格で販売できる仕組み

2020年になって、アリババは拼多多に対して危機感を覚え、「淘宝特価版」を投入する。ここでは、驚きの激安価格の商品が並んだ。1.9元で50枚入りのマスク、4.9元の男性用薬用リップクリームなどが大量に売れた。しかも、送料込みでこの価格なのだ。

4.9元のリップクリームはこれでも利益がわずかに出る。工場出荷時の納品価格は2元程度で、配送費は2.5元で済む。つまり、0.4元の利益が出る。これでも大量に売れれば商売になる。

1.9元のマスクはさすがに赤字になってしまう。それでも販売業者にとっては問題がない。多くの販売業者は、タオバオにも淘特にも出品をしている。アリババは販売数などのデータや広告やプロモーションの参加回数などから販売業者のランク分けを行い、ランクが高くなると、タオバオで検索をした時に上位に表示をするアルゴリズムを採用している。つまり、たくさん売ってランクがあがると、より売れるようになる。

アリババは、この評価システムをタオバオと淘特で共通化をした。そのため、タオバオにも出品している販売業者は、淘特での価格を安くして大量に販売をすると、タオバオでのランクがあがることになる。タオバオで商品が売れやすくなり、淘特での損を取り戻せるというわけだ。

▲拼多多(左)と淘特(右)。見た目のつくりは非常によく似ている。販売されている商品の価格帯も多くが10元以下になっている。

 

下沈市場をめぐるアリババと拼多多の戦い

このような激安販売は一定程度の成功をしている。淘特の年間アクティブユーザー数(YAU)は2.8億人を超え、QuestMobileの調査によると、78%の利用者が拼多多と淘特の両方を使っていた。タオバオから離れて拼多多に移ってしまう利用者を食い止め、かつ、拼多多から利用者を奪っている。

しかし、再び、拼多多は新たな方向性を打ち出している。現在力を入れているのは農村で生産された農作物を都市の住人に売るというビジネスだ。特に特徴のある果物や自然農法で育てられた農産物や家畜類は高額で売れる。下沈市場の中で生産から消費を循環させるというところから脱却をしようとしている。

アリババはこの動きにも対応をしないとならなくなっている。タオバオと拼多多の競争は、常に拼多多が主導権を握って、それをアリババが追いかける形になっている。アリババにとって、まだしばらくの間は拼多多が脅威であり続けることになる。

▲アリババのEC収入(CM)と新小売(Other)の営業収入の伸び率。2021年第4四半期にEC収入は初めての前年割れとなった。

 

 

SoCとは何か。中国と台湾の半導体産業。メディアテックとTSMCを追いかける中国

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今回は、スマートフォンやPCのチップであるSoCについてご紹介します。

 

21世紀に入り、テクノロジーがものすごいスピードで進化するようになり、言葉づかいが難しくなっています。例えば、薄型テレビを見ると、ついつい私たちは「液晶テレビ」と呼んでしまいますが、実際はかなりの割合で有機ELテレビ(OLED)が増え始めているので、正しい言葉遣いではなくなっています。スマホの画面を指して「液晶画面」などと言ってしまいますが、最新モデルだと有機EL(OLED)を採用していることの方が多くなっています。

私もよくやってしまうのですが、カメラユニット(撮像素子)のことを「CCD」と呼んでしまいます。しかし、実際はCMOSが使われていることの方がはるかに多くなっています。以前は、CMOS撮像素子の画質があがらなかったのでCCDが主流の時期があり、その時にCCDがあたかも撮像素子の一般名詞であるかのように私の頭にインプットされてしまったようです。

同じように間違えてしまう人が多いのが、スマートフォンタブレット、そして最近ではPCにも搭載されている演算チップのことをCPUと呼んでしまうことです。厳密にはSoC(システムオンチップ)と呼ぶべきですが、このSoC(ソックと読むのが一般的です)は、ものの名称というよりは、半導体の構造を表す技術的な名称で、近いものにシステムLSISiP(システムインパッケージ)などという言葉もあります。そのため、ものの名称としては落ち着きの悪い言葉であり、ただ単に「チップ」と呼ばれることも多くなっています。

しかし、今度はそうなると一般的すぎて、コントローラーチップ(USBやSSDの制御をする)とも紛らわしく、うまい呼び名がない状態です。ただ、スマホタブレットの「チップ」をCPUと呼んでしまうのは、明らかな間違いになりますので、注意をしなければなりません。

 

では、CPUとSoCは具体的にどこが違うのか。そして、なぜ昔はCPUだったものがSoCに進化をしてきたのか。今回はこのあたりの事情をご紹介します。

チップを進化させてきたのは、日本、米国、台湾の半導体メーカーです。その中で、特に重要な働きをしたのが台湾の聯発科技(リエンファー、MediaTekhttps://www.mediatek.jp)と台湾積体電路(TSMChttps://www.tsmc.com/japanese)の2社です。

この2社は非常に優秀で、台湾の半導体産業を国際舞台で戦える状態に押し上げただけでなく、2010年頃には、日本の半導体産業は明らかに台湾に遅れを取り、もはや追いつくことはできないという絶望感すら生まれました。では、なぜ、この2社はそれほど優秀なのでしょうか。

ここに中国の深センを中心にしたノーブランド携帯電話「山寨」携帯電話が深く関わっています。メディアテックはこの山寨機に深く関わることで鍛えられ、そこからSoCという新しい半導体の進化の道筋を見出していきます。さらに半導体製造技術に優れたTSMCが登場をして、台湾は米国と競い合う半導体製造国となりました(米国は半導体の設計のみを行うファブレス化が進んでいる)。TSMCは、ファーウェイの麒麟(Kirin)だけでなく、アップルのMシリーズを製造するようになっています。熊本県TSMCが工場を建設することでも話題になっています。

さらに、中国の半導体メーカーも力をつけ始めてきています。まだまだ台湾のレベルにはまるで到達していませんが、低価格で汎用性の高いローコスト半導体の分野では存在感が出てきます。

半導体は、これから10年は、米、韓(サムスン)、台湾が最先端技術を競い合い、それを中国が追いかける展開になることは明らかです。

そこで、まず、SoCとは何かをご紹介し、台湾がどのようにして半導体産業を育てていったのかをご紹介します。半導体の話になると、技術用語や製造用語がたくさん登場して、わかりづらくなりがちですが、できるだけそのような難しく、細かい話は抜きにして、文系ビジネスマンの方にもざっくりと理解していただけることを目指します。

 

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vol.122:ハーモニーOSで巻き返しを図るファーウェイ。ファーウェイのスマホは復活できるのか

vol.123:利用者層を一般化して拡大を目指すビリビリと小紅書。個性を捨ててでも収益化を図る理由

vol.124:追い詰められるアリババ。ピンドードー、小紅書、抖音、快手がつくるアリババ包囲網

vol.125:5分でバッテリー交換。急速充電の次の方式として注目をされ始めたバッテリー交換方式EV

 

 

アリババが小紅書そっくりのアプリをリリース。規模1/1000のECがアリババに与える恐怖

アリババがSNS EC「小紅書」そっくりのアプリ「態棒」をリリースした。小紅書に対抗するための対策のひとつだと見られている。小紅書はGMV規模ではアリババの1/1000の規模しかない。それでもアリババは小紅書を恐れていると三易生活が報じた。

 

アリババが小紅書そっくりのアプリをリリース

アリババが「態棒」(タイバン)というSNSアプリを公開し、モニターテストに入っている。この態棒は、インスタグラムにそっくりで、ユーザーはテキストや写真、ムービーなどを投稿できる。その中から、自分の好きなユーザーをフォローをして楽しむというものだ。ただし、インスタグラムと大きく違うのは、記事に淘宝網タオバオ)で販売をしている商品情報を埋め込めることができることだ。ユーザーは記事内から直接商品を購入することができ、商品を紹介したユーザーには一定の手数料が入る仕組みだ。

これはインスタグラムというよりも、淘宝網のライバルに育ってきた「小紅書」(シャオホンシュー、RED)にそっくりなのだ。もちろん、アリババは何もコメントしていないが、誰もが小紅書に利用者を奪われていることへの対策だと見ている。

▲態棒の画面。明らかに女性をターゲットにし、「仕事」「自宅」「中国文化」「デート」「ナイトパーティー」などのコーナーを用意している。

インフルエンサー、ショップなどが写真やムービーの記事を投稿し、タオバオに出品している該当商品を購入できるようになっている。

 

SNS+EC=小紅書を恐れるアリババ

小紅書はインスタグラムにEC機能を埋め込んだようなSNS。20代、30代の女性ユーザーが圧倒的に多く、化粧品、服飾品、日用雑貨などが記事に埋め込まれ、その場で購入ができる仕組み。

しかし、小紅書の営業収入はわずか10億ドル(約1300億円)程度と見られ、8億ドルが広告、2億ドルが販売手数料だと見られている。アリババの淘宝網タオバオ)などの2021年の流通総額(GMV)は8.119兆元(約160兆円)と、規模がまったく違う。なぜ、アリババはこの小さな小紅書を恐れるのか。

▲小紅書は利用者の90%以上が女性。しかも20代と30代が中心。服飾品、化粧品などのEC販売が増え始めている。

 

タオバオ内部の競争圧がアリババの収益力の源泉

アリババのタオバオは、販売業者が出店するのに費用はかからない。商品が売れても販売手数料のようなものも取られない。すべて無料だ。しかも、ハードルは低く、簡単な審査で出店することができる。これにより、多くの販売業者がタオバオに出店をした。無料なのだから、とりあえず出店しておいて損はないからだ。

これがタオバオの成長の鍵となった。タオバオではあらゆる商品が売られるようになり、消費者は「淘宝」の名前どおり、宝探しを楽しむようになった。

しかし、すべて無料で、アリババはどうやって収益をあげるのだろうか。それは、大量の販売業者がタオバオに参加をし、内部で激しい競争が起きていることが収益源になっている。ただ出品をしても、消費者が発見をしてくれることは難しい。タオバオ内に広告を出したり、プロモーションに参加をすることで、検索順位があがっていく。つまり、アリババの有料の販促サービスを利用することで、商品が売れるようになる。アリババは、タオバオの出品業者を常に激しい競争状態にしておく必要がある。

▲小紅書では、商品タグが埋め込まれている記事がある。このタグをタップすると、商品購入ページがポップアップされ、その場で商品を購入することができる。

 

公域流量のアリババ、私域流量の小紅書

ところが、小紅書はこの競争状態を緩和させてしまう効果を持っている。小紅書で販売されている商品の一部は小紅書自体が仕入れた商品だが、多くはタオバオ、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドードー)などに出品されている商品だ。つまり、タオバオの販売業者にしてみると、タオバオに商品を出品して、アリババに有料のプロモーションを依頼する方法もあるが、小紅書にアカウントをつくり、記事を発信し自社の商品を宣伝する、あるいは有力なインフルエンサーに紹介を依頼するという方法も選べる。

これは、公域流量(パブリックトラフィック)と私域流量(プライベートトラフィック)の問題だ。インターネットビジネスでは、大量のトラフィックを集めた者が強く、そのトラフィックを分配するときに金が動く。例えば、グーグルは検索エンジンという仕組みで大量のトラフィックを集め、それをグーグルアドワーズという仕組みで広告主に分配をする。分配を受ける広告主は、得られるトラフィックの量に応じて報酬を支払う。これがグーグルの収入となる。

タオバオは、アリババが大量のトラフィックを集めている。それを販売業者に分配する時に、プロモーション費用などをたくさん支払った販売業者に優先的にトラフィックを分配する。これがアリババの収入となる。

広告主、販売業者から見ると、他人が集めたトラフィックの分配を受けるので、これは公域流量と呼ばれる。

一方、小紅書などにアカウントをつくり、自力でトラフィックを獲得するのは私域流量と呼ばれる。

公域流量は、分配を受けるたびに報酬を支払う必要があり、その額の決定権はトラフィックを持っている側に主導権がある。一方、私域流量はいったん獲得したトラフィックはそう簡単に減ることはなく、積み重なっていく。販売業者としては、公域流量に頼るより、私域流量に頼った方が大きな利益が望めるようになる。

タオバオのアプリにも「逛逛」(グワングワン)というコーナーが用意され、記事を見て、商品を購入する機能がある。態棒は、この逛逛を独立させて、若い世代に特化させたSNSアプリだ。

 

アリババを内部から弱体化していく私域流量

このような考え方から、タオバオに出店をしながら、タオバオの公域流量の分配に頼らず、小紅書などを利用して自力で私域流量を獲得する販売業者が増え始めている。こうなると、問題は、タオバオ内での競争の圧が低下をし、アリババの有償プロモーションを利用せず、決済をさせるだけのECプラットフォームとしてタダ乗りをされてしまうことになる。

今は、まだ数字に表れる段階ではないものの、この傾向が進むと、タオバオの収益がある時点で急激に低下をするという事態も起こり得るのではないか。アリババはそれを恐れ、小紅書ではなく、タオバオ内で私域流量を獲得できる場所を用意し、タオバオの競争圧を高く保ちたい。それが「態棒」だ。

しかし、場所を用意しただけでは、販売業者は目を向けてくれない。アリババがしなければならないのは、態棒により膨大な公域流量を獲得することだ。これを獲得すれば、態棒を利用する販売業者に分配をすることで新たな収益源が生まれる。小紅書と比較できる程度の流量を獲得できるか。それが大きな鍵になる。