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テスラ車の事故はワンペダル操作のせい?運転感覚がガソリン車とは異なるテスラ

テスラ車の事故が連日報道されている。その多くは、不具合ではなく、運転操作ミスと考えられるが、ネットではテスラのワンペダル操作に問題があるという声が上がり、有志が中国工信部に調査を依頼するまでに至っている。テスラのワンペダルのどこに問題があるのか。張抗抗KKが報じた。

 

連日のテスラ車の事故報道

テスラのブレーキ問題に続いて、今度はワンペダル操作が大きな問題になりつつある。2021年2月21日に、テスラモデル3に乗った女性が河南省安陽市で交通事故に会い、女性は「ブレーキに不具合があった」と主張をしてテスラと対立している。

それ以降、メディアは他のテスラ車の事故を連日報道している。メディアがアクセス数の稼げる記事として報道していることも否定できないが、正確な統計はないもののテスラ車の事故は多いと多くの人が感じている。

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▲テスラ車で事故を起こし、ブレーキに不具合があったと主張する女性は、上海モーターショーで、テスラブースに乱入し、ブレーキ問題を訴えた。現在、テスラとの間で裁判が進んでいる。

 

原因はワンペダル操作?

その原因として、ネットで取り沙汰されているのがワンペダル操作だ。ワンペダルは、アクセルを踏むと加速、アクセルを放すとブレーキがかかるというもので、運転操作が楽になるだけでなく、ペダルの踏み間違い事故が起きなくなる。また、このアクセルを放すことによってかかるブレーキは、回生ブレーキで、自動車の慣性走行を利用して発電をする。そのため、うまく利用すると、航続距離が10%から15%伸びると言われている。

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▲ワンペダル操作は、次世代の操作方法として期待をされている。踏めばアクセル、放せばブレーキがかかる。人間側が早くこの操作に慣れる必要がある。

 

中国でも多発するアクセルとブレーキの踏み間違い事故

中国でもアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故は多発している。特に多いのが、駐車場に止めようとして、アクセルを誤って踏み込んでしまい、店舗に突っ込んだり、他の車に衝突をしたり、最悪の場合は歩行者にぶつかってしまうというものだ。

この原因は、自動車がオートマになって、アクセルとブレーキというUIデザインの原則が崩れてしまったことだ。マニュアル車時代、アクセルはエンジンを回すスイッチであり、ブレーキは車を停止させるスイッチだった。アクセルを踏めば車は動き、ブレーキを踏めば車は止まるというシンプルな関係になっていた。

しかし、オートマでは、構造上、半クラッチという操作ができないため、アクセルを踏まなくても、車は低速で移動する。いわゆるクリープだ。そのため、オートマ車ではエンジンをかける時に、ブレーキを踏みながらでないとエンジンがかからないようになっている車種が増えている。

駐車場のような微速を必要とする状況では、マニュアル車はアクセルを踏み、半クラッチにすることで必要な速度を作り出す。「アクセルで動く」というUIの一貫性は崩れていない。

しかし、オートマ車では、必要な速度を作り出すのに、クリープさせてブレーキを軽く踏むことで行う。つまり、ブレーキに足を乗せているのに動くという状況が起こり、UIの一貫性が崩れてしまう。しかも、ややこしいことに、傾斜がある場所や段差のある場所では、クリープの速度では不十分で、アクセルを踏まなければならいこともある。つまり、微速を作り出すのに、ブレーキを使うこともあれば、アクセルを使うこともあるのだ。

この時、突然子どもが飛び出してくる、電話がかかってくるなどの突発自体が起きると、どちらのペダルを使っているのかの判断を間違えてしまう。

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▲典型的な踏み間違い事故。車両に衝突をしてからもアクセルを踏み続けていることに注意。アクセルとブレーキの踏み違いにまったく気がついていない。

 

テスラのワンペダルに問題ありとの声があがる

ワンペダル操作では、このような踏み間違いが起こらなくなる。アクセルを踏み込めば動き、放せば止まると、UIの観点からは、操作と結果が1対1に対応をしているからだ。

しかし、テスラ車のオーナーからは、テスラのワンペダル操作に問題があるという声が上がっている。専門メディアに投稿したり、SNSで意見を表明するだけでなく、中国工信部に対して、正式な調査を要求した人も多数いた。

2021年5月31日に、工信部はこのような声に正式に対応を公表した。その内容は、「ワンペダル操作は、テスラだけでなく多くのEVで採用されている新しい操作方式であり、その安全性は確認されている」というものだった。

 

踏み間違いの起こらない安全なワンペダル操作

この工信部の発表には一理ある。ワンペダルだから危険ということはなく、むしろ、ツーペダルに比べて安全性は飛躍的に上がる。

ツーペダルでの踏み間違い事故の問題は、「ペダルを踏む」という1つの操作に対して、加速と停止という2つの結果が生じてしまい、操作と結果が1対1に対応をしていないことだった。これをUIデザインの原則である1対1の対応に戻すには、踏み方を変えて「踏み方A」→「加速」、「踏み方B」→「停止」という擬似的な1対1対応を作り出すことだ。そのために、教習所では「アクセルはカカトをつけて踏む。ブレーキはカカトを浮かせて足裏に体重を乗せて踏み込む」という踏み方を変えるように指導をしている。

しかし、現在の車はブレーキのアシスト機能があるために、つま先で軽く踏んでもしっかりと車が止まるようになっている。そのため、カカトをつけて踏んでも、通常の運転では問題がなくなっている。これにより、運転が楽だという理由で、アクセルもブレーキも、カカトをつけた同じ踏み方になりがちだ。

 

ブレーキペダルの位置を変えると反応時間が伸びてしまう

では、ブレーキペダルの位置を高くして、強制的にアクセルとブレーキで踏み方が異なるようにしてしまうことはできないのか。あまりにブレーキペダル高くすると、今度は操作に対する反応時間、足の移動時間が長くなってしまい、咄嗟の操作ができなくなり、全体の危険性が増してしまう。

「Advances in Engineering Design」に掲載されている論文「The Advancement of United Acceleration-Brake Pedal:A Review」(アクセル・ブレーキ統合ペダルの進化:評価)によると、ブレーキペダルはアクセルペダルよりも40mm程度高い位置にある時に、反応時間、足の移動時間ともに最短になる。同時に、ワンペダルであれば、この操作のタイムラグは圧倒的に短をされる。

つまり、ワンペダルの方が、トータルの安全性は大きく向上される。工信部の意見はもっともなのだ。

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▲アクセルペダルとブレーキペダルの高さの差による反応時間の違い。2つのペダルの高さの差が40mm程度の時、反応時間、足の移動時間が最も短くなる。●はワンペダルの場合の反応時間。ツーペダルよりも圧倒的に短縮される。足の移動時間はゼロになる。

 

鋭敏に反応しすぎるテスラのペダル

しかし、テスラ車のオーナーたちは、ネットで反論をし、それが自動車専門メディアで大きな話題になっている。

オーナーたちが、問題にしているのはテスラ車の反応がよすぎることだ。アクセルを踏むとタイムラグをほとんど感じないほど、鋭敏に反応する。これはテスラ車特有の現象だ。上海蔚来汽車(ウェイライ、NIO)などのEVメーカーでは、アクセルを踏んでも反応するまでにあえて0.3秒から0.5秒のタイムラグが発生するように設計している。これは安全性のためもあるが、いちばんの理由は、ガソリン車の運転感覚に近づけるための工夫だ。

テスラ車はアクセルを踏むと機敏に車が反応する。しかも、EVはガソリン車よりもゼロ発進加速が強い。テスラ車は、EVの中でもゼロ発進加速が強い。

さらに、人間側はツーペダルとワンペダルの2つの運転方法を使い分けなければならない状態になっている。ツーペダル感覚が強く残っている人がテスラ車のワンペダルを使うと、ブレーキを踏むつもりでアクセルを踏んでしまい、間違ったと思った瞬間にはもう事故を起こしているということになっている。

 

自動車は性能だけでなく、感覚も設計しなければならない

ネット民の中には、自動車というのは100年前から存在するプロダクトで、100年のノウハウの積み重ねがある。しかし、テスラはガソリン車を作った経験がない。一般的な自動車メーカーはEVを作るときに、何も考えなくても、ごく自然に「ガソリン車の運転感覚」に近づけようとする。しかし、テスラはスマートフォンやIoTデバイスと同じように、機能優先、パフォーマンス優先になっているのではないかという批判も生まれている。

もちろん、これは一概にどちらがいいとは言えない問題だ。iPhoneが登場した時、多くの人が「物理キーがない携帯電話なんて使いづらい」と感じた。しかし、今では多くの人が物理キーのない入力方式に慣れている。レガシープロダクトの感覚を引きずれば進歩はできないし、かといってまったく新しいプロダクトは人間の側が慣れるまでに時間がかかり、その間にいろいろな問題が発生する。

ワンペダルの最大の問題は、人間側がまだ慣れていないということだ。そこをレガシープロダクトに近づけ、スムースに人間を慣れさせていくと考える企業と、それをばっさりと切り捨て、全速前進をしていく企業があるということだ。

テスラ中国では、数々の問題、批判を受けて、無料のテスラ車安全教室を展開し始めている。ネットでは、「意味がない」「上辺だけの対応」と批判が多いが、この安全教室で、テスラ車特有の特性について周知をしているのだとすると、人間側を早く慣れさせるという点で意味があると評価する人もいる。

 

 

中国主要スーパーが軒並み減収減益の危険水域。もはや店頭販売だけでは生き残れない

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 080が発行になります。

 

今回は、苦境に立たされている中国のスーパーマーケットについてご紹介します。

上場しているスーパーマーケット運営企業の2021年第1四半期の財務報告書が出揃い、その内容に業界関係者はショックを受けています。そろいもそろって減収減益になったのです。減収幅は多くが10%以内でしたが、減益幅は悲惨です。業界トップの永輝(ヨンホイ)で-98.51%、アリババの支援を受けている大潤発(RT-Mart)で-49.6%と、赤字転落にはなっていないものの、黒字額は小さく、完全な危険水域に入りました。

2021Q1の業績の比較元になっている2020Q1の時期は、コロナ禍による影響があり、スーパーの業績は好調でした。来店者数は一時的に減少をしたものの、ほとんどすべての来店客が買いだめに走り、客単価が跳ね上がったからです。その反動があるとはいうものの、あまりにも深刻な数字です。

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▲主要スーパーの2021Q1営業収入の2020Q1との比較。2020Q1はコロナ禍による業績上昇があったが、その反動で2021Q1は減収になった。

 

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▲利益は深刻な数字が並ぶ。コロナ禍による需要増の反動だけでは説明がつかなくなっている。

 

スーパーが無為無策だったわけではありません。むしろ、どのスーパーもよく戦っているのに、時代の進み方が早すぎて、対応が追いつかなくなっているのです。

この5年間、中国では、生鮮食料品小売市場が大きな狩場となり、テック企業が続々と参入してきました。アリババの新小売、そして生鮮EC。これだけでも市場を蚕食されているのに、2020年には社区団購が広がり、スーパーの顧客が奪われています。

 

このスーパーの受難は、2016年のアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)の言葉がからすべてが始まっています。「オンライン小売とオフライン小売は深く融合して新小売となる。すべての小売業は新小売になっていく」というものです。

この発言には凄みがありました。オンライン小売(EC)は生き残れない、オフライン小売(店舗小売)も生き残れない。すべての小売業は新小売に業態転換しなければ生き残れないという意味です。当時のアリババの主力事業はEC「淘宝網」(タオバオ)です。タオバオはオンライン小売の最も成功した例です。それが生き残れないと自己否定をしたのです。

しかし、この時の発言はさほど重要視されませんでした。それは新小売がどのようなものであるのかは具体的には説明されなかったため、「オンラインとオフラインを深く融合する」という美辞麗句を並べた、ありがちな未来論のようにも聞こえたからです。

しかし、この時、すでにアリババは、新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)のプロジェクトを内部で進めていて、翌2017年には上海市で1号店を開店しました。新小売の具体的なビジネスモデルが明らかになると、既存スーパーは驚愕をし、ここからスーパーの激動の時代が始まります。

 

最もよく戦ったのは、業界のリーダーでもある永輝でした。永輝は自らも新小売スーパーを出店します。そして、生鮮ECが登場すると、自らも生鮮ECを始めます。社区団購が登場すると、永輝は自ら社区団購サービスの準備を始めました。他のスーパーもこの永輝の動きをお手本に、次から次へと登場するライバルに対応をしてきました。

しかし、結果から言えば、「テック企業に負けた」と言わざるを得ません。なぜ、スーパーはテック企業に勝てないのでしょうか。その答えを先に言ってしまうと、スーパーは商品に注目してビジネスを行います。商品をどうやって生産するか、どうやって流通をさせるのか、どうやって商品を消費者に渡してお金に転換をするのか。常に商品に注目します。

一方、テック企業は人に注目します。人はどのような時に白菜を欲しいと思うのか、どのような場と環境を用意すれば白菜にお金を支払うのかと考えます。この違いが決定的なのです。

と言っても、これだけの説明だと、なかなかピンときていただけないと思います。そこで、今回は、スーパーが戦ってきた道のりを振り返りながら、スーパーとテック企業の発想の違いについて考えていきます。

 

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テック企業創業者は40歳で引退。伝統産業創業者は70歳になっても現役。この違いが生まれる理由

テック企業の創業者は、40歳前後で引退をする例が多い。一方で、伝統産業の創業者は70歳を超えても現役を続ける。この違いは、後継者に対する考え方が違っているからだと郝聞郝看が報じた。

 

38歳でバイトダンスCEOを退任した張一鳴

TikTokなどを開発したバイトダンスの創業者、張一鳴(ジャン・イーミン)が、バイトダンスCEOを退任した。後任は、共同創業者の梁汝波(リャン・ルーボー)となった。

張一鳴は、社内メールでこう語っている。「私たちは幸運にも時代に恵まれ、機械学習の技術をモバイルデバイスとムービーに応用することで、イノベーションを起こし、それを実践し、一定の成果を得ることができました。企業業績は順調ですが、この会社がさらにイノベーションを起こし、創造力と意義に溢れることを期待しています」。

張一鳴は、日常の経営業務からは離れ、長期戦略、企業文化、社会貢献などの重要な長期プロジェクトに携わることになる。

張一鳴はまだ38歳でのCEO引退だった。

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▲バイトダンスの創業者、張一鳴。38歳でCEOを退任し、今後は企業戦略や企業文化などの長期プロジェクトに専念をする。

 

脂の乗った年齢で引退をするテック企業創業者たち

その2ヶ月前には、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の創業者、黄(ホワン・ジャン)が40歳で会長を辞任し、引退をした。また、歩歩高(ブーブーガオ)の創業者、段永平(ドワン・ヨンピン)は40歳で引退をし、米国に移住をし、投資家として第2の人生を送っている。EC「京東」(ジンドン)の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は46歳で、CEOを辞任し、執行役員に退いた。アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は55歳で、アリババのCEOを退いて引退をした。

企業家にとって、40代、50代は、経験も豊富となり、決断力もある黄金年齢だが、その年齢で一線を退く企業家が目立つようになっている。

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▲アクティブユーザー数でアリババを抜いて、中国No.1のECになった拼多多の創業者、黄は40歳で会長を退任した。

 

ぎりぎりまで辞めない伝統産業の創業者たち

一方で、高齢になっても企業を率いている企業家もいる。家電メーカー「美的」(ミデア)の創業者、何享健(フー・シャンジエン)は70歳まで会長を務めた。聯想レノボ)の創業者、柳伝志(リュウ・チュアンジー)は75歳まで会長を務めた。

さらに、華為(ファーウェイ)の創業者、任正非(レン・ジャンフェイ)は77歳で現在も会社を率いている。

テック企業の経営者は30代から40代で引退をし、伝統産業に近い企業の経営者は何歳になっても企業のトップを務める傾向がある。

この20年の間に創業された著名テック企業で、今でも創業者が企業トップを勤めているのは、百度バイドゥー)、小米(シャオミ)、順豊(SF Express)、テンセントぐらいになっている。

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▲中国500強企業の中の主な創業者の現在の年齢と引退をした年齢。テック企業では40歳が引退のひとつの基準になっているようだ。

 

「自分は過ちを犯さないと思ったら、歳をとった証拠」(ポニー・マー)

テンセントの創業者、馬化騰(マー・ホワタン、ポニー・マー)は、かつてこう語ったことがある。「私が最も心配をしているのは、消費者がどのようなものを好むのかがわからなくなることだ。QQやWeChatでも、永遠に使われ続けるとは誰も保証できない。人の気持ちは移り変わるからだ。もし、自分はすべてがわかり、過ちは犯さないと感じたら、それは歳をとったということだ」。

つまり、ポニー・マーは、年齢ではなく、自分の能力がテンセントを率いるのに適していないと感じた時に引退をすると考えているようだ。

2019年に、百度の創業者、李彦宏(リー・イエンホン)は、こう語った。「現在の技術革新のスピードは早く、市場の変化も早い。ショートムービーに関連するプロダクトは、20代か30代でないとその面白さが理解できない。私たちは、そういう若い世代を経営層に入れる必要がある」。そして、若い世代の経営者育成と、現経営者の引退制度の構築を始め、経営陣の若返りを図っている。

一方で、引退して、何度もトップに返り咲く人もいる。レノボの柳伝志だ。2004年、レノボIBMのシンクパッド事業を買収した時、柳伝志は、これでレノボは世界第3位のPCメーカーになったことを受けて、会長を辞任して引退をした。しかし、2009年に取締役に復帰、2011年にレノボの経営が危機を迎えると、再び会長となり、建て直しの陣頭指揮を取った。そして、2019年になって、正式に会長を辞任した。

 

後継者が見つかるテック企業、後継者が見つからない伝統企業

テック企業で重要なのは、イノベーションを起こせる創造力と、移り変わる市場に適合していく能力だ。経験、能力が同じであるとしたら、若いというだけで分がある。若者の生活を体験しているかどうかは大きな違いとなる。40歳というのはまだ若いと言えるが、それでもテック企業の経営者は、スマートフォンを持って街をうろつき、10元のお金を惜しんでECで買い物をすることはなくなる。根本のところで、若者の生活が理解できなく時期がやってくる。だから、早い年齢で第一線を退き、長期戦略や研究、社会貢献など、年齢が高くてもできる仕事に転身をする。

一方、レノボやファーウェイのようなメーカーは、製品を買うのは若者だけでなく、全世代にわたり、法人顧客も多い。イノベーションや市場対応は現場に任せ、その現場の判断が正しいかどうかを見極める目があればいい。それ以上に、後継者が見つからない。何もないところから会社を大きくした創業者から見れば、どれだけ有能な人であっても、頼りなく見えてしまうからだ。

イノベーションを重視するテック企業では、若いというだけでも後継者となり得る。しかし、運営能力を重視する伝統企業では、創業者の能力が突出をしているため後継者が見つからない。このことが、テック企業の創業者は若くして引退をし、伝統企業では老人の域になっても引退をしない現象につながっている。

 

 

iPhoneが20%引き、170円でEVが買える。拼多多の驚きの大盤振る舞いで、なぜ拼多多は成長し続けられるのか

拼多多の定番となったキャンペーン「9.9元搶購」「100億補助」。170円でiPhoneやEVが買える、大幅割引で一流メーカーの商品が買えるなどのキャンペーンで、一部の投資家からは「資金を燃やして、顧客を買っている」と批判をされることもあった。しかし、財務報告書を見ると、営業コストは吸収できており、業績数字はほぼ全面的に上昇している。大量の資金を燃やしているように見えて、拼多多は冷静に計算をしてキャンペーンを行っていると郝聞郝看が報じた。

 

9.9元で自動車が購入できる拼多多のキャンペーン

ついに年間アクティブユーザー数で、第1位のアリババ(淘宝網+天猫)を抜き、利用者数No.1のECとなった拼多多(ピンドードー)。その躍進の原動力となったのが「9.9元搶購」と「100億補助」の2つの施策だ。

9.9元搶購は、アップルのiPhoneやDJIのドローン、五菱のEVなどが、抽選で9.9元(約170円)で買えるというもの。もちろん、オークションと抽選があるため、実際に9.9元で購入できることはほとんどないが、話題性は高い。

もうひとつの100億補助は、拼多多が補助金を出すことによって、大幅な割引価格で購入できるというもの。数量は限定されるが、誰でも割安価格で購入できる。iPhone12が1500元の補助で、わずか4799元(約8.2万円)、SK-IIの化粧水が941元の補助で599元など、一流メーカーの人気商品が大幅割引されているのが特徴だ。

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▲拼多多の百億補助のページ。著名なメーカーの製品が、2割引以上の価格で販売されている。割引ではなく、拼多多が補助金を出すという体裁なので、ダンピング販売にあたらない。この100億補助により、多くの都市住人が拼多多を利用するようになった。

 

拼多多は、資金を燃やして顧客を買っているのか?

一方で、業界内や識者からの批判も多い。ライバルからすれば、資金力にものを言わせて、対抗しようのない施策であるし、一部の投資家からはいわゆる「資金を燃やして、ユーザー数を買う」愚かな施策だという批判をされている。このような施策を続けていると、財務体質を悪化させてしまうことになると指摘する専門家もいる。

しかし、拼多多は思いの外うまくやっているようだ。5月26日に、拼多多は2021年Q1の財務報告書を公開したが、それによると、拼多多の財務内容は急速に改善をしていることが明らかになった。

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▲2021年Q1の過去1年のアクティブユーザー数は8.238億人となり、すでにアリババのタオバオを引き離し始めている。四半期営業収入も221.67億元となり、前年同時期から239%も増加している。スタートアップ企業並みの成長率を維持し続けている。

 

営業コストは順調に下がり始めている拼多多の「健全経営」

財務報告書によると、年間アクティブユーザー数は2020年の7.884億人から、2021Q1は8.24億人となった。これは昨年同時期から31.2%の伸びとなる。四半期営業収入は221.67億元(約3800億円)となり、これは昨年同時期から239%もの伸びとなった。平均月間アクティブユーザー数は7.246億人、これも昨年同時期から49%の伸びとなる。

つまり、「9.9元搶購」「100億補助」の2つの施策の効果は圧倒的で、すでに利用者数No.1の大規模ECとなりながら、スタートアップ企業並みの高い成長率を保っている。

この驚異的な成長を、批判されているように、拼多多はお金で買っているのか。注目されるのは「営業費用/GMV」の値だ。これは営業収入に占める営業費用の割合となり、無謀な焼銭施策をとっているのであれば、この値が異常に高くなるはずだ。しかし、財務報告書から計算をしてみると、2018年、2019年、2020年で、2.9%、2.7%、2.47%と下がり続けている。

つまり、100億補助などと言って、大量の資金を惜しげもなく投下しているように見えるが、それは莫大な営業収入に見合った額であり、しかもうまく抑制をしてきている。それで大きな成長ができているだから、優れた施策として褒められこそすれ、批判をされる謂れはないと見るのが妥当だ。

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▲100億補助などの原資になっている市場開拓費用は129.97億人となり、前年同時期から78%も増加をしたが、営業収入が239%も伸びているため、営業収入に占める割合は減少をしている。資金を投下しているが、それ以上に営業収入が伸びている。

 

100億補助で、未開拓だった都市住人を惹きつけた

100億補助は、2019年6月に始まった。急成長をしていた拼多多だったが、当時、伸び悩みの傾向が現れ始めていた。すると、すかさず、拼多多は100億補助という施策を打ち出し、毎四半期3600万人から5000万人の規模でアクティブユーザー数を増やすという第2の成長期に入った。

拼多多の強みは激安だ。多くの日用品が激安価格で販売される。そのため、初期の利用者の多くは地方都市や農村の消費者で、購買力があまり高いとは言えない人の間で人気となった。また、激安商品である分、品質は高級とは言えず、当初は、都市部の消費者からは「貧乏人のEC」と悪口を言われることもあった。

そのイメージも100億補助で大きく改善している。100億補助の対象商品となるのは、iPhoneや有名化粧品、有名ブランドの衣類などで、都市住人が欲しがる商品であり、品質の点でも問題がない。

これにより、都市住人が新たに拼多多を利用するようになった。これが利用者数急増に大きく貢献している。また、100億補助の対象商品になっているのは一流メーカーの商品であり、品質に問題があることはまずあり得ず、購入した消費者は満足をして、高評価のレビューを書き込む。これにより、「拼多多は高品質の商品も販売している」というイメージが定着をしていった。

 

拼多多が重要視をするARPUという指標

拼多多が重要な指標としているのが、ARPU(Average Revenue Per User、1ユーザーあたりの平均売上)だ。1度の買い物で購入する額(客単価)は、激安商品中心の拼多多では小さいが、1年に何度も買い物をしてくれればARPUは高くなる。客単価よりもARPUを重視することで、GMVをあげることができ、なおかつ、リピート率が高いということだから、安定したGMVの成長が期待できるようになる。

このARPUは2020年末の1467.5元から2021Q1には2115.2元と大きく伸びている。100億補助の対象商品は、割引率は大きいものの、高額商品であるために、これが影響してARPUを伸ばしている。拼多多では、四半期ごとに20%以上のARPUが伸びている。他のECではARPUを公開しているところは少ないが、業界関係者によると、勢いのある成長期を除けば10%に達することすら難しいレベルで、拼多多のARPU成長は異常といってもいいほどの値であるという。

 

計算された拼多多の大盤振る舞い

拼多多は、100億補助の施策をとってみたら、結果として経営数字が成長しているというわけではなく、ここで紹介したような数字の改善は、100億補助を始める前から想定をして、それをねらって施策を実行したことは間違いない。つまり、拼多多は計算を立てて100億補助を行い、ねらい通りの結果が出ているということだ。

識者やメディアが、100億補助の批判を展開したり、危うさを指摘しても、拼多多としては苦笑する以外なかっただろう。

このような「焼銭大戦」と呼ばれる「大量の資金を市場に投下して、それ以上の利益を得る作戦」は、中国は過去に何度も起きている。しかし、その目的のほとんどは「市場シェアを確保し、株式公開をする」ことだった。いくら莫大な資金を使おうとも、株式公開ができれば帳尻を合わせることができる。もちろん、それに失敗した企業は、破綻をして街の底に沈んでいくしかない。

しかし、拼多多はすでに米ナスダック市場に上場済みで、従来通りの焼銭大戦を実行すると、株式公開というお金の辻褄合わせの機会はやってこない。拼多多は、破綻をさせない計算をした上で、成長するために焼銭大戦を行っている。ここが、アリババを含め、他のライバルたちが拼多多に追いつけない理由となっている。

 

 

WeChatミニプログラムがアプリ連携を遮断。アプリの時代が終わる

WeChatミニプログラムが、アプリを開く機能を削除した。今までは、WeChatミニプログラムを開いている状態から、タップすることなどで関連アプリを開くことができたが、この機能が利用できなくなる。ネイティブアプリの時代が終わり、WeChatミニプログラムの時代に移行することが鮮明になったと人人都是産品経理が報じた。

 

WeChatミニプログラムがアプリ連携を遮断

5月20日から、WeChatミニプログラム内からネイティブアプリを開く機能が削除されている。これにより、WeChatミニプログラムとアプリの連携ができなくなるため、多くの利用者やミニプログラム運営者からは不満も出ているが、テンセントは「ユーザー体験をよりよくするため」と説明している。

WeChatミニプログラムは、テンセントのSNS微信」(ウェイシン、WeChat)の中で開けるアプリ内アプリ。技術的にはウェブアプリをベースにしている。ネイティブアプリと異なり「インストール不要」「アカウント登録不要」「決済方式設定不要」という利点があるため、ファストフードやカフェ、フードデリバリー、ECなどの多くが、アプリではなくWeChatミニプログラムを公開し、顧客との接点に利用している。

アプリでモバイルオーダーをさせるためには、利用者にアプリをインストールしてもらい、自社のアカウントを作成してもらい、自社が対応しているキャッシュレス決済を設定してもらう必要がある。しかし、WeChatミニプログラムであれば、WeChatの中で自社名を検索してもらう、専用の二次元コードをスキャンするなどの方法で、自社のWeChatミニプログラムを開いてもらえば、アカウントはWeChatアカウント、決済はWeChatペイで、すぐに注文ができる。新規の顧客を取り込みやすいことから、多くのtoC企業がWeChatミニプログラムを開設している。

すでに、WeChatミニプログラムは380万件以上が公開され、日間アクティブユーザー数(DAU)は4億人、月間アクティブユーザー数は8.3億人となっている。

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▲WeChatミニプログラム内からアプリを開こうとすると、以前は「WeChatを離れ、○○を開きます」というダイアログが現れ、「許可」を選ぶとアプリを開くことができたが、現在はこの許可ボタンがタップできない状態になっている。

 

必要な時に先回りして必要な機能が表示される世界観

WeChatミニプログラムを考案したのは、テンセントの張小龍(ジャン・シャオロン)。WeChatそのものも張小龍が開発したもので、テンセントはPCベースのSNS「QQ」で大成功をしていたが、それを捨てて、スマホ用のWeChatに転換をした。この転換が、今日のテンセントのビジネスの基礎となっており、張小龍はテンセントのスターエンジニアとなった。

張小龍は、そもそもスマートフォンアプリに否定的だった。いちいちアプリストアからダウンロードをして入れておかなければならず、そのうち、スマホの中はアプリで溢れ、必要なアプリを見つけるのにも検索をしなければならなくなるだろう。人は、1日に20箇所のウェブを見ることはたやすいが、1日に20のアプリを使うのは難しい。

張小龍が描いていたスマホの理想的な姿とは次のようなものだ。テーマパークに行って、入り口の付近にいるときにスマホを取り出すと、すでにテーマパークのチケット購入の画面が現れている。そこで購入をすると、それがそのまま電子チケットになり、テーパークの中に入れる。帰るときにスマホを取り出すと、タクシー配車の画面がすでに表示されており、タップするだけタクシーが呼べる。あるいは駅でスマホを取り出すと、乗車画面が現れ、それを改札にかざすことで地下鉄に乗れる。つまり、必要な時に、必要な機能が先回りをして自動的に現れるという世界観だ。この発想が、WeChatミニプログラムの開発につながった。

 

ミニプログラムの唯一の欠点はサイズ制限

WeChatミニプログラムの唯一の欠点は、起動するたびにウェブアプリをネットから読み込むということだ。そのため、WeChatミニプログラムのサイズは2メガバイト以内に収めることが推奨されている。それ以上のサイズになると、利用者がWeChatミニプログラムを開いた時に待ち時間が生まれてしまい、ユーザー体験が悪くなるからだ。

そのため、アプリとは異なり、データサイズを減らす工夫が必要になる。例えば、ニュース記事サイトの場合、ニュース記事の内容は逐一読み込めばいいが、読者がつけるコメントのデータは膨大になるので、主要なもののみを表示するにしているケースも多い。この場合、WeChatミニプログラム内にアプリを開くボタンをつけ、コメントを詳細に読みたい場合はアプリに移行するということができていた。それができなくなる。

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▲ソーシャルEC「拼多多」のWeChatミニプログラム(左)とアプリの画面(右)。ECのようなものだと、WeChatミニプログラムでもアプリでも使い勝手に大きな違いはない。WeChatミニプログラムの方が利便性が高い。

 

利用者分析データをテンセントに握られてしまう

また、toC企業では、WeChatミニプログラムはWeChatアカウントで利用できるため、新規顧客を集めやすいが、会員情報はテンセントに抑えられてしまう。大手チェーンでは、独自の会員制度に誘導をしたいと考えるところも多い。そのため、WeChatミニプログラム内にアプリをインストール、開くのボタンをつけ、アプリで独自の会員登録をすると何らかのリワードが与えられる施策を行ない、アプリ独自会員に誘導するということを行なっていたところもある。今後はそれもできなくなる。

 

WeChatの流量を利用するには公式アカウントの取得が必須となる

しかし、このような行為はテンセントから見れば不公正なものに映る。WeChatミニプログラムが普及をしたのは、何よりもWeChatそのものが国民的インフラとなり、驚異的なトラフィックプールとなっているからだ。この状態を作り上げるために、テンセントは大きな努力をしてきた。それを、各企業が自社のアプリに誘導するのは、窃盗にも等しい行為に映るだろう。

テンセントは、WeChatの各業者の公式アカウントのメッセージ内にアプリへのリンクを貼ることは禁じていない。自社のアプリに誘導したいのであれば、WeChatの公式アカウントを取得し、そこからアプリに誘導するように促している。

しかし、これで、WeChatミニプログラムとアプリをシームレスに使うということができなくなり、WeChatミニプログラムとアプリの間に壁ができることになる。アクションゲームなどのリッチコンテンツは、今後もアプリを利用し続けることになるが、生活サービス系のアプリは、WeChatミニプログラムに移行して行かざるを得なくなった。もはや、自分のスマホに大量のアプリを入れておく時代は終わったのかもしなれい。

 

 

ソーシャルEC「拼多多」がアグリテック(農業テクノロジー)を積極支援をする理由

2021年5月に開催された世界知能大会の中で、第1回中国農業ロボットイノベーションコンペが開催され、20の製品が入賞した。このコンペにはソーシャルEC「拼多多」が支援をしている。拼多多は、以前からアグリテックを積極的に支援をしており、それにより自社のビジネスを拡大しようとしていると今日新農人が報じた。

 

初めて開催された農業テクノロジーコンペ

2021年5月20日から23日まで、天津市で第5回世界知能大会が開催された。その中で、スマート農業サミットフォーラムが開催され、農業関係のロボットやスマートシステムの展示が行われた。フォーラムは、この活動を拡大し、初めて「第1回中国農業ロボットイノベーションコンペ」を開催した。

このコンペには、国内の大学、研究所、テック企業などが195の製品を出品し、中国工程院、中国科学院などの研究者からなる審査員が20の製品を選び、最終審査を行い、一等賞などを選出した。

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▲南京農業大学のチームが出品したキノコとりロボット。画像解析でキノコを認識し、カサの部分を崩さないように収穫をする。

 

画像解析により果柄の部分を摘みとるイチゴ収穫ロボット

第1回の一等賞に選出されたのは、中国農業大学のチームが開発した「採摘童」だった。これは畝仕立てで栽培されたイチゴを摘み取るロボットだ。

イチゴは非常に傷つきやすい果物で、ロボットアームや道具で実に触れただけで傷が入ってしまう。そのため、摘み取りは人間の手作業でしか行えなかった。画像解析により、果実と果柄を認識し、果柄の部分をつまみカットすることで、果実を傷つけずに収穫できるというもの。

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▲果柄の部分を画像解析で認識し、果実を傷つけずに収穫をするイチゴ収穫ロボット。中国農業大学のチームが開発。

 

トマト栽培の全プロセスを自動化するシステム

もうひとつの一等賞が、北京農業スマート設備技術センターが開発したトマト栽培システム。複数のロボットを組み合わせ、トマト栽培のほとんどの過程を自動化する。作付けから農薬散布、巡回、授粉、摘み取りなどを行う。すでに、このシステムは、山東省の寿光スマート農業テクノロジーパークで運用が行われている。

特に運輸ロボットは、自律走行の機能が備えられ、器具などが置かれている栽培ハウスという特殊な環境の中で、障害物を避けながら、自動でルートを算出し、農産物の運搬を行う。自動で充電も行う。この運搬ロボットだけでも、農家の大きな助けになると、注目が集まっている。

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▲北京農業スマート設備研究センターが出品したトマト栽培の全自動化システム。複数のロボットを組み合わせて、作付けから農薬散布、巡回、授粉、摘み取り、出荷までを行う。すでに、山東省の寿光スマート農業テクノロジーパークで運用が行われている。

 

アグリテックに注目をするソーシャルEC「拼多多」

このコンペに参加しているのは、大学や研究所などの非営利機関ばかりだが、その中で、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が民間企業としては唯一協賛をしている。

拼多多は、中国の多くのテック企業が利益を追求する狩猟的であるのに対し、地方の中小企業や農家を育てる農業的な手法をとっている。ビジネス競争力に乏しく、販売を拡大できない地方の中小メーカーや農家の生産物を扱い、SNSとグループ購入という仕組みで、プロモーションや宣伝の負担を減らすことで、低価格で大量に販売することを可能にしている。

また、拼多多は積極的に、農産物生産者に対し支援を行い、より低コストで高品質の製品を生産できるように指導も行っている。これにより、拼多多はさらに低価格で高品質の製品を販売できるようになり、拼多多のビジネスの拡大にもつながる。

2020年には拼多多独自に「2020多多農研科技大賞」を始めていた。

また、拼多多は農業分野の国内外の研究機関との共同開発、協賛なども行なっている。農業のイノベーションは、拼多多を中心に展開していくことになるかもしれない。

拼多多は家電や電子製品の製造者に対しても、積極的に支援をしている。これも拼多多で扱う製品の品質向上を目指したものだ。拼多多は、自社で扱う商品の生産者を育てようとしている。その意味では、拼多多は農業的なECの運営を行っている。

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▲ソーシャルEC「拼多多」が、このコンペに協賛をしている。農産物をECの主力商品のひとつとしている拼多多は、アグリテックに注目をしている。

 

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▲拼多多は独自でも「多多農研科技大賞」を開催している。拼多多では、農業に限らず、製造者、生産者に品質向上の施策を積極的に行い、商品を提供してくれるサプライヤーの質の向上を図っている。

 

 

 

ジャック・マーの夢「湖畔大学」が破れる。受難続きのアリババ

教育制度の強化により、民間の教育機関が「大学」を名乗ることができなくなった。ジャック・マーが創立したビジネススクール「湖畔大学」も、「湖畔創研センター」に改称することになった。ジャック・マーは校長も辞任し、ジャック・マーの夢のひとつが破れることになったと鳳凰網科技が報じた。

 

ジャック・マーの夢「湖畔大学」の受難

アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)がアリババを勇退して以来、アリババは受難続きだ。2020年にはアリババ傘下のアントグループのIPOに失敗をし、さらに独禁法違反の調査を受けることになり、2021年4月には市場監管総局は、アリババに対して182.28億元(約3100億円)の罰金が課せられた。

さらに、5月17日には、ジャック・マーの夢のひとつであった教育機関「湖畔大学」が教育制度の規制強化により、大学を名乗ることができなくなり、湖畔創研センターに名称を変えざるを得なくなった。さらに、湖畔大学の学長を務めていたジャック・マーも学長を辞任することになった。現在、湖畔創研センターでは新規の学生募集を停止しており、既存の学生向けの講義のみが開かれている状態だ。

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▲湖畔大学は、当局の指摘により、「大学」を名乗れなくなったため、「大学」の文字を消す作業が進められている。

 

公式教育機関以外は名乗れなくなった「大学」の名称

湖畔大学(現湖畔創研センター)は2015年に設立され、代表人はジャック・マー、資本金は1000万元(約1.7億円)の中国版NGO(非政府組織)として、浙江省民政庁に登記をされた。しかし、2021年になって、民政庁から民間組織であり、教育機関でないことから、「大学」の名称は相応しくないと指摘をされ、名称を変えることになった。

このような改名は、湖畔大学だけでなく、他の民間教育機関にも及んでいる。多くの養成機関で、大学の名称が使われていたが、当局からの指摘により、正式な教育機関でないところでは「○○商学」「○○学園」「○○高研院」などへの改称が始まっている。

 

300年続く大学を作る。ジャック・マーの夢

しかし、次世代の経営者、イノベーターを育てる湖畔大学に対するジャック・マーの情熱は並々ならないものがあった。2008年頃から、出会った経営者たちに、湖畔大学の夢を語り、協力を求めてきた。そして、2014年に湖畔大学設立のプロジェクトがアリババ内で正式に始まった。

湖畔大学のコンセプトは、ジャック・マーの一言で決まったという。それは「ビジネス講座やビジネススクールはやらない。やるなら、300年続く大学だ」というものだった。

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▲湖畔大学で講義をするジャック・マー。モダンな講義室も用意されているが、このような古い建物で講義をするのがジャック・マーのお気に入りだった。湖畔大学では、失敗事例のケーススタディーを行う。

 

競争率46倍の難関「大学」

ジャック・マー自身も精力的に動いた。レノボ創業者の柳伝志、銀泰の沈国軍会長、清華大学の経済管理系学部長、北京大学の光華学院長など、錚々たるメンバーの協力を取り付けてきた。そして、ジャック・マー自身が学長に就任することで、湖畔大学が始まった。

湖畔大学はテックビジネスの士官学校だと言われた。ここで、テクノロジーとビジネスの知識を身につけ、次の世代のビジネスを担う人材を養成する。

しかし、入学条件はきわめて厳しかった。起業した経験があり、その企業が3年以上運営されたこと。年間売上は3000万元(約5.1億円)を越え、従業員数は30人以上になっていること。つまり、学生ではなく、すでに起業をして、戦っている人を集め、実践的な講義を行う。インキュベーターではなく、IPOをリアルに目標に置くアクセラレーターだ。

湖畔大学には、この5年間、1万1788人の入学申し込みがあった。そこからさらに厳選され、入学が認められたのは255人しかいない。競争率は46倍以上にもなる。

また、リクルートチームもいて、全国のスタートアップ企業の経営者の調査を行い、有望な起業家については湖畔大学に誘う活動も行っている。

 

活躍をする湖畔大学卒業生たち

卒業生も活躍している。第1期には快的の陳偉星、百合網の慕岩、優米網の王利芬などが、第2期からは捜狗の王小川、外婆家の呉国平、滴滴の柳青、波場TRONの孫宇晨などがいる。また、第2期には女優の李氷氷も入学をして話題になった。

学費は3年間で28万元(約480万円)。講義は2ヶ月に1回、4日から5日間に集中して行う。講義はジャック・マーを始めとする著名経営者が直接行う。この授業料と、毎回杭州市までいき滞在をする手間を惜しむ湖畔大学生は皆無だ。

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▲湖畔大学第2期の入学生たち。中央右側にいる女性は、女優の李氷氷。

 

成功事例ではなく、失敗事例を学ぶ湖畔大学

講義の内容は、実際のビジネス事例のケーススタディーが中心になるが、成功事例は少なく、失敗事例を学ぶ。失敗の原因を探るのではなく、どうすれば失敗を補って成長軌道に載せられたかを徹底的にディスカッションする。現実のビジネスで、成功ばかりが連続するということはほぼなく、あったととしても一瞬だ。多くは小さな失敗が連続し、それをカバーすることで、次のイノベーションが生まれてくる。その思考法を身につけることが湖畔大学のねらいだ。

ジャック・マーは「近い将来、中国の有力企業500位のランキングのうち、200名を湖畔大学出身にする」と豪語していたが、辞任をすることにより、その夢の実現は難しくなってしまった。ジャック・マーはこの「失敗」を次のイノベーションに結びつけることができるだろうか。