中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

再び動き始めた顔認証技術。中国の主要プレイヤー6社の戦略

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 079が発行になります。

 

今回は、顔認証についてご紹介します。

中国は顔認証技術の応用にかけては、他国よりも先んじていました。きっかけとなったのは、2015年にドイツのハノーファーで開催されたデジタル展覧会CeBITで、アリババの創業者ジャック・マーが行ったデモです。その会場で、スマートフォンを使って、アリペイの顔認証決済を実際に使って、切手を1枚購入するという内容のものでした。

このデモは世界に衝撃を与えたビッグデモとなりました。顔認証技術というのはその時には珍しいものではなくなっていたものの、それは実験室の中でのことです。アリペイという中国で広く使われている決済と連動して、顔パスで実際にものが購入できるという点が大きかったのです。

 

さらに、アリババは、2017年7月に浙江省杭州市の杭州博覧センターの中に、レジなしの無人スーパーの営業を始めました。入店時に改札のようなゲートにアリペイのQRコードをかざす必要はありますが、あとは商品を自由に手に取って、そのまま専用出口から出るだけで、どの商品が購入されたかを認識し、アリペイでの決済が行われます。

この「誰がどの商品を手にしたか」を認識するのに、店内カメラで撮影された映像から顔認証を行い、個人を識別するという技術が使われています。

また、同じ年の9月には、杭州市内で、ケンタッキーが運営する自然食レストラン「KPro」(ケープロ)が営業を始めました。入口に姿見ほどの大きさがあるタッチパネルディスプレイが並べられ、ここで料理を注文します。そして、決済は顔認証によるアリペイ決済になります。スマホをかざす必要はなく、スマホを忘れていても決済ができます。

 

2018年にアリババは、POSレジに後付けできる顔認証ユニット「蜻蜓」(チンティン、ヤンマの意味)を発売をし、2019年になるとセブンイレブンなどの小売チェーンに浸透していきます。販売価格は1199元(約2万円)と低価格に抑えられている上、決済人数に応じて最高1200元のキャッシュバック施策が行われ、実質無料で導入できることから、一気に広がりました。

ところが、2020年のコロナ禍です。多くの人がマスクをするようになり、顔認証決済が使えなくなってしまいした。

すぐにマスク付きの顔認証技術も開発されましたが、目の周りだけを使って認識を行うため、95%前後の精度が限界のようです。会社の出退勤管理などでは利用できるレベル(認証に失敗した場合はやり直してもらうか、社員証スマホなどで補助認証を行う)ですが、さすが決済の認証には使えません。それでせっかく盛り上がってきた顔認証決済が一気にしぼんでしまいました。

 

それが、新型コロナが終息をして、外出制限がほとんどなくなり、マスクを外す人も増えてくると、再び顔認証に対する注目が集まるようになっています。現在、中国ではほぼ終息をしていますが、変異種が海外から持ち込まれ、市民にも感染する事態がときおり起きていて、完全終息にはまだ時間がかかりそうですが、多くの都市では以前と変わらない人手が戻っています。

都市によっても異なりますが、公道を歩く時にはマスクの着用は必要なく、店舗、公共機関などを利用する時にマスク着用が義務付けられているというのが一般的なようです。付けたり外したりは面倒なので、道を歩く時もマスクをしたままの人もいれば、あごかけにしている人などもいますが、やはり気温が上がって暑くなると、マスクを外して、必要な時に取り出して着用するという人が増えているようです。

顔認証は、マスクのせいで1年ほど停滞をしましたが、再び前に向けて進み始めると期待されています。

 

顔認証が期待をされている理由は、ユーザー体験の圧倒的な向上です。具体的には決済ステップのステルス化です。例えば、今、日本でもスマホにさまざまな決済アプリを入れてキャッシュレス決済を使われている方も多いかと思います。例えば、モバイルスイカやPayPayといったものを使われる方は多いでしょう。しかし、この2つは決済をするときに、使おうとしている人がほんとうに本人であるかどうかの確認は行いません(確認をする設定にもできるようになっている)。日常の少額決済に使われることが多く、しかもスマホそのものに顔認証ロックや暗証番号ロックをかけているのが一般的なので、スマホが盗難にあっても勝手に使われることはそうそう起こらないだろうという考え方です。

しかし、本人が暗証番号などの設定をしていなかったり、あるいはスリープする前のロックがまだかからない状態で盗難にあったら、勝手に決済をされてしまうことになります。本来はスマホ自体にもロックがかけられ、決済をするたびに本人認証を行うという二重認証が理想的です。一方で、ユーザーから見ると、決済をするたびに指紋をタッチしたり、パスコードを入力するのは面倒だと感じます。

しかし、顔認証であれば、本人認証を行っても、ユーザーにはその操作を感じさせない「認証のステルス化」が可能になります。例えば、iPhoneはFaceIDという非常に優秀な顔認証システムを搭載しています。ApplePayで決済をするときは、サイドボタンを2度押しすると、ウォレットアプリが起動します。この時、顔認証が自動的に行われてしまいます。つまり、ApplePayでは、iPhoneを取り出して、ウォレットアプリを起動(この時画面を見るので顔認証が行われる)、タッチをすることで決済が完結します。本人はそのつもりがなくても、本人確認が行われ、安全性を高くしているのです。

 

このiPhoneの例は、非常にうまく顔認証を決済の利用シナリオに組み込んだ好例ですが、今後は他の顔認証でもこのようなステルス化が進んでいくことになります。

例えば、多くの顔認証出退勤管理システムが、出退社するときに、ユニットの前で立ち止まり、顔を正対させるようになっています。顔認証はまだまだ「顔というプライバシーデータを扱う」というイメージがあるので、知らないうちに顔認証をされることに抵抗感がある人が多いのです。そのため、「顔認証をした」ということを意識してもらうために必要なステップですが、技術的にはもはや必要のない手順になっています。

技術的には廊下をただ歩いて、出入り口を通過するだけで、その防犯カメラ映像から顔認証をすることも可能になっています。プライバシーデータという抵抗感が薄れてくれば、ただ出入り口を歩いて通過するだけで、出退勤時間が自動的に記録することはじゅうぶんに可能になっています。

 

これは顔認証だけではありません。IoT機器というのは、ユビキタス社会を実現するために使われます。ユビキタスという言葉は、デバイスメーカーによって、たくさんのデバイスを持ち歩くための宣伝文句として使われて歪められてしまいましたが、この発想を提唱したゼロックスパロアルト研究所マーク・ワイザーの主張は、Back to the Real World(現実世界に戻ろう)でした。個人は、個人を識別する小さな識別チップを身につけるだけで、電子デバイスは持ち歩かない。地下鉄を乗る時にはホームに降りて、電車に乗るだけでいい。社会が用意したシステムが自動的に乗車賃を精算する。仕事をするときは、パソコンを持って歩くのではなく、オフィスのデスクに指を触れれば、そこがモニターになり、必要な仕事ができる。人は、電子デバイスを持ち歩かず、もっと人間らしいことに目を向けるべきだという主張でした。この世界観を実現するのに、生体認証やIoTデバイスが必要になるのです。

顔認証による認証のステルス化は、このユビキタスの考え方に沿ったものです。ユビキタス社会を目指すべきかどうか、実現できるのかどうかには議論はありますが、認証の作業が楽になり、パスワードや暗証番号を忘れる心配もないという顔認証は利便性と安全性を両立できる技術であり、今後の認証技術の中心になっていくことは間違いありません。

そこで、今回は、中国の顔認証、顔認識技術がどこまで進んでいるのか、どんなプレイヤーがいるのか、どんなことに応用がされ始めているのかという概観をご紹介します。主要な開発企業もご紹介しますので、中国の顔認証技術を調べるときの参考にしていただければと思います。

 

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EC税の導入が目前。EC業者が領収書を発行しない理由とは

ECでの販売にかかる所得税はこれまできちんと徴収されていなかった。EC出品業者が領収書を発行しないため、売上を把握する方法がなかったからだ。そこで、国家税務総局は、国家電子商務税収分析システムを開発し、このシステムへの登録を義務づけ、売上を正確に把握をしようとしている。その登録期限が迫っていると亮剣西南が報じた。

 

EC税の導入期限が目前となる

EC税の導入が目前となり、小規模販売業者は頭を悩ませている。EC税といっても、ECで販売する業者に何か特別の税金を課すわけではなく、むしろ、EC販売業者には店舗小売と同じような法人税所得税がかけられていなかった。この問題は、以前から店舗小売業者から不公平だという声があがっていた。これを店舗小売並みに税金をかけるというものだ。

この不公平な税制の改善は、2018年7月に公布された「電子商務法」から始まっている。この中で、はっきりとEC業者も収入額に応じた税金を支払わなければならないことが明記をされた。

領収書を発行しないEC業者

ところが、ECの売り上げについては、税務当局が正確に把握をすることができないという問題があった。店舗小売については、領収書(レシート)の発行が義務付けられ、領収書情報を見ることで、売上が正確に把握をできる。

しかし、ECでは領収書の発行が義務付けられてなく(対面販売ではないので、レシートを発行しづらいという問題もある)、これまで、ECでの売上を正確に把握する方法がなかった。

そこで、2020年12月に、国家税務総局は、各販売業者に対して、国家電子商務税収分析システムに6ヶ月以内に登録をすることを義務づけた。このシステムに登録をするということは、日々の売上などが税務総局に把握をされるということで、その登録期限が迫っている。

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▲EC専門メディア「億邦動力」が、EC出品業者に「EC税の導入時期は適切か」と尋ねたアンケート結果。EC出品業者の多くが領収書を発行していない。その理由は、返品処理や架空販売など、EC特有の商習慣に原因があった。

 

まとめて過去分が請求される事態も

正確に言えば、2018年に公布された電子商務法以来、EC税は導入をされている。

しかし、これまで売上が把握できず、税額を算出することができず、徴収できなかったという状態になっている。

そのため、各地で、2018年以降の税金がまとめて請求されるという事態も起きている。

ECで女性服を販売するある小規模業者は、毎年1000万元(約1.7億円)の売り上げがあったが、2020年前半の売上はコロナ禍の影響で、わずか80万元になってしまった。従業員の人件費などの固定の運営費がかかるため、200万元の赤字となってしまった。さらに、今後の仕入れ代金など300万元の借入をしなければならず、この業者は500万元の負債を抱えることになった。

そこに税務総局から、3年分の税金がまとめて請求された。これが900万元にのぼり、合計1400万元の負債を抱えることになった。この業者は破産をする以外にないと訴えた。

この一括徴収問題は、大きな問題となり、税務総局は結局、コロナ禍という特殊な事情を考慮し、過去の分の税金については徴収を停止している。

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▲EC専門メディア「億邦動力」が、EC出品業者に「EC税の導入時期は適切か」と尋ねたアンケート結果。多くの業者が、小規模事業者の減免措置を求めてはいるものの導入時期は適切だと考えている。

 

領収書を発行しない理由その1:返品処理

なぜ、EC業者は紙であろうと電子であろうと領収書を発行しないのか。ひとつはECが返品を前提にした販売方式になっているからだ。特に、服やスニーカーなど、試着をしてみる必要がある商品では、購入をしてみて、サイズが合わないことに気がついて、返品をし、交換をするということが当たり前になっている。

また、セールやキャンペーンなどでは、「○○元以上の購入で○○%割引」などの施策が行われることがあり、割引を適用する額まで購入して、不要なものは後で返品をして返金してもらうというテクニックもよく使われる。販売業者はこれも織り込み済みで、いちいち領収書を発行していると、後の処理が複雑になるばかりでなく、税務当局から実際の税額よりも多い額を徴収されてしまうことになりかねない。

 

領収書を発行しない理由その2:架空購入

また、大きいのがやらせ販売だ。自社や協力者に架空購入をしてもらい、商品は発送しないということが、小規模業者の間では常態化をしている。ひとつは、表面的な売上を水増しして、検索順位をあげることが目的だ。また、悪質な業者になると、架空購入者に好意的な購入レビューを書いてもらうということも行われている。

このような行為は、多くのECプラットフォームで禁止をしている。領収書を発行してしまうと、このような行為が発覚をしかねない。そのため、領収書は発行しない、求めがなければ発行しないというところが90%近くになっている。

税務総局では2013年頃から、EC業者から公平に税を徴収するためにはどのようにすればいいのかの研究を始めている。その結論が、税収分析システムを開発し、EC販売業者に登録をしてもらうということだった。これで、正確な売上が把握できるようになり、公平な課税ができるようになった。

その登録期限が近づいている。税逃れをしていたEC業者にとっては頭の痛い問題だが、適切な運営をしていた大規模業者、実体店舗の経営者からは歓迎をされている。

 

 

フードデリバリー最大手の「美団」が手数料を実質値下げ。デリバリー手数料競争が始まる

独禁法違反の調査が入っている美団が、フードデリバリーの手数料を値下げすることを発表し、飲食店から歓迎されている。すでに美団は、生活サービスを広く扱うようになっていて、デリバリー事業の比率は相対的に下がっている。しかし、デリバリーが美団の広告塔となっていることから、手数料を下げて、より利用を拡大し、その他のビジネスで収益を上げる戦略だと見られていると鹿鳴財経が報じた。

 

8割がデリバリーに対応する飲食店

現在、主要都市の8割の飲食店がフードデリバリーに対応をしている。フードデリバリー企業「美団」(メイトワン)、「ウーラマ」は消費者から配達料を取り、なおかつ飲食店から販売額の20%程度を手数料として徴収する。この20%という料率は飲食店にとってきわめて高く、デリバリーに関してはほとんど利益が出ない状態になっている。そのため、多くの飲食店が、料理の価格そのものを値上げせざるを得なくなっている。

特に、コロナ禍による影響は大きく、美団研究院の調査によると、契約している飲食店のうち、デリバリーの売上が店舗売上を上回っているのは53.6%にも及び、このうち、デリバリー売上が70%を超えている飲食店も42.9%となった。コロナ禍による外出自粛、デリバリー習慣の定着などで、多くの飲食店がデリバリーに依存をし始めている。

そこに、美団は、他のフードデリバリーに契約しないように飲食店に圧力をかけ、それに従わない飲食店の手数料の率を上げるなどして、4月に、中国国家市場監督管理総局が、独禁法違反で調査に入る事態になった。

 

美団が手数料値下げに方向転換

それに対応して、美団は手数料の改定を行った。多くの飲食店にとっては、実質の値下げとなり、歓迎をされている。飲食店に対して美団専属になるように圧力をかけて事業を拡大するのではなく、手数料を下げることで、競争力を高め、飲食店が美団を利用するように促すという当たり前の競争が進んでいくことになる。

ただし、美団は美団で、この手数料値下げは簡単なことではないようだ。2020年の美団の財務報告書によると、手数料収入は約586億元(約1兆円)だが、その83%は配達をする騎手の人件費に消える。その他にプラットフォームの運営費などもかかり、美団にとってフードデリバリーはもはや大きな利益の出る事業ではなくなっている。

美団は、フードデリバリー(外売)だけでなく、タクシー、列車、ホテル、旅行、シェアリング自転車、映画、イベントなどあらゆる生活関連のチケットが購入できるサービスを展開していて、デリバリーは全体の収入の12%でしかなくなっている。つまり、デリバリーで消費者の脳内シェアを高め、他のサービスで収益を得る構造になっている。毎日、街中を走る黄色いユニフォームのデリバリー機種は、サービススタッフであるとともに、美団の広告塔になっている。

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▲美団のミニプログラム。フードデリバリー(外売)だけでなく、グルメ、ホテル、レジャー、映画、タクシーなど、さまざまな生活サービスが利用できるプラットフォームになっている。

 

低価格、短距離の配送が値下げ

今回手数料が改定され、値下げになったのは、低価格で短距離の配送だ。従来は、料理の価格の一律20%(料率は契約により異なる)が標準だったが、技術サービス費6.4%+配送サービス費という内訳になった。技術サービス費は、プラットフォームの利用料。これに1件の配送ごとに距離に応じて配送サービス費がかかる。

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▲配送距離が3km圏内、料理の価格が30元のところが最も値下げ幅が大きい。

 

手数料値下げの競争が始まる

デリバリー注文の75%以上は配送距離が3km以内で、客単価が20元から50元の注文は53%になる。このため、70%の飲食店で、配送手数料が下がることになる。多くの飲食店からは歓迎をされている。

美団がこのような改訂を行なったのは、独禁法違反容疑の調査が入ったことと無関係ではない。独禁法をあまりに厳格に運用すると、市場の競争を萎縮させてしまうことになるが、今回の市場監督管理総局の行動や美団の対応は、関係者から評価されている。最大手の美団が手数料を値下げしたことで、ウーラマを始めとする他のデリバリープラットフォームも手数料を改定せざるを得なくなり、飲食店と消費者双方に利益がある競争が始まると見られている。

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▲美団によると、配達の69.15%で実質的な値下げになるとしている。

 

 

 

第2世代に移り始めたライブコマース。タオバオ達人の時代からCEOライブの時代へ

ライブコマースの著名配信者と言えば、薇と李佳琦。しかし、その驚異的な販売力の魔法が消え失せる事態が起き始めている。ライブコマースのホットスポットは、抖音、快適などのショートムービーや小紅書などの垂直ECに移り始めていると品閲網が報じた。

 

ライブコマースの元祖「タオバオライブ」

中国で成長するライブコマースの元祖と言えば、アリババのEC「淘宝網」(タオバオ)でのライブコマース「タオバオライブ」だ。2016年という早い時期から始まり、薇(ウェイヤー)、李佳琦(リ・ジャーチ、オースティン)などのスターを生んできた。

この2人の販売力は爆発的で、1日ライブコマースを行うだけで、マンションがひとつ買えるとまで言われる。

2020年の販売額ランキングの1位は、薇の310.90億元(約5300億円)、2位は李佳琦の218.61億元(3700億円)で、手数料収入が20%だとしても、薇の収入は1000億円程度になる。

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▲2020年のライブコマース配信者の売上ランキング。まだまだタオバオ達人の力が強いが、抖音や快手がランキング上位に入るようになってきている。

 

従業員2000人になる薇の個人企業

これはもう個人の収入ではなく、企業の収入だ。実際、商品選択、番組制作などの業務負担は大きく、さらにオリジナルブランドの商品の販売も行うため、薇は自身の企業を設立し、従業員は2000人に達している。杭州市のアリババ本社内の敷地を借地し、10階建ての本社ビルも構えている。

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▲薇の番組制作風景。売上規模、業務ともに個人のレベルではなく、従業員2000名の企業になっている。

 

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▲薇の個人企業の社屋。杭州市のアリババキャンパスの中にある。

 

セレクトショップのオーナーとして成功した薇

は、18歳の時に、恋人の董海峰と、北京市北京動物園近くの服飾市場にわずか6平米の小さな店を持ったことがキャリアのスタートになっている。この辺りは、美術系の大学が多く、感度の高い女子大生が道を歩いている。そこに、薇は自分が考えた先端ファッションを自ら着てマネキンとなり、アピールをした。これが受け、薇の店はカリスマショップとして成功する。

すでに複数店舗を展開し成功していた薇は、2010年頃に、若い世代がEC「淘宝網」(タオバオ)で衣類を飼うようになっていることに気づいて、タオバオの出品業者に転身。しかし、まったく売れないという大失敗をし、築いた財産のほとんどを失った。

そこで原点に戻ることにした。販売する服を自分で着て、自らマネキンとなり、始まったばかりのタオバオライブでライブコマースを行った。これが受け、若い女性のカリスマとなり、ファッションだけでなく、化粧品や飲料、スナック、日用品など、若い女性が購入する多くの商品を扱うようになった。

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▲薇が18歳の頃に、北京市北京動物園服飾卸市場の中に開いた店舗。当時としては、若い女性にとっての最先端ファッションを提案し、女子大生の間のカリスマとなり成功した。

 

ロレアルの販売スタッフだった李佳琦

李佳琦は、元ロレアル中国の口紅の販売員だった。しかし、口紅の色を確かめるのに、多くの女性が手の甲に塗ってみることが不満だった。口紅の色は、唇の下地の色の上に乗って初めて本来の色合いがわかる。顔の色、髪の色との対比も重要だ。そこで、李佳琦は自分の唇に口紅を塗って、お客さんに見せるというやり方をした。これが「男性なのに口紅を塗る面白い販売員がいる」と話題になった。

それがきっかけで、タオバオライブをはじめ、年間に390回もライブコマースをするなどして、現在の地位を確立した。

この2人のライブは、既存のメーカーの製品を紹介するというものだ。そのため、どの商品を選ぶかは、厳しく吟味をする。消費者は、2人が紹介する商品であれば間違いないと信頼をして購入するのだから、手数料が高いなどの業者間の都合で商品を選んだ瞬間に、2人の魔法の力は消え失せてしまう。

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▲李佳琦は、ドラマに出演するなど、ライブコマース以外の場にも活動の幅を広げている。

 

魔法の力が薄れてきたライブコマース第1世代

その魔力が薄れたかのような事態が起こり始めている。

スナック菓子メーカー「三只松鼠」は、この2人の大物インフルエンサーと契約をして、自社の商品のライブコマースをしていた。確かにライブコマースを行えば商品は売れるものの、三只松鼠自身のショップや公式アカウントへのアクセスがほとんど増えなかった。多くの消費者が三只松鼠ではなく、「薇や李佳琦が紹介するスナック」という認識で購入していたのだ。

三只松鼠は、2019年から独自でもライブコマースを行うことにした。三只松鼠の目的は商品の販売数だけでなく、自社の私域流量を増やすことでもあったからだ。当初は視聴者数も販売数も増えず苦労したが、2020年には中国版TikTok「抖音」(ドウイン)で春節の7日間に連続してライブコマースを行い、1.82億元(約31億円)を売り上げた。これは、2020年に薇が売り上げた三只松鼠の商品の販売額である1.6億元を超えた。

李佳琦のもその魔力が消え失せたかのような事態が起きている。2020年4月、李佳琦はキャデラックCT4のライブコマースを行った。キャデラックの販社は、300万元(約5000万円)で、李佳琦のライブコマース番組の9分間を購入した。しかし、結果は1台も売れなかったのだ。

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▲象徴的なのはスナック菓子メーカーの「三只松鼠」。当初は、薇や李佳琦と契約をしてライブコマースを行っていたが、売上は立つものの、自社アカウントへのアクセス数が上がらないことから、独自のライブコマース配信を行うようになった。

 

人の商品を紹介するタオバオ達人たち

タオバオライブのインフルエンサーたちは、自分の商品は原則として販売しない。「タオバオ達人」と呼ばれ、タオバオで販売されている商品をピックアップして紹介をするという建て付けだ。あくまでも消費者目線であり、そのタオバオ達人の商品を見極める目が信頼をされ、消費者から支持をされている。

トップクラスのタオバオ達人はそのことがよくわかっているので、信頼を失わないように、商品の選択には気を使っているが、下位のタオバオ達人となると、業者からのオファーや自社の製品など、あまり質が高いとは言えない製品を、あたかも素晴らしい製品であるかのように紹介をして売上を上げようとする。このような理由で、タオバオライブを避ける人も出始めている。

 

生産者が直接販売をする第2世代のライブコマース

一方で、人気が高まっているのが、抖音、快手などのショートムービープラットフォームが行うライブコマース、小紅書(シャオホンシュー)などの若い女性に特化した垂直ECと呼ばれるECが行うライブコマースだ。

このような新しい世代のライブコマースは、CEOライブが基本だ。自分が製造した商品、販売する商品の最高責任者が登場して、ライブコマース販売を行う。ライブコマースでは、リアルタイムチャットで、視聴者は質問をすることができる。その質問は全員に見えるようになっているので、痛いところを突かれた質問をされた時に答えにつまるCEOや、質問を無視して答えないCEOはすぐにわかってしまう。視聴者からどんな質問をされても明快に答えるCEOが支持をされる。また、CEOであるので、公の場で虚偽の回答をすることはできない。「その食品には合成着色料は使われていないのですか?」「一切、使っていません」とライブコマースで回答をしたのに、実は合成着色料が使われていたとなると、信頼は一気に失われ、場合によっては地元の保健当局が調査に入ることになる。

 

第2世代に入った中国のライブコマース

ライブコマースの元祖はタオバオライブだが、2019年頃から頭角を表してきた抖音、快手、小紅書などのライブコマースは、内容が大きく違っている第2世代ライブコマースになっている。製造業者、販売業者が直接消費者と接することで、信頼を勝ち取る構造になっており、こちらを好む消費者が増えているということだ。

2020年の流通総額は、薇と李佳琦の2人が圧倒的だが、スタイルを変える必要に迫られると見られている。

 

 

月給1.7万元がひとつの目標。ごく普通のITエンジニアはいくらもらっているのか

中国のエンジニアの報酬の話になると、どうしても大手テック企業の並外れた高給の話が伝わりやすい。しかし、ごく普通のITエンジニアはいったいいくらぐらいの報酬をもらっているのだろうか。CSDNでは、ITエンジニアに対する広範囲の調査を行なった結果を「2020-2021中国開発者調査報告」として公表した。

 

中国の普通のITエンジニアの報酬はどれくらい?

中国のITエンジニアの報酬というと、テンセントの平均年収が80万元(約1400万円)だとか、ファーウェイが新卒入社で201万元(約3400万円)の初任給を出したとか、どうしてもそういう話が伝わりやすい。

中国のトップクラスのテック企業の報酬が高いのは当然だが、ITエンジニアは各事業会社にもたくさんいる。そのような普通の人たちの報酬というのはどのくらいなのだろうか。

1999年から運営されているIT開発者の情報プラットフォームChinese Softoware Developer Network(CSDN)では、毎年、ITエンジニアの現状に関する調査を行っている。その最新版「2020-2021中国開発者調査報告」(CSDN)にリアルなITエンジニアの現状が紹介されている。

 

想像通り、多くのITエンジニアは若い男性

想像通り、中国のITエンジニアの81%は30歳以下で、40歳以上は3%にすぎない。一定年齢(よくITエンジニア35歳引退説が言われる)になると管理職になるため、高年齢のITエンジニアは多くない。現在でも管理者を目指しているのは54.09%であり、管理者にはならず現場にいたいと回答したのはわずか9.4%だった。

また、圧倒的に男性が多い世界だが、若い世代では女性割合がわずかながら上昇している。また、大卒以上の割合も若い世代ほど小さくなる。女性エンジニアだけでなく、大学以外のルート(専門高校、専門学校など)にも広がっていることがわかる。

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▲ITエンジニアは圧倒的に男性が多い。しかし、若い世代では女性比率があがり始めている。

 

月給1.7万元がひとつの達成目標になっている

月給の分布を見ると、月給8000元(13.7万円)から1.7万元(約29万円)の階級に中央値がくることがわかる。多くのITエンジニアの間で「月給1.7万元」というのがひとつの指標になっていて、それを達成したいと考えている人が多いようだ。

この1.7万元を超えている人の割合を地区別に見ると、圧倒的に多いのは北京市だ。北京は住宅などあらゆる物価が高いので、ある程度の報酬をもらわないと生活が成り立たないという理由もある。

また、男女別に収入分布を見ると、男性の方が高い傾向がある。しかし、女性エンジニアが増え始めたのは最近のことであり、女性エンジニアの年齢や勤続年数は短い傾向にある。これにより、収入分布が低くなっていることも考えられる。

また、エンジニアが所属する企業の業種別に見ると、1.7万元以上の人の割合が最も多いのは金融業となった。

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▲ITエンジニアの月給の分布。8000元から1.7万元が最も多く、多くのエンジニアが1.7万元の給料を超えることを目標にしている。

 

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▲1.7万元以上のエンジニア割合が高い都市。北京市が圧倒的に多い。また、深圳、広州などがある広東省、上海、杭州がある浙江省が高くなっている。

 

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▲男女別の収入分布。女性の方が低収入になっているが、若い世代の女性比率が多いため、年齢と勤続年数の影響もある。

 

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▲エンジニアが所属する企業の業界別の収入分布。最も収入が高いのは金融業界のエンジニアだった。

 

高給の企業は労働時間も長いのか?

報酬の高さは、労働のプレッシャーと合わせて考えないと評価できない。いくら高い報酬をもらっていても、過度な長時間労働になっていたのでは意味がない。

中国の労働法では、週40時間が基本で、残業は1日3時間以内と定められている。つまり、国営企業などの残業がない職場では40時間、残業のある民間企業では55時間が基本になる。

しかし、これはあくまでも雇用主が定められる上限であり、従業員が自主的に残業をするのであれば、すぐに違法性を問われることはない。もちろん、それが本当に従業員による自発的な残業なのか、雇用主が暗に強制をしているのかは常に問題になり、労働仲裁が行われている。

この長時間労働を示す言葉が996だ。朝9時から午後9時まで週6日勤務のことで、週の労働時間は72時間になる。また、最近は10107という言葉も生まれている。朝10時から夜10時までの週7日勤務のことで、日本でいうブラック労働で、労働時間は週84時間になる。

 

意外にも過重労働企業の報酬は高くない

この労働時間と報酬の関係を調べると、1.7万元を超える人の割合が最も多いのは55時間+あたりになる。つまり、労働法をきちんと守っているか、わずかに違反する程度の企業が最も報酬が高い。それ以上、労働時間が長くなれば長くなるほど1.7万元を超える人の割合は少なくなっていく。

また、101007である84時間を超えると、低賃金割合が急激に上昇し、名実ともにブラック労働になっていることがわかる。

また、近年ではテレワークを含み、完全フレックスタイムのテック企業も増え始めている。そのような働き方では、1.7万元を超える人の割合が最も多くなった。ただし、完全フレックスタイムは労働法の規定から外れるので、労働時間は84時間以上になっている可能性もある。フレックスタイムでは、低賃金割合も最も高くなっている。

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▲労働時間と収入分布の関係。過重労働になっている企業では、収入も低い。むしろ、労働法に適合しているか、ややオーバーしているあたりの企業の報酬が高くなっている。また、フレックスタイムでは高収入も多いが、低収入も多いという結果になった。

 

中国でも二極化をするホワイト企業ブラック企業

ITエンジニアが996を批判するのは、単なる長時間労働だけではない。労働法の観点から問題のある働き方を強制するような企業は、報酬面でも従業員のことをあまり考えない。中国のテック企業は、労働法を遵守し、報酬も手厚いホワイト企業と、労働法を無視し、低賃金をさせるブラック企業の2つに二極化をしているようだ。

 

 

ガソリンスタンドもデジタル人民元に対応。正式運用まで実証実験が着々と進む

中国石油のガソリンスタンドがデジタル人民元に対応をした。ガソリンスタンドには以前から独自のガソリンカードが普及をしていたため、スマホ決済もあまり使われない場所になっていた。そこにデジタル人民元が利用できるようになることは、デジタル人民元の正式運用に向けて大きな弾みになると中国石油が報じた。

 

大規模実証実験が拡大をしているデジタル人民元

デジタル人民元の大規模実証実験が着々と拡大をしている。2019年には、深圳、蘇州、雄安新区、成都北京冬季五輪会場などで、市民にデジタル人民元を配布し、使用してもらう大規模実証実験が行われ、2020年になってからは、北京、上海、海南、長沙、西安、青島、大連などの10の大都市で大規模実験が行われている。

使用範囲はスマホ決済とほぼ同じ。生活関連や交通費、買い物などのシーンで使われている。

デジタル人民元は、ソフトウェアウォレットとハードウェアウォレットの両方に対応をしている。ソフトウェアウォレットは、スマホアプリで、使い勝手は従来のスマホ決済と変わらない。NFCが基本であるため、タッチ決済になる。ただし、タッチ決済を行うには、商店側に対応機器、対応レジが必要になるため、従来通りのQRコード決済にも対応している。これであれば、商店側は専用アプリを入れたスマートフォンタブレット、PCなどがあれば対応できる。

また、ハードウェアウォレットはカード型が基本になる。タッチ決済のみしかできないため、現状では利用できるシーンは多くはないが、スマホを持っていない高齢者や外国人旅行者なども簡単にデジタル人民元を使えるようになる。また、チップ型のハードウェアウォレットもあり、ファーウェイのスマホなどにはすでに組み込まれている。

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▲デジタル人民元のソフトウェアウォレット(スマホアプリ)。基本はNFCによるタッチ決済だが、店舗側の機器の準備負担を軽減するため、QRコード決済にも対応している。

 

スマホ決済が入れないガソリンスタンド

2021年4月になって、中国石油のガソリンスタンドがデジタル人民元に対応を始めた。ガソリン代の支払いだけでなく、併設されているコンビニなどの決済もデジタル人民元でできるようになった。

このガソリンスタンドでデジタル人民元が使えるようになったことは、普及に大きな弾みになると期待されている。なぜなら、ガソリンスタンドは、スマホ決済が浸透していない唯一の場所とも言える場所で、30%程度が現金、50%程度がガソリンカード、20%程度がスマホ決済という状況だからだ。ガソリンスタンドでは、利用者の利便性と囲い込み戦略のために、スマホ決済が普及する前から専用のガソリンカードを普及させていた。プリペイド方式やチャージ方式のものがある。ガソリン代の優待などもあるため、スマホ決済が普及をしても、多くの人がガソリンカードを使い続けている。

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▲デジタル人民元の大規模実証実験が着々と進んでいる。また、京東などのEC、アリペイなどのスマホ決済もデジタル人民元への対応を済ませている。

 

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▲ガソリンスタンドにはコンビニも併設されていることが多く、デジタル人民元の使用には適している場所。今まで独自のガソリンカードが普及をしていたため、スマホ決済の利用率が低い場所でもあった。

 

ガソリンスタンドを起点にデジタル人民元の普及活動

デジタル人民元で直接支払いをすることもできるが、このガソリンカードへのチャージも可能だ。中国石油は中国工商銀行と提携して、デジタル人民元のウォレットに500元(約8600円)以上をチャージすると、ガソリンが1ℓあたり0.3元割引になるキャンペーンを行った。このキャンペーンは、3月31日から始まったが、初日だけで3.12万元(約53万円)のデジタル人民元がチャージされたという。

独自のキャッシュレス決済が普及をしているため、スマホ決済がなかなか浸透しなかったガソリンスタンドで、デジタル人民元の普及活動が行われることは大きい。すでに大都市では、デジタル人民元を使ったことがある人は珍しくなくなっている。大規模実験とはなっているが、実質的にはすでにデジタル人民元の利用が始まっている状態だ。正式運用開始まで、着々と実証実験が進んでいる。

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▲中国石油と中国工商銀行は、ガソリンスタンドでデジタル人民元にチャージをすると、ガソリンが割引になるキャンペーンを行った。初日だけで、3.12万元のデジタル人民元がチャージされたという。

  

 

ECがビジネスモデルの変革期に突入。TikTokライブコマースによる「興味EC」「アルゴリズムEC」とは

まぐまぐ!」でメルマガ「知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード」を発行しています。

明日、vol. 078が発行になります。

 

今回は、興味ECについてご紹介します。

興味ECとはあまり聞いたことがない言葉だと思います。具体的には、2021年4月に、バイトダンスが、中国版TikTok「ドウイン」のEC販売業者を集めたカンファランスで、バイトダンスが提出した概念です。聞いたことがないのも無理はありません。言語は「興趣EC」というもので、興趣は面白みを感じる、興味があるというような意味の中国語です。この言葉は日本語として馴染みがないので、仕方なく「興味EC」と訳しましたが、ニュアンスが少し違い、座りの悪さを感じています。今回、興味ECの内容を理解していただいて、もし、もっといい訳語があるのであれば、ぜひご教示をいただきたいと思います。興趣ECとは、消費者の嗜好性や趣味を軸として商品やサービスを販売するというニュアンスがあります。

また、参加者やメディアは、この興味ECを支えるテクノロジーとして、バイトダンスの機械学習によるリコメンドシステムを高く評価していて、「アルゴリズムEC」という技術面から見た言葉も使われるようになっています。

 

このような「興味EC」「アルゴリズムEC」は、具体的にはバイトダンスのドウイン、ショートムービーサービスの快手(クワイショウ)、若い女性に特化をしている垂直EC「小紅書」(シャオホンシュー)のライブコマースを指しています。

小紅書は、特定のクラスターに特化をした垂直ECなので、ライブコマース売上はそう大きくはありませんが、ドウインは2020年の流通総額(GMV)が5000億元(約8.5兆円)、快手は3811.7億元(約6.5兆円)という驚異的な売上になっています。

この伸びは、運営元のバイトダンスにとっても意外だったようです。当初、バイトダンスは2020年のGMV目標を1200億元に置いていましたが、2020年半ばに好調であることから2500億元に上方修正しました。2020年が終わってみると、最終的に上方修正した目標値の2倍ものGMVになったのです。

 

興味ECがどのような性質のものであるかは、後ほど詳しくご紹介しますが、このような新しいスタイルのビジネスが登場をすると、常に問題になるのが、「バリエーションのひとつにすぎないのか、それとも次世代への進化なのか」ということです。

前回の「vol.077:あらゆる商品を1時間以内にお届け。即時配送が拡大する理由とその難しさ」でも、EC「京東」(ジンドン)は、即時配送を利用した短距離ECが次世代のECだと考えているということをご紹介しました。

ドウインと快手の2020年のGMVは、多くの関係者にとって衝撃的です。国連貿易開発会議(UNCTAD)がまとめた「Estimates of Global E-Commerce 2019 and Preliminary Assessment of Covid-19 Impact on Online Retail 2020」に、世界のBtoCサービスの2019年のGMVランキングが掲載されています。ここにドウインと快手のGMVを当てはめてみると、7位と9位に相当します。わずか2、3年で、世界トップ10のサービスに入るようなECが登場したのです。

もし、ECというサービスが伝統的なEC=陳列ECの時代が終わり、ライブコマースを基本にした興味EC、アルゴリズムECの時代に移行をするなら、伝統的なECサービスだけでなく、あらゆる小売業は興味ECの手法を取り入れていく必要があります。

そうではなく、陳列ECと興味ECが異なるスタイルのECとして定着をするのであれば、興味ECの手法を取り入れるかどうかは、自分たちのビジネスにどのようなメリットがもたらされるかを考えて、部分的に取り入れる程度でいいという話になります。

この未来を見通すような話は、私はもちろん、専門家にも難しい話ですが、興味ECをご紹介する中で、みなさんそれぞれで考えてみていただければと思います。

今回は、「興味EC」「アルゴリズムEC」という新しい考え方を、従来の伝統的なEC=陳列ECと比較をしながら考えていきます。

 

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vol.075:アリババをユーザー数で抜いて第1位のECとなったピンドードー。そのビジネスモデルのどこがすごいのか?

vol.076:無人カート配送が普及前夜。なぜ、テック企業は無人カートを自社開発するのか?

vol.077:あらゆる商品を1時間以内にお届け。即時配送が拡大する理由とその難しさ

 

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