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第4のミルクティーチェーン「アンティー・ジェニー」が上場申請するも、急激な規模拡大に混乱も

第4のミルクティーチェーン「濾上阿姨」が香港に上場申請をしたが、急激な規模拡大でさまざまな内部混乱が起きている。この混乱を乗り越えて上場に漕ぎ着けられるかどうか注目されていると首席商業智慧が報じた。

 

穀物ミルクティーで上場申請をしたアンティー・ジェニー

すっかりブームが沈静化をしてしまったタピオカミルクティー中国茶にミルクなどを入れたアレンジ中国茶の世界では「喜茶」(HEY TEA)、「奈雪之茶」(ナイシュエ)、「蜜雪氷城」(ミーシュエ)などが上場申請をするところまできている。

その中で、ダークホースとして、香港に上場申請をしたのが「濾上阿姨」(フーシャンアーイー、Antea Jenny)だ。濾とは上海を表す言葉で、阿姨はおばさんの意味。つまり上海のおばさんと言う意味になる。英語のAnteaも「Aunt」と「Tea」を掛け合わせた造語だ。

ここの元々の売りは、穀物を使ったミルクティーだった。血糯米(赤もち米)を使った血糯米ミルクティーや紅米、燕麦、紅豆などが入った五谷ミルクティーなど、他にはない健康的なミルクティーで評判となり拡大をした。

しかし、まだ飲んだことがない中国人も多いかもしれない。なぜなら、濾上阿姨は特定の地域に集中的に展開するという戦略をとっているため、店舗が近くにない地域も多いからだ。

▲濾上阿姨のラインナップ。ホットで飲むのが適している穀物ミルクティーと、アイスで飲むのが適しているフルーツミルクティーの2つのラインからなっている。

 

八宝粥と中国茶ブレンド食品が起業のヒントに

この濾上阿姨を起業したのは、山東省出身の単衛釣と周蓉蓉の夫婦。二人は山東省の米国系外資企業で知り合い結婚をした。子どもが産まれると、子どもの進学のために上海に引っ越した。しかし、上海での生活はお金がかかる。このままではだめだと起業することを考えた。

2013年頃、上海ではミルクティーがブームになる兆しが現れていた。二人はミルクティーが大きなビジネスになると感じたが、すでに人気のチェーンも登場しており、今から参入するにはよほど特徴がないと難しいとも感じた。

そんなある日、子どもを連れて上海市内を散歩していると、個人が経営しているミルクティーのお店に行列ができているのを発見した。古い店舗で、50歳をすぎた女性が経営していて、とても若者向きには思えないのに、若者が行列をしていたのだ。気になって行列に並んでみると、その店ではタピオカミルクティーを半分、八宝粥を半分を混ぜて売っていたのだ。味は優しく、お腹にも溜まる。男性にとっては間食としてもってこいであり、女性にとってはダイエット食としてもってこいだった。ただし、見た目がきれいでない。この見た目をSNS映えするものにできれば人気となり、さらに一過性のブームでは終わらない商品になるのではないか。

▲創業者の単衛釣、周蓉蓉の夫婦。子どもの進学のために上海に引っ越し、そこで八宝粥と中国茶を混ぜるという不思議な習慣に出会い、これがヒントとなり濾上阿姨を創業した。

▲濾上阿姨の赤もち米ミルクティー。健康的で、軽食代わりにもなり、香りがよく美味しいと人気になった。

 

温かい飲み物が受ける北部でチェーン展開

2013年7月、二人は上海市の人民広場の施設内に最初の店舗をオープンした。穀物ミルクティーを販売し、わずか25平米の小さな店舗ながら大人気となった。

次は、チェーン展開をすることだが、夫婦はここで考えた。そのまま上海で店舗数を増やしていくことは得策とは思えなかったからだ。ひとつは、大都市の家賃は高く、ドリンク店では利益のほとんどが家賃に消えてしまうこと。もうひとつは、穀物ミルクティーはホットで飲んだ方が香りが立って美味しく、北部の人に受けるはずだと考えられたこと。上海でも人気となったが、それは1店舗しかないからであって、他店舗展開をしたら珍しさがなくなって売れなくなるのではないかと考えた。

そこで、二人は北部の山東省に戻って、地方都市を中心にチェーン展開をすることにした。

北部でチェーン展開を進めながら、冷たい飲み物が好まれる南部の攻略をどうするかを二人は考えた。そこで、フルーツミルクティーが生まれた。これにより、2019年、広東省に進出をした。ホットの穀物ミルクティー、アイスのフルーツミルクティーともに天然の食材を使った優しい味で、「上海のおばさん」というブランドにも合っていた。

▲濾上阿姨の出店分布。ホットで飲むのが適していることから山東省に集中出店をしている。また、アイスで飲むフルーツティーを開発してからは広東省にも集中出店した。

▲初期の濾上阿姨店舗。ロゴも現在のものではなく、起業のヒントになった飲食店の女性店主のイメージをそのまま図案化したものだった。

 

上場申請まで漕ぎ着けたが投資家の評価は厳しい

2020年10月、嘉御資本から7500万元の投資を受け、そこから投資が続くようになり、店舗数も3000店を超え、企業価値は15億6000万元に達した。その後も投資が続き、現在の評価額は51億元に達し、香港証券取引所に上場申請をするところまできている。

しかし、投資家の評価は厳しいようだ。目論見書によると、2021年、2022年、2023年の営業収入は、それぞれ16.4億元、22.0億元、25.4億元となっている。しかし、2022年の蜜雪氷城の営業収入は135.8億元であり、古茗(Guming)は56.0億元、茶百道の42.3億元と比べるとかなり小さい。店舗数の点でも、濾上阿姨は7297店舗であり、蜜雪氷城は1万店舗以上、古茗は9000店舗以上、茶百道は7900店舗以上と、遅れをとっている。

店舗数の点でも遅れをとっているが、投資家が気にしているのは営業収入が他のチェーンと比べて極端に低いことで、つまりは利益率が低いということだ。売上が下がれば、すぐに利益は固定費に飲み込まれてしまって赤字になってしまう可能性がある。

▲濾上阿姨の現在のロゴ。「アントおばさん」をモチーフにしていることは同じだが、洗練されたものになった。店舗デザインも洗練され、海外のチェーンであると勘違いしている人も多い。

▲現在の標準店舗の設計。初期の頃と比べ大きく洗練され、アンティー・ジェニーという名前を前面に出しているため、海外のチェーンだと思っている人もいる。

 

急速な規模拡大に内部で混乱も

濾上阿姨では、営業収入を増やすために、店舗拡大を急いでいる。現在、濾上阿姨のフランチャイズに加盟するには4.98万元(約100万円)の加盟費を支払い、原材料を本部から購入するだけでロイヤルティーは不要と、ハードルを低くして加盟店を増やそうとしている。

しかし、急速な拡大に内部で混乱も起きていることが窺われる。2022年には、テンセントの女性用ゲーム「光と夜の恋」とのコラボキャンペーンを行った。しかし、SNSの濾上阿姨公式アカウントで、担当スタッフがこのゲームのことを「バツイチ女性を騙すようなゲーム」だとコメントしてしまい、ゲームファンの間で炎上をした。コラボ初日には合同イベントが開催されていたが、3時間後に中断をし、コラボキャンペーンは取り止めになるという事態になった。

また、カップの図案が問題にもなった。チャイナドレスを着ている女性が描かれているが、横のスリットが深く、脚の大部分が見えている。これは、外国人にとってはよく見かける表現だが、中国人にとっては複雑な思いを抱かせる表現になる。チャイナドレスの原型は旗袍(チーパオ)であり、本来は乗馬をすることが多い満州族の民族衣装だった。下にはパンツを履き、馬に乗るときには鞍にまたがりやすくなるようにスリットが入っている。

しかし、上海などの酒場で外国人の接待をする女性たちが、素足の上に旗袍を着るようになり、これがセクシーだと評判となってチャイナドレスが生まれた。つまり、チャイナドレスでスリットから足が見えているというのは、中国人にとっては屈辱的なものも感じさせてしまう。中国企業は中国文化に見識を持ち、尊重すべきだという苦情が寄せられた。

さらに、2023年11月にはミニプログラムを通じて、9.9元でミルクティーの引き換えクーポンを10万枚販売した。9.9元で購入すれば、ミルクティーに引き換えられるというものだ。しかし、販売が終わってみると、このクーポンは「9.9元の割引券」に勝手に変更された。先に9.9元でクーポンを買っているのだから、9.9元の割引をしてもらっても、結局は定価でミルクティーを買っているのと同じことになる。

▲問題になったカップの絵柄。右の女性のチャイナドレスのスリットが深く、素足が見えている。これは中国人にとって屈辱を感じる。

 

上場前の苦しみを乗り越えることができるか

濾上阿姨は、ミルクティーブームに遅れて参入し、差別化を図っていくことで成功した事例だ。しかし、香港上場を目前としたところで、急成長の歪みがさまざま現れてきているようだ。ここを乗り越えて、上場することができるかどうか、多方面から注目されている。

 

ブームになるマイクロドラマ。ヒットの鍵は脚本。脚本の売買市場ができあがりつつある

ブームになっているマイクロドラマ。低予算で制作をするが、ヒットをすれば収益は莫大ということから、プロたちが続々と参入をしている。マイクロドラマのヒットの鍵はストーリーの面白さで、そのため、脚本の売買が熾烈になってきていると新榜が報じた。

 

プロが続々参入するマイクロドラマ

今、中国でブームとなっているのが「微短劇」=マイクロドラマだ。1話は1分から2分程度で、それが50話、100話ある。1話から10話までは無料で見られるが、次の20話から30話までを見るには課金をしなければならない。さらに、次の30話から40話までも課金が必要と、最後まで見るにはそれなりの料金がかかる仕組みになっている。しかし、映画に行くよりは安く、ストーリーに惹きつけられて見てしまう人が多く、利益が出ることから多くのプロたちが参入を始めている。

元々は、コロナ禍で、仕事を失った映画やテレビドラマ関係のクリエイターたちが集まって、仕事もないのでつくってみたところ、小遣い稼ぎになるどころか、映画やドラマの仕事よりも儲かるというケースも出てきたことから盛り上がりを見せている。

▲マイクロドラマの典型例。動画プラットフォームで、1話1分か2分のドラマを10話ほどは無料で見ることができる。続きを見るには課金が必要になる。

 

低予算でつくり、あたれば大きい

100話まであると言っても1話1分程度なので、映画1本、単発ドラマをつくる程度の労力ですむ。さらに、視聴者の目当ては、クオリティの高い映像ではなく、ストーリーの面白さ。次から次へと「続きはどうなるだろう」と思わせてくれることが重要で、セットなどにお金をかける必要はない。スマートフォンに合わせて、縦型動画となるため、たくさんの人物を登場させたり、自然の風景は合わないため、室内での映像が多くなる。つまり、低予算で10日ほどでつくってしまい、あたれば大きい。そんなところから、多くの人が参入を始め、競争が激化をしている。

 

脚本の質がヒットを決める

しかし、脚本はきわめて重要だ。面白い脚本かどうかでヒットするかどうかが決まる。このため、制作チームはチーム内の脚本家だけでなく、外部からも面白い脚本を購入するようになり、フリーランスの脚本家がにわかに増えている。

脚本家はまずサンプルを自分で書き、それをさまざまな制作チームに売り込む。この時は、300字から500字程度の概要と、1話1000字程度の脚本10話分を書いて提案をする。

採用された場合、報酬に関しては買取りということが多くなるが、報酬の支払い方には「334」と「37」の2つの方式があるという。334は、採用時に30%、50話まで完成した時に30%、脚本が完成した時に40%支払われるというものだ。37は採用時に30%、完成時に70%が支払われるというもの。

このため、脚本家は最初の10話を面白くすることに力を入れる。最初の10話が魅力的であれば、その後のストーリーが多少凡庸であっても、見続ける人は多いため、脚本家も制作チームも最初の10話のできを重要視している。

▲マイクロドラマの脚本売買市場が形成され始めている。ヒットの重要な要素である優れた脚本の価格が上昇をし始めている。

 

舞台設定を工夫することでヒット

この脚本の競争は激しくなってきて、制作チームに提案された脚本の中で、実際に採用されるのは10本に1本以下になってきているという。というのは、人気のある設定というのはほぼ固まっていて、人間の欲望に直結するお金、恋愛、社会的地位をめぐる愛憎劇だからだ。その中で、そうそう斬新なプロットを考えるというのは簡単ではない。

現在、ヒットとなっている「私は80年代の世界で継母になった」は、女子大生が80年代にタイムスリップした後、養豚場のオーナーと結婚して家庭を築くという物語だ。ストーリー的には、富裕層の家に嫁ぎ、家族との軋轢があるという典型的なホームドラマだが、80年代という舞台設定が受けた。今、中国では、昔を懐かしむという点で80年代の文化が注目されている。80年代は養豚場経営で成功したオーナーが富裕層の典型で、今の富裕層とはまた違った描写をすることができる。ストーリーとしては平凡かもしれないが、設定を変えることで成功をした。

▲ヒットになったマイクロドラマ「私は80年代の世界で継母になった」。内容は典型的な家庭内愛憎劇だが、舞台設定が80年代という点が変わっており、それがヒットの大きな要因になった。

 

一過性のブームで終わってしまうか、産業として定着するか

iiMediaが公開した「2023-2024中国マイクロドラマ市場研究報告」によると、2023年のマイクロドラマ市場は373.9億元(約7700億円)となり、2022年からは267.65%も増加をした。報告書によると、2027年には市場規模が1000億元の大台を突破するという。

しかし、マイクロドラマは7年ほど前にも話題となったが、あまり人気を得ることができず消えていった過去がある。当時は、課金モデルではなく、広告モデルであったために、うまく収益化することができなかった。今回のブームも一過性のものとして消えていくのではないかという不安は関係者の多くが感じている。そうならないためには、やはり脚本の質が重要になる。プロの脚本家がマイクロドラマに参入をしているだけでなく、まったく実績のない素人が脚本を書いて制作チームに提案をすることも増えている。そこで、どれだけ新しい才能、新しい着想が生まれてくるかが、マイクロドラマ市場が成長するか、消えてしまうかにかかっている。

 

メガネ率が増える中国。小中学生で半数以上、高校生では8割以上。なぜ近視が増えるのか

中国の子どもたちの目に問題が起きている。小中学生では半数以上、高校生では8割以上が近視になっている。近視に対する誤った考え方と、学習第一で屋外で過ごす時間が短くなっているのが原因だと藍橡樹が報じた。

 

児童で50%以上、高校生で80%以上のメガネ率

中国の子どもたちの間で近視が増加していることが社会問題になっている。2018年に、国家衛生健康委員会が発表した「全国児童青少年近視調査報告」では、小中学校の児童の近視率は53.6%となり、諸外国に比べ突出して多く、社会的な関心事となった。

また、2021年に北京大学中国健康発展研究センターが発表した「情報化時代の児童青少年近視予防報告」では、児童の近視率は60%を超えていると報告をされている。同じ基準の調査ではないとは言え、わずか3年間の間に近視率が大きく増加をしたことになり、それは多くの教育関係者、親などの実感とも符合する。

さらに、高校生だけに限ると近視率は80.5%で、眼鏡をしていない方が少数派になっている。さらに報告書は10年以内に、中国の近視患者は9.6億人になり、最悪のシナリオでは11億人に達することもありえるとしている。

▲メガネ率が高くなる中国の子どもたち。小中学生では半数以上が近視になっている。

 

小学生の間に近視が増加をする

近視率が増加するのは小学生の間だ。小学校1年生では15.7%であるものが、小学校6年生になると59.0%までになる。中学校の3年間ではわずかしか増えない。近視になる年齢が低下をするということは、後の高校生、大学生、成人になった時に強度近視になる確率が高くなるということだ。強度近視になると、眼鏡で補正するだけは済まず、眼疾患の発症リスクも高まっていくことになる。

オーストラリア国立大学のブライアン・ホールデン教授によるアジア人の児童629人に対する追跡調査でも、6歳で近視になっても、対応をして近視の進行を抑えることにより、強度近視になることを避けられることがわかっている。

▲高校生では8割が近視。過剰な学習へのプレッシャーで、屋外で過ごす時間が短くなっているのが原因だと言われている。

 

近視は予防が第一、3歳からの視力検査が有効

このように中国で近視が多い理由は、誤った俗説や習慣が根付いてしまっているからだ。多くの親は、子どもからの「黒板がはっきりと見えない」という訴えを聞いて、視力検査を受けさせ、近視であることを知る。しかし、眼科医は3歳までに視力検査を受け、以降は6ヶ月ごとに受けることを勧めている。近視になってから対処するのではなく、近視になる前に対処することで、将来強度近視になるリスクを軽減することができるとしている。

また、多くの親が「近視は成長とともに治ることがある」と信じている。成長期にある子どもは、近視の症状が一時的に改善されたかのように見えることもあるが、基本的には近視は進行をしていく一方になる。そのため、「しばらく様子を見る」は悪い選択で、少しでも子どもの視力に問題を感じたら、眼鏡屋ではなく眼科医に行き、精密な検査をしてもらい、眼科医のアドバイスに従って対処することが重要だ。また、「眼鏡をかけると近視の進行が早くなる」も俗説にすぎない。むしろ、見づらいのに眼鏡をしていないと、一生懸命見ようとして目の筋肉を酷使することになり、かえって近視の進行を早めてしまうことがある。

▲近視を和らげる目のトレーニングもある。近視は予防が大切で、専門家は生後3歳までに視力検査を受けることを推奨している。

 

屋外で過ごす時間が短すぎる子供たち

中国の子どもに近視が多い理由は、学校の勉強のプレッシャーが大きく、屋外ですごして遠くの風景を見る時間が少ないことが原因だ。67%の児童が屋外ですごす時間が1日2時間未満であり、29%の児童が1日1時間未満だった。73%の児童が必要とされる睡眠時間をとれていない。

さらに、そこに電子デバイスの使用が増え、近視率を上昇させていると考えられている。電子デバイスも「明るすぎると目に悪い」という俗説があり、画面を暗くして使わせている親がいるが、これも近視をかえって進行させてしまう。目の健康にとって必要なのは、周囲の明るさと画面の明るさの差をつくらないことだ。明るさの差があると、目の調節機構が忙しく動いて、目を疲労させることになる。多くのデバイスでは、外界の明るさを測定して、画面の明るさを自動調節する機能がある。それを使うのが最も安心できる。

 

 

中国の民間ロケット打ち上げ企業が、海上から引力1号の打ち上げに成功

衛星打ち上げは、もはや民間の宇宙ビジネスになっている。中国の民間企業「東方空間」は、海上から引力1号の打ち上げに成功をした。今度は、スペースXに追いつくために、ロケットの回収技術と液体燃料ロケット技術の開発をすることになると最華人が報じた。

 

中国の民間宇宙企業が打ち上げに成功

宇宙開発は、国家プロジェクトから民間ビジネスにシフトをしている。その最先端を行くのは米スペースXで、低軌道の衛星打ち上げビジネスは、ほぼスペースXに独占されている状態だ。その確実さと打ち上げコストの低さから、他を圧倒している。

このイーロン・マスクの牙城に挑んでいるのが「東方空間」(ORIENSPACE、https://www.orienspace.com/)だ。東方空間は、世界最大の固体燃料ロケットを開発し、2024年1月11日、「引力1号」は打ち上げに成功をし、3機の衛星を軌道に投入した。

高さ29.5m、重量405トン、推力600トンという巨大固体燃料ロケットで、液体燃料ロケットに比べて扱いがしやすく、打ち上げ費用を小さく抑えることができる。低軌道であれば6.5トン、太陽同期軌道であれば4.2トンまで衛星を積載することができる。低軌道であれば標準的な衛星を30個程度同時に打ち上げることが可能になる。

しかも、この巨大ロケットを船上から打ち上げる海上打ち上げに成功をした。投入する軌道に合わせて、海上の最適な場所から発射することができるようになり、燃料も節約することが可能になる。

▲打ち上がる引力1号。重量405トンは、日本のH2ロケットの1.5倍程度。

▲打ち上げに成功し、スタッフを抱き合う姚頌CEO(手前)。段階をへるのではなく、いきなり打ち上げることを主張しただけに、成功した喜びは大きかった。

 

32歳のCEOは、わずか3年でロケットを開発

このイーロン・マスクに挑戦をした東方空間の創業者は、まだ32歳の姚頌(ヤオ・ソン)CEO。しかも、29歳からロケット開発を始め、わずか3年でこの成功にまで漕ぎつけた。

姚頌CEOは、1992年、湖南省生まれ。小さい頃から成績がよく、長沙第一中学(日本の高校に相当)から清華大学の電子工学系に進学をした。高校生の頃から物理コンクールなどで入賞するなど活躍をしていた。

清華大学でも、筆頭筆者となった3本の論文が国際学術誌に掲載されるなど活躍をし、卒業の時期が近づくと米カーネギーメロン大学など複数の大学から特待生待遇でのオファーがあった。しかし、姚頌は米国に留学する道を選ばず、中国に残って起業する道を選択した。

▲姚頌CEOは高校生の頃から科学コンクールで入賞をする優秀な学生だった。

▲東方空間を創業した姚頌CEO。宇宙ビジネスがスペースXに独占されることに挑戦するために起業した。

 

AI関連の起業で成功した姚頌

2015年、姚頌は清華大学の同級生たちと、「深鑑科技」(DEEPHi)を創業した。このスタートアップはロケットとは無関係で、セキュリティと自動運転の2分野にAIを応用することを目的にしたものだ。

しかし、船出は甘くなかった。最初の1年で50以上の投資機関を回ったものの、投資をしてくれる投資会社はひとつもなかった。清華大学を卒業したというだけで、大金を投じてくれる人がいるほど、世の中は甘くはなかった。

深鑑科技は1年間苦しんだ後、シリコンバレーでデモを行い、そこでようやく500万ドルのエンジェル投資を獲得することに成功をした。この資金を元に、顔認識などのセキュリティー系のプロセッサを開発し、これが注目を浴びた。中国のNVIDIAとも言われるようになり、2018年7月、英国のザインリクスが3億ドルという破格の価格で、深鑑科技を買収した。

姚頌たちは成功をして、お金の自由を手に入れた。

 

スペースXの独占に挑戦をする

姚頌は次に何をしようかと考え、後学のために投資会社「経緯中国」(Matrix)に入社をした。経緯は当時、民間の宇宙関係企業に投資をしており、姚頌は経緯を通じて、民間宇宙開発の世界に触れるようになる。

その中で、当然注目をせざるを得ないがスペースXだった。スペースXは、低軌道衛星という最も需要が多い分野で、低コストの打ち上げをねらっている。科学的な発想の宇宙開発ではなく、ビジネス視点での宇宙開発を行なっている。しかも、知れば知るほど、スペースXが将来の宇宙ビジネス市場を独占することが明らかになってくる。このままでは、宇宙ビジネスはスペースXに独占をされてしまう。その焦りが姚頌の次の起業の動機になった。

 

段階を踏むのではなく、ゴールに直登する

2021年、姚頌は29歳で、東方空間を共同創業した。もう1人の共同創業者は、長征11号のチーフデザイナーだった布向偉だった。さらに、清華大学出身者を集め、ソフトウェア開発を行った。

東方空間は創業してすぐに根深い路線対立が生じた。大型ロケットを開発するには、まずは小さなオモチャのようなロケットで実験をし、自分たちの技術を確認しながら徐々に大きなロケットにシフトをしていくというのが常識だった。しかし、姚頌CEOはこの考え方に反対をした。それは、国家プロジェクトでの考え方だというのだ。「安全性を考慮する考え方は理解できる。しかし、それは民間宇宙企業の考え方ではない。民間はコストについても、安全と同じように重要なのだ」と言って、試験打ち上げを繰り返しながら、徐々に大型をするのではなく、一気に頂上へ直登することを提案した。

技術に関しても、主流である液体燃料ロケットではなく、枯れた技術である固体燃料ロケットを選択した。推力が大きく、保管も容易で、最短12時間で打ち上げ準備が完了するため、機動性も高い。さらに、船舶から打ち上げるという技術開発を行い、地球の自転を利用することができ打ち上げに有利な赤道に近い場所から打ち上げることができるようになる。

 

1月、海上から引力1号の打ち上げに成功

こうして、2024年1月11日、山東省沖から「引力1号」の打ち上げに成功をした。中国では中国版スターリンク「GW」の計画を進めており、10年で1.3万機の通信衛星を打ち上げる予定だ。これは1日あたり3.5機を打ち上げるという無謀な計画だ。しかし、東方空間が引力1号の打ち上げに成功したことで、この無謀な計画は現実的な計画になった。

しかし、東方空間の本格的な開発が始まるのはこれからだ。ブースターやロケットの回収技術がまだ確立をしていない。すでにスペースXは回収技術を確立しており、衛星を放出したロケット、ブースターは自分で地上に戻ってきて再利用することでさらにコストを下げることが可能になっている。

▲打ち上げを待つ引力1号。船上打ち上げに成功し、今後は打ち上げに有利な海上を選んで打ち上げをすることができる。

▲集まった観客たちは、迫力のある引力1号の打ち上げを堪能した。

 

今後の課題は液体燃料と回収技術

また、打ち上げ能力を高めるために、液体燃料ロケットの開発も進んでいる。引力2号では、液体燃料ロケットと固体燃料ブースターの組み合わせとなり、引力3号では、回収技術を確立する。

姚頌は、メディアから「中国のイーロン・マスク」と呼ばれるようになっているが、姚頌自身はそれを否定している。「中国の民間宇宙産業はまだまだ長い道のりを経なければならない。私はイーロン・マスクを追いかけている人間だ」と言う。回収技術の試験は1年後、引力2号の打ち上げは2年後を予定している。

▲引力1号の全体像。高さ29.5m、重量405トン、推力600トンという巨大固体燃料ロケット。

 

 

成長してきたWeChatのライブコマース。新興ブランド、中年男性ターゲットに強い特徴

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今回は、WeChatのライブコマースについてご紹介します。

 

ライブコマースのプラットフォームというと、以下の4つが主なものになります。

1)抖音(ドウイン、中国版TikTok):最も大きなプラットフォーム。グルメ、旅行関連のチケットが好調。

2)タオバオライブ:淘宝網タオバオ)の中のライブコマース。タオバオ達人が、タオバオで販売されている商品をピックアップして紹介。

3)快手(クワイショウ):抖音のライバル。メーカーやブランドの社長が自ら出演するCEOライブコマースが人気。

4)小紅書(シャオホンシュー、RED):女性が多いSNSで、女性用品、趣味用品などが中心

 

ここに2021年2月に微信(ウェイシン、WeChat)が、「視頻号」(チャンネル)機能を搭載しました。抖音とほぼ同じのショートムービー共有機能です。なお、訂正があります。今までこの機能を、私は「WeChatチャネルズ」と表記をしていました。これは、テンセントが使っている英語表記が「WeChat Channels」になっていたからです。しかし、WeChatアプリの日本語表示では「チャンネル」という用語が使われていることに気がつきました。そこで、以降、テンセントの表記に合わせて「WeChatチャンネル」という言葉を使うようにします。

このWeChatチャンネルは、業界では王者の対応だと見られていました。ご存知のとおり、WeChatは中国人のほぼ全員が使うという国民的アプリです。そこに抖音が急速に利用者を獲得してきましたが、WeChatは同様の機能を搭載するだけで、抖音の勢いにブレーキをかけることができます。WeChatチャンネルは、そのような対抗策であって、ライブコマースなどの小売ビジネスは盛り上がらないだろうと多くの人が考えました。特に小規模業者は、あっちでもこっちでもライブコマースを配信するほどのマンパワーもありません。WeChatはライブコマースプラットフォームとしては注目されずにきたところがあります。

 

ところが、テンセントの財務報告書では、2023年からWeChatチャンネルに関する言及が目立つようになり、大きな成果があがっていることがアピールされるようになりました。具体的な数値は記載がないのもの、毎回、財務報告書の特記事項として触れているため、テンセントがかなり力を入れている機能だということがわかります。

例えば、こんな風に書いてあります。

 

■2023年度第2四半期

・当社の広告事業は顕著な高速成長を実現しました。広告プラットフォームへの機械学習の適用とチャンネルの収益化によるものです。

・WeChat利用者数は健康的に増加をしています。チャンネル、ミニプログラム、モーメンツでは利用者の使用時間が増加をしています。特にチャンネルの使用時間はほぼ2倍になりました。

・(ネット広告事業は)業界平均を超える成長をしました。この成果は、広告プラットフォームの機械学習システムをアップグレードしたこと、広告主のチャンネルに対する広告出稿の強い意欲によるものです。自動車、交通業界を除き、ほぼすべての業種で、当社に対する広告支出が2桁成長をしました。

・ネット広告事業は2023年Q2の営業収入は34%増加して250億元となりました。これは、チャンネルの広告に対する強い需要、当社の機械学習システムの改善、昨年2022年Q2の収入が低かったことがあります。2023年Q2のチャンネルの広告収入は30億元を超えました。

 

■2023年度第3四半期

・当社は堅実で質の高い成長を実現しました。利益率が顕著に上昇し、利益が出せる構造を構築することができました。チャンネルとミニゲームという新しい事業が利益率の向上に貢献をしました。

・チャンネルの総配信量は、昨年同時期から50%以上増加をしました。

・WeChatの内循環広告(ミニプログラム、チャンネル、公式アカウント、企業WeChat)収入は昨年同時期から30%以上増加しました。WeChatの広告収入全体の半分以上を占めています。

・チャンネルの広告収入の伸びが顕著で、配信量、利用者平均利用時間も増加をし、広告の配信割合も安定をしました。

 

■2023年度第4四半期

・チャンネルの利用者平均利用時間も倍増しました。リコメンドアルゴリズムが最適化をされたことにより、日間アクティブユーザー数、平均利用時間も増加をしました。当社は、チャンネルの創作者に対し、収入を増加させ、ライブコマースを促し、創作者とブランドのマーケティング活動を支援していきます。

 

財務報告書は、上場をしている香港証券取引所に提出をするもので、誤ったことを書くことはできません。そのため、不用意に数字を出さない書き方になっていますが、それでも「顕著に」「質の高い成長」など、言葉の端に、テンセントの自信が透けて見えてきます。

総合をすると、次のようなことが言えそうです。

・2023年、WeChatチャンネルは大きく成長し、広告の収益化が順調に進んでいる。

機械学習システムの最適化により、リコメンド機能が強化をされ、これが飛躍の要因になっている。

・チャンネルによるライブコマースの収益化の段階に入っている。

 

つまり、ライブコマースを行う小売業者にとって、WeChatチャンネルが無視できなくなってきたのです。しかし、WeChatチャンネルは、これまでのライブコマースプラットフォームとはさまざまなことが大きく違っています。そのため、戸惑う業者が多く、あちこちで「WeChatチャンネル研究」のようなグループができ始めています。そこで、今回はチャンネルが今までのライブコマースと何が違うのかをご紹介したいと思います。

 

ライブコマースを行うときに、どのプラットフォームを選ぶかはとても重要です。プラットフォームの性格が異なるからです。日本でも企業の公式アカウントを出す時に、XにするのかLINEにするのかインスタグラムにするのかは検討をすると思います。公式アカウントの目的に合わせて、適切なプラットフォームを選ぶ必要があるからです。それと同じで、ライブコマースプラットフォームも性格が異なっているのです。それは、SNSの結びつきの強さを軸に整理するとわかりやすくなります。

SNS(Social Network Service)は、すべてまとめてSNSと呼ばれてしまいますが、利用者の結びつきの強さを軸とすることで分類をすることができます。

1)非常に弱い結びつきしかないもの:視聴者同士がメッセージを交換することはほとんどありません。例)タオバオライブ。

2)フォロー/フォロワーという上下関係での結びつき。人気のあるインフルエンサーをフォローしてその人のライブコマースを見るもの。例)抖音、快手

3)ネット上で対等な関係として結びつくもの。特定の趣味や感覚などを軸に利用者が集まり、その中心にいる人がライブコマースを行う。人数は少ないが、コンバージョンは高く、客単価も高くなる傾向がある。例)小紅書

4)対面で知り合っている人が基になるSNS。例)WeChat

もちろん、この4つはきれいにわかれるわけではなく、グラデーションのように重なり合っています。それでも、WeChatチャンネルが特殊な存在であることがわかると思います。

 

WeChatチャンネルやそのライブコマースについては、あまり盛り上がらないのではないかとも言われていました。WeChat利用者の母数が巨大なので、利用率は低くても毎日数億人が見るという数字だけは出てきます。でも、それだけで、収益をあげるのは難しいのではないかと見る人もいました。その理由は主に2つあります。

WeChatは、日本でのLINEとよく似たポジションのSNSで、実際に対面で知り合った人と後で連絡を取るのに使われることが多くなっています。中国では仕事上で面会した人とは、名刺交換ではなく、WeChatのアカウント交換をするようになっています。また、若者が街で異性を見かけて「WeChatのアカウント教えて」とナンパをするのも定番の光景になっています。つまり、WeChatに登録をするのは、実際に会ったことがあり、顔を知っている人が中心になります。

これが、ムービーの自由な拡散の障害となっていました。WeChatチャンネルで見たムービーは自動的に友人にも推薦されることになります。明示的に「朋友圏」(モーメンツ)に転載をすることもできます。つまり、ムービーを自由に見ているわけですが、どんなムービーを見ているかは友人たちが知る可能性があり、どことなく人の目を気にしてしまうのです。

この少しの公共性があるために、WeChatチャンネルは広がらないだろうと見る人もいました。あまりに低俗な映像ばかり見ていると、それが知り合いに知られてしまう可能性があるからです。特に若者は、そういうことを気にせず済む抖音や快手を使うだろうと考えられました。

 

もうひとつ懸念をされていたのが若者は利用しないだろうということです。若者はすでに抖音、快手、タオバオライブ、小紅書を使っていて、大きな不満があるわけではありません。わざわざ特徴のあまりないWeChatチャンネルのライブコマースを見に行く必要はないわけです。そのため、WeChatチャンネルを使うのは、中高年が主体となり、中高年は若者や現役世代ほどライブコマースで買い物をしません。ご存知の方も多いかと思いますが、中国では重要な消費者は順番に「若い女性>子ども>中年女性>若い男性>高齢者>犬>中年男性」であると冗談半分で言われます。これはあながち間違いではありません。中年男性も物欲がないわけではありませんが、今まで使ってきてなじんでいるブランドの商品を選ぶ傾向が強いのです。プロモーションを行っても効果があがりづらい消費者群なのです。

 

ところが、テンセントの財務報告書によると、ネット広告の増収分に対するWeChatチャンネルの貢献が小さくありません。また、報道によると、2023年のWeChatチャンネルの流通総額(GMV)は1400億元(約2.9兆円)になってきました。他のライブコマースプラットフォームと比べるとまだまだ小さな数字ですが、戦えるステージには達しています。

▲各種ライブコマースプラットフォームの2022年の流通総額(チャンネルは2023年)。タオバオはECと不可分であるためライブコマースでのGMVは不明。各種報道を整理。

 

あまり注目されていなかったWeChatチャンネルはどうやって成長してきたのでしょうか。そして、どのような性格を持ったライブコマースなのでしょうか。そして、どのような小売業者であればWeChatチャンネルのライブコマースに適しているのでしょうか。今回は、WeChatチャンネルのライブコマースの成長についてご紹介します。

 

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セルフ方式のビュッフェが続々登場。スイーツやホテルの高価格帯ビュッフェも

経済が冷え込む中国で、飲食店がセルフ方式のビュッフェに活路を見出している。オフピークの時間帯に、バイキング方式で料理を提供するものだ。スイーツ店やホテルも参入し、セルフ方式ビュッフェが定着をしようとしていると餐飲老板内参が報じた。

 

続々登場するバイキング方式のセルフ朝食

中国経済が冷え込んで、人気となっているのが「自助餐」だ。ホテルの朝食のようなバイキング形式を取り入れた飲食のことだ。自助餐を取り入れる飲食チェーンが次々と登場している。

昨年2023年の初めに、台湾ブランドの豆漿を中心にした「永和大王」、お粥を中心にした「谷連天」、豆漿を中心にした「漿小白」などが、朝食の時間帯に3元などの格安価格で、好きなメニューを食べられるセルフサービスメニューを提供して人気となった。また、火鍋で有名な「海底撈」も今年1月に108元のセルフ朝食メニューのテスト販売を上海で行った。

自助餐の魅力は、安いということが最も大きいが、出費が事前に確定をするという点が好まれている。安いと思って入った飲食店で、追加のメニューを頼んでいたら結局高いものについた、そういうことが起こらない。出費を抑えたい、お金は計画的に使いたいという、今の市民の心理をうまくついた販売形式になっている。

▲台湾の豆漿チェーン永和大王も3元ビュッフェを始め、好評を得ている。

▲著名な火鍋チェーン「海底撈」も108元食べ放題のテスト販売を行ったところ好評だった。

 

高価格帯ビュッフェも盛況

安い価格で質素なメニューという自助餐のイメージも変わってきている。香港ブランドのスイーツチェーン「満記甜品」では、2023年6月に35元で食べ放題のデザートビュッフェをテスト運用し、その後、価格を48元に改定して、正式投入している。

このデザートビュッフェは、平日の10時から13時までで、利用するには、事前にオンラインで予約をする必要があるが、どの店舗でも満席状態になっている。デザート店にとっては、10時から13時という昼食の時間帯はオフピーク時間帯だった。朝食にスイーツを食べる人はいるが、昼食に食べる人は少ないからだ。このトラフィックの少ない時間帯をデザートビュッフェにあて、客数は10倍以上に増加をしたという。

▲スイーツチェーン満記甜品では、客数の少ない昼の時間帯に48元のデザートビュッフェを初めて、その時間帯の客数は10倍以上になった。48元のデザートは安くないが、食べ放題というところに魅力を感じて、多くの人が押し寄せている。

 

ホテルでもビュッフェサービスを始める

バイキング形式のビュッフェを朝食で提供してきたホテルも、ビュッフェのオープン化を進めている。マカオ市のMGMマカオでは、12888元で1年間ビュッフェを自由に利用できる年間パスの販売を始めている。価格は高いが、1日あたりにすればわずか35元で、食事の質を考えれば格安とも言え、近隣のオフィスワーカーに利用をされている。

 

3元朝食で成功した南城香

自助餐で有名になったのは、地域密着系の飲食チェーン「南城香」だ。八宝粥、豆漿など7種類の朝食メニューが3元で食べることができ、おかわり自由の食べ放題なのだ。

提供されているのは基本メニューが中心で、それを何杯もおかわりして満腹になるという人はあまりいない。日本の感覚で言えば、ご飯が食べ放題になっている感覚だ。そのため、ワンタン、油条(揚げパン)、サンドイッチなどを追加メニューとして取る人が多く、以前の単品注文の頃と比べて、朝食時間帯の売り上げは倍増をしている。

▲地域密着系飲食チェーン南城香では、3元の朝食を出して成功をしている。朝食だけでなく、通常価格の昼や夜の客数が伸びている。

 

オフピーク時間帯にセルフ方式であるため低価格が実現できる

自助餐は、来店客が自分で食事をとって自分の席に持っていく方式であるため、少人数のフロアスタッフで運営することができる。また、メニューもお粥や豆漿、パンなど作りおきが可能なものが中心となるため、調理スタッフの負担も少ない。

それぞれの飲食店のオフピーク時間帯にうまく自助餐を設定することができれば、売上が増加するばかりでなく、来店してもらうことで、メインの時間帯にもきてもらえるようになる。消費者の心理が萎縮をする中で、この自助餐は広範囲の飲食店に広がっていくのではないかと見られている。

 

 

台湾人の6割が「現状維持」を望む。独立と統一の間で引き裂かれてしまっている台湾人

台湾の国立政治大学選挙研究センターでは、1994年から毎年、台湾独立/統一に関する意識調査を行なっている。2023年の調査では、「現状維持」61.1%、「独立」25.1%、「統一」7.4%という結果になったとフォーカス台湾が報じた。

 

台湾人の6割が「現状維持」を希望

「台湾有事」という言葉を毎日のようにメディアで目にするようになっているが、当の台湾人たちはどう感じているのだろうか。

台湾の国立政治大学選挙研究センターでは、1994年から台湾独立/統一に関する意識調査を行なっている。これによると、最も多かったのは「永久に現状維持」の33.2%だった。さらに「現状を維持して後に決定」27.9%を加えると、61.1%が現状維持派だった。

独立派は「どちらかというと独立」「独立」を合わせて25.1%、中国との統一派は「どちらかというと統一」「統一」を合わせて7.4%となった。つまり、多くの人が、曖昧な形での現状維持を望んでいることになる。

▲台湾の国立政治大学選挙研究センターによる意識調査。香港の民主化運動で独立派が上昇したことを除けば、現状維持が主要な意見であることは変わっていない。

 

独立も統一も選択したくない台湾人

台湾人の立場に立つと、独立か統一かを決めることは簡単ではない。台湾人は独立と統一の間で引き裂かれてしまっている。

中国との統一に賛同ができない理由は、中国の国家優先の統治体制に組み入れられることは誰もが嫌うからだ。1947年に台湾政府が成立をした時、実態は軍事政権であり、言論の自由などなかった。そこから、多くの民主化運動を経て、多くの人の血を流しながら、現在の自由な社会を手に入れてきた。中国と統一をするということは、時代を逆戻しすることになり、自由のために命を落としてきた先人たちに合わせる顔がなくなると考えている。

中国と統一をする場合でも、高度な自治区など、現在の台湾の社会体制が維持されることが絶対条件だと考えている人が多い。しかし、香港の現状を見ていると、それが叶えられないことがはっきりとしている。これにより、2018年から「どちらかというと独立」が急上昇をしている。

 

独立できない2つの理由

では、中国と袂を分かつことができるかというと、それも難しい。ひとつは経済問題だ。中国市場に進出をしている台湾企業は少なくない。有名なのはカップ麺の康師傅、豆漿の永和大王、スナック菓子の旺旺、メガネの宝島メガネ、電子機器製造の富士康(フォクスコン)など、大陸の中国人たちが中国企業だとすら思い込んでいる台湾ブランドがたくさんある。独立を強行すれば、このような中国でのビジネスを失うことになる。

もうひとつ大きいのが、儒教的な考え方に基づく、自分たちのルーツの問題だ。台湾には、福建省などの中国から移住をした人たちが多く、儒教の考え方では、先祖の霊を祀ることが何よりも重要だとされる。そのため、台湾人でも、中国にある先祖の墓参りをしたいと考える人は多く、歳を取ったら中国に移住して墓を守りたいと考える人もいる。中国と袂を分かってしまうと、それができなくなる。

これは心の問題であり、日本人でも故郷に実家があることが心の拠り所となっている人は多い。都会に生活基盤を築いても、どこか漂泊しているような虚しさを感じることがある。それと同じで、中国の社会体制がどんなものであれ、中国とのつながりを完全に断ち切ることはできないという感情がある。

 

それでも備えは進める台湾

現状維持を望む人が多い台湾だが、台湾有事をまったく考えていないわけではない。台北市政府は2023年7月に市民に対し、「台北市全民国防応変パンフレット」を配布した。そこでは、人民解放軍という言葉は使われていないものの、敵軍が空襲をした場合にどう避難をすべきかが分かりやすくまとめられている。

しかし、ある市民からの指摘で、敵軍の軍服を紹介した図版が誤っていることが発覚をし、訂正版を配布する事態となった。人民解放軍の古いタイプの制服に基づいた図版を載せてしまったのだ。切迫感に欠ける話だが、ここに「現実的だとは思えなくても備えはしておく」という台湾人の考え方が見える。

台湾人の考え方は「現状維持」。ただし、台湾有事のリスクが0でない限り、可能な対応はしておくというのが台湾の考え方だ。周囲が「台湾有事」と騒ぎ立てるのは、当の台湾人にとっては「現状維持」が難しくなる困った状況なのかもしれない。

▲台湾有事に備えて、台北市では敵軍が攻めてきた時にどう行動すればいいかをまとめたパンフレットを配布している。「中国」「人民解放軍」という言葉は使われていないものの、敵軍が攻めてきた時にどう行動すべきかがわかりやすくまとめられている。

▲パンフレットには敵軍(人民解放軍)を識別するために、制服などのイラストが掲載されていたが、市民の指摘により、古いタイプの制服が掲載されていたことが発覚をした。現在では訂正版が配布されている。