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タオバオ特価版の手紙形式の広告が話題に。SNSの拡散力を利用するために、WeChatペイ対応へ

タオバオ特価版が公開した拼多多との比較広告が話題になっている。しかし、この2つのECは、同じ領域で競争しているとはいうもののライバルとは呼べないほどの規模の開きがある。アリババには大規模SNSがないということが大きな弱みになっている。そのため、タオバオ特価版はWeChatミニプログラムに対応することになったと電商報が報じた。

 

タオバオから拼多多への手紙

アリババの淘宝網タオバオ)のサブブランドである「タオバオ特価版」がユニークな告知を公開した。ライバルである拼多多(ピンドードー)に挑戦をする内容だ。それは「多多同学への手紙」と題されている。同学(トンシュエ)とは、大学などで同級生を呼ぶ時に使う呼称。「◯○同学」などと呼びかける。と言っても、非常に古臭い習慣で、実際の大学生は、おどけて使うことはあっても、普段使う人はほとんどいない。

一方で、テック企業の間では、同僚を呼ぶときに使う習慣のある企業が多い。TikTokの運営元バイトダンスが同学という呼称を使うことで有名だ。自分たちは、学生ではなくても、常に学び続けなければならないという姿勢を意識することができるからだ。

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タオバオ特価版がウェイボーで公開した手紙形式の広告。しかし、タオバオ特価版はWeChatと連携できないことが大きな弱みだった。

 

タオバオにしかできない海南島のマンゴーを宣伝する内容

つまり、タオバオ特価版が拼多多を同級生に見立てて書いたという手紙だ。

「私はもうすぐ1歳の誕生日を迎えます。あなたは私より5歳も年上ですが、みんなは私たちの成績を比べようとします。でも、私はあなたに感謝をしています。なぜなら、あなたがいなければ、私はこんなに早く成長することはできなかったからです。大きな声では言えませんが、私のファンはもう1億人もいるのです。

そうだ。海南島のマンゴーが大豊作のようです。私の誕生日の願いは、海南島の農家がたくさんのマンゴーが売れるようにお手伝いをすることです。あなたも一緒にどうですか。

このマンゴーは特別美味しく、ファンの人たちでも食べきれません。窓から下を覗いてみてください。家族に内緒で、私からの贈り物のマンゴーが見えるはずです」。

 

話題になった勝手に乗っかる果物店

拼多多とタオバオ特価版は、いずれも低価格日用品に狙いを絞ったライバルだ。というより、拼多多に対抗するために、タオバオタオバオ特価版というサブブランドECを開始した。しかし、流通総額などは、いかにアリババと言えどもなかなか追いつけない。そこを拼多多は6年目だが、タオバオ特価版はまだ1年にすぎないということを消費者に知らせている。

また、拼多多が扱っていない海南島のマンゴーのセールするにあたって、拼多多では買えないということをそれとなく消費者に知らせている。要は、手紙の体裁を取った、拼多多に対する煽りであり、広告なのだ。

この広告は、タオバオ特価版の思惑通り、話題を呼んだ。さらに話題になったのが、上海市の果物チェーン美天優選の娄山関路店が、この広告に勝手に乗っかった。大量の海南島産マンゴーを並べ、「タオバオ特価版誕生祝い。拼多多の従業員は社員証を見せることで無料」という掲示を出したのだ。

この店舗はすぐに話題になり、写真を撮りにくる人がひっきりなしに訪れ、マンゴーの売れ行きも好調だという。

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上海市長寧区のスーパー「美天優選」の店舗で、タオバオ特価版の広告に乗っかった掲示を出して話題になっている。「淘宝網特価版一周年記念:海南島の直送マンゴー。拼多多の社員は、社員証を見せることで無料です」というもの。面白がって、写真を撮り、SNSにアップする人が集まってきている。

 

アクティブユーザー数でタオバオを抜いた拼多多

タオバオ特価版と拼多多は、ライバルとは言われているものの、その成績には大きな開きがある。3月に拼多多の2020年財務報告書が公開され、年間アクティブユーザー数(YAU)が7.884億人であることが明らかになり、タオバオ+天猫(Tmall)の7.79億人を越えた。アクティブユーザー数では、拼多多が中国最大規模のECとなった。一方で、タオバオ特価版は1億人であり、その多くはタオバオ本体の利用者だと推定される。

 

農村から都市への戦略が功を奏した拼多多

拼多多が当初狙ったのは、下沈市場だった。地方、農村、低所得者層をねらい、日用雑貨を激安価格で販売をした。さらに、地方の農家の農産物や地方企業が製造した商品を流通させた。そのため、当初は品質問題が多発をし、「貧乏人のEC」などと陰口を叩かれたこともある。

しかし、品質問題を解決し、iPhone12や五菱のEV、DJIのドローンなど、テックス好きが好む商品も激安キャンペーンをしていき、農村から都市へと利用者層を拡大してきた。さらに、下沈市場の消費者もこの数年で経済力をつけ、拼多多で高額商品を買うようになっている。

アリババは危機感を感じ、タオバオ特価版というサブブランドを設立することになった。

 

SNSを持っていないアリババの弱み

しかし、タオバオ特価版は、アリババのECなので、スマホ決済はアリペイのみ対応で、テンセントのWeChatペイに対応していない。このWeChatペイに対応していないということが、タオバオ特価版の成長の限界を作ってしまっている。

なぜなら、アリペイは都市部での高額決済、WeChatペイは地方での少額決済に使われる傾向があり、激安商品を購入する層は、WeChatペイに慣れ親しんでいる。

また、WeChatペイはSNS「WeChat」の一機能であり、WeChatペイに対応するということは、SNS「WeChat」で商品情報が拡散することを意味している。知人からの口コミ情報が消費行動に大きく影響する地方では、この拡散力が大きい。

この問題を解決しない限り、タオバオ特価版はいつまで経っても、タオバオのサブブランドであり続け、拼多多に対抗するライバルにはなりようもない。

 

WeChatミニプログラムに対応するタオバオ特価版

しかし、そのことはアリババ自身がよくわかっているようだ。タオバオ特価版は、WeChatミニプログラムに対応することが報じられている。これはつまり、WeChatの拡散力を利用するということであり、WeChatペイの決済にも対応するということを意味している。長年激しい競争をしてきたアリババとテンセントが、部分的とは言え、手を結ぶことになる。

さらに、アリババはひっそりとある人事異動を発表した。阿里農業で「女性元老」と呼ばれているキーマン、黄愛珠(ホワン・アイジュー)氏を、タオバオ特価版の運営総経理に異動させた。これは明らかに、タオバオ特価版で、農産品を強化していくということだ。拼多多の得意分野である農産品販売で、タオバオ特価版は対抗をしようとしている。

同じスタートラインに立つことで、アリババはタオバオ特価版で、アクティブユーザー数首位の座を奪還しようとしている。