中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

短期間で急成長した快手、TikTokのライブコマース。鍵は私域流量の集め方

快手、中国版TikTok「抖音」のライブコマースが短期間で急成長をしている。鍵になっているのが、以前から人気のあった網紅が、コンテンツ内容にそった商品を販売していることだ。これにより、私域流量(プライベートトラフィック)を集めることで、高いリピート率が実現できていると野馬財経が報じた。

 

強い成長力を示すショートムービーのライブコマース

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)を運営するバイトダンスが香港市場に上場する準備に入ったという報道がされている。抖音は、ショートムービープラットフォームとして人気を集め、大きな広告収入をあげているが、2020年のライブコマースの流通総額は5000億元(約8.3兆円)と、EC収入も大きな収入源になってきている。

一方、抖音のライバルである「快手」(クワイショウ)もすでに香港市場に上場をしていて、2020年の財務報告書によると、収入は587.75億元(約9800億円)となり、2019年の391.20億元から50.2%も伸びた。

快手もライブコマースによるEC手数料が大きな収入源になってきている。2020年Q4では、EC手数料収入が85.1億元となり、全収入の47.0%を占めるようになっている。

ネットサービスのマネタイズ手法は、「EC」「広告」「ゲーム」の3つが主なものだが、快手はこのうちの2つ、ECと広告を手に入れたことになる。

 

劇的成長の理由は高いリピート率

面白いことに、快手は当初、ライブコマースのポテンシャルに気がついていなかったようだ。ライブコマースを始めたのも2018年からで、快手内にEC部門が設置されたのは2019年6月と遅かった。当初は、利用者からの要望が多かったので、EC機能を追加したという感覚だった。

ところが、2019年は596億元(約9900億円)となり、2020年には3812億元(約6.4兆円)と急激に伸びた。これは、海豚智庫によるECランキングで4位になっているEC「蘇寧易購」とほぼ同じ規模だ。つまり、アリババ、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドードー)に次ぐ規模のECサービスに成長している。しかし、蘇寧はこの規模になるのに10年かかっている。快手はわずか2年足らずで、中国5位以内に入る規模のECに成長をした。

その理由はリピート率の高さだ。2019年には45%であったものが、2020年には65%にまで伸びている。抖音でも同じ傾向があり、ショートムービープラットフォームによるライブコマースは、リピート率が非常に高くなっている。

 

人気の網紅が商品を売る成功法則

快手のライブコマースが始まった2018年、すでに象徴的な出来事が起きている。快手が初めてのライブコマースキャンペーンとセールを行ったところ、快手で人気になっていた網紅「散打哥」(サンダー兄貴)が日用品の販売を行い、期間中に1.6億元(約26.7億円)の売上を上げた。これは淘宝ライブで有名な網紅「薇」(ウェイヤー)が持っている「5時間で1.02億元」の記録を、期間が異なるとはいえ、売上の面では更新した。

散打哥は2014年頃から、快手で貧困問題をテーマにしたショートムービーを配信し続け、注目をされていた。多くの場合、貧困問題を解決するための寄付やボランティアを募るものだった。広東省からも正式に貧困問題エバンジェリストに任命され、現在は散打哥株式会社を設立し、ビジネスとして脱貧困に取り組んでいる。

ライブコマースでは日用品を販売しているが、それは貧困地区で製造された製品だったり、売上の一部が問題解決に使われるという交易活動でもある。そこが人気になっている。

快手、抖音のライブコマースで成功をしているのは、網紅(ワンホン、ネットの人気者)がライブコマースを始めたというパターンだ。すでにビジネスと関係なく、ムービーの配信で人気を集めていた網紅が、そのムービー内容に即した商品の販売を始めた場合、売上も上がるし、リピート率も高くなる。

f:id:tamakino:20210427104613p:plain

▲サンダルを売る散打哥のライブコマース。多くは貧困地区で生産された商品や売上の一部が貧困問題解決の資金として使われる。散打哥のライブコマースで商品を購入することが公益活動に直結している。

 

毎月の売上は25億円。お酒のライブコマースで成功する網紅

快手で、2020年に活躍した網紅は、呉一(ウーイー)だ。

呉一は、2004年に人民解放軍に入隊をして、四川大地震の救助活動に加わった英雄の一人だ。5年で除隊をすると、故郷の鄭州の酒蔵の社長と知り合いになり、醸造業の世界に入った。2011年には、河南省醸造協会から品酒師(ソムリエ)の資格を取った。

2018年に、快手のライブコマースが始まったが、酒のライブコマースはほとんど行われていないことに気がついた。中国では、偽ブランドの酒、劣悪な品質の酒が流通しているため、ECで酒を買う人は多くない。多くは信頼できる小売店で買うか、信頼できる飲食店で飲む。

呉一は、この状況を変えたかった。そのために、快手で質の高い酒の見分け方やお酒の楽しみを伝えるムービーを公開した。これが人気となり、呉一がライブコマースを販売すると多くのファンが購入をしたのだ。

呉一は、現在、河南省で酒の販売会社も経営し、200の小売店に酒をおろし、14000平米の倉庫を持つ会社の社長となっている。快手では、550万人のファンを獲得し、毎月のライブコマース売上は1.5億元(約25億円)になっている。

f:id:tamakino:20210427104624p:plain

酒類のライブコマースで成功した呉一。酒ソムリエの資格を持ち、以前から良質の酒飲み分け方などのムービーを配信をしていた。現在は、販売会社を設立し、ライブコマースの売上は毎月25億円になっている。

 

固定ファンを獲得する私域流量が注目される

中国のテック業界では、「公域流量と私域流量」という考え方がある。公域流量はウェブ広告や網紅からの流入だ。いわば、お金を出して買うトラフィックのことだ。一方の私域流量は自分の力で集めるトラフィックのことだ。オウンドメディアやSNSでの発信、ムービーでの発信などにより集める。

この考え方が注目をされているのは、公域流量(パブリックトラフィック)は規模が大きく、私域流量(プライベートトラフィック)は粘性が高いという特性からだ。粘性というのはリピート率が高いということで、固定ファンを多く作りやすいということだ。

PV(ページビュー)などの指標を単純に高めたいだけであれば公域流量を獲得する努力をすべきだが、ECなどでマネタイズをしてコンバージョンを高めたいのではれば私域流量に注目する必要がある。そこで、多くのテック企業が私域流量を高める手法を模索している。

 

私域流量がショートムービーライブコマースの強み

ショートムービーのライブコマースの場合、多くは、販売業者がライブコマースを主催する。網紅に販売を委託するのではなく、自分で販売をする。呉一のように、自分が情報発信をして、網紅となり、ライブコマースも行うケースが多く、私域流量を最大に活用して行われるECなのだ。

当初、快手はこの構造に気がついてなく、ライブコマースを始め、想像以上にうまくいくことが起こり、私域流量の強みに気がつき、ライブコマース事業を成長させてきた。バイトダンスの抖音は、最初から私域流量の強みに気がつき、ライブコマースを成長させてきた。

これがショートムービープラットフォームのライブコマースの強さになっている。すでに抖音のライブコマース流通総額は、第3位のEC「拼多多」と同じ規模になっている。わずか数年で、快手と抖音は、ECランキング5位以内に食い込むほど成功をした。20年という歴史がある中国のECに、大きな転換の時期が訪れている。