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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

TikTokがインドネシアでECサービスを開始。欧米での苦戦を受け、東南アジアに集中か

TikTokが、4月13日からインドネシアでEC機能をスタートさせる。すでに本家の中国版「抖音」(ドウイン)は、ECを始めていて、2020年の流通総額は5000億元(約8.4兆円)という驚異的な数字になっていると晩点が報じた。

 

ラマダン月はEC利用が急増する

4月は、イスラム教の国であるインドネシアではラマダン月にあたる。ラマダンは一般に断食の月と言われるが、インドネシアでは最もECが利用される1ヶ月でもある。日の出から日没までの間、飲食が禁止となるため、飲食店の営業が日没後の短い時間になり、それに合わせて商店も営業時間が短くなるため、ECの利用が増える。また、ラマダンの間に、プレゼントをし合う習慣があるため、ECでプレゼントを購入して贈り合うようになっている。

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▲すでにTikTokの本家中国では、ライブコマースを中心としたECの売上が急成長している。2020年の流通総額は5000億元を突破し、これは日本のアマゾンの3倍にあたる。

 

決済方式の対応に課題も

3月9日には、ライブコマースのテスト運用が行われた。この時の視聴者はピーク時1万人規模のものだった。TikTokインドネシアのライブコマース担当者は、晩点の取材に応えた。「最初のテスト運用としてはアクセス量はまずまずだったと思います。同時に、いくつもの問題点が見えてきました。最大の課題は、主流になっているスマホ決済「グラブペイ」と「OVA」に対応してなく、銀行デビットとDANAのみの対応だったことです」。

東南アジアでは、DANA、グラブペイ、OVOの3つが主流の決済方式になっている。

 

以前試みた越境ECは失敗

海外でECを展開するのは、決済方式の対応や物流網の整備などの問題があり、簡単なことではない。バイトダンスも当初は、越境ECを東南アジアに広げることでECの国際化を進めようとしていた。中国の製品を東南アジアで売るというものだ。TikTok内で「マゼランXYZ」というアカウント名で、中国の製品をインドネシアで販売する試みをすでに始めていた。しかし、2020年11月に、物流や関税などの問題が発生し、現在は停止をしている。

 

越境ではなく、TikTokを利用して現地のECを

その後、バイトダンスはTikTok ECの国際化を進める方向に舵を切った。現地の商品を、現地の物流で販売するという方向だ。この中心になっているのはTikTokシンガポールTikTok SG)で、東南アジア全体の調達や人事などのすべてを決定しているという。

2020年11月から、TikTok SGは、現地ECの環境づくりを行なってきて、約2ヶ月で商店、プラットフォーム、インフルエンサーなどの環境を整えたが、難航しているのが決済方式の問題だ。

決済に対応するには、シンガポール金融管理局から免許を取得する必要があるが、この審査は慎重に行われるため、すべての決済方式に対応することが間に合わなかった。バイトダンスが、行政機関の速度よりも早くものごとを進めてしまうため、このような事態となった。

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▲ライブコマースだけでなく、商品で検索をしても商品が購入できる。商品はすべてムービーで紹介されている。

 

欧米で苦戦するTikTok ECは東南アジアにフォーカス

TikTokインドネシアによると、現在のところ物流総額の目標値などは定めてくなく、まずは多くの商店、インフルエンサーに参加をしてもらい、商品の幅を広げ、ライブコマースという新しい習慣をインドネシアで広めていくことが最初の目標になっているという。

TikTokはイギリスでもECを開始する準備を始めているが、EUのルールは厳格であり、インドネシアと比べると進捗が遅れている。現在は、イギリス国内のECのリンクに飛ばす形で、手数料をもらうという形のECの実施にとどまっている。

米国では2020年12月から、ウォルマートと提携して、TikTok上でのライブコマースを始めている。10人のインフルエンサーウォルマートの商品を紹介してもらうライブコマース形式のものだった。この10人のインフルエンサーのうち2人は、TikTok内で1000万人以上のファンを獲得しているトップインフルエンサーだったが、ライブコマースの視聴者はわずか2万人に留まっている。ライブコマースで商品を購入するという習慣が定着をしていないことが原因だ。TikTokは、今後もウォルマートと提携をして、ライブコマースを続けていきたいとしている。

欧米で苦戦する中、インドネシアでライブコマースが定着をすれば、東南アジア全体に広がるのは早い。東南アジアからTikTok ECが広がっていくことになるかもしれない。