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タオバオがテンセントのWeChatペイに対応。苦しくなるアリババの優位性

淘宝網のサブブランドECである「タオバオ特価版」が、ライバルであるテンセントのWeChatペイに対応をする。ECを運営する上で、SNSの商品情報拡散力が必須になる中、SNSを持っていないアリババが、WeChatミニプログラムへの対応を決めた。これにより、排他的な二者択一状態にも変化が起きると見られていると支付百科が報じた。

 

進むアリババとテンセントの二者択一

二大スマホ決済、アリババの「アリペイ」とテンセントの「WeChatペイ」は、互いに競い合いながら成長し、市場を拡大し、中国の生活を変えてきたが、その一方で、「二選一」(二者択一)と呼ばれる弊害ももたらしてきた。

アリババ系のサービスはアリペイしか対応せず、WeChatペイに対応していない。テンセント系のサービスはWeChatペイにしか対応せず、アリペイには対応しない。消費者は、2つの決済サービスの両方を使い、サービスによって使い分けなければならない。

これが、アリババ、テンセントが直接行っているサービスならまだしも、両社が出資しているサービスになると、普通の消費者は戸惑うことになる。例えば、生活サービスプラットフォームの「美団」(メイトワン)は、テンセントの資本が投入されていることもあり、アリペイへの対応をやめ、WeChatペイのみの対応となった。しかし、一般の消費者にとっては、テンセントが美団に投資をしているかどうかということはサービスを使う上では意識することはない。

 

タオバオがWeChatペイに対応

ところが、この二選一状態が崩れるかもしれない。アリババの淘宝網タオバオ)がテンセントのWeChatペイに対応することが判明したのだ。

正確に言うと、タオバオ本体ではなく、サブブランドECの「タオバオ特価版」がWeChatペイの決済に対応をする。これは、ECの領域におけるアリババの圧倒的な優位性にも翳りが見え、アリババもライバルたちと同じフィールドで戦わなければならなくなっていることを示している。

ひとつの要因は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の躍進だ。拼多多は、地方企業が製造した低価格製品を地方市場に販売するという下沈市場(地方と低所得者層)に特化をすることで成功し、都市と中所得者層に拡大をしてきた。そのセールスポイントはとにかく安いというもので、現在は、iPhone12や電気自動車の宏光MINI EVを、抽選とは言え、9.9元(約160円)で販売するというキャンペーンを行って話題になっている。

安さで消費者の心をつかみ、2021年の春節キャンペーンでは、日間アクティブユーザー数(DAU)が2.59億人となり、タオバオの2.37億人を抜き、初めて首位に立った。2020年の年間アクティブユーザー数も7.31億人となり、タオバオの7.57億人に迫っている。

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タオバオ特価版(上)と拼多多(下)。アプリの作りは非常によく似ている。タオバオ特価版は、拼多多に対抗するために、2020年3月に始まったタオバオのサブブランドEC。

 

拼多多に対抗するアリババの「タオバオ特価版」

そこで、アリババが対抗策として打ち出したのが「タオバオ特価版」だ。拼多多と同じように地方企業を活用し、生活用品を激安価格で販売をする。

しかし、拼多多の成功は、安さだけはない。SNS「WeChat」と連動をして、商品情報が拡散をすることも大きな要因になっている。団体購入という仕組みをうまく活用して、商品情報を拡散すればするほど安く買える。そのため、地方企業にとってはいちばん苦手な商品プロモーションの負担が減る。これにより、販売価格を安くできる。つまり、SNSと連携することにより成立しているECなのだ。

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▲販売されている商品や価格帯もタオバオ特価版(上)と拼多多(下)ではほぼ同じ。ただし、アリババはSNSを持っていないので、商品情報の拡散力に弱みがある。そのため、今回のWeChatミニプログラム対応になったと見られている。

 

タオバオ特価版もWeChatの拡散力を活用

アリババの最大の弱点は、SNSを持っていないことだ。過去に何度もSNSをリリースしてきたが、WeChat並みに広がるSNSに育てることはできなかった。タオバオ特価版は、価格面では拼多多に対抗できているように見えて、SNSと連動するという本質の部分で、拼多多に対抗できていない。

そこで、アリババが選んだのが、WeChatミニプログラムだ。WeChatミニプログラムは、WeChat内のアプリ内アプリのようなもの(実態はウェブアプリ)で、アプリとほぼ同じことができるが、インストール不要、アカウント登録不要、決済方式設定不要で、すぐにECやモバイルオーダーなどのサービスが利用できる。生活系サービスでは、独自のアプリ配布から、ミニプログラムへの移行が始まっている。

各ミニプログラムは、WeChatのアカウントで自動ログインされ、決済も自動的にWeChatペイで行われる。

SNSを持っていないタオバオ特価版は、アプリの他に、このWeChatミニプログラムに対応する道を選んだ。これでSNSで商品情報が拡散するようになり、拼多多に対抗することができる。しかし、決済方式は自動的にWeChatペイということになる。また、アプリ版のタオバオ特価版もWeChatペイに対応することになると見られている。

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▲各都市で試験運用が始まっているデジタル人民元。これにより、アリペイとWeChatペイのライバル構造にも変化が起きている。

 

転換期を迎えたスマホ決済

これはスマホ決済にとって大きな転換点になる。なぜなら、アリペイというのはそそもそもタオバオの決済方式として生まれ、成長をしてきた。そのアリババの原点ともいえるタオバオがWeChatペイに対応することになる。

消費者は歓迎をしている。二選一の煩わしい状況が解消されていくことになるからだ。アリババがこのような決断をしたのには、デジタル人民元の存在が大きいと言われる。デジタル人民元は、最終的にはすべての商店、すべてのネットサービスが対応をすることになるので、アリペイとWeChatペイが、機能の競争をするならともかく、排他的な二選一を続けていくと、スマホ決済の時代が終わり、デジタル人民元ひとつに絞られるということにもなりかねない。スマホ決済は、デジタル人民元にはないウォレットとしての機能による利便性をより高めていく必要がある。

タオバオ特価版のWeChatペイ対応も、そのような流れのひとつだと見られている。