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壁の向こう側の物体をイメージングする。1.43kmの長距離非視線イメージングに、中国科学技術大学のチームが成功

中国科学技術大学の潘建偉のチームが、1.43kmという長距離の非視線イメージングに成功した。論文は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。この技術は、自動運転や医療、軍事などに応用が期待されていると科技日報が報じた。

 

壁に隠れた物体をイメージングする非視線イメージング

非視線イメージングとは、壁などの遮蔽物があって、直接目視できない物体の姿をイメージングする技術。簡単に言えば、壁の向こう側にあるものを見ることができる。自動運転などでは、交差点で、建築物の影にいる車両、歩行者を認識できるようになる。

さまざまな研究チームが、さまざまな手法で、非視線イメージングの技術開発を行なっているが、実験室内の短距離での成功例はあるものの、1.43kmという長距離で屋外の非視線イメージングに成功した例はこれが初めてとなる。

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▲A図のように、1.43km離れた建物の室内にある物体の非視線イメージングに成功した。C図のように、仲介する壁にレーザー光を発射して、反射光を測定し、壁に隠れた物体のイメージングを行う。

 

仲介の壁に反射させ、物体をイメージングする

壁の向こう側にある物体をイメージングするといっても、壁を透視するわけではない。仲介となる壁が必要になる。まず、レーザーをこの仲介となる壁に向かって発射する。レーザーは壁に反射して、目標の物体に届く。目標の物体は、レーザーを反射して、仲介の壁に戻り、さらに反射をして、発射位置に戻ってくる。

この戻ってきたレーザー光の時間差から、壁の向こうにある目標物体の形状を推測する。レーザー光は仲介の壁の1点にあてるのではなく、スキャンをするように満遍なくあてることになる。

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▲さまざまなイメージング手法との比較。右端の人型とH型が目標物体。その隣の「Ours」が研究チームのイメージング結果。

 

レーザー光の減衰と散乱が最大の課題だった

原理は簡単だが、実際に実用レベルにするのは簡単ではない。レーザー光は3回も反射をして戻ってくることになるので、大きく減衰してしまう。さらに、1.43kmもの空中を飛ぶことになるので、空中の粒子により散乱をする。このような実用上の問題を解決することが研究の大きな課題になった。

レーザーの光学系の技術開発も必要だったが、イメージングアルゴリズムの開発も重要だったという。

技術的な詳細は、米国科学アカデミー紀要に掲載された「Non-line-of-sight imaging over 1.43km」に解説されている(https://www.pnas.org/content/118/10/e2024468118/tab-figures-data)。

また、研究チームが作成した技術概要の動画も公開されている(https://movie-usa.glencoesoftware.com/video/10.1073/pnas.2024468118/video-1