中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ネットの中心はテキストからショートムービーへ。始まりつつある大変化

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インターネットは、そのあり方が大きく変わるかもしれません。インターネットの重要な変化は、過去2回ありました。1回目は、1989年の商用利用の開始です。これでECを前提にしたウェブブラウザーMosaic」が登場して、ウェブ時代が始まります。

次の変化が2007年のiPhoneの登場です。これでインターネットのメインストリームは、ウェブからモバイルウェブやアプリに移りました。そして、今、ウェブからコンテンツ、より正確に言うと、テキストからショートムービーに移り始める可能性が出てきました。

 

そのきっかけになったのが、2021年2月17日に、バイトダンスの張楠(ジャン・ナン)CEOの、ニュースキュレーションアプリ「今日頭条」での発言です。この発言に、中国のエンジニアたちは注目をしています。それは、バイトダンスがショートムービー用の検索エンジンの開発を始めるというものです。

張楠CEOは、こう語りました。「この数年、社会の表現、創作の多くがムービーになりました。情報に直接アクセスする方法としての検索もムービー対応が進んでいます。2018年5月に、抖音(ドウイン、中国版TikTok)に最初の検索機能をリリースしました。現在、抖音の検索機能の月間アクティブユーザー数(MAU)はすでに5.5億人を超えています。多くの方が、知りたいことがある時には、抖音を開き、ムービーを検索するようになっているのです。

私はかつて、抖音を人類文明のムービー百科全書にしたいと言ったことがあります。ムービー検索は、この百科全書の索引であり、答えを探したり、新たな知識への入口となるものです。

もちろん、ムービー検索を開発するのは簡単なことではありません。これからの1年、抖音は検索エンジンの開発に全力を投入します。ムービー検索に興味のある研究開発、プロダクトマネージャー、運営の方が参加してくれることを歓迎します!また、みなさんも抖音の検索機能を使ってみて、たくさんのご意見をください!」

 

バイトダンスのエンジニアはもちろん、他社のエンジニアもこの発言に反応しています。「バイトダンスがいよいよ動くのか」という反応です。

バイトダンスはTikTokが有名になりすぎましたが、その前のプロダクト「今日頭条」が中国で大成功をして、成長の礎を築きました。今日頭条は、読みたいと思っているニュースがどんどん配信されるニュースキュレーションアプリですが、どのニュースを配信するかというキュレーション作業に人は介在していません。すべて人工知能が決めています。ニュース記事の内容を分析し、利用者がどのような傾向のニュースを読むのかを機械学習し、配信するニュース記事を決めています。このアルゴリズムを開発するときも、ジャーナリズムの専門家はひとりもいませんでした。すべて、ジャーナリズムには素人のAIエンジニアが開発しました。

それが、「読みたいニュースが無限に出てくる」ニュースアプリとして、多くの人に歓迎されたのです。

 

これは大きな転換でした。ジャーナリズムの専門家であるジャーナリストやエディターが配信するニュースを決めていたら、どうやっても、その人の個性や考え方が反映され、ニュース内容に偏りが生まれてしまいます。場合によっては、偏向メディアとして非難されることもあれば、その偏向ぶりがメディアの個性として受け入れられることもあります。

一方で、今日頭条は、利用者に偏向します。その人が国際政治のニュースばかりを読む人であれば、国際政治のニュースが大量に配信され、その人が芸能人のスキャンダル記事ばかりを読む人であれば、芸能週刊誌のような記事ばかりが配信されるようになります。今日頭条というメディアに個性はなく、無色透明で、使う本人の個性が色濃く反映されるのです。

メディアとは、本来「情報伝達の媒体」という意味ですが、影響力を持つようになると、媒体が意見を主張するようになりました。意見を表明することはかまいません。しかし、偏向がないはずの事実報道の形式を装い、特定の意見に世論を誘導しようとするのは許されないことです。そのため、新聞メディアは、事実報道である記事と、意見表明である社説を分離しています。しかし、それでも、人間が書き、人間が選ぶため、どうしても事実報道も偏向してしまうのです。

今日頭条は、記事内容までは無理でも、どのニュースを配信するか=編集をメディア本来の形に戻しました。

 

抖音も基本的に同じ人工知能アルゴリズムが使われています。これにより、「見たいムービーが無限に出てくる」状態となり、抖音は中国で、その国際版であるTikTokは世界中で受け入れられました。

抖音の現在の検索機能は特筆するようなところはありません。ハッシュタグのテキストが検索できることと、後はムービーをアップロードする時に、ムービーの中に写っている物体認識を行なっているので、ムービーに登場する物体の名称で検索できているようです。この辺りの仕組みは非公開であるため、わからないところが多いですが、犬や車という名詞で検索をすると、ちゃんと犬や車のムービーが検索結果として表示されます。

張楠CEOが呼びかけたムービー検索エンジンは、このレベルのものではないことは明らかです。では、どのようなものなのかと言われると想像もつきません。ムービーや音楽もそうですが、そのコンテンツに付属したハッシュタグやタイトル、キャプションなどのテキストを検索することはできますが、ムービーそのものを検索する方法はまだ確立されていません。バイトダンスは、ここに挑戦しようとしていると見るのが一般的で、だからこそ、中国のエンジニアたちは注目をしているのです。

 

では、なぜ、ムービーを直接検索できる検索エンジンが必要なのでしょうか。それは、インターネットの中心コンテンツがテキストからショートムービーに移り始めているからです。

古い時代の百科事典は、テキストベースのウィキペディアでしたが、今後、新しい時代の百科事典は、張楠CEOが言うように、抖音などのショートムービープラットフォームになる可能性があります。

それは、あまりにもショートムービーを過大評価しすぎなのでは?と感じられる方もいらっしゃるかと思います。しかし、あらゆる指標が、テキストの終焉を指し示し、次世代はショートムービーになることを示唆しています。インターネットは、商用化、モバイル化の次の革命的な変化として、ショートムービー化が起こる可能性は高いと思います。

と、私個人が主張するだけでは説得力がありませんので、どのような指標がショートムービー化を指し示しているのかをご紹介します。今回は、インターネットのショートムービー化についてご紹介します。

 

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