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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

東南アジアで、EC「ショッピー」が躍進。アリババ傘下のラザダは苦しい立場に

アリババの牙城が揺らいでいる。春節期間、淘宝網はDAUで、拼多多に初めて抜かれ、首位の座から陥落をした。東南アジアでも、アリババが投資をするラザダが、新興のEC「ショッピー」に苦戦をしている。アリババは、中国でも東南アジアでも苦しい立場になりつつあると晩点LatePostが報じた。

 

デイリーアクティブでタオバオを抜いた拼多多

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の春節1日目と2日目の平均DAU(日間アクティブユーザー数)が2.59億人となり、アリババの淘宝網タオバオ)の2.37億人を抜き、初めて首位に立った。YAU(年間アクティブユーザー数)も拼多多は7.31億人となり、タオバオの7.57億人に迫っている。

中国のEC大手と言えば、長い間、タオバオと天猫(Tモール)を運営するアリババと京東(ジンドン)の2つだったが、そこに2015年に創業した拼多多が割って入り、トップのタオバオすら脅かそうとしている。

拼多多を創業したのは、元グーグルに勤めていた黄崢(ホワン・ジェン)。浙江大学を卒業後、ウィスコンシン大学マジソン校に留学、卒業後、グーグルに入社した。グーグル中国の設立に伴い、中国に帰国し、離職後、拼多多を創業した。その拼多多がアリババを脅かしている。

 

海外経験のある中国人が創業したショッピー

東南アジアでもまったく同じことが起きている。2015年に、アリババは東南アジアでトップのECだったLazada(ラザダ)に投資。その後、創業者の馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)は、アリペイ、アントグループなどで活躍した懐刀の彭蕾(ポン・レイ)を統括CEOとして送り込み、張勇(ジャン・ヨン)CEOは、月に1回は5時間をかけてシンガポールに飛び、会議をするという力の入れようだ。

しかし、同じ2015年に、上海交通大学を卒業し、スタンフォード大学に留学したシンガポールの華僑であるフォレスト・リーが、オンラインゲーム企業SEAを創業。EC部門としてShopee(ショッピー)をスタートさせた。拼多多の創業者、黄崢と同じように、海外留学、海外勤務の経験がある中国人による創業だ。しかも、2人ともテンセントの投資を受け、成長をしてきた。

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▲EC価格比較サイトiPriceでのインドネシアでの各ECの閲覧数の推移。コロナ前からショッピーの成長が見え始め、コロナ禍の間にラザダに大きく差をつけている。

 

中国と東南アジアで追い上げられるアリババ

2020年のショッピーの流通総額は354億ドル(約3.9兆円)に達し、東南アジアEC市場でのシェアは57%となった。親会社であるSEAの市場価値も1300億ドル(約14.3兆円)に達しようとしている。

アリババは、中国でも拼多多の追い上げに対応せざるを得なくなっているが、東南アジアでもショッピーの追い上げに対応せざるを得なくなっている。

2003年に、タオバオがスタートしたとき、アマゾンが中国の卓越網を買収する形で中国に進出し、誰もがアマゾンが中国を制すると見ていた。タオバオはゲリラ戦でそれをひっくり返して、中国最大のECとなった。今度は、アリババがひっくり返される方の立場に立たされている。それも中国でも東南アジアでもだ。

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▲ラザダとショッピーのアクセス数の推移。2019年Q2あたりから差がつき始めている。コロナ禍期間、ショッピーは伸びているのに、ラザダは減少をしている。

 

アリババの海外進出の一歩となったラザダ

2014年に、アリババが上場したとき、ジャック・マーは「アリババは10年以内に収入の半分を海外からのものにする」と発言し、アリババの海外進出はここから始まっている。

アリババにとっての海外市場とは東南アジアだった。中国から近く、経済発展の速度も上昇中だ。そこで、アリババが目をつけたのが、2012年にシンガポールで創業したラザダだった。ラザダは、ドイツのインキュベーター「Rocket Internet」から生まれた。Rocket Internetは、コピー工場とも揶揄されることもあるインキュベーターだ。シリコンバレーで成功したビジネスをそっくりコピーして、米国以外の市場で展開をするという手法で成長してきた。ラザダはアマゾンのコピーだった。

しかし、それでも東南アジア市場で成功し、2015年には流通総額が13億ドルを突破した。当時、最大シェアを持っていたTokopediaを抜き、最大のECとなった。その後、アリババが20億ドル規模の投資を行なった。

 

ラザダの内部混乱の隙に成長したショッピー

2018年に、彭蕾がCEOとして赴任をすると、ラザダの内部構造の大転換が始まった。それまで経営層の多くは欧州人だった。彭蕾は、ラザダの重要な地位をアリババ出身の中国人に変えていった。それが欧州人経営者の不満となり、大量離職が起こり、結局、ラザダは中国企業であるかのようになった。

社内の公用語も問題となった。ラザダでは他のシンガポール企業と同じように、自然に英語が社内公用語になっていた。しかし、中国から舞い降りてきた中国人経営者の多くは英語が不得手で、しかも、英語が話せる者もあえて中国語を使った。これがスタッフとの軋轢を生んだ。後に、彭蕾は考えを改め、ラザダの重要な職位にアリババから招聘するときは、英語が話せることを条件とするようになった。

このような混乱で、ラザダは一時期、停滞をする。その隙を縫うようにして、ショッピーが成長した。

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▲ラザダ各国の歴任責任者。中国人が多く、アリババ傘下の中国企業と言ってもいい状況が生まれている。現在は、グローバル化に転換する方向になっている。

 

焦点となっているインドネシア市場で成功したショッピー

ショッピーの成長戦略はプロモーションだった。2017年末から、東南アジアのバス停、高速道路に屋外広告を大量投入し、2018年になって、ラザダが混乱しているのを見ると、東南アジア各国の著名人、インフルエンサーを活用して、大々的なプロモーションを行った。

特に重要だったのがインドネシアだった。インドネシアの人口は2.6億人。東南アジアの人口の40%を占めている。しかも、半分が30歳以下という若者の国で、平均月収も1500元(約2.5万円)を超えてきている。一方で、国内の製造業は成長途上にあり、国内ではこのような市民の需要を満たすことができない。

ショッピーは、このインドネシアで、激安価格商品で攻勢した。99ルピア(0.75円)の化粧品、日用雑貨、玩具。さらに、999ルピア(7.55円)の韓国製フェイシャルパックなどだ。これでインドネシアのシェアを握った。

激安価格で、シェアを拡大するという点でも、拼多多によく似ている。2019年Q1には、アプリダウンロード数、MAU(月間アクティブユーザー数)、リピート率などで、ショッピーはラザダを抜いた。

 

最高責任者が現地にいないラザダ、現地にいるショッピー

2018年9月に、彭蕾はラザダのCEOを辞任し、会長に就任をした。後任のCEOには、フランス人のピエール・ポイニヨンが就任した。しかし、最終決定権を持っているのは、アリババCEOの張勇だ。

張勇は月に1回シンガポールに行き、2日間の会議を行う。この会議室には、7カ国のラザダのCEOが集まり、グループ全体での意思決定が行われる。つまり、ラザダの最高権力を持つ人物は、1ヶ月のうち、2日しか東南アジアにいない。しかも、その2日間の多くの時間は会議室とホテルで費やされる。一方、ショッピーのCEOは24時間、毎日、東南アジアにいる。

その象徴的な事件が、ラザダベトナムでのトイレットペーパーの大セールスの失敗だった。ラザダベトナムでは、中国製のトイレットペーパーが安く仕入れられるルートを確保したため、大々的に販売をした。しかし、ベトナム人の多くはトイレットペーパーを使わない。トイレにシャワーホースが設置されていて、水で洗うのが一般的なのだ。ホテルやショッピングセンターなどでは、トイレットペーパー方式のトイレも増えているが、多くのベトナム人は水で洗う方が清潔だと考えている。そのため、トイレットペーパーの需要そのものがきわめて特殊で小さいのだ。ラザダベトナムの経営陣はこの文化的な違いを知らなかった。

 

アリババは挑戦する企業から挑戦される企業になった

もちろん、アリババが支援するラザダの物量、物流は圧倒的だ。しかし、ECは消費者との接点で、いかに消費者の購入欲求を引き出すかが売上の源泉になる。東南アジアでも被害は小さくても新型コロナの感染拡大が起こり、市民は不要不急の外出を控えるようになっている。ショッピーは、この流れに乗って、業績を急成長させている。一方、アリババが支援するラザダは微増、あるいは減少をしている。タオバオが、SARSによる感染拡大で急成長をしたことを考えると、皮肉な結果になっている。

アリババの海外戦略は、ショッピーという伏兵により、苦境に立たされている。