中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

春節は帰郷せず、会社で996。休まず働く7人の2021年春節

春節は1週間の休みとなり、多くの人が実家に帰って家族ですごすのが例年だ。しかし、今年はコロナ禍があり、感染予防の観点から、帰郷せずに現在地で年越しをすることが奨励された。実家に帰らないのであれば、家にいても仕方がない。出社をして996(午前9時から午後9時まで週6日間、長時間労働の例え)をする人が増えている。深燃財経はそのような7人の人に話を聞いた。

 

鄒明:スタートアップ企業CEO。35歳

10年以上仕事をしていますが、毎年、どんなに忙しくても、どんなにチケットを取るのが大変でも春節には故郷に帰っています。今年も帰ろうと思っていました。でも、政策を見ると、今年は帰郷して戻ってきた後14日間の自宅での待機が求められると言います。でも、休みは7日しかありません。それで帰郷するのをあきらめました。

10年ほど北京で働いた後、2020年に広州にきて起業をしました。起業をすると働き方は996以上で、特に今は開発期なので従業員を雇用せず、2人の創業メンバーと春節の間もずっとコードを書きます。なんとかして、ミニプログラムの第1版を完成させたいと思います。

この起業では、オーナーがお金を出してくれ、私には2年間の時間が与えられました。春節の間、働いてくれる2人にはじゅうぶんな報酬を出したいと思います。

以前は春節に帰郷するというのは当たり前のことでした。2014年、私は企業に勤めていて、チケットを買うのも大変で、北京から実家のある甘粛省に帰るのに、乗り継ぎをしなければ帰れませんでした。まず保定までのバスに乗りましたが、バスは満員で、乗務員が制止をしましたが、無理やり乗り込むしかなかったのです。当時、私の給料は悪くなく、普通であればこんな悪条件の移動をすることはありません。それでも、実家に帰るには他に方法がなかったのです。

北京から自分の車で実家に帰ったこともあります。15時間も車を運転しなければなりません。高速道路では事故がいくつも起こり、ひとつの事故渋滞が数時間も続きます。実家にたどり着いた時は、大晦日の午前0時になっていました。あまりに遅いので、私の両親は村の入り口まで出て待っていました。夜はものすごく冷え込むのに心配をしてくれたのです。

今年は帰らないと連絡すると、両親は何も言いませんでしたが、がっかりしているようでした。毎年、おいしいものをたくさん用意してくれ、私が帰るまで食べずに待っているような両親です。なんともつらい気持ちになりました。食の都広州にきて以来、広州のおいしい料理をたくさん食べましたが、それでも食べたくなるのが実家のご飯なのです。

悪夢で始まった2020年は、996年越しで終わりました。今年はコロナ禍が完全になくなって、マスクを外して思いっきり息を吸いたいと思います。

f:id:tamakino:20210302121208j:plain

▲例年であれば、実家に帰るチケットを取るのもたいへんで、交通機関は大混雑をする。それでも、実家に帰るのが春節の習慣だった。

 

李大斉。映画館支配人、26歳

私は江西省で生まれ、湖南省で映画館の支配人をしています。春節休みの間は、毎年996になります。毎年、春節の前の週に帰郷し、春節の前日に仕事に戻ります。今年は春節に帰郷をしないことが奨励されたので、1月の間にいったん実家に戻り、それ以来春節までずっと仕事をしています。今年は半年間ほとんど仕事にならなかったので、春節でなんとか巻き返そうと思っています。

例年、春節の7日間の休みは戦争のようになります。大勢のお客さんがやってきて、ポップコーンとコーラが大量に売れます。2019年の春節には、水を飲む時間もないほど忙しく、夜10時までコーラ1杯で休みなく働きました。

今年の春節はどうなるかわかりませんが、例年よりは観客は少なくならざるを得ません。実家から戻った時に、駅から家までタクシーに乗りましたが、運転手も明らかに人出が少ないと言っていました。

それでも春節休みの掻き入れ時に向けて準備を進めています。いつもは午後1時に出社ですが、1月20日からは春節の準備があるため午前11時出社となり、春節になると午前8時半に出社し、深夜1時までの勤務となります。これが、元宵節まで15日間連続することになります。従業員も毎年、この時期に忙しくなることは納得をしています。

今年は、入場料売上も期待できず、当局の指導により販売できない飲食品もあります。そのため、プリペイドカードのチャージ、会員カードの販売に力を入れて、現金収入を少しでも確保する必要があります。それでも、開館できないよりできた方がずっとましです。特に目標は定めていませんが、例年の8割ぐらいの売上が確保できれば上出来だと思っています。それでも、北京の映画館の入りは50%以下だと聞き、心配をしています。それでもまた営業自粛になるよりずっといい。早くコロナ禍の不安がなくなって、多くの人が映画を観にくるようになっていただきたいです。

f:id:tamakino:20210302121211j:plain

▲実家に帰ると家族全員で食事をするのが何よりの楽しみになっている。現役世代は小さな子どもを両親に預けて都市で働いている人も多い。春節は自分の子どもとすごせる貴重な時間になっている。

 

徐飛。酒タバコ店主人、31歳

今年は「現地で年越し」と言われていますが、私の場合は「店で年越し」です。昨年、私は酒タバコ店を起業しました。人から見れば、小さな酒タバコ店の店主です。

お店は朝8時に開き、夜9時までの13時間の営業です。配達をする時以外はずっと店にいます。従業員は1人いますが、彼女は夕方6時までの勤務なので、それから後は私1人になります。

帰郷をすると、戻ってからホテルでの14日間の自己隔離が必要になります。宿泊費は自分もちです。そのため、私は北京にいることにし、帰郷するのをあきらめました。感染はほとんど収まっているので、家にいても仕方がないので、今年は店で年越しをすることにしました。春節の間は、酒とタバコの需要が大きく、24時間営業にすることにしたのです。

去年の春節は感染拡大もあり、私は起業したばかりで経験がなく、商売はさんざんな結果となりました。今年の春節がどうなるかはわかりませんが、仕事をしようと思います。

店主に996なんて関係ありません。あれは従業員の話です。商売の調子がよければ996どころか007(午前0時から午前0時まで7日間)でもありがたいほどです。店には小さな事務室があるので、客足が途絶えたところで仮眠を取ればいいのです。

昨年の春節では、店を開ける準備をしていたところ、感染拡大が始まり、店を開けられるかどうかがわからなくなりました。家にいてもすることはなく焦るばかりです。店主というのは、時間もお金もすべて自分もちなのです。無駄な時間とお金を使うことはできません。

店にいて、従業員が帰り1人になると、それが私の自分時間です。そこで本を読み、考えごとをします。外がいくら賑やかでも、私は一人で店の中で仕事をする。それが店主だと思います。他の店主も同じような気持ちではないでしょうか。

 

揚帆。人材企業創業者、36歳

「帰郷せずに現在地で年越し」というのは私にとっては福音です。今年の企業業績はいいとは言えず、創業者として成功もしていないのに故郷に帰ることはできません。帰れば、大勢の人から会社はどうだ、北京の景気はどうだと聞かれることになり、プレッシャーを感じるばかりになります。北京にいて、現実から逃避をして、気持ちを落ち着けて年越しができる。政府が帰郷をしない理由を作ってくれました。

以前の業績は良好でした。そのため、春節には帰郷をし、親戚にお年玉を配り、多くの人を食事に招き、大盤振る舞いをしていました。でも、今年はとてもそんなことができない。北京でじっとしているしかありません。同業の経営者も帰郷をする人はいないようです。

この一年は、ほとんどの顧客企業で業績の縮小が起こりました。従業員は減らされるばかりで、大手企業でも高級人材の求人が大幅に減少しています。ある企業では、人材はほしいが、それに応じる報酬を払えないというところもあるほどです。人材の流動性は失われ、この数年で新設された職種の求人が停止されるだけでなく、以前からの職種でも求人が大幅に減少しています。

一般的に人材企業は死亡率が低いと言われ、従業員を増やしてきましたが、正直抱えきれなくなっています。以前は事業拡大のために増員が必要になって、私たちに依頼をしてくる企業がほとんどでしたが、現在は、事業で発生した課題を解決するために優秀な経験者を少数求める企業が増えています。しかし、そんな人材はすぐに見つからないため、多くの企業が癌末期のような状態で、それにつれて私たちの企業も業績が悪化しています。

経営基盤がしっかりとしている人材企業でも存続が危ぶまれるようになっています。起業して7年、事業がうまくいかない時期もありましたが、この冬はあまりにも長すぎます。2019年末から現在まで、すべての業種で業績が好転する兆しがなく、ここまで危機感を持ったことはかつてありませんでした。

2020年にも人材紹介の成功例はあります。しかし、さまざまな問題が発生して、実行される例は多くはありません。そのような経験が、自分に働き方を考えさせるようになりました。

以前は、SOHO(フリーランスノマドワーカー)を気取って、オフィスにいることはなく、あちこちのカフェで仕事をしていました。今では、ずっとオフィスにいます。オフィスで、製品やサービス、従業員のことをじっくりと考えるようになりました。

焦ってみても意味がないことはわかっています。春節の休みの期間は、今後どうすれば事業が盛り返せるかを考える期間にしたいと思っています。

現在の最大の心配は、会社を失って、テック業界では老人とも言える35歳で失業者になることです。私たちの企業で紹介をしている人材も同じような不安を持っているはずで、そういう人材同時で互助組織のような仕組みを作り、ビジネス化できないかと考えるようになっています。春節の間にうまい仕組みを思いつけなければ、オフィスに行って別のアイディアを考えようと思っています。

 

温蕾。地方新聞紙記者、32歳

大きな祝祭日の時期は、いつも1日5本は記事を書かなければなりません。国慶節は7日間で35本、元旦は3日で15本。今年の春節は、7日間で何本の原稿を私は書くことになるのでしょうか。今年は多くの同僚が帰郷せずに、現地で春節をすごします。そのため、編集長は今までにない素材を拾ってこいと言います。

私はいつもPCを持っていて、街で見かけたものをすぐに原稿にできるようにしています。ある年の春節では、私たち夫婦は海外に行き春節をすごしました。サッカーの試合を見に行く途中で、編集長から連絡があって、すぐに原稿を書いてほしいと言われました。私はすぐにカフェに入って、原稿を書いたのです。

私と夫の結婚記念日には、素敵なレストランで食事をしていたのですが、前菜が出された時に編集長から連絡があり、原稿を書いてくれと言います。仕方なく、家に戻って、パソコンを起動し、原稿を書きました。夫は、冗談まじりに、恋愛時代に私がこんな忙しかったら、結婚することはなかったと思うと言ったことがあります。

私は給料をもらうジャーナリストなので、このような環境に不平を言うことはできないと思っています。それでも原稿を書き上げると、大きなため息が出て、ライブコマースを見て衝動買いをしてしまいます。今の仕事をして5年、だんだん麻痺をしてきていることがわかります。同じようなテーマの原稿ばかり書いていて、新鮮さはなく、面白みもなく、達成感もありません。

今年は帰郷が難しいので、両親とクラウド会食をする予定です。どのようにするか、夫とまだ相談もできず、私には書かなければならない原稿ばかりが溜まっていきます。今年に期待をするのは、事件が少しでも起こらないことです。ただ、それだけを願っています。

 

閔鴻蒙。30歳、東昊汽車エリアマネージャー

勤続4年目ですが、今年は帰郷をしない春節が奨励されているため、春節前に1週間の休暇をもらい、春節期間は出社をします。同じように出社をするスタッフも多いので、一緒に年越しの食事をする予定です。

私の仕事は普段から相当に忙しいです。東昊汽車は全国展開をする自動車販売店舗チェーンで、私は百数十店の管理をしています。毎日、販売店のデータを整理、分析し、突発事態に対応をします。

年末は相当に忙しくなります。なぜなら、この期間に洗車、保険、修理などで訪れるお客様が多いので、大晦日の深夜まで忙しい状態が続きます。

春節期間は、救援チームが大忙しになります。ならぜな、お客様が車で行楽地に出かけるため、故障車や事故も増えるからです。

今年は自ら業務時間の延長を志願しました。上海で大学に通っていた時、3年連続して実家に帰らなかったのですが、勉学に励んでいると、両親はかえって喜んでくれ、地元の特産品をたくさん送ってくれました。私は上海での生活が楽しかったので、さほど故郷に帰りたいとは思っていなかったのです。

私のようにまったく帰郷をしない人もいれば、春節前に休暇をもらい帰郷した人もいます。また、春節期間に帰郷をする人もいます。会社は、そのように分散することで、営業を維持していますが、それでも、会社の経営状態は厳しく、自宅待機になっている人が1/3もいます。

忙しい仕事であっても、続けられるのは何よりもありがいたいことです。しかし、家にいると時々、耐えきれない孤独感に襲われることがあります。そのような時は好きな音楽を聴いて気を紛らわしていました。いつも使っていた蝦米音楽が業績不振からサービス停止となった夜、私にとっては他人事ではなく、朝まで眠ることができませんでした。

 

張阿留。テック企業管理職、25歳。

山西省にある故郷の新型コロナ感染者数が多いというニュースを耳にして、しばらく実家には帰れないと思いました。実家に帰るにはPCR検査を受け、帰ってきてからは自宅隔離が必要ということもあって、今年は帰郷せずに、春節期間も出社することにしました。

昨年の春節は、両親の方が北京に出てきました。しかし、数日で感染が拡大し、どこにも行くことができず、両親も私の家にいるしかありませんでした。それどころか、北京もロックダウンされるのではないかという心配もありました。それで、慌ててチケットを購入し、両親を実家に返したのです。

それが、今年の春節は、私の方が帰れなくなるとは思っていませんでした。

でも、あまり落胆はしていません。というのは実家に帰っても私にとってはあまり意味がないからです。実家の春節というと、特別な料理である「年味」を楽しむことになっていますが、山西省の地元料理は味が濃く、私の母親は年齢が高いこともあって、あまり食べられません。そのため、特別な料理を用意することもなく、ごく普通の食事をします。春節の風習もだんだん省略されているのが現実です。

実家に帰っても他にすることもなく、結局、スマホでゲームをすることになります。さらには親戚が集まって、早く結婚しろとうるさく言われます。帰郷しなければそのような声を聞かなくてすみます。

私のように帰郷しない独身組は、会社の中でさまざまなイベントを企画しています。人狼ゲームの会、犯人あてゲームの会、スイッチを使ったヨガの会、ホームパーティの会などがあります。

北京には私の妹も出てきているので、同僚と妹と一緒に年越しをすることになります。それを思うと、楽しみな春節になるだろうと思っています。