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2020年、10大テクノロジー応用。非接触、無人化をAI、5Gで実現(上)

南方都市報商業データは、2020年の10大テクノロジーの応用をまとめた。2020年は新型コロナの感染拡大が大きなできごとであり、それに関連する無接触無人化に関係し、人工知能、5Gに関するテクノロジー応用が選ばれている。

 

1:AIによるmRNAの二次構造の推定(百度

昨2020年5月に、百度はLinearDesign(http://rna.baidu.com)を全世界に向けて公開した。これにより、世界各国での新型コロナワクチン製造に大きな貢献をした。

従来のワクチンは、ウイルスを不活化したものを人体に注入する。人の免疫システムがタンパク質でできたウイルスの殻の部分に反応して、抗体が作られ、免疫を獲得する。しかし、免疫の獲得効率は決して高いものではなかった。

そこで、新型コロナでは、メッセンジャーRNA(mRNA)を利用したワクチンが製造された。ウイルスの殻の部分の設計図を人体に注入して、人体の細胞がウイルスの殻部分を生産することで、効率的に免疫を獲得しようというものだ。

生命の設計図であるDNAは、互いに補う2本の鎖が結合することで、物質としての安定を保っている。mRNAはこのDNAからコピーをして作られるが、1本鎖であるため物質として不安定な状態になる。そこで、結合可能な塩基部分が結合をして二次構造=立体構造を取ることで物質として安定しようとする。これがどのような構造になるかで、細胞内のタンパク製造装置であるリボゾームとの結合効率が異なってくる。つまり、二次構造によって、免疫獲得効率が違ってくるのだ。

mRNAの配列は、シンセサイザーを使って人工合成できるので、最も好ましい二次構造を取る配列にする必要がある。しかし、どのような二次構造になるのかは、順列組合せで膨大な可能性があり、総当たりで計算をするのには膨大な時間がかかる。

そこで百度バイドゥ)のLInearDesign(リニアデザイン)では、AIテクノロジーを使って、最も安定する二次構造を短時間で予測をする。百度によるとmRNAワクチンに使われるmRNAでは16分程度で二次構造を予測することができるという。最も免疫効果が得られる二次構造になるように、配列を変え、最適なmRNAワクチンを見つけることができる。短期間でのワクチン製造に大きく貢献をした。

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百度のLinearDesign。RNAの配列を入力すると、その配列が取る確率の高い立体構造を人工知能が推測する。最大でも16分で計算が終わるため、最適の配列を探すための試行錯誤ができるようになった。

 

2:健康コード(アリババ他)

中国が、いまだに小規模のクラスターを発生させながらも、新型コロナの抑え込みに成功したのには、この健康コードの貢献がある。スマホアプリやミニプログラムの形で提供され、その人の感染リスクを評価し、「緑、黄、赤」の3種類で示すというものだ。運用は都市によって異なるが、多くの場合、黄色や赤(高リスク)になると、公共交通機関が利用できなくなる。公共施設や商店などでも、入館時に健康コードをチェックし、黄色や赤では入館拒否されるのが一般的だ。

具体的な仕組みは非公開になっているが、位置情報とBluetoothによる接触履歴に基づき、機械学習で感染リスクの判定をしていると言われている。

全員で自粛をしたら経済が立ち行かなくなる。かといって、全員で経済を回したら感染が拡大する。この感染抑制と経済の矛盾を、少数の高リスクの人の行動を制限し、多数の低リスクの人で経済を回すという手法で、中国はコロナ禍を乗り切ってきた。

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▲中国の新型コロナ対策に大きな貢献をした健康コード。感染リスクが高いと判定されると健康コードが赤になる。赤になると、公共交通機関の利用ができなくなる。

 

3:AI老人モデル(百度など)

昨2020年11月、国務院はデバイスメーカーに対して「老人モデル」に対応するように通知を出した。高齢者が、日常生活の中で、スマホなどのデジタルデバイスを利用できる工夫をすることを求めた。

そこで注目されたのがAIアシスタントだ。百度の「小度」、小米(シャオミ)の「小愛同学」などがよく知られている。この数年で、機械学習を用いることにより、音声認識の精度が大きく向上した。以前は、ノイズの多い屋外では誤認識が多発をしていたが、現在では道路脇や地下鉄構内でも、ほぼ問題なく音声認識ができるようになっている。「病院に電話して」「スーパーへの道順を教えて」から始まり、「京劇の動画を見せて」「咳が出るけど、どうしたらいい?」など、音声だけでもデジタルデバイスが利用できるようになっている。

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▲小米(シャオミ)の音声アシスタント「小愛同学」は、公式キャラクターも作成されている。スマホだけでなく、スマートスピーカースマートテレビなどにも搭載されている。

 

4:ディープラーニングプラットフォーム(百度

ディープラーニングを正しく設計し、正しく学習させることができれば、判別や予測などに高い精度を出せることはよく知られているが、実際には、設計には深い知識とノウハウが必要で、学習には膨大な計算時間がかかる。

百度の飛漿(フェイジャン、https://www.paddlepaddle.org.cn)は、ディープラーニングクラウドプラットフォームで、既存モデルを組み合わせてニューラルネットワークの構築ができ、データを転送することでクラウドで高速に学習をしてくれる。学生の学習用ではなく、産業応用ができるレベルのディープラーニング学習ができるのがポイントで、通信、医療、都市管理、民業、工業、林業などの領域で10万社に利用されている。

この飛漿で開発されたAIで、最も有名になったのが、百度のCT画像から新型コロナ感染を判別するシステムだ。肺炎のCT画像を入力すると、学習をした新型コロナの特徴から、そのCT画像の人が新型コロナに感染しているかどうかを高い精度で判定してくれる。

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百度ディープラーニングプラットフォーム「飛漿」。すでに基本的なニューラルネットワークモデルが用意されていて、それを組み合わせたり、パラメーターを変えることで、用途に適したディープラーニング学習モデルが構築できる。すでに多くの企業での人工知能学習モデル開発に使われている。

 

5:5Gによるクラウド現場監督(中国聯通、中央電子台)

中国では5G通信網の拡大が進んでいるが、具体的な5Gの産業応用についてはまだまだこれからだ。その中で、多くの市民から注目をされたのが「クラウド現場監督」という仕組みだ。

2020年、新型コロナの感染爆発が起きた武漢市では、「火神山」「雷神山」という2つの新型コロナ専用病院が急遽建設をされた。その建設の様子は、中国聯通と中央電子台の協力で、24時間ライブ中継をされた。撮影した4K映像を5Gで転送し、いつでもスマホから見られるというものだ。市民の誰もが建設状況を見ることができる「クラウド現場監督」と呼ばれた。

このライブ中継は、市民の不安を取り除くため、当局が積極的に行ったものだが、多くの市民が公共事業の建築物などにも、この5Gを利用したクラウド現場監督の仕組みを導入してほしいと希望している。24時間ライブ中継をすることで、不正工事などが激減することが期待されているからだ。

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▲中央電子台が行った新型コロナ専用病院「雷神山」の24時間ライブ配信。専用病院の建設風景を公開することで、人々の新型コロナに対する不安が緩和された。

 

明日に続きます。