中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

再び大規模開発が行われる深圳。2026年に完成するテンセント「ネットシティ」

昨2020年12月25日、深圳市は第3期開発計画の着工式を行った。この開発計画の目玉となっているのが、テンセントのネットシティだ。投資金額は319億元(約5100億円)。テンセントのマスコットにちなんで、このネットシティは、ネット民から「ペンギン島」と呼ばれるようになっているとGameLookが報じた。

 

テンセントが深圳に建設する新都市「ペンギン島」

このペンギン島のある場所は、深圳市宝安区西郷街道の大鏟湾A002-0076。用地面積は80.9万平米(東京ドーム17個分)で、テンセントは85.2億元(約1360億円)で取得した。大きな半島の形状をしているため、ネット民からは「ペンギン島」と呼ばれるようになっている。

開発総床面積は200万平米を超える。最も多いのは研究開発ラボで150万平米、社員寮19万平米、ビジネスオフィス14万平米などで、この他、科学展示館、データAIセンター、会議センター、ホテルなども建設される。

f:id:tamakino:20210129115208j:plain

▲テンセントのネットシティの完成予想図。オフィスだけでなく、商店、住居も併設される「都市」になる。2026年完成予定。

 

f:id:tamakino:20210129115212j:plain

▲ネットシティの建設用地は、大きな埠頭になっている地域。ネット民からは、テンセントの企業マスコットに合わせて「ペンギン島」と呼ばれるようになっている。

 

オフィス面積がいつも不足しているテンセント

いわば、ひとつの小さな都市を作ってしまうことになるが、テンセントによると、それでも足りないのだという。

深圳市で働くテンセント社員は、すでに3.8万人に達している。本来なら70万平米のオフィスが必要となるが、テンセントが深圳市内に所有するオフィスは33万平米でしかない。残りの37万平米は賃貸をすることで補っている。

しかし、テンセントの試算によると、テンセントの社員数は毎年13%の割合で増えており、このままでは7年後に8.9万人となる。この時になると、178万平米のオフィスが必要となり、130万平米のオフィスが不足をすることになる。

テンセントはこの問題に対処するために、深圳市と協議をし、大鏟湾の広大な土地を購入することになった。深圳市でも、この問題に対応しないと、テンセントが、より土地の広い他都市に移転する可能性もあるため、話がまとまった。

大鏟湾には、深圳市地下鉄15号線の建設計画があったが、深圳市でもこの建設計画を10年も前倒しして、テンセントのペンギン島に合わせて開通させる計画を進めている。

f:id:tamakino:20210129115223j:plain

▲現在のテンセントのオフィス。この他に本社ビルもあるが、オフィス面積は常に不足しているという。このオフィスもNBBJの設計。

 

f:id:tamakino:20210129115226j:plain

▲深圳市にとっても、テンセントは重要な税収源。他都市に移転されないように、ペンギン島を通る地下鉄計画を立て、ネットシティ建設に合わせて計画を前倒しした。

 

人の移動を中心にデザインされるデータ駆動設計

ペンギン島の完成は2026年が目標となっているが、全体を2期に分けて開発する計画だ。第1期開発では、オフィスだけでなく、会議センター、ホテル、科学展覧館、9年制の学校(小中学校)などが建設される。

このペンギン島の設計は、米国シアトルの設計事務所NBBJが担当をする。NBBJは、人の動きのデータを分析し、それに基づいて建築物を設計するデータ駆動型デザインの手法で、グーグルやアマゾン、サムスンなどのオフィスの設計を手がけてきた。中国でも、アリペイ、テンセントの本社ビルを設計している。

NBBJの設計士ジョナサン・ウォードは訪中した時に、中国メディアに対してこう語っている。「典型的な現代都市は、シンプルで効率的なことが求められていました。特に、物流と自動車、人の流れを精密に制御する必要がありました。しかし、これは工業時代の考え方です。今は、IT、情報時代なのですから、必ずしもこの原則に従う必要はないのです」。

ペンギン島は、人の流れを中心にし、物流や交通機関は地上や地下に収められ、歩行者とは階層分離される。人は、徒歩だけで、必要な生活が送れるにように建築物がデザインされるようになる。

f:id:tamakino:20210129115219p:plain

▲新しい都市コンセプトの違い。工業時代の都市は、物流などの効率を考え、車道を中心に考える(左)。情報時代の都市は、人の生活を考え、人の移動を中心に考える(右)。

 

f:id:tamakino:20210129115216p:plain

▲ネットシティの完成予想図。自動車と鉄道は、1層と地下に収められ、2層以上は徒歩だけの移動エリアになる。徒歩移動だけで生活ができるように、オフィス、商店、住居などが配置される。

 

若者の心をつかむこと、すなわち未来をつかむこと

中国テック業界には、「若者の心をつかむことが、すなわち未来をつかむことだ」という言葉がある。テンセントがただのオフィスではなく、近未来都市を作ってまでオフィスを拡大しようとしているのは、優秀な若者を獲得しようという狙いもある。

ペンギン島は、深圳という巨大都市の中にありながら、海に面して、自然も多く残され、利便性と自然を両立させた次世代都市となる。テンセントはそこに若い人材を呼び込もうとしている。