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デリバリー企業の核心技術=配送計画アルゴリズムはさらなる改善へ

新小売、O2Oの要である即時配送騎手。出前や商品を電動バイクで、短時間で宅配する業務だ。騎手用アプリを開くと、ピックアップと配達が効率よく組み合わされた配送計画が表示されるので、それに従って配達をすればいいようになっている。しかし、現実には数々の問題が発生する。美団、ウーラマともに、このシステムをより洗練させる改革に乗り出していると網約配送員が報じた。

 

新小売、O2Oを担う騎手たち

中国のフードデリバリーの配送員は、最近では「騎手」と呼ばれることが多くなっている。アリババ系の「餓了麼」(ウーラマ)は青色がコーポレートカラーであることから「藍騎士」、美団(メイトワン)は黄色がコーポレートカラーであることから「黄騎士」と呼ばれることもある。

当初は、ギグワークの典型で、騎手が稼ぐために交通ルールを無視して急ぐために、交通事故が多発した。上海市公安局交通警察では、2017年に、2.5日に1人、騎手の致傷事故あるいは死亡事故が発生しているというデータを公開して、取り締まりに乗り出している。同じ年、深圳ではわずか3ヶ月で12人の騎手が交通事故で死亡し、問題になった。

そこから、ウーラマ、美団ともに改革に乗り出している。地区ごとに騎手のグループを組織し、運営幹部が対話集会を持つことで、現場の問題点を把握しようと言うものだ。

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▲ウーラマのコーポレートカラーは青。青は中国で藍と表現されるため、藍騎士と呼ばれる。

 

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▲美団のコーポレートカラーは黄色。そのため、黄騎士と呼ばれる。

 

騎手の安全に配慮を始めた即時配送企業

美団では、このような対話集会を経て、昨2020年11月の創業7周年記念大会で、「同舟計画」を打ち出した。内容は2つある。ひとつは、騎手の中からの公募で、約100名の「プロダクト体験官」を設置することだ。体験官は、騎手アプリの賢い活用法や、効率的な配送テクニックという「稼げる技」を伝えるだけでなく、交通ルールや接客マナーについても指導する。同時に、現場の課題を聞き取りし、運営と現場の橋渡し役を務める。

もうひとつは、全員に無料でオンライン診療のサービスを提供する。ケガだけでなく、発熱などの場合も、スマホから診療を受け、適切な治療を受けることができるようになる。

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▲ウーラマの騎手用アプリ。ピックアップと配達が複雑に組み合わされた配送計画が表示され、騎手はこれに従って任務を遂行する。移動距離が短く、バッグが空になることがない効率のいい配送計画を立案するアルゴリズムのできが、即時配送企業の収益と騎手たちの賃金に直接影響をする。

 

CEOが直接質問に回答。騎手たちが抱える5つの不満

ウーラマでも、昨2020年12月に開催された「藍騎士フェスティバル」に、王磊CEOが出席をし、現場の騎手たちの不満、疑問にひとつずつ答えた。そして、問題を解決するのに、長い時間はかからないという約束をした。

その席上で、騎手たちから出された不満は、主に5つあった。

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▲ウーラマが開催した藍騎士フェスティバル。現場の騎手も出席し、CEOに直接不満をぶつけた。CEOはその場で、改善を約束した。

 

1:飲食店の出荷が遅い

飲食店が標準時間を守らずに待たされることが多い。騎手は複数の配達を同時並行でこなしているため、ひとつの飲食店で待たされると、他の配達までが遅れることになる。配達の遅れは、騎手の評価を下げることになる。これが多くの騎手から出された不満だった。

王磊CEOは、現在、システム上、一律の待ち時間で、配達計画を組むようにしていたが、これを改め、飲食店ごとに実際の待ち時間を測定し、これに応じて、飲食店ごとの平均待ち時間を用いた配達計画を騎手アプリに表示できるように改めると約束した。

 

2:顧客の連絡がつかなくなる

配達をしたのに、顧客が不在で、しかも連絡がつかないことがある。こうなると、無視して次の配達をするわけにもいかないし、そこで待ち続けることもできない。騎手としては最も困ってしまう状況になる。

王磊CEOは、騎手アプリでトラブル通知ができる機能をつけることを約束した。一定時間待っても顧客との連絡がつかない場合は、注文は自動キャンセルとなり、騎手への配達料は支払われ、その顧客からの低評価は無視されるようにするという。

 

3:顧客の登録した住所が間違っている

指定された住所に配達をしたら、そこに顧客がいない。連絡をしてみると、顧客が間違った住所を登録しているということがある。そこから、正しい住所に届けるとなると、時間も余分にかかることになる。しかし、住所を入力し間違えた顧客を責めることはできないと騎手は主張する。中高年など、スマートフォンを使い慣れていない人はしばしば住所入力を間違えることがあるからだ。

王磊CEOは、顧客アプリの操作性を改善するとともに、正しい住所に再配達をする場合は、その時間を考慮して、自動的に以降の配送計画を組み直す機能を追加し、一定距離以上の再配達の場合は、騎手に補助金を出すことを約束した。

 

4:建物内に入れない場合がある

オフィスビル、マンションなどでは、中に入れない場合がある。この場合、門の前から顧客に連絡をし、取りにきてもらうことになる。騎手にとっては余分な待ち時間がかかり、顧客はドアまで持ってきてくれないと、騎手に低評価をつけることもある。

王磊CEOは、偽造のできない騎手身分証を作ることを約束した。そして、各オフィスビル、マンションなどと交渉し、その身分証の提示で中に入れるオフィスビル、マンションを増やしていくと約束した。

 

5:交通状況により遅配が起こる

交通渋滞、道路工事による迂回などで配達に時間がかかることがある。また、天候要因も、雨や雪などの場合は、速度を落とすために配達に時間がかかる。

王磊CEOは、道路状況も考慮して配送計画を提示するような仕組みを構築すると約束した。配達時間を一律で計算するのではなく、交通渋滞や道路封鎖を考慮し、天候条件も考慮に入れて配達時間を計算し、配達計画を提示するようにシステムを改善する。また、悪天候の場合には、騎手に補助金を支給することも約束した。

 

よりシステムは洗練をされていくことになる

王磊CEOは、これらの問題の改善には、長い時間はかからないと語った。フェスティバルに出席し、直接、王磊CEOに不満をぶつけることができた騎手たちは、このような対話の場が設けられたことを評価している。

美団、ウーラマともに、騎手アプリを起動すると、現在地を取得し、配送計画が提示されるようになっている。ひとつの配達をひとつずつ行うのではなく、専用バッグの容量を考慮して、商品のピックアップ、配達が組み合わされた効率的な配送計画になっている。これにより、即時配送は顧客を満足させる短時間での配送が可能となり、騎手は単価は安くても、効率よく配達をこなせるので、トータルの収入が高くなる。この配送計画を立案するアルゴリズムが、即時配送企業の収益を上げる核心テクノロジーになっている。

即時配送企業としては、現場の不満に耳を傾けることで、配送計画アルゴリズムをより洗練させ、競争力を高めることにつながると考えている。