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地域インフラとしての社区団購。注目される高齢者の見守りと雇用の創出の効果

大手テック企業が注目をし、資本を投下している社区団購。店舗受取型の地域密着系ECだ。元々は、物流配送網が脆弱な農村で、ECを補うものとして生まれた。しかし、今では団長と消費者のいずれもが地域住人であり、顔見知りであることから、高齢者にも優しいサービスが提供できることが強みになっている。高齢者の見守り、雇用の創出、経済効果など、農村の社会インフラのひとつとしても注目されていると互聯網闘獣場が報じた。

 

店舗受取り、地域密着系ECの社区団購

社区団購(シャーチートワンゴウ)が、農村の消費生活を変えようとしている。社区団購は、ECのひとつの形態で、都市部の高齢者の間に浸透をし、アリババ、テンセント、美団、滴滴、拼多多などのテック企業が相次いで参入をし、競争が激化している。

地域の個人商店が団長となり、住人がスマホを使って商品を注文をすると、団長が経営する個人商店に商品が翌日配送されるので、自分で受け取りにいくというものだ。日本のECのコンビニ受け取りの感覚だ。

顔見知りであるために融通がきくサービスが強み

高齢者に浸透している理由は、地域密着系ECであることだ。団長は地域の個人商店店主であることが多く、住民と顔見知りになっている。そのため、本来はスマホを使って自分で注文するのが原則だが、SNS「WeChat」や電話、あるいはお店にいって直接店主に注文をしたり、店主が注文を代行してくれたりする。地域の顔見知りであるために融通をきかせてくれるのだ。

受け取りも、自分で団長の個人商店にいくというのが基本だが、団長が配達もしてくれる。ほしい商品が見つからない場合も、団長に相談ができる。決済もスマホ決済ばかりでなく、直接、団長に現金で支払うこともできる。スマホを使うのが苦手であっても、場合によってはスマホを持っていなくても、利用ができる。

顔見知りであるために、そういう融通のきくサービスが提供できる。ここが高齢者にとって使いやすいサービスになっている。

 

シルバー市場をねらうテック企業の競争が激化

この社区団購は、都市部の高齢者に浸透し始めて、にわかにテック企業が注目するところとなった。中国の高齢者人口は、約4億人。この4億人のうち、今までECを使う人はそうは多くなかった。一方で、若い世代はほぼ全員がECを使い、ECの利用者数は飽和をし、伸び悩み状態になっている。

しかし、社区団購であれば、新規の4億人市場を取りに行くことができる。ここからテック企業が相次いで参入することになっている。

 

元々は農村のECを補完する仕組みだった

しかし、社区団購というスタイルは、2016年から始まり、元々は、農村などのECの配送が不便な地域で、ECを補うものとして始まった。それが高齢者にとって使いやすいサービスであることから、農村から地方都市へ、地方都市から大都市へと、一般的なサービスとは逆の伝播の仕方をしている。

最も社区団購が浸透している湖南省では、全ECの注文数の6割は農村からのものになっていて、その多くが社区団購であると見られている。

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▲袁宇さんの商店。売れるものはペットボトルとビンロウ程度という雑貨店だった。消えていくしかない個人商店が、社区団購により、営業が継続できるようになっている。

 

農村に広がる社区団購の団長バブル

湖南省天華村に行くには、幅7mの道路(2車線)が一本しかない。その道路沿いに、41歳の袁宇さんが経営する雑貨店がある。村の中にある唯一の雑貨店だが、売れるものはペットボトル飲料とビンロウぐらいという農村によくある商店だ。

しかし、店主の袁宇さんは忙しい。近隣の村の個人商店のリストを手に入れ、片っ端から電話をかけ、社区団購がどういうものであるかを説明し、団長の勧誘をしているのだ。団長として、商品を販売をすれば、利益が生まれる。それだけでなく、団長の勧誘に成功すると、その団長が販売した商品の利益からも数%が袁宇さんに対して支払われる。

袁宇さんは、収入を細くは明かさなかったが、月に1万元(約16万円)は超えているという。北京市の月収の中央値が6906元(約11.1万円)であるので、天華村という農村では相当な高収入になる。袁宇さんが目指しているのは、先に団長を始めていた先輩たちで、彼らの中には月収9万元(約144万円)を超えている人もいる。袁宇さんも店の仕事は兄嫁の張慧さんに任せて、現在は団長の勧誘に専念をしている。

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▲社区団購の団長を務める袁宇さん。朝から晩まで、団長の勧誘の仕事をしている。農村にありながら、稼ぎは北京市の平均給与を上回っている。

 

過当競争になり始めている社区団購

しかし、競争は激化をしている。この天華村は、総戸数1128戸、人口3167人の小さな村だが、すでに社区団購の団長が21人もいる。袁宇さんのような個人商店でなくても、自宅の1室を倉庫として、社区団購の団長を務めている人がいるのだ。1人の団長が100戸の家にサービスを提供しているとすると、すべての団長で2000戸となり、天華村の2倍の戸数になってしまう。明らかに過当競争になっているのだ。

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▲ある社区団購の団長の自宅風景。団長を務めるのは個人商店が多いが、純粋な個人でも団長になることができる。自宅の部屋を倉庫にして、注文された商品を保存し、受け取りを待つ。団長はすでに過剰になっている。

 

地区の高齢者の見守り番にもなっている社区団購

店の仕事を受け持つ張慧さんの仕事は忙しい。朝は早くに起きて、朝9時半には社区団購の倉庫に車で向かい、商品を受け取る。本来は、社区団購側が店舗まで配送をしてくるのだが、多くの人が、その日の昼食に食べる野菜などを前日に注文しているため、午前中に配達する必要がある。社区団購の配送を待ってから配達をすると午後になってしまうのだ。競争が激しくなっているため、少しでも早く配達する必要がある。

本来は、注文した住人が店舗まで商品を受け取りにくるのが基本だが、配送することに大きな意味がある。天華村には、若い世代は住んでなく、ほとんどが高齢者だ。高齢者はジーンズを買いたい、フリースのパジャマが欲しい、家電製品を買い替えたいと思っても、どれを買ったらいいのかわからないし、スマホでどうやって注文したらいいかもわからない。張慧さんは配達をしながら、世間話をして、相談に乗り、注文を取る御用聞き、営業の仕事も行う。

サイズが合わない、商品に納得がいかないという場合も、返品の手続きを無料で代行し、ユーザーサポートの仕事も行う。張慧さんによると、この返品手続きを代行することで、高齢者は安心をして買い物をするようになるという。

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▲社区団購の仕事をする張慧さん。毎日配達に行き、高齢者と話をし、営業活動も行う。それが地区の高齢者の見守りになっている。社区団購は地域の福祉システムとしても注目されている。

 

団長も農村としては高収入が得られる

団長の収入は販売金額の10%だ。張慧さんの場合、毎月500から600の注文があり、注文単価は10元程度なので、月の収入は500元から600元(約9600円)になる。農村の収入としては悪くない現金収入だが、張慧さんはさらに大きな希望を持っている。

近隣の村で、社区団購が浸透している村では、団長1人の注文が1日で500件を越すことは珍しくなく、この場合、配達などに人を雇っても、月の収入は7000元(約11.3万円)ほどになる。農村に生まれ、なんの特技も資格もない農民にとって、都市に出ても、これだけを稼げることはまずあり得ない。張慧さんは、その収入を目指して、目の前の仕事を頑張っている。

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▲袁宇さんの商店。売れるものはペットボトルとビンロウ程度という雑貨店だった。消えていくしかない個人商店が、社区団購により、営業が継続できるようになっている。

 

消費が生まれ、経済が回り始める農村

社区団購が農村に普及をすることで、わずか人口3000人の村で、21人もの団長が活動をしている。さらに、長沙市の倉庫から1日に2回、商品を村の倉庫に配送するドライバー、倉庫で商品の仕分けをし、管理する要員など、若者は街へ出てしまい、高齢者だけが残された農村に、働く若者が戻りつつある。

農村の高齢者は、都市の高齢者に比べれば経済力は劣るが、お金がないわけではない。むしろ、農村の場合、消費をしたくても消費をする場所が存在しなかった。ECが普及をしても、スマホを操作し、商品を吟味し、注文をするということが難しい高齢者もたくさんいる。それが、人が介在する地元密着ECである社区団購により、消費を始めている。消費が行われる場所には、必ず若者が仕事を求めて集まってくる。社区団購は農村の活力を回復することに寄与している。消えていくしかないと思われていた地域密着の小規模個人商店が、社区団購の団長となり、経営を続けられるようになっている。

社区団購は、一時の流行ではなく、社会構造を下支えする仕組みとして定着していくことになると見ている専門家も多い。だからこそ、主要テック企業が、続々と参入をしているのだ。