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黒字化を達成したソーシャルEC「拼多多」の次の成長戦略は農産品。地域密着の個人商店を活用

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が2020Q3に創業以来初めての黒字化を達成した。次の成長戦略は農産品だ。地域密着の個人商店を活用し、過剰生産された農産物を流通させるという社会貢献型ECで成長を目指していると遠川商業評論が報じた。

 

創業以来、初めて黒字化をした拼多多

ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の2020年Q3の財務報告書が公開され、non-GAAP利益(米国会計基準を適用しない利益)が+4.66億元となり、拼多多創業以来、初めての黒字となった。このことは、米ナスダック市場で歓迎され、株価が上昇し、第2位のEC「京東」(ジンドン)の時価総額を瞬間的に上回る局面も見られた。

しかし、米国会計基準に従った利益は7.85億元の損失で、急成長をしてきた拼多多が次の成長戦略を見出せない状態であることは変わっていない。

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▲拼多多の営業収入の推移。順調に成長しているが、その背後には莫大な販売経費をかけた赤字成長だった。それが初めて黒字化をした。

 

販売経費の高さは解消。課題は次の成長戦略

しかし、拼多多の課題として指摘され続けてきた高い販売経費比率の問題は解消の兆しが見えてきている。大量に販売をするために「百億補助」などの大型の補助キャンペーンを行い、販売経費の比率が100%を超えていることが常態化をしていた。つまり、売っても売っても赤字になる状態で成長をしてきた。

それが今年2020年Q2、Q3と連続して80%を切った。一方で営業収入は伸びている。つまり、補助をしなくても売れる状態が確保されたことになり、株式市場はここを好感したものだと思われる。

次に必要なのが、新しい成長戦略だ。拼多多が現在、力を入れているのが、野菜を中心にした生鮮食料品だ。

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▲販売経費率は、過去100%を超えたこともある。つまり、売れば売るほど赤字だった。その経費率が抑えられるようになり、黒字化に結びついた。

 

拼多多は、地方の過剰生産品を流通させる

現在、中国のECのトップ3は天猫(ティエンマオ、Tmall)、淘宝網タオバオ)を持つアリババ、そして京東(ジンドン)、拼多多だが、ビジネスモデルはそれぞれに異なっている。

アリババのタオバオは、マッチングプラットフォーム型であるために販売業者を惹きつけることが成長の鍵になる。大量の販売業者が出品をすることで、品揃えが豊かになり価格競争が起こり、多くの消費者を惹きつける。多くの消費者が集まるので、販売業者が増えるという好循環を生み出すことで成長をする。

京東は購入から物流まで自社で行うオンライン店舗型だ。このため、高い品質の商品をいかに低価格で買い付けられるかが鍵になる。

拼多多はアウトレット型だ。地方企業などで過剰生産になった商品を低価格で大量に流通させ、消費者にSNSを使ったまとめ買いを促し、低価格だが大量に売れることで生産者に利益をもたらす。拼多多の登場は、地方企業や地方農家を活性化させている。

 

過剰生産品のアウトレット流通が拼多多の本質

つまり、拼多多の本質とは過剰生産品のアウトレット流通なのだ。これを従来は日用消耗品や日用家電製品で行い成功をしてきた。同じ手法を農産品でも行おうとしている。

以前から、拼多多は農産品を扱ってきた。しかし、物流のことを考え、乾物や加工品など、消費期限が長いものが多かった。野菜、果物などの生鮮食料品は、短期に売り切らなければならず、常に出品されている状態を作るのは難しい。これを常に供給される体制を作り、生鮮食料品を拼多多で購入する習慣づけをいかに養成できるかが鍵になる。

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▲拼多多で販売されている食品。通常宅配であるため、賞味期限が長く、鮮度を問わないものが主流だった。


地域の個人商店を配送拠点として活用

消費期限が短い生鮮食料品をそのまま拼多多の流通で扱うことは難しいため、新しいプラットフォーム「多多買菜」(ドードーマイツァイ)を構築した。食品専用の拼多多だが、異なるのは宅配されるのではなく、近所の提携している個人商店に食品が届けられるため、それを自分で取りに行くという仕組みだ(商店によっては配達をしてくれることもある)。

いわゆる「地域のお店」で、「小店」と呼ばれることもある。多多買菜は、このような地域密着の個人商店を配送拠点として活用している。

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▲多多買菜の配送拠点。地域密着の個人商店が提携をしている。購入者はこの地域のお店に注文した商品を取りに行く。

 

「社会課題の解決」がビルトインされている拼多多のビジネスモデル

個人商店は、小規模とは言え、冷蔵庫、冷凍庫を備えている。そこに保管をしてもらうことで、消費期限の問題をクリアしようとしている。個人商店にとっては、自分の利益にはならないものの、出費なしで、来店客を増やすことができるため、ついで買いを期待することができる。

この多多買菜がうまく定着できるかどうかはこれからだ。しかし、拼多多はビジネスそのものが社会貢献になっている。自分の製品を全国流通に乗せることができる地方の企業、農家はごく一部で、多くが狭い地域内に販売先を求めるしかなかった。そのため、常に過剰生産気味になっていて、利益を出すことが難しくなっていた。

それが拼多多の登場により、過剰生産分を一気に全国流通させる道筋ができた。価格は安く抑えられるが、大量に売れるので利益は得られる。拼多多は、いつ消えてもおかしくない地方企業、農家を救うことになった。

個人商店も、ECや新小売の登場により、競争力はほぼなくなっている。近所の高齢の馴染み客が訪れる程度になっている。多多買菜は、地域に根ざした店という利点に着目し、個人商店の活用を始めた。

多多買菜が、拼多多同様に急成長をすることができるかどうか、注目されている。

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▲多多買菜では、個人商店の冷蔵庫を利用することで、鮮度が要求される生鮮野菜も扱えるようになった。