中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

日商5.5万円。投資回収期間は1年未満。ビジネス軌道に乗る無人運転キッチンカー

新石器科技の無人キッチンカーが好評だ。1日の平均売上は3500元(約5.5万円)であるため、すでに400台が稼働をし、海外6カ国でも100台が稼働と、市場を広げている。新石器科技では数万台規模の稼働を目指し、移動するミニコンビニとして新たな消費チャンネルに育てていく計画だと車東西が報じた。

 

2021年は自動運転が普及する年になる

中国で自動運転車の社会普及が加速をしている。人を乗せるロボタクシー、ロボバスは実証実験の段階を終え、試験営業の段階に入り、ロボタクシーは、上海、長沙、滄洲などで乗客を乗せた試験営業が、ロボバスでは長沙、蘇州などで営業運行が始まっている。また、企業内、マンション内でのシャトルバスとしての利用も珍しいものではなくなってきている。

京東などのEC企業、美団などのフードデリバリー企業では、施設、企業への配送に無人配送車を活用し、投入台数を拡大中だ。さらに、公園、施設内、公道などの道路清掃にも無人清掃車が用いられるようになっている。

 

収益化が見えてきた「無人キッチンカー」

しかし、これらはいずれも公共性の高いケースで、消費者のニーズに直接応えたものとは言えない。消費者からしてみれば、タクシーに乗りたいのであって、運転手が人間であるか、人工知能であるかは大きな問題ではない。

しかし、「無人販売車」という消費者のニーズに直結する分野で、成功の兆しが見え始めたのが、新石器科技の無人キッチンカーだ。無人キッチンカーは、キッチンで朝食などの食品を作り、無人キッチンカーに載せると、自動運転で、地下鉄で入口付近などに移動をする。利用客は、スマホ決済のQRコードをスキャンすることで扉を開け、食品を買うというものだ。時間または商品がなくなると、自動でキッチンに戻るので、食品を補充する。21世紀版の屋台、移動販売だと言える。

新石器科技によると、2019年から公園の飲料無人販売を行いながら試験運用を始め、今年10月には上海市で地下鉄出入り口などで朝食などを販売する本格運用が始まった。1台の無人キッチンカーが300食以上の売上をあげることもあり、一日の平均の売上は3500元(約5.5万円)を超える。コロナ禍という特殊事情もあったが、この調子で好調な売行きが維持できれば、年に25万元(約390万円)の利益が生まれる計算になり、投資コストの回収期間は1年以内になったという。

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▲購入するには専用のWeChatミニプログラムから、WeChatペイ決済で食品を購入することができる。

 

お客を求めて24時間どこにもで移動する無人キッチンカー

新石器科技では、この「移動小売」を事業のひとつの柱として考えているようだ。当初はスマホ決済でドアが開くだけという単機能のものだったが、現在では加熱、保温、冷蔵、冷凍などの機能を追加し、零下18度から60度まで設定できる。コーヒーやアイスキャンディーなどの販売も可能になっている。

現在、上海、アモイ、北京などの数都市で、新石器科技の無人キッチンカーを利用した移動販売が行われている。

この無人キッチンカーの利点は、ほぼ24時間稼働が可能な点だ。朝方は朝食を、昼に昼食、午後にコーヒー、夜には夜食を販売することができる。しかも、それぞれによって、販売場所を変えることができる。例えば、朝食はオフィス街で、昼食は大学近く、午後は繁華街と、それぞれの需要のある場所に移動をすることができる。これが高い販売率を生む要因になっている。

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▲セントラルキッチンで食品を補充。その後、無人キッチンカーは指定された場所に自動走行して、お客を待つ。

 

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▲人出のヒートマップデータと重ね合わせることで、最も効率的に販売ができる場所に移動することができる。これが無人キッチンカーの強みになっている。

 

未出店のケンタ、ピザハット吉野家も利用

AIテクノロジーの実験場ともなっている上海張江人工知能島では、無人キッチンカーが積極的に利用され、ケンタッキー、ピザハット吉野家などは、この地域ではまだ出店をしていないため、無人キッチンカーによる移動販売を行なっている。

この移動キッチンカーは、現在、店舗をもつ飲食店が、副次的な販売チャンネルとして利用をしているケースが多いが、店舗から移動販売に主軸を移す飲食店も登場するかもしれない。

ある上海の飲食店は、店舗の営業と無人キッチンカーによる営業を別建てで組み立てた。すると、朝食定食の内容はほぼ同じなのに、移動販売では店舗の維持コストが不要となるため、店舗で販売している10元の定食が、移動販売では2.9元で販売できるようになった。消費者の中には、店舗にいかず、わざわざ移動キッチンカーで買う人もいるほど好評だったという。

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ピザハット無人キッチンカー。未出店の地域での販売に利用をしている。ケンタッキーや吉野家も同様の利用をしている。

 

現在400台が稼働中。目標は数万大規模

現在、このような無人キッチンカーは中国全土で400台が稼働をしている。累積走行距離は100万kmを超えた。新石器科技は、これを数万台規模にしたいという。そのレベルになると、移動小売ネットワークが構築されるようになり、無店舗のコンビニと同じ一大消費チャンネルになる。

また、新石器科技は、中国で初めてドイツの認証機関「テュフラインランド」のL4自動運転車の認証を取得した。つまり、欧州基準にそった自動運転車ということになる。これにより、無人キッチンカーは6カ国30都市で100台が稼働をしている。

無人キッチンカーが登場した当初は、自動運転車のユニークな活用アイディア程度に見られていたが、思いの外、販売利益が出ることから、新業態のひとつになる可能性が出てきている。