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Tik Tokが独身の日セールに初参入。ECは商品検索型から商品紹介型へ

2020年も大幅に記録更新をした独身の日セール。しかし、返品率の高さなど限界も見え始めている。その中で、Tik Tokがライブコマースでセールに初参入したことが注目されている。商品検索型のECから商品紹介型のECへ移行するきっかけになる可能性があると伝媒1号が報じた。

 

Tik Tokが独身の日セールに初参入

今年2020年11月11日の独身の日セールは、昨年の記録を大幅更新するものとなった。アリババの「天猫」(ティエンマオ、Tmall)では4982億元(約7.9兆円)、京東(ジンドン)では2715億元(約4.3兆円)、また流通総額を公表していないが拼多多(ピンドードー)も昨年の記録を大幅更新したという。

その中で、関係者から大きく注目されているのが、バイトダンスのTik Tok(抖音、ドウイン。国際版がTik Tok)が今年初めて独身の日セールに参加をし、187億元(約3000億円)を売り上げたことだ。

Tik Tokの187億元という数字は、アリババなどと比べると1/10以下で決して大きな数字ではない。しかし、2009年にアリババが初めて独身の日セールを開催した時は、0.52億元というものだった。年々、流通額は増えていき2012年に191億元となる。つまり、Tik Tokは初参加でいきなりアリババ4年目の成績をあげたことになる。

Tik Tokの独身の日セールが注目されている理由はそれだけではない。

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▲Tik Tokが独身の日セールに初参入。初年度で187億元の売り上げを上げた。これはアリババ4年目の成績に相当する。バイトダンスはEC部門を設立し、ライブコマースに本腰を入れている。

 

テレビショッピングとは異なる楽しみ方のライブコマース

海外版のTik Tokにはライブ配信機能はないが、本家の抖音(ドウイン)には以前からライブ配信機能が備わっていた。これを利用して、ライブコマースが始まっていた。ただし、バイトダンスにはEC部門がないため、アリババの「淘宝網」(タオバオ)や京東の商品を販売し、送客手数料をもらうというビジネスモデルだった。

ライブコマースは、ただのスマホ版テレビショッピングではなくなっている。SNSと密接に関連をしているのだ。そもそも現代人にとって、欲しいものというのはそう多くはなくなっている。そこに伝統的なECのように、商品だけを並べても、なかなか購入してもらえなくなっている。一方で、ライブコマースの配信主は、商品を見極める目をもったプロや、アイドル、芸能人のような有名人、人気のあるブランドなどだ。消費者は、商品そのものよりも「その人が紹介するものだから」という理由で購入をする。そして、購入をしたものを撮影してSNSにあげ、同じものを買った人と語り合う。つまり、人間関係に基づいた消費行動なのだ。

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▲中国版Tik Tokのライブコマース。セレクトショップ感覚のライブコマースが目立つ。商品検索型のECから商品紹介型のECに移行する可能性を秘めている。

 

EC部門を設立、ライブコマースに注力するバイトダンス

今年2020年6月に、バイトダンスはEC部門を設立し、本格的にライブコマースを始めた。それまでTik Tokでライブコマースをするには、タオバオに出品をしておくことが必要だったが、直接Tik Tokだけでライブコマースができるようになった。

企業アカウントも昨年の100万件から500万件に急増した。29業界、295業種にわたり、企業アカウントは毎日200億回も見られている。これは、1つの企業のショートムービーが平均して18回見られていることになる。企業にとって、Tik Tokはもはや重要な顧客チャンネルになっている。

 

人工知能ECを確立しようとしているバイトダンス

小売チャンネルとしてもTik Tokは急成長をしている。バイトダンスによると、今年2020年1月から8月までに、Tik Tokライブコマースの販売額は36.1倍に急増し、出店も16.3倍になっている。当然、Tik Tokで商品を購入する消費者が増えているということだ。

なぜTik Tokで買い物をする人が増えているのか。それはバイトダンスの中核テクノロジーである機械学習によるリコメンドエンジンに秘密がある。バイトダンスは、機械学習を中核テクノロジーに据え、利用者の閲覧行動の解析から最適のコンテンツをリコメンドするシステムを構築した。これをニュース記事に適用したのが最初のヒットプロダクト「今日頭条」であり、ショートムービーに適用したのがTik Tokだ。いずれもその人が欲しているコンテンツが次から次へと提示されるため、アドレナリンサイクルが形成され、利用者は夢中になってしまう。

まったく同じことをライブコマースにも行なっている。次から次へと気になるライブコマースが推薦されるのだ。気になるライブコマースというのは商品よりも配信主だ。ライブ主の類似度だったり、ライブコマースの雰囲気だったりするかもしれない。それが何かは誰にもわからないが、人工知能は、その人の視聴傾向を分析して、類似度の高いライブコマースを次々と紹介をする。バイトダンスも成功するライブコマースには「優れたライブ内容、優れた商品、優れたサービス」の3つが必要であるとライブコマース主に指導をしている。

これは、商品ではなく、人間関係に基づいた消費傾向がある現代人に合っている。このようなことから、Tik Tokのライブコマースを「AI EC」「科学EC」と呼ぶ人もいる。

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▲アリババの独身の日セールは4982億元(約7.9兆円)という大幅な記録更新をした。しかし、利用客数の頭打ち、客単価の伸び悩みなど限界も見えている。

 

商品検索型ECから商品紹介型ECへ

12年目を迎えた独身の日セールが金属疲労を起こしていることは明らかだ。伝統的なECも新規顧客の獲得が難しくなり、客単価は下がり気味だ。

Tik Tokの独身の日セールの成功は、単に購入スタイルが伝統的なECからライブコマースに移るというだけではなく、商品を検索して探すスタイルから、信頼できる人に商品を紹介してもらうスタイルに映ることを示唆している。日本でも以前から言われている「モノ商品からコト消費へ」が本格化をしている。

Tik Tokライブコマースが、今後も成長を続けるようであれば、このECの大きなパラダイムシフトが確実になってくる。ECは大きな変革期を迎えている。