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コロナ禍のショッピングモール。オンライン対応で成功したのはわずか15%

コロナ禍によりショッピングモールが総崩れになっている。モールの多くは集客力を高めることに意識が向いていたため、オンラインへの対応が遅れていた。それがコロナ禍で集客不能の状態になり、慌ててオンライン対応を始めたものの、多くが失敗をしていると懂一点的30楼が報じた。

 

コロナ禍に対処できたモールはわずか15%

ショッピングモールが苦しんでいる。今年2020年上半期のコロナ禍により、外出が控えられ、ショッピングモールの客足が止まった。当局の指導により、一定期間休業をするショッピングモールも多かった。

そこで、対応策として、ショッピングモールはO2O、新小売に対応し、スマホ注文で宅配をする仕組みを始め、さらにライブコマースを行い、ネット販売に隘路を模索しようとした。

しかし、結果は思わしくないようだ。「感染拡大期間、ショッピングモールが採用したデジタル販売手段」(商業地産デジタル化研究社)の186業者へのアンケート調査によると、91%のショッピングモールが感染拡大期間に何らかのオンライン販売手法を行なったが、結果に満足をしたと回答したショッピングモールはわずか15%で、73%が満足していないと回答している。

オンラインに対応できていなかったモール

この調査によると、多くのショッピングモールが、コロナ禍以前には、O2Oや新小売に対する対応ができていなかったようだ。調査対象のショッピングモールのうち、オンライン会員システムを構築または構築する計画を持っているところはわずか43%で、57%は会員システムそのものが存在しなかった。

2月18日から2月21日というコロナ禍が最も厳しい時期を抜け出して、ようやく減少傾向が見え出した期間、ショッピングモールの新小売による販売数は惨憺たるものだった。この4日間に注文数が100件以下というところが38%もある。500件以下だと75%を超える。まったくお話にならないところがほとんどだった。

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▲2月18日から21日までの新型コロナの感染拡大が最も厳しい時期に、ショッピングモールが受けたオンライン注文件数。100件以下という話にならないレベルのモールが38.82%もあった。

 

集客力を高めることを重視していたモール

このようなショッピングモールのO2O、新小売の失敗には3つの原因があると懂一点的30楼は解説している。一言で言えば「対応が遅すぎた」ということになる。

ひとつ目の理由は準備不足だ。社会消費品販売額(個人消費)のうち、実体商品オンライン販売額が占める割合=EC化率は、2018年が16.5%前後、2019年が20.7%と年々上昇をしている。そのため、2018年頃から多くの小売業がO2O、新小売をテーマに業態改革を始めていた。

2020年に入ると、EC化率は急上昇。6月には29.06%に達する。その後、実体店舗が復調をしてきて、EC化率は下がっていくが、それでも23%程度を維持し、今年2020年合計では25%前後になると見られている。

一方で、ショッピングモールは、集客力ばかりに目を向けてしまい、オンライン販売の仕組みを構築してこなかった。それがコロナ禍により、泥縄で始めてみても、すべての施策が後手に回ることになる。

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▲社会消費品販売額(個人消費に相当)のうちのオンライン購入率。つまり、EC化率は年々上昇している。コロナ禍期間には30%にも達しようとしていた。この統計を見れば、あらゆる小売業がオンラインに対応することは必須だった。

 

オンラインの目抜き通りはすでに占有されている

2つ目の理由が、オンライン販売の世界もすでに目抜き通りは先行者により占有されてしまっているということだ。

最も成功をしたのは、杭州市を中心に26都市50店舗を展開する銀泰百貨(インタイ、Intime)だ。銀泰では、2017年1月という早い段階からアリババと提携して新小売を導入している。スマホ注文により10km圏内2時間配送をするだけでなく、最も成功したのがライブコマースだった。

このライブコマースは、売上を狙ったものではなく、接客品質を上げるためのものだった。ライブコマースに出演するのは、各売り場のスタッフ。自分の担当商品の中から自信を持って推薦できる商品の特長や使い方を紹介する。それを見た利用客が店舗に行くと、出演をしたスタッフが実際にカウンターの中で働いている。ライブコマースが話のきっかけとなり、声をかけやすくなる。スタッフは、レジ係の作業が減り、本来の業務である商品知識を活かしたコンシェルジュ業務に集中できるようになる。

このような改革を行なったところにコロナ禍が起こり、銀泰百貨もコロナ禍により営業自粛をしたが、毎日200以上のライブコマースを配信、1配信あたりの平均視聴者は1.5万人を突破。合計すると、以前の来店客数よりも多くなり、「クラウド百貨店」と呼ばれるようになった。

また、北京など20都市に67店舗を展開する天虹百貨も早くから新小売を導入し、オンライン会員はすでに2600万人を突破している。今年になって、社名も「天虹商場」から「天虹数科商業」に変更し、デジタルシフトを本格化させている。

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▲銀泰百貨は、2017年から新小売に対応し、販売スタッフによるライブコマースを始めていた。これによりコロナ禍でもクラウド百貨店として大きな損失を受けることなく乗り切っている。

 

新小売を前提にした新世代ショッピングモール

また、最初から新小売を前提にしたショッピングモールも登場している。凱徳星商城(カイダーシン、CaptaLand)だ。シンガポール、中国、マレーシアなど5カ国の53都市105ヶ所のショッピングモールを運営し、その多くで、新小売、ライブコマースを前提とした運営を行なっている。

つまり、新小売化は、コロナ禍以前から着手をしているところが数多くあり、コロナ禍が起きた時には、サイバー空間の目抜き通りはこのような先行者によって占拠されていた。ショッピングモールが窮余の策として新小売化を始めても、裏路地のような場所しかすでに空いていなかったのだ。

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▲キャピタランドは、ライブコマースやスマホ注文など新小売を前提にしたショッピングモール。中国、シンガポール、マレーシアなど5カ国53都市105ヶ所のショッピングモールを運営している。

 

EC各社が店舗小売に進出し、オンオフ小売を融合

3つ目の理由が、ECの実体小売への進出だ。ECの成長が頭打ちになっているのは数々の統計が物語っている。2019年のネット利用者は8.54億人で、2018年からの増加はわずか1.6%で、この10年で最低となった。ネット利用者そのものが頭打ちになっている。

その中で、アリババのECでは新規顧客獲得コストが536元、京東では758元となり、利用者数を伸ばすのが難しくなっている。

そのため、各ECは新小売、到家サービスなど、実体小売の領域に進出を始めている。ジャック・マーの予言「オフライン小売とオンライン小売は深く融合し、すべての小売業は新小売になる」が始まっていて、EC側から新小売の山を登り始めているテック企業がいる中で、ショッピングモールは新小売の山を反対側から登っていかなければならない。テック企業は、最初に桁外れの莫大な投資をし、主導権を握ってしまうという手法を取ることが多いので、ショッピングモールがこれに対抗をしていくことは簡単ではない。

 

新小売を軽視していたモールの苦境

結論を言えば、ショッピングモールは新小売への対応が遅すぎた。コロナ禍が起きるまで何もしていなかったところもある。もちろん、経営者にコロナ禍のようなことが起きることを予想し、対応策を練っておくべったというのは厳しすぎるかもしれない。

しかし、一方で、中国のEC化率が年々上昇をしていることも明らかだった。だとすれば、実体小売はECに対する何らかの準備をしておくべきだったと言うこともできる。実体小売そのものが厳しくなっている百貨店業界から、銀泰や天虹などの成功例が登場しているのは、その危機感が後押しをしてくれたからだ。

時代の潮流を考えれば、新小売への対応は必須だった。しかし、高い集客力を持つモールほど現状に満足をし、対応を怠った。それがコロナ禍により、一気にツケが回ってきた状態だ。

ショッピングモールが今から巻き返すのは簡単ではない。モールが巻き返しに成功し、息を吹き返すか、それとも20世紀のビジネスモデルとして消えていくことになるのか、正念場を迎えている。

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