蘇州市で、9人乗りの自動運転コミュニティーバスが正式に営業運行を始めた。開発元の軽舟智航では、次のステップとして、自由路線を走行するオンデマンドバスに進化させていく計画だ。中国の自動運転は、実証実験の段階を終え、各地で営業運行が始まっていると創事記が報じた。
頭羊計画で、自動運転都市になろうとする長沙市
自動運転は、中国では「街おこし」の重要なアイテムになっている。自動運転のタクシーやバスを運行させて、都市の顔にしようというものだ。
その中で最も目立っているのは湖南省長沙市で、百度(バイドゥ)の自動運転プラットフォーム「アポロ」によるロボタクシーが、2019年9月から試験営業を始めている。当初は45台のロボタクシーを投入し、事前登録したモニター乗客を乗せるというものだったが、2020年4月には全面開放をされ、誰でも事前登録なしに利用ができるようになっている。
さらに2020年4月には、定時運行路線のひとつである315路に、やはり百度の自動運転技術を使ったロボバスを10台投入し、営業運行を始めている。
長沙市では、2035年までに公共交通をすべて自動運転化する「頭羊計画」を進めていて、今後3年で7000台以上のロボバスを投入することが決まっている。頭羊計画では、単にロボバスを投入するだけでなく、交通信号を始めとする道路設備のネットワーク化も行い、ロボバスは走行に合わせて、交通信号が緑になるなど、円滑な運行と環境保全を両立させる計画だ。
▲自動運転ロボタクシーに先鞭をつけた長沙市の百度アポロのロボタクシー。全面開放され、アプリ登録をすれば誰でも利用できるようになっている。
▲長沙市でも315路のバス路線にロボバスが10台投入されて、営業運行を行なっている。
蘇州市ではコミュニティーバスを自動運転
その他の都市でも、すでにロボタクシー、ロボバスの試験運行というのは珍しくなくなっている。長沙市のように、試験運行を完了して、正式運行の段階に進む都市が現れ始めている。
長沙市に続く都市として注目され始めたのが江蘇省蘇州市だ。蘇州市では、軽舟智航が開発した9人乗りのミニロボバスを5台投入して、正式運行を始めた。
現状は、蘇州北駅周辺の高鉄新城地域を循環するコミュニティーバスで、Q1、Q2の2路線が設定され、乗務員や車両の交代を除いて、同じ循環路線を回っている。すでに正式営業だが、乗客は無料で乗車することができる。今後、有料になるかどうかは未定だ。
▲蘇州市で正式営業を始めた軽舟智航のコミュニティー自動運転バス「QCRAFT」。すでに誰でも利用できるようになっている。
▲現在のQCRAFTの路線。高鉄駅を中心にその周辺を巡回する。正式営業となっていて、誰でもアプリ予約することで利用できる。
最終的な目標はオンデマンドバス
軽舟智航は、グーグル傘下の自動運転開発企業ウェイモーの中国人エンジニアたちが、2019年3月にシリコンバレーで創業した企業。同年8月には米国で走行実験を行い、2019年末に深圳と北京に拠点を設立、蘇州市で実戦投入をすることになった。
軽舟智航が目指しているのは路線バスではなく、最後の1km問題を解決するオンデマンドバスだという。最終的には、乗客個々の目的地まで、最適ルートをリアルタイム計算しながら、ドアの前まで乗せていく、あるいは迎えにいくという運行を目指しているという。
あた、軽舟智航ではロボタクシーも蘇州で走らせる計画で、ミニロボバス、ロボタクシーあるいはシェアリング自転車などと組み合わせて、最後の1km問題を解決することも模索している。つまり、自動運転技術を使って、効率的な次世代SaaSを構築しようとしているのだ。
▲蘇州市で試験走行を始めた軽舟智航の自動運転タクシー。高鉄駅を中心にロボバス、ロボタクシーを走らせ、上海の衛星都市として発展させていくという狙いがある。
時速50kmで走行する軽舟智航のミニロボバス
軽舟智航のミニロボバスは、従来のものと比べて性能が一段あがっている。従来の自動運転ミニロボバスは、閉鎖区間を巡回するものがほとんどだった。公園の中、マンションの中、工場の中の移動に使うもので、速度も時速20km以下に抑えられている。しかし、軽舟智航のミニバスは、複雑な環境の公道走行が可能で、時速も20kmから50kmで走行をする。周囲の流れに乗ることができ、到着時間も早くなり、実用性が格段にあがっている。
5G通信によるリモート監視、リモート操縦にも対応しており、現在は安全監視員が運転席に座っているが、安全性が確保されたら、完全な無人走行にすることも考えている。
▲蘇州市を走るロボバスQCRAFT。現在は固定路線のコミュニティーバスだが、将来は自由路線を走るオンデマンドバスになる予定。最高時速50kmで走行し、実用性も高くなった。
高鉄駅を中心に、上海の衛星としとしての発展を目指す
蘇州市には、軽舟智航だけでなく、さまざまな自動運転企業が注目をしている。スタートアップMomentaも蘇州でロボタクシーの試験運行を始め、仙途智能は自動運転の道路清掃車を走らせている。
蘇州市は、高鉄で大都市上海市から1時間かからないという絶好の位置にある。高鉄駅付近の交通環境を整えて、上海の企業を誘致し、蘇州市の経済を成長させたいという狙いもあるようだ。
都市間競争が激しい中国で、自動運転を武器に都市の顔値を高めようとする都市が増え始めている。すでに実証実験の段階は終わり、正式運行の段階に入り始めている。
▲ミニロボバス運転席のモニター。監視員は運転席に座り、前方とモニターで監視を行い、異常が起きた場合は手動でバスを停止させる。
▲蘇州市では、道路清掃にも無人運転車を導入している。自動運転を都市の顔にしようとしている。