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中国電子産業の原点「山寨機」とは何だったのか?

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明日、vol. 048が発行になります。

 

今回は、山寨機についてご紹介します。山寨機(さんさい、シャンジャイ)とは2010年前後に大量に製造された偽物携帯電話、コピー携帯電話、ノーブランド携帯電話のことです。ドラえもんの玩具から型取りをしたドラえもんケータイ、あるいはランボルギーニの車の形をした携帯電話、タバコの箱の形をした携帯電話などで、もちろん、正規の権利者のライセンスなど受けていない違法なものです。

あるいは、大手メーカーそっくりで、中身までほぼ同じというコピー携帯電話、本物とは似ても似つかないのにブランド名だけ1文字変えた偽物携帯電などもありました。

このようなことから、日本では、ビジネス関係者からは眉をひそめられ、サブカル系の人からお笑いのネタにされるような扱いをされました。

 

確かにそのような扱いをされても仕方がない製品がほとんどでした。しかし、一部の山寨メーカーからは優れた製品も登場します。当時すでにダブルSIMケータイも普通に売られていました。また、FMラジオに対応したケータイ、タッチペンに対応したケータイなどもありました。スマートフォンではなく、フィーチャーフォンの時代です。山寨機の競争は熾烈であったため、カンブリア爆発のようにありとあらゆるアイディアが注ぎ込まれたのです。

その中から、天宇、国虹、金立といった当時のトップ10に入るようなメーカーも誕生してきます。

 

小米(シャオミ)は、このような山寨機と直接の関係はありませんが、ある意味で山寨文化の到達点だということができます。2019年のシャオミ9周年のイベントで、創業者の雷軍(レイ・ジュン)は、山寨機について、このように述べました。「この短い9年という時間で、私たちが成し遂げた最大の変化とは何か。それは山寨機を消滅させたことです。山寨機は今、すべて消え去りました」。

雷軍は大学生の頃には武漢の電気街に入り浸り、就職をしてからは北京の電気街である中関村に入り浸った電子マニアで、山寨機のこともよく知っています。しかし、山寨機を敵視していたわけではありません。山寨機は、低価格であり、(一部のものは)高性能であり、発想も豊か。ただし、法律の手順を踏まない違法なものか違法ぎりぎりのものが多い。雷軍は、山寨機のよさである「低価格」「多機能」を合法的なビジネスとしてきちんとやりたいという思いで、シャオミを創業したのです。それにシャオミが成功すると、山寨機はシャオミに対する競争力を失って消えていったのです。

シャオミは、山寨文化の優れた部分を受け継ぎ、それを陽のあたる場所に持ち込みました。山寨機を憎んで撲滅をしたというのではなく、シャオミが成功をすれば山寨機の必要がなくなるのは必然で、山寨機が消え去るということはすなわちシャオミが成功したということなのです。だからこそ、雷軍は、シャオミの成功を説明する言葉として、先程のような発言をしたのです。

 

山寨機は、ライセンスを受けずに勝手に技術を使ってしまう、キャラクターなどの版権の使用許可を受けずに勝手に使ってしまうところから、違法製造の携帯電話と見なされているところがありますが、多くの山寨メーカーは、ノーブランド携帯電話を販売し、中国の携帯普及率の上昇に大きく貢献しました。中国の携帯電話産業の原点なのです。

しかも、中国政府もこのようなグレービジネスをうまく制御し、後押しをすることで、現在の電子産業が生まれてきています。

山寨機の発展史を理解すると、現在の中国の製造業のスピード感、発想力などの源泉が山寨機にあることがわかるはずです。小さな山寨メーカーでは、家族や友人が中心となり、数人の人間で運営し、平日に働いて、週末に電気街のカウンターで売る。そこでお客さんと触れ、新しい携帯電話の機能を発想し、新しい携帯電話を製造する。企画から発売まで1ヶ月でやってしまうという小規模メーカーが無数にありました。

これは今日の見方では、いわゆる「高速でPDCAサイクルを回す」という手法をごく自然にやっていたのです。あるいは「モノのアジャイル開発」をやっていたと言ってもいいかもしれません。

現在、多くの製造業で、どのようにして取り入れるべきかという議論が進んでいる高速PDCAサイクル(プラン、ドゥー、チェック、アクションのサイクル)やモノのアジャイル開発(機能する製品を完成させることを優先し、運営しながら改善、修正をしていく手法。ネットサービスでは常識になっている手法)を、山寨メーカーたちは、誰に教えられたわけでもなく、10年以上も前に自然に行なっていたのです。

もちろん、山寨メーカーの95%以上は、粗雑な物作りで、いい加減で、お金にしか興味のない人たちです。しかし、上位5%は、後の中国のテック革命を起こす露払いの役目を果たしました。

 

深セン半導体業協会(SZSIA)の統計によると、最盛期には2.55億台の山寨携帯電話が出荷されています。この頃、世界の携帯電話の出荷台数は10億台前後です。つまり、世界の携帯電話の1/4は山寨機だったことになります。

しかも、中国国内の需要は2007年をピークに減少をしていきます。すると、急速に輸出台数が増えていくのです。インド、アフリカ、中東、南米などの途上国が中心です。

現在、シャオミのスマートフォンはインドで非常によく売れています。また、OPPOvivoと親戚関係にもある携帯電話メーカー「伝音」もアフリカでよく売れています。現在のスマホメーカーは、山寨が切り拓いた輸出ルートに乗って成功をしているのです。

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山寨機の出荷台数。2007年が分水嶺となり、国内向けから海外向けにシフトをしていく。深セン半導体業協会(SZSIA)の統計より作成。

 

私たち日本人には、「国内市場でしかものごとを考えない」という悪い習慣があるようです。山寨機は明らかにフィーチャーフォン時代に、世界、特に途上国の携帯電話普及率を押し上げることに大きく貢献しましたが、なぜか日本では「お笑いネタ」とか「怪しいサブカルネタ」という扱いをされてしました。

国内で、日本メーカーが開発したiモードを始めとする世界最高水準の携帯電話が普及していた傍らで、途上国では山寨機が普及をし、世界の誰もが移動通信端末を持つ時代になるという大きな変革を見逃していたようなところがあります。

この「国内市場しか視野に入らない」習慣はいまだに続いています。例えば、「新小売」「ビッグデータ」「人工知能」などは、一時の流行ではなく、次の時代を構成する決定的な潮流になっていますが、いまだに日本人の中には「いずれ中国は失敗をする」という見方をする人がいます。

山寨の発展史を知ることは、このような日本人特有の悪癖を取り除く効果もあります。中国人のテクノロジーに対する姿勢、ビジネスに対する姿勢、国や地方政府がどのようにそれを制御していくのか。そのような人と技術と政策という歯車ががっちり組み合って、短期間で市場が急成長をしていきます。その中国の新興ビジネスのスピード感の原点は、この山寨機市場にあります。山寨機の発展史を理解することで、中国の新興ビジネスの成長の仕組みが理解できるようになります。

今回は、山寨機の発展史をご紹介します。

 

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