中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

ライブコマース利用者の4類型と5つの対応策

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明日、vol. 047が発行になります。


今年の11月11日独身の日セールも終わり、アリババの天猫(Tmall)では流通総額が3723億元(約5.9兆円)、第2位のEC「京東」(ジンドン)では2715億元(約4.3兆円)という予想を超える記録が生まれました。この他、流通総額を公開していませんが、ソーシャルEC「ピンドードー」も昨年の流通額を大きく上回ったと見られています。今年は、コロナ禍がどのように影響するのか不確定要素も大きく、関係者はまずは胸をなでおろしたことでしょう。

 

一方で、ECという販売方式がかなり金属疲労を起こしていることも確かです。セールが終わった翌日は「返品」という言葉の検索率が急激に上がります。返品率は明らかにされていませんが、メディアの報道によると、服飾品で30%以上、その他の生活雑貨でも30%近くという数字が報道されます。この数字の信憑性がどの程度のものなかはわかりませんが、多くの消費者は納得をします。実感と合うのです。それほど「購入してから返品」というやり方が一般的になっています。

 

返品をする理由はクーポンとの組み合わせの問題です。独身の日セールで多くの人が買い物をするのは、セール期間に買うと、大幅に得ができるからです。しかし、販売価格はさほど下がりません。むしろ、セール期間の割引率の数字をあげるために、9月、10月あたりからじわじわと価格が上がっていく商品もあるほどです。

得ができる理由は、大量のクーポン券で、基本になるのが満減券と言われるものです。これは「満300減40」であれば、「300元買うと40元割引」というものです。そのため、必要がなくてもクーポンが使える金額に達するために余計なものを購入せざるを得ません。そして、購入をした後、返品をするというわけです。

さらに、消費を促すため、中国の商店、ECの販売業者は「三無返品」制度を採用しているのが一般的です。三無返品とは「理由なし、現物なし、レシートなし」です。特にECの場合、購入記録は残っているので、カスタマー担当が返品の理由を聞くような高コストの対応をするよりも、さっさと返品を受け付けてしまった方が得策です。

日本の感覚だと、返品をするのは申し訳ない気持ちになる感覚がありますが、もはや中国ではその感覚はありません。賢い買い物のテクニックとして認知されていますし、販売業社の方も返品されることを織り込んで販売計画を立てています。

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▲WeChatで「返品」が検索された指数。10月中旬、11月11日など大型セールの後は「返品」で検索する数が跳ね上がる。

 

また、多くの人が、特に中年以上の年齢の高い層では「EC疲れ」が見られるようになっています。日本でもそのような傾向がある程度ありますが、クーポンを適用するには「◯◯円以上」であるとか、「この商品は対象外」「この商品と組み合わせると有効」「クーポンの併用はできない」などさまざまなルールがあって、その組み合わせを考えるのは、もはやパズルになってきています。

また、豊かになった中国都市部では、さほどほしいものがなくなってきています。それでもセールに驚異的な数字が出るのでは、この日に買うのが得というよりも、他の日に買うと損をするという感覚が生まれているため、日用の消耗品をまとめ買いしたり、なんとなく熱気に煽られて、何も買わないと寂しい気持ちになるので買うという人もいます。

このような事情は、もちろんアリババにしても、京東にしても気がついていることは間違いありません。そのため、今年の独身の日セールは、11月11日1日だけではなく、アリババでは11月1日から3日までの第1波、11月11日の第2波の2回に分けて行われました。京東や他のECでも2回に分けて数日間行われました。長期間にわたって、さまざまなイベントやプロモーションを行って、消費欲を刺激したのです。また、ECだけでなく、ライブコマースにも力を入れるなど、セールの内容を徐々に変えつつあります。

 

その中で注目されたのが、バイトダンスの「抖音」(ドウイン)がライブコマースで187億元(約2980億円)を売り上げたことです。抖音はショートムービーSNSサービスで、この国際版がTik Tokです。本家の抖音にはライブ配信の機能があり、これを利用したライブコマースが盛んになっています。

この187億元という数字は、アリババの1/10以下で極めて小さな数字ですが、バイトダンスが独身の日セールに参加をしたのは今年が初めてのことで、最初の年に187億元という数字は各方面の関係者を驚かせました。

なぜなら、アリババは2009年から独身の日セールを始めていますが、最初の年は5200万元で、4年目の2012年になってようやく191億元になります。つまり、抖音は最初の年で、いきなりアリババの4年目の記録に迫ったのです。

抖音は、以前からライブコマースに対応をしていましたが、実際の販売は淘宝網タオバオ)や京東に委託をし、送客手数料をもらうというものでした。しかし、今年2020年6月にEC部門を立ち上げ、自社で製品のEC販売も行うようにしました。その最初の大きな仕事が独身の日セール(バイトダンスでは抖音寵粉節と呼んでいる。愛しいファンのためのお祭りといった意味)で、初年度としては大きな成果をあげたのです。

 

このバイトダンスの参入が、関係者に衝撃を与えたのは、みな、どこかに「ECの時代は終わり、ライブコマースの時代になるのではないか」という不安があるからです。ライブコマースは、一時の流行ではなく、次のプラットフォームになる可能性があると見ているのです。

なぜなら、若い世代は、ECではなくライブコマースを利用する人が多いからです。タオバオライブの調査によると、ライブコマース利用者のうち、40%が90后と00后でした。90后は90年代生まれのことで20代です。00后は2000年代生まれのことで10代です。

若くてお金に余裕がないために、流通総額はライブコマース全体の1/3と少な目ですが、いずれ社会に出たり、地位が上がれば、購入量も増えていくし、購入金額も増えていくでしょう。

ライブコマースを好む若者が、中年になったら突然ECを使い始めるというのは考えづらいことです。中年になってもライブコマースを好むでしょう。つまり、ネットの小売業のプラットフォームは、ECからライブコマースに移り始めているのではないか。この数年でその傾向が進むのではないか。ここに多くの人が注目をしています。

 

この推測は合理的です。ウェブの使い方の変化を振り返ってみてください。インターネットが登場した頃は、「情報の大海をサーフィンする」などと言われ、ワード検索をして、情報を探し当てるという使い方が主流でした。しかし、スマートフォンが登場すると、情報検索のような使い方よりも、友人知人とコミュニケーションを取るSNS、著名人とも交流できるツイッターのようなコミュニケーションが主流の使い方になってきました。

ECは、商品専用の検索サイトです。「4Kテレビ」などのキーワードで検索をして、商品を探し当て、購入するかどうかを考えます。しかし、ウェブの使い方の変化を考えれば、信用できるインフルエンサーが商品を紹介してくれるライブコマース、友人知人が勧めてくれるソーシャルECに移るのではないかと考えることは、あながち間違いではありません。ネット小売業も検索の時代からコミュニケーションの時代に移っていくと考えるのは、きわめて妥当な予測です。

 

タオバオライブは「ライブコマース新世代人群洞察」という報告書の中で、ライブコマースを利用する典型的な若者像を分析し、販売業社はそのような若者に対してどのような施策を打つべきかというヒントを分析しています。

現在、ライブコマースでどのような人たちが利用をし、ブランド、メーカー、販売業者はどのような対応をしていくのか。もし、ライブコマースへの移行が、一時の流行ではなく、必然的な潮流であるのであれば、日本でも遅れてライブコマースの時代がやってくることになります。その時に、中国のライブコマースの実情を知っておくことは決して無駄になりません。

今回は、この報告書に基づいて、ライブコマースを利用する若者像をご紹介します。

 

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