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不正経理、上場廃止、コロナ禍でも、黒字化が見えてきたラッキンコーヒー

モバイルオーダーを先駆けて行ったカフェチェーン「ラッキンコーヒー」が復調している。創業わずか1年8ヶ月で米ナスダック上場をするという奇跡を起こした後、不正経理が発覚し上場廃止、さらにコロナ禍と苦難が続き、多くの人が倒産は秒読み段階だと見ていた。しかし、意外にもコロナ禍の中で売上を維持し、2021年には黒字化が見えている。その鍵は、オンライン流量を重視する考え方にあると燃財経が報じた。

 

コロナ禍でスタバとコスタは打撃。ラッキンは黒字化が見えてきた

中国のカフェチェーンは、スターバックスと瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)がトップの座を競い合い、それを英国のコスタコーヒーが追いかけているという図式になっている。

しかし、このコロナ禍で、スターバックスとコスタコーヒーが大きな打撃を受けたのに対して、ラッキンコーヒーは大きな損失を出していない。いったい何が違うのだろうか。

 

スタバ、コスタはコロナ禍で大規模縮小

コスタコーヒーは、北京、杭州、青島、南京などの店舗を大量閉店すると発表した。特に青島は40店舗を超え、閉鎖する店舗は全体の10%程度になる。

スターバックスも大きな打撃を受けている。2020Q3の決算は、店舗売上が40%減という史上最悪のものとなった。

さらに、スターバックスとコスタコーヒーの宅配業務を請け負ってい、自社ブランドコーヒーの販売も行う連珈琲(コーヒーボックス)は店舗をすべて閉鎖することを発表した。店舗の再開は未定で、スマホ注文+宅配のみの営業を続けるという。

コーヒーボックスは2014年に創業し、2017年に黒字化を達成した。実は、中国の大手カフェチェーンで、黒字化を達成しているのはスターバックスとこのコーヒーボックスだけだった。それがコロナ禍により一気に経営が厳しくなった。

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▲スタバのデリバリー+独自ブランドのコーヒーというビジネスモデルのコーヒーボックスもコロナ禍により、全店閉鎖を決めた。

 

不正経理は経営層の問題、現場には影響しなかった

一方で、誰もが終わったと見ていたラッキンコーヒーがしぶとく生き残り、通常営業を続けている。コロナ禍による大きな打撃の跡も見受けられない。それどころか、「戦略的に赤字を出す」状態から抜け出し、すでに店舗単位では黒字化を達成するところもあり、2021年にはチェーン全体での黒字化を見込んでいるという。

2019年5月、創業1年8カ月というスピードで、ラッキンコーヒーは米ナスダック市場に上場を果たした。しかし、上場から1年も満たない内に不正経理が発覚をして、強制的に上場廃止をすることになった。それ以来、多くの人が「ラッキンコーヒーはいつ倒産をするのだろうか?」と見るようになっていた。

しかし、ラッキンコーヒーの不正経理問題は、経営層の問題で、現場は何も問題がない。店舗コストを下げることで、その分を品質コストに回す。上質のコーヒーをモバイルオーダーまたはデリバリーで提供するというラッキンコーヒーの創業以来の強みは変わっていない。

実際、ラッキンコーヒーの店舗再開率は90%を超え、4000店舗以上が正常営業をしている。

 

カフェ以外の市場に活路を見出すコスタコーヒー

青島地区を中心に、全店舗の10%を閉店を発表したコスタコーヒーは、閉店はあくまでも質の高いサービスを維持するための措置で、中国市場から撤退することはなく、今後も状況を見ながら店舗拡大の機会を伺っていきたいとしている。

しかし、コスタコーヒーの不調は、コロナ禍以前から始まっていた。コスタコーヒーは「2018年に2500店舗」の目標を掲げていたが、いつの間にか、この目標は「2020年に900店舗」になったが、それも実現は難しく、現在400店舗程度となっていた。それが10%程度の閉店を進めている。スターバックスの4000店舗と比べると、その差は大きい。

コスタコーヒーは経営努力を続けている。2018年にはコカコーラの資本を入れ、2020年に初めてインスタントコーヒー製品の販売を始めた。また、2020年6月には健康・飲食家電製品メーカー「九陽」と提携をし、カプセル型コーヒーマシンを開発し、家庭市場にも参入をした。

2006年にコスタコーヒーが中国市場に参入した時、ライバルはスターバックスで、店舗数の拡大が大きな目標になっていた。しかし、次第に家庭などの店舗以外の市場に拡大をすることが目標となり、このコロナ禍で店舗拡大から市場拡大にはっきりと路線変更をすることになると見られている。

 

店舗体験重視が史上最悪の決算となったスタバ

中国で4000店舗を展開するスターバックスは、2020Q3の決算が史上最悪のものとなった。営業収入は42.2億ドルだったが、昨年同時期の68億ドルと比べると38.12%減となる。利益も6.78億ドルの赤字となり、昨年同時期の13.73億ドルの黒字から大きな減少となった。

理由は言うまでもなく、コロナ禍による営業自粛だ。4月には店舗売上が65%も減少した。6月になって店舗再開が進んでも16%の減少だった。スターバックスは、グローバル市場でも、今後18ヶ月で南北米の400店舗を、今後2年でカナダの200店舗を閉鎖することを発表している。

スターバックスは店舗のでコーヒー体験を重視するカフェチェーンだ。中国では、スマホ決済、モバイルオーダー、デリバリーと中国で起きている小売業の変化に対応をしていったが、そのタイミングは遅かった。その間に、ラッキンコーヒーなどの新世代のカフェチェーンの台頭を許してしまった。店舗体験を重視する伝統的な理念が、新サービスへの対応を鈍らせていて、これがコロナ禍で大きな打撃を受ける要因になったと見られている。多くの人が、スターバックスのコーヒーは店舗に行って飲むものと認識していることが仇になった。

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▲上海のスターバックスリザーブロースタリー。スタバは店舗体験を重視するため、モバイルオーダーやデリバリーに対する対応が遅れ、コロナ禍により史上最悪の決算となった。

 

モバイルオーダー、デリバリーが順調なラッキンコーヒー

コスタコーヒー、スターバックスの不調と対照的に、「いつ倒産するのか?」と言われていたラッキンコーヒーがコロナ禍により再生のきっかけをつかんでいる。

燃財経は、実際にラッキンコーヒーの店舗を取材した。北京市朝陽区の建外SOHO15号ビルにある店舗で、2フロアーもあるこの近辺では最も大型の店舗だ。月曜日の午後だったが、テーブルは満席で客数は15人ほど、常に7、8人がコーヒーの受け取りカウンターにいる。だいたい3分から5分に1人は新しい客が入ってきて、女性が多い。この他にもデリバリースタッフが常にコーヒーをピックアップにきている。

さらに朝陽区建国門外大街の中環世貿センターの店舗に移動した。ここは小型店舗でテーブルが3つしかない。ここでもテーブルには合計6人がいて、3人ほどがカウンターに並んでいた。スタッフによると、不正経理問題が発覚した直後は客数が減少したものの、その影響は限定的で、すぐに通常の客数に戻ったという。

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▲ラッキンコーヒーでは、コロナ禍でも、モバイルオーダーしたコーヒーの受取客が絶えなかった。

 

固定ファンを獲得していたラッキンコーヒー

ラッキンコーヒーでも、店舗の閉鎖は行っている。しかし、上場するまで「どこにいても徒歩5分圏内にラッキンコーヒーがある」状況を作り出すため、大量出店をしていて、ラッキンコーヒーの店舗同士のカニバリズムも起こり始めていた。そのような重複店舗の整理を進めていて、現在でも5197店舗を展開し、店舗数だけでは中国最大のカフェチェーンであることには変わりない。

不正経理問題が起きたのは、株価を不正に上げようとしたもので、企業としての信頼やイメージは悪化をしたが、事業そのものは影響を受けていない。店舗コストを下げて、上質のコーヒーを提供するという創業以来のコンセプトは確実に固定ファンを獲得していた。

 

ラッキンを応援するコアファンも多く生まれていた

北京市バリスタ養成学校「斯葵邇コーヒーラボ」の創業者、張宏氏によると、ラッキンコーヒーは大量のラッキンコーヒーファンを生み出し、その人たちの中では、毎日ラッキンコーヒーを飲むのが習慣になっていた。そのコアファンの間では、コロナ禍で「ラッキンコーヒーが飲めなくなる」ことを心配していたほどだという。

このようなコアファンが、コロナ禍でもデリバリーなどを積極的に注文をしたため、ラッキンコーヒーの注文数はコロナ禍でかえって伸びた地区もある。WeChatのラッキンコーヒー店舗ごとのグループも9000を超え、このような人たちが、ラッキンコーヒーを支えるために、友人の分まで注文をすることで、コロナ禍の売上を落とさずにすんだ。ラッキンコーヒーの会員の仕組みでは、注文すればするほど優待を受けられる仕組みになっているため、これも「友人の分まで注文する」行動を促していると思われる。

WeChatでこのような店舗グループに参加をしただけで、最初の1杯が38%の価格で注文できるクーポンがもらえる。ラッキンコーヒーでは、毎日3.5万杯のコーヒーを販売しているが、このWeChatグループの消費者は利用額が30%上がり、リピート率も28%上がるという。このWeChatグループ利用者は毎月60万人以上、現在でも増え続けている。

 

オンライン流量を重視するラッキンコーヒー

ラッキンコーヒーでは、コロナ禍になって、60種類もメニューを増やした。このような積極施策が、今までラッキンコーヒーを利用してこなかった新しい顧客の確保につながっている。

ラッキンコーヒーが、伝統的なカフェチェーンと異なるのは、売上よりもオンライン流量に注目をしていることだ。アプリ、WeChatミニプログラム、WeChatグループなどのオンラインの顧客チャンネルのアクティブユーザー数を重視し、クーポンなどを活用して、流量をあげる工夫に注力をしている。実体店舗の客数は、結局は周辺環境の人出の多さにより左右されてしまい、客数をあげる工夫をしても限定的な効果しかない。しかし、オンラインの客数=流量は施策次第でいくらでもあげることができる。流量を上げることで、そのうちの一定割合がコーヒーをモバイルオーダー、デリバリー注文することで売上を確保するという考え方だ。

この路面の客数よりも、オンラインの客数を重視するという考え方が、コロナ禍の影響を受けずに済むことになった。経営スキャンダルを起こしたラッキンコーヒーだが、コロナ禍を生き延びただけでなく、復活のきっかけにさえしようとしている。