ガソリン車から新エネルギー車へのシフトを進めている中国だが、新エネルギー車の売上目標が達成できない状態が続いている。実際にEVに乗っているドライバーに本音を聞くと、やはり問題は充電だった。充電の煩わしさから行動範囲が確実に狭くなるという。EVを買った人は多くが後悔していると皆電が報じた。
目標を大きく下回っている新エネルギー車販売割合
中国乗用車市場情報聯席会(CPCA)の統計によると、2020年上半期の乗用車販売台数は約770万台。2月は元々春節休みで販売店が長期に休むため、販売量が少なかったが、今年2020年は新型コロナの感染拡大が広がり、歴史的な落ち込みとなった。その後、復調はしているものの、昨年と比べると、もうひとつ販売量が戻り切れていない。
このうちの新エネルギー車の販売割合は約3.8%。取得税の減免やナンバー取得の優遇などの措置があるが、まだまだ多くが商用利用であると見られている。中国工信部は、2018年に2020年の新エネルギー車の販売目標を全体の10%としていたが、目標達成はほぼ不可能になった。昨2019年も目標は8%だったが、実際は4.6%だった。消費者が問題を感じているのは充電問題だ。
▲中国の乗用車販売台数(単位は千台)。2月、3月はコロナ禍の影響による落ち込みだったが、その後も昨年に比べると厳しい状態が続いている。完全に復調できたとは言い難い。中国乗用車市場情報聯席会(CPCA)の統計より作成。
EVを買って後悔している消費者の実際
皆電では、EV(電気自動車)に乗る滴滴出行のある運転手に取材をした。滴滴出行の運転手で生活をする39歳の啊全さんだ。啊全さんは広州汽車トヨタのEV「iA5」に乗り、ライドシェアの仕事をしている。
▲滴滴出行の運転手をする啊全さん。EVは業務上はまったく問題ないが、私用の乗用車としては乗る回数がめっきり少なくなり、後悔しているという。
ーーなぜiA5を選んだのですか?
以前は、2017年式のレビンハイブリッドに乗っていました。この仕事をするときに、ハイブリッド車はライドシェアに利用できない規制があることを知って、EVを選ぶしかありませんでした。広州汽車トヨタの車は乗りやすいですし、信頼できるので、販売店で相談するとiA5を勧められました。試乗してみるといい感触だったので、購入を決めました。
ーーなぜ滴滴出行の運転手になったのですか?
以前は銀行のカードリーダーを販売する仕事をしていました。でも、給料は多くなく、子どもが生まれてお金がかかるようになり、仕事のかたわらウーバーの運転手をやりました。その後、滴滴の方が収入が多いことがわかり、滴滴の運転手をするようになりました。今は、販売の仕事をやめ、滴滴専業になっています。
運転手の取り分は75%前後です。乗車賃が10元であれば、7元余りが私の収入になります。
EVでも問題ない滴滴出行の業務
ーー1日にどのくらい働きますか?
1日で15回から20回お客を乗せます。滴滴の勤務時間は自分の自由ですが、だいたい朝9時半には仕事を始めて、12時から2時間ほど休憩をします。それで、夜はだいたい7時か8時ぐらいまで働きます。乗客が多い時はそれ以降も働きます。深夜2時まで働いたこともあります。
ーー1日に何kmぐらい走りますか?
300km前後です。iA5は満充電で510km走れることになっているので、仕事中は充電なしで走行できます。
ーー充電はどうしていますか?
自宅に充電設備がなく、借りている駐車場にも充電設備がないので、近所の充電ステーションを利用しています。夕食を食べる前に充電をして、食べ終わったら帰るという具合です。それで、翌日の走行に問題はありません。
よく言われるように、充電設備が壊れていたり、ガソリン車が占有していて充電できないということもありました。でも、充電ステーションそのものがだいぶ増えてきたので、そのようなことはあまり起こらなくなりました。
▲仕事が終わると、夕食を食べている間に近所の充電ステーションで充電をする。数が増えてきたので、以前のような設備故障やガソリン車による占有の問題はだいぶ少なくなったそうだ。
家族はEVに反対、行動範囲は狭くなった
ーーEVを買うことに、ご家族は賛成されましたか?
妻は反対でした。EVの発火事故がよく報道されていたからです。でも、滴滴の仕事をするにはEVでなければならないからと説得しました。
週末にはこの車で、家族を連れて遊びに行きます。EVは静かで乗り心地もいいので、それから妻も何も言わなくなりました。発火事故が怖いからEVを買わないというのは、浮気されるのが怖いから結婚しないと言っているようなものだと妻に冗談を言っています。
ーー週末に乗る車としてのEVはいかがですか?
車で遊びに出る回数は確実に減ります。最大の問題は充電です。ハイブリッド車の時は、高速のサービスエリアで、コーヒーを飲んだりトイレを行ったりするついでにガソリンを入れることができました。でも、今は充電を待たなければなりません。観光地やホテルに行っても、充電設備のある駐車場はどこにあるのかを事前に調べておかなければなりません。それが煩わしくて、週末は次第に近所で遊ぶようになりました。
個人用の車としてはEVを買って後悔しています。以前のハイブリッド車の時はいろいろなところに行きましたが、EVにしてから自分の行動範囲が確実に狭くなっています。また、EVは販売台数が少ないので、修理やメンテナンスでも部品が取り寄せとなり時間がかかります。以前、後ろから追突されたことがありましたが、部品の取り寄せに時間がかかり16日間も乗れませんでした。
ーー次もEVを買いますか?
買いません。充電時間が短くなって、充電ステーションがガソリンスタンド並みに普及をしてから買うようにします。また、EVの多くは5人乗りですが、私の家族3人と、それぞれの両親、合わせて7人乗れる車が欲しいと思っています。そうなると、現実的な価格帯ではガソリン車しかありません。手ごろな価格であればハイブリッド車は考えるかもしれませんが、EVはしばらくは買わないと思います。
▲家族で遊びに出かける啊全さん一家。EVにしてから遠出の回数は減り、自宅の近所ですごす時間が増えた。事前に充電設備の場所を確かめておかなければならないのが煩わしいからだ。
現実には多くの無理がある2035年のガソリン車販売禁止
EVの満充電走行距離も500km以上のものが一般的になり、利用する上で、ガソリン車と比べても何の問題もないと言われるようになっている。しかし、それは計画的に利用する場合の話だ。週末に遊びに行く時のように、無計画に「とにかく○○の方に行ってみようか」という使い方では、どこでもすぐにガソリンが補給できるガソリン車やハイブリッド車の方が向いている。EVは配送車、営業車という計画的に利用するのには向いている。そのため、未だに企業用として売れ、個人用の販売量が増えていかない。
中国は2035年に、ガソリン車の販売を禁止し、その時までに新エネルギー車の割合を50%にまでするという政策を発表している。しかし、数字的にも無理があるし、一般の消費者はまだまだEVの購入には及び腰だ。新エネルギー車にはEVだけでなく、ハイブリッド、プラグインハイブリッドも含まれている。このままでは、個人はハイブリッド車を選ばざるを得なくなっていく。
さらに、若い世代を中心に車離れも起こり始めている。郊外に住んで、週末に遠出をするライフスタイルから、都心に住んで周辺ですごすライフスタイルになりつつある。中国の乗用車がどの方向に進んでいくのか、先行きは不透明なままだ。