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進む個人商店のデジタル化。地方都市で注目される数字規画師という仕事

数字規画師という新しい職業が、地方都市で注目をされている。個人商店のデジタル化を勧めるコンサルティングの仕事だが、コロナ禍により実体店舗が生き残りをかけてデジタル化に関心を示しているため、数字規画師が稼げる仕事として若者から注目されていると中国網が報じた。

 

地方都市で注目の職業となる「数字規画師」

中国で新しい職業が生まれ、注目を浴びている。その職業とは「数字規画師」。日本流に言えば、デジタルコンサルタントということになるだろうか。20代前半の王静さんは、武漢市でこの数字規画師の仕事について以来、毎日10時間以上も働き、訪問する商店は100店近くになる。

仕事の内容は、個人営業の商店のデジタル化を手伝うことだ。店舗のミニプログラムを開通させる,顧客向けクーポンはどのような戦略で発行すべきかをアドバイスする、最適な経営管理クラウドサービスを紹介し、経営管理のデジタル化を促すなどだ。

この数字規画師は、100万人以上の人材不足となっていて、収入も年100万元(約1560万円)を超える人が現れていることから、今、若者の間で注目の職業となっている。

また、アリペイの統計によると、数字規画師の8割が二級都市以下の地方都市に集中し、大都市に比べて仕事が少ない地方都市で、自分の努力次第で高給が稼げる仕事という点でも注目をされている。

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▲数字規画師は個人商店を周り、経営のデジタル化のコンサルティングを行う。毎月のサブスク料金の一定割合が収入となる仕組みなので、長く使ってもらえるサービスを提案するといういい循環が生まれている。

 

薄れゆく実体店舗の存在意義

2010年代後半から、実体店舗の縮小傾向が始まっている。ECの発達だけでなく新小売が拡大して、都市部ではスマートフォンで注文した商品は、1時間以内に自宅や職場、指定場所に配達をしてもらえるようになっている。商品は「お店に買い物に行くもの」から「届けもらうもの」になろうとしている。

その中で、実体店舗の存在意義が薄れてきている。生き残るのは、理髪店や美容院、マッサージ店などの自分の体を持っていく必要があるサービスや、買い物体験やイベント体験などを提供できるショッピングモールぐらいだとも言われる。

 

個人商店にもデジタル化の流れが始まっている

そのような状況の中で、地方都市の商店主が急いでいるのが経営のデジタル化だ。もはや伝統的な帳面と鉛筆による経営では淘汰されてしまう。デジタル化をして、新小売にも対応していくことが生き残っていく唯一の道だと考えられるようになっている。

しかし、個人商店主の多くが、デジタルリテラシーは高くない。スマホスマホ決済程度は使うものの、経営のデジタル化と言われると何をどうしていいのかわからない商店主も多い。そのような人たちに店舗のデジタル化の支援をするのが、数字規画師という仕事だ。

スマホタブレットで簡単に利用できる経営管理ツールのクラウドサービスが充実してきたことも追い風になっている。今や、個人商店でもデジタル化を行わなければ、生き残っていけないと思われるようになっている。

 

コロナ禍が大きな弾みに

この傾向は、コロナ禍によって大きく加速した。外出をする人の数が大きく減少し、新小売サービスを利用することが習慣化をし、実体店舗は苦しい経営を余儀なくされている。その中で、デジタル化が唯一の生き残る道だと考える商店主が増えている。

アリペイでは、商店主向けにアリペイサービスマーケットを提供している。ここでは、在庫管理や売上管理などのクラウドサービスが揃っていて、これを利用することで商店のデジタル化が可能になる。このアリペイサービスマーケットのアクティブユーザー数は昨年の10倍以上になっている。

また、新型コロナが終息して以降、各社から経営のデジタル化ツールが販売、公開され、8月の段階で、昨年の販売数の合計を超えた。

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▲アリペイのサービスマーケット。商店主向けの経営管理クラウドツールがそろっている。これを勧めるのが数字規画師の基本的な仕事になる。

 

学歴が得られなかった若者の「逆転の職業」

このような背景があり、数字規画師の仕事が重要になり、需要も大きく伸びている。しかも、デジタルツールについて理解をするためにかなりに勉強と研修が必要になるものの、学問ではないので、学歴が低い人でも努力をすれば数字規画師としての仕事をすることができる。これにより、地方都市に住み、さまざまな事情で大学や専門学校に通えなかった青年たちの「逆転の職業」としても注目が集まっている。

・高校中退の青年が「田舎のBATになりたい」

湖北省黄石市生まれの23歳、陳輝さんは、 広州市で美容師専門学校の講師をしていたが、生まれ故郷の黄石市に戻り、数字規画師の仕事を始めた。地元の火鍋チェーンのデジタル化をコンサルティングし、それがうまくあたって火鍋チェーンの売上は40%も伸びた。それが評判となり、地元からの仕事の依頼が相次いだ。

そして4ヶ月後、2人のエンジェル投資家からの資金を受け、起業をした。高校中退の青年が、広州市という大都市にいても、このような順調に成功することはできなかっただろう。

陳輝さんは、中国網の取材に応えた。「大都市にいた時よりも順調に成功しています。いつか、田舎のBATと呼ばれる存在になりたいです」。

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▲数字規画師の仕事をする陳輝さん。投資資金も得て、会社化をした。将来の夢は「田舎のBAT」と呼ばれるようになること。

 

地方都市の高卒でも、大卒並みの収入が得られる

現在、数字規画師の多くは最終学歴が高卒だが、平均年収は20万元(約310万円)になっている。これは大卒者の全国平均とほぼ同じだ。高卒でしかも地方都市であれば、じゅうぶん高給ということができる。

数字規画師の収入は利用手数料が主体だ。商店にクラウドサービスを紹介して、その商店が月額利用料を支払い利用すると、その月額利用料の一定割合が数字規画師の収入となる。商店がクラウドサービスの使用をやめてしまうと、自分の収入も減る仕組みになっている。そのため、いい加減なセールストークで売りつけるのではなく、自然と長く使ってもらえるコンサルティングをする傾向が生まれている。商店主にとっても、数字規画師にとってもメリットのある仕組みになっている。

しかも、働けば働くほど収入が増えていき、商店主がクラウドサービスを利用し続ける限り、収入が得られることになる。そのため、多くの若者が、数年後は、働かなくても毎月収入が入ってくる状態を目指して、毎日10時間以上も商店をまわり、デジタル化の勧めを説いて回っている。

こうして地方の個人商店のデジタル化が進んでいる。