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本物を提供する。顧客体験を改善し続ける。この2つを駆動力に成長した喜茶

桁外れの行列ができることで有名だった中国茶カフェチェーン「喜茶」が、コロナ禍でも好調だ。感染拡大が始まると、すぐに到家サービスに対応。顧客体験を素早く改善させたからだ。喜茶は、本物を提供すること、顧客体験を改善し続けることで、グローバルなカフェチェーンに成長したと投資家網が報じた。

 

消費体験をアップグレードし続ける「喜茶」

中国で大人気となっているカフェ「喜茶」(HEY TEA、ヘイティー)。人気が爆発した2019年には、店舗に長い行列ができ、休日には4時間待ちは当たり前。ネットでは7時間並んだという話まである。

人気の秘密は、伝統的な中国紅茶を現代的にアレンジしたことだ。一番人気なのは岩塩入りクリームチーズをトッピングした中国紅茶。また、フルーツをふんだんに入れた中国茶も人気だ。伝統的な味をモダンなスタイルで飲めることと、長い行列ができることが話題になり、加速度的に人気が高まっていった。

しかし、ただの一時的な人気店ではない。店舗の初期段階では、長い行列は商品価値を高める方向に作用するが、リピートフェーズに入ると消費体験を低くする方向に作用してしまう。そのため、喜茶では他のカフェに先駆けて、WeChatミニプログラムをリリース、モバイルオーダーを始めた。味を知っているリピーターは、行列に並ばなくても、事前にスマートフォンで注文しておくことで、すぐに受け取ることができるようになった。

新型コロナの感染拡大が始まると、すぐに到家サービスに対応。「4時間の行列」という話題性に慢心せず、購入体験を改善し続けている。

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カップもデザインに配慮されている。クリームチーズ入りやフルーツ入りなど、中国茶の新しい飲み方を提案した。

 

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▲喜茶のテイクアウトは紙袋も人気になっている。この紙袋が欲しくてわざわざテイクアウトする人もいる。

 

お客さんがきたくなるような無料サービスを考える

喜茶を創業したのは、現在29歳の聶雲宸(ニエ・ユインチェン)で、喜茶の成功により40億元(約630億円)の資産を得て、中国富豪ランキングの81位に入り、100位以内では最も若い富豪になっている。

聶雲宸は1991年に江西省に生まれた。両親はエンジニアというごく普通の家庭だった。広東科学技術職業大学に進学し、行政管理を専攻した。

学生の頃から起業すること考え、大学1年生で携帯電話ショップを開業している。しかし、経験不足と場所が悪かったことで売り上げは悪かった。聶雲宸はなんとかしようとして、機種変更するときのデータ移行、アプリの代理インストール作業を無料にした。これがあたった。「お客さんがこないのはお客さんが悪いのではなく、自分が悪いのだと考えました。私はお客さんがきたくなるようなことをしていない。それでお客さんがきたくなるような無料サービスはできないかと考えたのです」。

ユニークなのは、通常、このような無料サービスは、お店でスマホを購入した人に対する付帯サービスとして提供する。しかし、聶雲宸は誰にでも無料にした。そののため、香港で安価なスマホを大量に買って、聶雲宸の店に持ち込み、データ移行やアプリインストールを無料で行わせる客も現れた。それでよかったのだ。そのことが評判となり、聶雲宸の店には遠方からわざわざ訪ねてくるお客も増え始めた。

こうして、聶雲宸は20万元というお金を手にした。

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▲喜茶を創業した聶雲宸。本物を提供し、顧客体験を改善し続ける。この2つで、喜茶をグローバルなカフェチェーンに成長させ、20代で富豪の仲間入りを果たした。

 

業界の裏常識がビジネスチャンスになる

聶雲宸が次のビジネスを模索している時、目についたのが中国茶カフェだった。中国にもカフェが増え始めていたが、コーヒーが苦手な女性は紅茶や中国茶をカフェで注文する。しかし、カフェのお茶には、業界の裏常識がはびこっていた。

鉄観音茶と銘打っていても、それは鉄観音茶に味が似ているだけのクズ茶であり、果汁がブレンドされているといっても、それは合成の香料入りフルーツパウダーであり、クリームは安価な脱脂粉乳が使われている。お客はこのような事実を知らないが、知ったら怒ることだろう。

聶雲宸はこれは大きなビジネスチャンスだと考えた。偽物の中国茶ドリンクが街中にはびこっているのだから、同じものを本物を使って作るだけで受け入れられるのではないか。そう考えた。

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▲一時期は休日には4時間並ぶのが当たり前の時期もあった。しかし、リピーターが増え始めると、すぐにモバイルオーダーを導入して、顧客体験を悪くさせない工夫をしている。

 

新しい中国茶スタイルを香港や台湾から取り入れる

しかし、この発想は、言うは易く、行うは難しの典型だ。本物の素材を使えばコストが上がり価格は高くなってしまう。

聶雲宸が目をつけたのは、中国茶ファンの若年化だった。伝統的な中国茶は、若者にとって古臭い習慣に見え、若者は中国茶を飲まない傾向が進んでいた。しかし、一部の若者の間で、一周回って、中国茶がモダンな飲み物として流行し始めていた。そういう意識の高い若者たちは、きちんとした商品には価格が高くてもお金を払う。

そこで、聶雲宸は若者を狙って、香港式ミルクティーや台湾式タピオカミルクティーの新しい中国茶のスタイルを全面的に取り入れた。

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▲2012年に広東省に開店した喜茶の1号店。この時は「皇茶」(ロイヤルティー)という名前だった。

 

本物を提供する。顧客体験を提供する。この2つが成長の駆動力

2012年5月、広東省江門市に第1号店を開店する。この時の名前は「皇茶」(ロイヤルティー)というものだった。30平米の小さな店で、ミルクティー専門店だった。

聶雲宸は、開店時に「2杯目は半額」というキャンペーンを行った。これでお客が訪れたが、キャンペーンを終えると客がパタリとこなくなる。1日の売上がわずか20元という日もあったという。

これは厳しいと考えた聶雲宸は、ミルクティー専門ではなく、アレンジティーを工夫する。ここからフルーツを入れた紅茶、中国茶などが生まれてくる。これが受けて、10月には店の前に行列ができるのが当たり前になった。

そして、すぐに中山市、深圳市と店舗を拡大した。2017年2月には上海市に開店をし、これが1日4000杯を売るという爆発的な人気を見せ、喜茶の名前が全国に知られるようになっていった。

現在、世界49都市に500店舗以上を展開し、平均の1月の売り上げは100万元を超えている。

「本物を提供する」だけでなく、聶雲宸が常に顧客体験を考え続けたことが成功に結びついている。