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値上げをする海底撈、値下げをするマクドナルド。進む飲食店の小売化

コロナ禍により打撃を受けた飲食店に、客足が戻り切らない。海底撈は値上げに踏み切った。マクドナルドは逆に値下げに踏み切った。苦境に立たされている飲食店では、内食に進出しようと、飲食店の小売化が進む傾向も現れ始めていると創業邦が報じた。

 

客足が戻りきらない飲食店

コロナ禍の影響により、飲食店の客足が戻りきらない。主な要因は2つある。ひとつは終息をしているとは言え、まだまだ不安がぬぐい切れないことだ。飲食店側では席を間引き、安全をアピールしているが、これにより店舗回転率が下がり、収益を悪化させている。また、飲食店にとってはありがたい大人数での食事もまだまだ避けられている。

もうひとつの理由は、飲食店が休業をしている間に、外売(フードデリバリー)などを利用した内食化が進み、それが習慣化をしてきてしまっている。

このような状況の中で、ある飲食店は値上げをせざるを得なくなっている。一方で、値下げに踏み切る飲食店もある。コロナ禍から回復するために、値上げと値下げという真反対の施策を取っていることになる。

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マクドナルドでは、スタッフ全員にマスク着用と検温を義務付けている。

 

30%の値上げに踏み切った火鍋「海底撈」

火鍋で有名なチェーン「海底撈」(ハイディーラオ)は値上げに踏み切り、ネット民たちは不満を述べている。昨年は4人で行って681元、1人170元(約2600円)ほどだったのが、コロナ禍以降は、ほぼ同じ量を食べて220元(約3400円)以上になったとあるネット民は報告をしている。

実際、火鍋の具材の多くが値上げをされている。それだけではなく、量も減らされていると報告が相次いでいる。

海底撈では、全体で約30%も値上げをせざるを得なかった。PI値(Purchase Index)=1000人あたりの販売個数を見て、PI値の高い具材(人気が高い商品)の値上げ幅は小さく、PI値の低い具材(あまり注文されない特殊な商品)の値上げ幅を大きくするなどの工夫はしているものの、ネットでの評判は芳しくない。

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▲昨年のレシート(右)と今年の明細(左)を比較して、値上げされているという証拠を、多くのネット民が公開している。

 

海底撈の損失は790億円

海底撈では、1月26日から営業を停止し、3月12日に再開するまで、46日間営業を停止していた。中信建投の試算によると、海底撈の損失は50.4億元(約790億円)にものぼり、2020年は5.8億元の赤字となる見込みだという。2019年の海底撈は絶好調で拡大路線を続け、1日に平均1.2店を新規開店していたが、この拡大も停止せざるを得なくなった。急拡大をしていたことが、結果的に傷口を大きくしてしまった。

中信銀行や百信銀行などが21億元の緊急融資を行ない、政府に対しても税金面での優遇措置を申請しているが、それでも値上げに踏み切らずを得なかった。

 

値下げキャンペーンで客足を戻しているマクドナルド

一方で、値下げに踏み切って、ネット民から称賛されているのがマクドナルドだ。アプリ会員には毎週月曜日に半額のセットメニューを提供するキャンペーンを行っている。

マクドナルドは1990年に中国に進出をし、当初はハンバーガーという新しいスタイルの飲食が定着をせず、苦労をした経験を持っている。そのため、中国市場に適合する施策を素早く打つ機敏さが身についている。中国のマクドナルドで中華メニューも提供されているのも、中国市場に定着をするための努力のひとつだ。

中国でフードデリバリーやモバイルオーダーが普及し始めると率先して対応し、店舗でも無接触販売形式を早い段階で実施した。無接触販売といっても単純なことで、以前からモバイルオーダーの仕組みには整っていたので、スマホから注文をしてもらい、でき上がった商品は紙袋に入れて封緘し、カウンターに並べていくだけのことだ。利用客はスマホに表示される注文番号と合致する紙袋を自分で取っていく。これだけの工夫で、多くの利用客が安心をし、マクドナルドを利用する。マクドナルドでは、感染拡大がまだ収まらない3月末の段階で、98%の店舗の再開にこぎつけている。

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マクドナルドは、客足が戻らないからこそ、半額キャンペーンを行って、客足を取り戻そうとしている。

 

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マクドナルドの無接触販売。スマホで注文すると、商品はカウンターに並べられる。紙袋はきちんと封緘がしてある。調理したスタッフ、包装したスタッフの名前、体温チェックの記載もある。

 

客足は戻り切らず、進む「飲食店の小売化」

しかし、値上げをした海底撈も値下げをしたマクドナルドも、いずれも先行きに不安を抱えている。海底撈はこの値上げにより客離れを起こしてしまう不安を抱えている。マクドナルドは半額商品だけ買われ、それ以外のものは買われないという収益率の悪化の不安がある。

今、飲食業で話題になっているのが「飲食業の小売化」だ。外売(フードデリバリー)だけでなく、内食を意識した半調理品を開発し、ライブコマースなどで販売するという流れが起きている。店舗営業だけではままならないため、家庭の食卓に進出をしようとしている。

海底撈でもmini火鍋セットの販売を始めている。外売として注文ができ、豪華な鍋と具材が同梱されている。鍋の回収は無料で行っているが、次回まで取っておき、具材だけを注文すると割引になる。

その他の飲食店でも、温めるだけ、一品加えるだけでできあがる半調理品の開発販売が進んでいる。店舗の先行きが不透明である分、飲食店は家庭の食卓市場に狙いを定めている。

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▲海底撈はmini火鍋セットの販売を始めた。鍋と燃料付きで、自宅で火鍋が楽しめるというものだ。飲食店の小売化が進んでいる。