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タオバオのライブコマースを支える低遅延、高効率圧縮、アーカイブの技術

コロナ禍により急拡大をしたライブコマース。アリババのEC「タオバオ」では、2016年からライブコマースを行っていて、現在でも58%のシェアを保っている。人気の理由は、商品だけでなく、背景にある技術が他のプラットフォームよりも進んでいるからだと電商在線が報じた。

 

コロナ禍により飛躍的に成長するライブコマース市場

新型コロナの感染拡大をきっかけに急速に広がったライブコマース。外出が控えられる中で、まるで商店街やモールで買い物をしているかのような体験ができることから多くの消費者に受け入れられた。営業自粛、営業時間短縮をせざるを得ない商店主も、閉店している店内から商品販売ができるライブコマースに注目をした。

2020年のライブコマース市場は1.16兆元(約18兆円)と、昨年から211%成長をすると見込まれている。

主なライブコマースプラットフォームは、アリババのEC「淘宝網」(タオバオ)、中国版Tik Tok「抖音」(ドウイン)、ショートムービー「快手」(クワイショウ)だが、流通額シェアではタオバオが58%を占めている。

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▲ライブコマース師城は、2018年から若い女性やオタク層に支持され成長してきたが、コロナ禍により一般消費者にも急拡大。2020年は18兆円市場になると見込まれている。「中国ライブコマース生態研究報告2020年」(iResearch)より作成。

 

老舗ライブコマース「タオバオライブ」のシェアは58%

タオバオのシェアが高いのは当然といえば当然。ライブコマースの老舗だからだ。タオバオは2016年4月からライブコマースを行っている。タオバオの商品を販売するタオバオ達人によるライブコマースだが、驚異的な売上を上げるpapi醤、薇(ウェイヤー)、李佳琦(リ・ジャーチ)などのスター達人=網紅(ワンホン)を生み出してきた。

それだけではなく、タオバオのライブコマースプラットフォームの技術レベルは一歩先を行っている。これにより、多くの配信主がタオバオを選び、多くの消費者がタオバオのライブコマースを利用している。

 

遅延が小さいタオバオライブの技術は3年先を行く

例えば、11月11日の独身の日セールでの薇のライブコマースは、同時に300万人以上が視聴する。この流量で、遅延をほとんどおこなさないというのは驚異的だ。ライブコマースは一方通行ではなく、視聴者がチャットで質問ができ、それに配信主が答えることができるのがキモなのだから、遅延は可能な限り小さくしなければならない。

タオバオのライブコマースチームによると、100万人の視聴者がいる状態でのタオバオのライブコマースの遅延は1.5秒以内だという。一般的なライブコマースでは5秒から10秒の遅延が発生する。また、動画が停止をして読み込み中になるスタッター率も、業界の平均値の55%と低い。

タオバオライブコマース製品責任者の岱妍氏は、電商在線の取材に応えた。「タオバオライブコマースの遅延解消技術は、この業界の少なくとも3年先をいっています」。

遅延が起こらないことで、視聴者は快適な体験を得ることができ、それは当然購入率に影響していく。タオバオライブコマースチームでは、低遅延技術を投入することで、年間数十億元の流通額増加に貢献していると考えている。

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▲ライブコマースの内容も進化をしている。このライブコマースは、漁港で漁船の入港を待ち構え、水揚げした水産品をすぐにライブコマースで販売する。視聴者からのリクエストを受けて、特定の水産品を探し、漁師との価格交渉までライブ配信される。

独自の高圧縮エンコーダーを開発したタオバオ

また、動画圧縮技術も独自開発を行っている。一般的にはx265ライブラリのエンコーダーを使って動画圧縮をするが、タオバオチーム独自開発のs265エンコーダーは、x265に比べて40%も帯域を節約できるという。

当然ながら、人間の視覚を研究して、「人間の目が鈍感な部分は粗くして圧縮率を稼ぐ」ということをしているが、これもタオバオライブコマースに特化した設計を行っている。というのは、ライブコマースでは宝飾品や衣類、化粧品が売られることが多いので、宝飾品の細部、衣類の質感、肌の質感に関わるところを粗くすることはできないからだ。どこを圧縮せずに、どこを圧縮するか。その小さな調整の積み重ねを経て、40%もの効率化を実現してきた。

また、音声も背景ノイズを除去する処理を行なっていて、これで視聴者にとって聴きやすく、なおかつデータ量を減らす工夫をしている。

 

アーカイブをサポートする唯一のライブコマース

また、タオバオは唯一アーカイブをサポートしているライブコマースになっている。過去のライブ配信をいつでも見ることができる。ライブ配信ではないので、質問をすることなどはできないが、それ以上のメリットがある。それは、商品ごとのタグが表示されることだ。複数の商品が紹介された過去放送では、商品タグも表示されるので、自分が期になる商品のライブ放送部分だけを見ることができる。

このアーカイブは配信主にもメリットがある。ライブ配信だけでなく、過去の放送からも商品が購入できるため、ロングテールを取りにいくことができる。現在、人気の配信主となっている林珊珊の場合、15%の売上が過去放送からの購入になっているという。

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アーカイブから過去のライブ配信を再生すると、商品ごとのタグが打たれている(下部のタイル状のタグ)。これをタップすると、その商品の解説部分にジャンプをすることができる。商品が決まっているなら、ライブ配信よりもアーカイブの方が使い勝手がいい。

 

アバターによるバーチャルライブコマースにも挑戦

さらに、タオバオライブコマースチームは、新しいテクノロジーに挑戦をしている。vTuberのようなバーチャルキャラクターによるライブコマースを始めている。

配信主は、毎日4時間のライブ放送をするのが限界。しかし、バーチャルキャラクターなら24時間放送ができる。事前に商品ごとのトークや動作などをプログラミングしておく必要はあるが、ライブコマースをするよりも配信主の負担は大きく減少する。人工知能によるチャットボット機能もあり、視聴者からの質問に回答することもできる。

これにより、定番商品はバーチャルで、新製品、プッシュしたい商品は人間の配信主が行うという使い分けができていけるようになる。

林珊珊が試験的にバーチャルキャラクターによるライブコマースを行ったところ、14.6万人が視聴するという成果が得られている。その他のバーチャルキャラクターによるライブコマースも好調で、平均して10万人近い視聴者が集まるようになっている。

ライブコマースの老舗であり、先端開発も行っている。タオバオライブがライブコマースのトップランナーである時代はまだまだ続きそうだ。

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タオバオライブが試験運用を始めたアバターによるバーチャルライブコマース。あらかじめシナリオを作成しておくことで、24時間無人でライブコマースが可能になる。人工知能チャットボットにより、視聴者からの質問に応答することも可能。

人気ライブ配信主「林珊珊」のバーチャルライブコマースでは14.6万人が試聴をした。