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中国伝統商品に若者が注目する「国潮」現象。ブームの駆動力はC2M×老字号

中国の若者の間で、中国の伝統商品に人気が集まる国潮現象が起きている。仕掛け人はソーシャルECの拼多多。ソーシャルECでは、消費者が商品情報を自由にやりとりできる。このコメントをビッグデータ解析することで、老舗企業の商品が若者のニーズを捉えることに成功していると北京日報が報じた。

 

若者の間で広まるレトロモダン志向「国潮」

中国の若者の間に、国産ブランド志向が高まり、「国潮」現象と呼ばれている。国産ブランドといっても中国企業すべてというわけではなく、1900年代前半に創業したレトロモダンのブランドに人気が集中している。日本で言えば、大正モダンの食器や和服が若者の間で見直されている感覚とよく似ている。

海外ブランドを排斥するような民族主義的なものではなく、中国の伝統とモダンの融合を新鮮な目で楽しんでいるようだ。

この仕掛け人は、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)。レトロモダンの中僕ブランド製品をプッシュするキャンペーンを行い、いずれも爆発的な売れ行きを示している。

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▲拼多多が始めている国潮キャンペーン。中国の老舗企業の商品が割引価格で購入できる。

 

ビッグデータから国潮傾向を発見、プロモーションが当たる

拼多多では、消費者、特に若者の購入ビッグデータの分析を進め、その中から「国潮」の傾向を発見し、それに適したブランドとキャンペーン参加の交渉を進めてきた。そして、「中国伝統、文化精髄。拼多多で国潮に乗ろう」というキャンペーンを行った。

キャンペーンの内容は、参加したブランドのライブコマースを行い、同時に専用クーポンを配布するという手法。これが大当たりになり、参加したブランドの商品が次々と売上記録を更新し、このキャンペーンの狙いが的を射ていたことが証明された。

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▲ライブコマースを行うためにバスをスタジオに改造。広告効果もあり、出演者のいる場所に移動する機動力もある。

 

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▲百雀羚と拼多多がコラボをしたライブコマース。百雀羚の商品を紹介し、その場で販売をする。

 

1931年創業のハンドクリーム「百雀羚」

最も成功したのは、1931年に創業した化粧品メーカー「百雀羚」(バイチュエリン)。ハンドクリームが有名で、創業当時からほぼ変わらないデザインのパッケージを使い続けている。

拼多多での売上は昨2019年の売上から10倍以上になった。百雀羚のレトロな感覚と、自然成分を使う誠実さが、20代の若者の心を捉えた。このハンドクリームをきっかけに、百雀羚を買う消費者が急増した。

百雀羚のソーシャルEC事業部の責任者、李進氏が北京日報の取材に応えた。「生産、成分の配合など、私たちには長年蓄積された経験があります。それでも、重要な鍵は消費者の声をいかに聞き取り、消費者の真のニーズを満足させることが必要なのです」。

百雀羚では、C2M(Consumer to Manufacture)の手法を、拼多多上で試してきた。改善した商品を発売すると、ソーシャルECでは、SNSでその商品に対する評価がやりとりされる。それは、一般的なECのレビューのように多くの人に見られることを意識して発言したものではなく、個人の自然なつぶやきや、友人、知人に対して行われるものだ。そのため、中には辛辣な意見もある。

このようなパーソナルなレビューを拾い集め、ビッグデータ解析を行い、改善の方向を調整していく。これを短いサイクルで繰り返していくことで、売上という成果が追いかけてきた。

ビッグデータの解析は、商品名、パッケージの色ばかりでなく、どのような成分を添加するかにまで及んだという。

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▲百雀羚のハンドクリーム。パッケージは創業当時と同じ、自然成分のみ配合という点が、現在の若者に受けている。

 

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▲1931年創業のハンドクリーム「百雀羚」の当時の広告。パッケージは創業当時からほとんど変えずにきた。それが人気の的になっている。

 

1927年創業の運動靴メーカー「回力」

1927年に創業した靴メーカー「回力」(ホイリー)も、国潮で成功をした。中国で最も古いスポーツシューズメーカーで、現在の40代ぐらいの人は、小学校の体育で回力の運動靴を履いていた。いわば、「ダサいメーカー」として記憶されているが、それが今、若い世代に受けている。昔からある定番のF字の形に赤いラインが入ったモデルが人気なのだ。

回力は一時期は人気が低迷して、二度の破産申請をした経験があるが、現在は国潮の波に乗り、業績は好調だ。

通常は130元で販売をしているが、拼多多での販売は流通コストが大幅に削減できることから100元を切る価格で販売をした。すると、いきなりブームになって、1月で13万足が売れた。

回力の国潮ブランド責任者、徐育誠氏が北京日報の取材に応えた。「回力は拼多多から得られるレビュー、販売などのビッグデータを分析し、より若者のニーズに応えることができる商品開発ができる体制を整えていきます。完全なC2M、個別オーダーできる体制を整えたいと考えています」。

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▲回力で最も人気のあるベーシックデザイン。赤いF字のラインが、回力のトレードマークになっている。

 

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▲1927年創業の運動靴メーカー「回力」の当時の広告。中高年にとっては「ダサい」メーカーとして記憶されているが、若者にとっては新鮮でありレトロモダンなメーカーとして認識されている。

 

レトロモダンな漢服もブームに

中国では、この数年、漢服のブームが続いている。中国の伝統的な衣服で、和服の原型となったものだ。しかし、古風な漢服ではなく、鮮やかな刺繍を入れるなど、モダンなデザインになっている。当初はコスプレのひとつとして楽しまれていたが、現在ではイベントやパーティーで着る「新しいフォーマルウェア」として、あるいは日常に着るカジュアルウェアとしても利用が広がっている。20代の若者の間で起きている国潮は、短期的なブームではなく、大きなトレンドのひとつとして見ることができる。

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▲中国伝統の漢服もじわじわとブームになっている。当初は、若い女性がコスプレのひとつとして楽しまれていたが、世代が広がり、パーティなどで着るフォーマルウェアとしても定着しようとしている。

 

ソーシャルECだから実現できるC2M

拼多多では、昨2019年5月から「上海老字号新電商計画」を進めている。これは上海の老舗企業100社に対して、拼多多での商品を販売してもらうために、3年で100億元を投入して、EC化を図り、15億元のクーポン、補助金を負担するというものだ。

このようなプロモーションの成果が早くも現れてきた形だ。鍵は、老舗ブランドの伝統技術とビッグデータ駆動による商品設計だ。拼多多のようなソーシャルECが、爆発的な販売力を示すことができるだけでなく、ビッグデータのソースとしても有用であることが各方面から注目されている。