中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

上海にも生まれつつある中国版シリコンバレー。生活サービス系テック企業が集中

これまでテック企業が少なかった上海。しかし、拼多多の成功により、上海にもテック企業が集まり始め、環状のベルト地帯を作っている。上海のテック企業は、O2O生活サービステック企業が多い。上海にも「中国のシリコンバレー」が生まれようとしていると解放日報が報じた。

 

中国のシリコンバレーは中関村、華強北、西溪園

中国には「中国のシリコンバレー」と呼ばれるテック企業が集まる場所が何箇所かある。有名なものは、北京の中関村、深圳の華強北、杭州の西溪園などが有名だ。それぞれに特色がある。北京の中関村は電気街で、百度バイドゥ)などの成功例が登場してスタートアップのゆりかごとなっている。深圳の華強北も国際的に有名な電気街で、華為(ファーウェイ)などの成功により同じくスタートアップのゆりかごとなっている。北京がどちらかというとネット志向でソフトウェア寄りで人工知能のメッカになっているのに対し、深圳はプロダクト寄りで、ドローンやスマートフォンなどの製造、開発のメッカになっている。一方で、杭州はアリババを中心した企業が集まっている。

 

テック企業の空白地帯だった上海

一方で、上海には今までテック企業が少なかった。中国のIT革命が始まる前から、上海は金融と商業で発達をしていたため、端的に言えば家賃が高すぎて、スタートアップ企業が拠点を置きづらかったのだ。

実際、アリババも黎明期に杭州ではなく、上海に移転をする計画を立て、断念している。当時の杭州は、小さな地方都市にすぎず、ビジネスをするには高速バスで2時間ほどの大都市、上海の方が都合がいい。しかし、家賃の高さ、従業員の生活費の高さなどから断念をしている。

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▲上海で有名な浦東地区(右岸)。高層ビルが並ぶオフィス地区だが、家賃は高いため、テック系のスタートアップ企業はなかなか入居できない。多くは金融や一般ビジネスのオフィスになっている。

 

拼多多の成功により、上海にもテック企業が集まり始めている

しかし、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の成功例が出たことにより、上海もテック企業の都市となり、中国のシリコンバレーのひとつが産まれようとしている。

拼多多は、SNSを使ってまとめ買いの仲間を募り、人数が集まるほど安く買えるというソーシャルEC。2015年9月に創業し、わずか3年後の2018年に米ナスダック市場に上場するという成功をし、その後も成長が続き、EC第2位の京東を時価総額、ユーザー数で抜き(流通総額は追い抜けていない)、第1位のアリババに迫ろうとしている。

 

上海は生活サービス系テック企業が集まる

この他にも、上海にはテック企業がなかったわけではない。有名なのは旅行予約サービスの「携程」(シエチャン、Ctrip)、即時配送の「美団」「ウーラマ」、若い女性に特化をし、インスタグラムとECを合体させたようなソーシャルEC「小紅書」(シャオホンシュー)などがある。また、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」も本部を上海に置いている。

いずれも生活サービスに直結をしたテック企業が多い。これは自然なことだ。統計によると、ネットゲーム企業の40%、金融企業の60%、O2O生活サービスの70%が上海に集まっている。上海の豊かな物流、人材などのリソースを利用したテック企業が上海で育っている。北京や深圳、杭州とはまた違ったテック企業の都市になろうとしている。

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▲上海の主なテック企業。中心部を避け、外周部にベルト状に点在する。家賃が安い、空港や高鉄駅に近い、巨大倉庫に近いなどの理由で外周部に集中する。多くはO2O生活サービスで、上海独特のシリコンバレーになろうとしている。

 

中心部ではなく、外周部にベルト地帯を形成

しかも、面白いことに、家賃などのコストにより、上海市中心部ではなく、外周部に集中をしている。特に西側の集中地帯は、国内線の虹橋飛行場、高鉄の上海西駅が近く、国内各地へのアクセスがいい。さらに、上海のテック企業は、巨大な倉庫や物流拠点などを必要とすることが多い。郊外に近い場所に拠点を置くことで、地価の安い巨大倉庫を探しやすいのだ。

この一帯は、「ゴールデン産業ベルト」と呼ばれ始めている。ある研究者によると、この産業ベルトの中にある企業だけで、上海のGDPの80%を生み出しているとも言われる。

 

上海の物流、商業を活かしたテック産業が生まれている

北京には中国トップクラスの大学があり人材が供給できる。深圳には電子部品、電子機器が集まる。杭州にはアリババというテックジャイアントが登場した。だから、そこにテック企業やスタートアップが集まってくる。上海には、物流とビジネスがあり、巨大倉庫や物流拠点がある。だから、O2O(Online to Offline)生活サービス系のテック企業が集まってくる。

テック企業が集まる「シリコンバレー」は、地の利という理由があり生まれ、その都市が元来持っていた色彩を反映したものとなる。