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すべての小売業は新小売になる。既存小売はどこまで新小売化を進めているか?

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明日、vol. 039が発行になります。

 

アリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)はさまざまな予言をすることでも知られています。しかも、その予言が数年後にずばりと的中するので、世間が驚くのです。しかし、ジャック・マーのそれは、予言ではなく、ロジックに基づいた予見なのです。ただ、その内容があまりにも大胆であり、短い期間に実現することから、みな驚いてしまうのです。

 

そのジャック・マーの予言の中でも、2016年に杭州市の雲栖で開催したコンベンションでの発言が注目され続けてきました。

「インターネット時代になり、伝統的な小売業はECに圧迫されています。未来では、オフライン小売とオンライン小売は深く結合し、さらに物流、マーケティングビッグデータクラウドなどの新しいテクノロジーを利用するようになり、新しい『新小売』という概念を構築していくことになります。ECの時代は終わり、伝統的な小売は改革され、すべての小売業は新小売にアップグレードされることになるでしょう」。

この言葉は要約されて「ECは死に、新小売が始まる」「すべての小売業は新小売になる」という言葉になって広がっています。淘宝網タオバオ)の成功で急成長をしたアリババの創業者が「ECの時代は終わる」と言ったのですから、世間が注目をするのも無理もありません。

しかし、では、ジャック・マーの言う「新小売」とはなんなのか、この時は誰も理解できていませんでした。

 

2017年7月に、アリババが上海市金橋に新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を開店した時ですら、多くの人は新小売の意味が理解できていませんでした。

新小売とは、オンライン購入体験とオフライン購入体験を融合して、消費者が都合に合わせて消費スタイルを選択できるようにする仕組みです。フーマフレッシュでは、通常の店舗スーパー以外に、スマホからの注文を受け、半径3km以内に30分で配達するというものでした。

これは店舗と配達の二本立てではありません。「来店/スマホ注文」「持ち帰り/配達」を自由に組み合わせることができます。

1)来店をして、商品を自分の目で選んで、持って帰る。従来のスタイルです。

2)来店をして買った商品を配達してもらう。重たい水や油を買った時に利用します。

3)スマホで注文して、配達。店舗ECのスタイルです。

4)スマホで注文して、店舗受け取り。レジャーに出かける時など、時間の節約になります。

 

このフーマフレッシュは、アリババのライバルである京東にいた侯毅(ホウ・イ)が考案したものです。生鮮ECで用いられている「前置倉」の考え方では、消費者は自分の目で生鮮食料品の品質を確かめることができません。これでは、若い単身者は使うかもしれませんが、スーパーにとって最大の顧客であるファミリー層や中高年はなかなか利用しないだろうと考えました。

そこで、倉庫ではなく、店舗にして、店舗と倉庫の機能を兼ね備えた「店倉合一」という新しいスタイルを考案します。

その企画を京東の上層部に提案をしますが、EC企業である京東は、店舗経営をするということに難色を示し、却下されてしまいました。そこで、侯毅は京東を出て、独立をすることを考えます。その中で、アリババの張勇(ジャン・ヨン、ダニエル・チャン)と知り合い、これこそまさにジャック・マーの予言した新小売の典型例ではないかという話になりました。そこで、侯毅は京東からアリババに移籍をして、フーマフレッシュを始めることになったのです。

 

フーマフレッシュは大成功でした。坪効果(単位面積当たりの売上)では、既存同規模スーパーの3倍から4倍という脅威的な成績をあげます。それもそのはずで、売上の60%はスマホ注文なのです。スマホ注文は坪効果と無関係ですから、この数字は無限にあげていくことが可能です。

面白いのは、当初、メディアはフーマフレッシュを軽く見ていたことです。それはわからないでもありません。実際にフーマフレッシュの店舗を訪れてみると、夕方や休日ではない平日の昼間だと閑散としているのです。普通の感覚では、「客が入っていない」と感じてしまいます。しかし、店舗の客よりも多い消費者がスマホで注文を入れているのです。ここを理解していないメディアは、「フーマは苦戦をしているのではないか」という報道をしたこともありました。

しかし、よく見ると、客は閑散としていても、ピックアップスタッフが忙しく商品をピックアップしていることに気がつきます。バッグに詰められた生鮮食料品は、天井を走るレールにより、次々とバックヤードに送られていきます。よく観察をすれば、来店客以上の客がネットの向こう側で買い物をしていることに気がつきます。

 

今では、ジャック・マーの予言「すべての小売業は新小売になる」を否定する人はいません。店舗営業だけで、客が来るのを待っているだけの商売はもう生き残っていけないというのが一般的な見方になっています。あらゆる小売業は、オンラインを意識した新小売化をしなければ生き残っていくことはできません。

しかし、それに気がつくまでの時間に、人によって大きな違いがありました。フーマを見て、イノベーションが起きたと悟った人もいれば、フーマを見て、客が閑散していることから「アリババのスーパーは失敗」と考えて、いまだに新小売というものを理解しようとしない人もいます。

百貨店、スーパー、コンビニ業界の人たちは、小売業のプロたちですから、この新小売という概念に早くから気がつき、自社の新小売化を進めています。しかし、その速度に違いがあり、成功例と失敗例という結果が出始めているのが今の状況です。

とはいえ、どの小売業もフーマフレッシュの真似をすればいいわけではありません。フーマはあくまでも参照モデルであって、それぞれの小売業はそれぞれの特性に合った新小売を構築していく必要があるのです。

今回は、百貨店、スーパー、コンビニが、どのように新小売化を進めているのか、実例を紹介しながらご紹介します。

 

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