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増加するテック企業の理不尽な解雇理由。12人のリアル(下)

コロナ禍もあり、テック企業を理不尽な理由で解雇される事態が社会から関心を集めている。特にテンセントが「勤務時間が1日平均8時間に足りない」という理由で解雇された件が話題になっている。燃財経では、理不尽な理由で解雇された12人に取材した。

 

テック企業に蔓延する理不尽な解雇理由

テンセントに勤めていた閻さん(仮名)が、「1日の勤務時間が8時間に満たない」という理由で解雇されたことが注目を浴びている。閻さんは、それは記録上のことで、実際は8時間以上働いているとして、深圳市の労働仲裁委員会に仲裁を申し立て、同時に深圳市南山区法廷と深圳市中級人民法廷に、労働契約の履行を求めて裁判を起こした。テンセント側では、解雇理由は労働規律上、重大な違反があったことで、勤務時間が8時間に満たないという理由ではないとコメントしている。

この事件が世間の関心を集めたのは、近年、テック企業で解雇される理由の中に常識を外れたものが増えていると感じている人が多いからだ。

実際に、燃財経が取材をした中でも、あくまでも解雇された社員の主張ではあるが、「名前を取り違えて解雇された」「痩せすぎているため、制服が似合わないから」「女性の数が多すぎるから」という理由で、降格、解雇されている例がある。燃財経では、納得のいかない理由で解雇された12人の話を掲載している。

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▲テンセントが提出した閻さんの勤務記録。しかし、閻さんとは実態が反映されていないとして、争いになっている。

 

服装を注意されて解雇。テック企業人事。勤続3年

私が勤務していた企業は、元々テレビショッピング事業を行っていましたが、ECにも進出しようとし、私はそのEC部門の人事部に入社しました。

私は少しの疲労で、目に目立った大きなクマができる性質で、そのことをいつも気にしていました。周りは冗談でからかうだけなのですが、私にとっては深刻なことだったのです。そこで、ある日、美容整形を受けることにしました。その回復期には、サングラスをかけて出社をすることになります。同僚には正直に理由を説明しました。

ある時、買ったばかりの新しいスカートを履いていきました。それは背後の腰の部分にスリットがあり、少しだけ肌が露出しているというものです。しかし、上司がそれを咎めたのです。仕事をする上でふさわしくない服装なので、着替えるように言われました。

結局、私はサングラスと服装の件で、解雇を通知されました。しかし、私は人事を専門としていて、労働法を学んでいます。解雇理由としては不合理だと主張し、賠償金を会社に対して請求しました。

結局、その会社のEC部門はサービスの立ち上げがうまくいかず、何か理由をつけてはリストラをしようとしていたのです。その後も、おかしな理由で解雇される社員が相次ぎ、多くの人が私のところに対抗するためのアドバイスをもらいにやってきています。

 

制服が似合わないから解雇。オンライン教育企業。勤続1年

私はオンライン教育の企業で、会議のアテンダントをしていました。会議の準備をし、会議中はお茶を出したりする簡単な仕事です。アテンダントは3人で、その3人は仲良く仕事をしていました。

ところが、1ヶ月後、アテンダントの制服が変更になりました。すると、チーフに呼ばれて、私は痩せすぎているので、新しい制服が似合わない。だから解雇すると突然言われたのです。確かに私は背も低く、体重も38kgと痩せていて、よく未成年に間違えられます。しかし、そんな理由で解雇されるとは耳を疑いました。

結局、ばかばかしくなって解雇に応じました。同じチームだった2人も結局、1人は3ヶ月後、1人は半年後に辞めています。

私はもととも保育士の資格を持っていたので、現在は保育士として働いています。今では解雇をしてくれたチーフに感謝をしています。なぜなら、仕事は簡単だけど退屈で、何も学ぶことができない仕事を辞める決断の後押しをしてくれたからです。

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▲労働仲裁委員会に対する仲裁、調停の申し立ては、ミニプログラムからできるようになっているケースが多い。テック企業を中心に労働仲裁、調停事件が増えている。

 

シャワー室で喫煙したら即解雇。自動車部品製造企業。勤続5年

コロナ禍により、自宅待機が続いていましたが、3月の頭から職場復帰が始まりました。すると、製造ラインのある工員が、シャワー室で喫煙をしたという理由で解雇されるという事件が起こりました。

シャワー室での喫煙は確かに問題ですが、コロナ以前はそれが解雇理由になるようなことはありませんでした。米国工場でも似たような解雇事件が起こり、解雇された社員の親戚が問題視し、ツイッター上でトランプ大統領に直訴するツイートをする事態にまでになりました。

昨2019年6月には、会社の人事チームが江蘇大学でリクルート活動を行い、研究部門に多くの学生をスカウトしました。ところが、11月に会社はそのうちの2/3を解雇してしまったのです。2018年、2019年で研究部門にリクルートした学生は、今年になって全員いなくなりました。とても、真っ当な状態とは言えません。

今年になって、私もリストラ対象になりました。私は上司に訴えて、米国本社に戻してもらえるようにお願いしましたが、話が進展しないまま2ヶ月後、突然、降格されました。理由は、私の職階には女性が多すぎて、男女比の均衡を保つため、私を降格したのだと言います。結局、私はそのまま自発的に退職することにしました。

その企業に残っている契約社員の同僚に聞いたところ、最近、会社から、業務委託契約から派遣契約に切り替えることを打診されたそうです。会社は何も変わらないと説明しているそうですが、会社の拘束、管理は厳しくなり、しかも彼女の2年間の実績は考慮に入れられずに報酬が決められることになります。結局、彼女は辞職することにしました。しかし、規定の退職金+1.5ヶ月の支払いが必要なところ、いまだに支払いがされず、彼女はとても困っています。

 

長期休暇に入ったらそのまま放置。テック企業。勤続10年

私は、ある化粧品製造販売の企業で、直販EC部門の責任者をしていました。2年契約で、双方の同意で契約を継続することになっていました。ところが、最後の2年間は、契約更改の話がなかなかきません。2年4ヶ月になったところで、会社から契約を更新しないと告げられました。

そして、チーム全員に休暇が与えられました。休暇といっても、有給ではありません。単なる自宅待機でした。というより、多くの社員がリストラされたと感じました。会社側がいう休暇期間が終わっても、何の音沙汰もありません。私たちは、仲裁委員会に申し立てをしました。しかし、EC部門は独立した子会社となっていたため、書面上は単なる会社の解散扱いとなってしまうため、仲裁は難航をしています。

私は、社長と話をしたいと思いましたが、なぜかいつも不在になっていて連絡がつきません。そこで、弁護士を探して、法廷に訴えました。しかし、会社側はあくまでも自発的な退職だと主張をして、双方の主張が平行線のまま膠着状態になってしまいます。

結局、さまざまな証拠を集めて法廷に提出して、20ヶ月の闘争を経て、ようやく7.5ヶ月分の賠償金を獲得しました。しかし、弁護士への支払いが1万5000元(約23万円)にもなります。まったく割にあいません。私の元部下たちの法廷闘争の手伝いもしていますが、彼らは給与も低く、勤続年数も少ないため、消耗する労力の方が大きくなってしまうのではないかと心配しています。

 

解雇されたら給料支払われず。テック企業。試用期間

2019年9月、私は広州市のあるメディア企業で、ショートムービーの配信主の育成事業に就きました。最初の3ヶ月は試用期間で、月給は7000元です。正式採用となると8000元になります。

12月になって、あと4日で試用期間が明けるという時、人事担当者から、正式採用しないという通知をもらいました。具体的な理由は教えてもらえませんでしたが、致し方ありません。

しかし、11月分の給料がまだ未払いでした。契約では翌月15日に支払われることになっていましたが、人事担当者の説明によると、11月と12月の給料は1月15日にまとめて支払うということでした。

しかし、1月15日になっても支払いがありません。元上司にWeChatで尋ねると、会社は今とても資金が厳しい状態になっていて、まず2000元を支払い、2月に1500元を支払う。その後については追って連絡をするという返事でした。

その後、職探しに奔走していると、元同僚から、その会社が10人を解雇して、残った社員の12月から2月までの給料が未払い状態になっているということを知りました。ところが、その会社はその時になっても、人材募集広告を出し、相当数の人材を採用していることも知りました。

別の元同僚に話を聞くと、彼は給料の遅配はまるでなく、業務も普通通り行っていると言います。つまり、リストラしたい部門には解雇をしたり、給料を意図的に支払わず、利益が出る部門だけで正常営業をしているようなのです。

現在、広州市の労働紛争仲裁センターに仲裁の申し込みをしている最中です。

 

警備員に引率されて即日解雇。テック企業。勤続3年

私はオンライン旅行予約サイト「Ctrip」に入社し、その後2017年に「去哪児」に転職をしました。

2019年になって、私のチームのリーダーが辞職をし、新しいリーダーが配属されてきました。すると、その新しいリーダーはいきなりリストラを始めたのです。すぐに3人が解雇され、その内の1人は創業期からいる社員でした。私たちがしていたウェイボーによるプロモーション業務は外部委託をするということのようでした。

私たちは、解雇に抗っても仕方のないことだと考え、補償金の交渉を始めました。もう11月になっていたので、年末のボーナス支給と退職金+2ヶ月分を要求しました。しかし、回答は退職金の1/2だけを支払うというものでした。あと数日で、まる2年になりますが、勤続2年未満であれば違法とは言えません。しかし、有給休暇も残っているので、それを勘案すれば、すでに勤続2年に達してたのです。

まるまる勤続2年になる日の前日、警備員が私のデスクにやってきて、荷物をまとめるように告げられました。そのまま、私は警備員に付き添われて、会社の外に出されてしまったのです。

私はCEOに事情を説明するメールを送りましたが、弊社の人事部は優秀で信頼しているので、人事部の判断を尊重するという紋切り型の返事がきただけでした。

それで、仲裁委員会に申し立てをし、弁護士を通じて会社に和解の呼びかけをしました。担当をした仲裁委員は、過去にも去哪児の仲裁をした経験があるという方でした。しかし、その担当者は、暗に「告訴はしない方がいい。告訴すると、今後の職探しに影響が生じる」という脅しともアドバイスとも言えないことを口にします。

和解の交渉の場では、会社側は私の勤務記録を提出してきました。それによると、1ヶ月の間に、3日間は欠勤をし、20日間は遅刻、早退をし、1日の拘束時間が平均して9時間に満たないという主張をしました。それが決定的となり、会社側の主張が全面的に採用されたのです。

しかし、欠勤の3日間は、会社の業務としてイベントやセミナーに出席をしていたもので、そのことは社内の書類や業務グループでのSNS履歴を見れば簡単に証明できます。遅刻、早退も会社の規定では、10時までに出社、6時以降退社、昼食休憩1時間で労働時間8時間と定められています。しかし、現実には出社時間、早退時間は守られなくなっていました。11時頃出社するのは普通のことで、徹夜をすることも多く、徹夜の翌日は午後になると退社します。週に40時間(1日8時間)以上になっていれば、出勤時間、退社時間は個人に任されていたのです。

現在、上告をして争うつもりですが、私の主張は社内書類がないと立証できないため、元同僚の協力者を探していますが、応じてくれる人は見つかりません。私の主張は正しいという自信を持っていますが、一方で、愚かであったとも思います。労働契約を結んで働いているのですから、会社の規則をよく読み、それに反した行動が行われている場合は、自分を守るために、さまざまな証拠を保全しておく必要があったのです。

私は司法の正義というものを信じているので、最終的には私の主張が受け入れられると思っていますが、それでも法廷闘争は心理的なストレスが大きすぎます。毎日、私はどうしたらいいのだろうと不安になり、不眠症になってしまいました。