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増加するテック企業の理不尽な解雇理由。12人のリアル(上)

コロナ禍もあり、テック企業を理不尽な理由で解雇される事態が社会から関心を集めている。特にテンセントが「勤務時間が1日平均8時間に足りない」という理由で解雇された件が話題になっている。燃財経では、理不尽な理由で解雇された12人に取材した。

 

テック企業に蔓延する理不尽な解雇理由

テンセントに勤めていた閻さん(仮名)が、「1日の勤務時間が8時間に満たない」という理由で解雇されたことが注目を浴びている。閻さんは、それは記録上のことで、実際は8時間以上働いているとして、深圳市の労働仲裁委員会に仲裁を申し立て、同時に深圳市南山区法廷と深圳市中級人民法廷に、労働契約の履行を求めて裁判を起こした。テンセント側では、解雇理由は労働規律上、重大な違反があったことで、勤務時間が8時間に満たないという理由ではないとコメントしている。

この事件が世間の関心を集めたのは、近年、テック企業で解雇される理由の中に常識を外れたものが増えていると感じている人が多いからだ。

実際に、燃財経が取材をした中でも、あくまでも解雇された社員の主張ではあるが、「名前を取り違えて解雇された」「痩せすぎているため、制服が似合わないから」「女性の数が多すぎるから」という理由で、降格、解雇されている例がある。燃財経では、納得のいかない理由で解雇された12人の話を掲載している。

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▲テンセントが閻さんに発行した離職証明書。解雇理由をめぐって意見の対立があり、社会関心事となっている。

 

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▲テンセントが提出した閻さんの勤務記録。しかし、閻さんとは実態が反映されていないとして、争いになっている。

 

一年の間に同じ会社から2回も解雇される:テック企業、勤続5年

私は、同じ企業から1年の間に2回解雇されました。規定では退職金が4ヶ月分で、30日前の事前解雇予告がない場合は、さらに1ヶ月の補償金もあり、これが2回ありましたので、退職金だけで10万元(約155万円)ほどになりました。

最初の解雇は、経営者の判断ミスにより、売上が60%にまで落ち込んだことによるリストラです。この解雇は突然でした。午前中に人事部から話があって、午後には解雇されていました。業務の引き継ぎもできないほどでしたが、退職金も速やかに支払われました。

私がこの会社に入社したときには600人ほどの社員がいたのに、解雇されたときは200人ほどになっていました。私がいた部署も30人だったのが、10人ほどしか残っていません。この時は、さほど落ち込むこともなく、退職金ももらって、気持ちよく離職できました。

次の職探しをしている時、元の会社の人事部が私に連絡をとってきて、戻ってきてほしいと言います。新しい事業を始めるのだが時間がなく、適切な人を採用している余裕がないというのです。私としても、よく知らない会社にいくよりは、知っている会社で働いた方がいいと思い、再び同じ会社に入社することになりました。

ところが、半年後に、新型コロナの感染拡大が起こり、報酬の20%カットが発表されました。CEOは、投資家と株主を安心させるための一時的な措置だと説明していましたが、社員は全員ほんとうのことを知っていました。会社にはまだお金があるのに、社員を犠牲にして、投資家の利益を守ったのです。

会社は、さらに減給に同意する書面への署名を求めてきました。しかし、これにサインをしてしまうと、一時的なカットではなく、本来の報酬が20%減給されることになってしまいます。しかも、コロナ禍でも、私の仕事はまったく減っていなかったのです。

私は、署名を拒否しました。すると、あっさりと解雇されました。コロナ禍に解雇されるのは不安もありましたが、幸いにも専門スキルを持っていたため、離職後1ヶ月で3社からオファーがあり、その中の一つの企業に入社し、報酬も30%増えました。前の会社のことは忘れて、今の会社で頑張っています。

 

名前を取り違えて解雇:ECカスタマーセンター、ゲーム開発。勤続3年

社会に出て2年の間に、2回も私の身の上にありえないことが起こりました。二度とこのような目に遭う人が出ないようにお話しします。

最初は、ECのカスタマーセンターに勤務していた時のことです。仕事が終わり、社員寮に戻り、シャワー室で足を洗いたいと思いましたが、サンダルを用意するのを忘れていました。見ると、誰のものともわからないサンダルが一足放置してあります。周りの人に聞くと、みな自分のものではないと言います。それで、誰かが忘れたものだと思い、借りてしまったのです。そのサンダルを履いていると、ある同僚が「それは自分のだ」と言うので、謝罪をして返しました。それだけのことです。

ところが、翌日、その同僚が所長に、サンダルを盗まれて、しかも罵倒されたと訴えたのです。罵倒などしていません。しかし、所長に説明すればするほど「言い訳をしている」ととられ、解雇されました。その日までの報酬は、来月15日に手渡しするというので、15日にいくと、人事担当者は「あなたは解雇されたので、給料は支払われない」と言います。働いた分の給料はもらえず、法律に規定されている退職金も支払われませんでした。

その後、ゲーム開発企業に就職し、ゲームデザインの仕事に就きました。報酬は基本給+成果給という契約です。この企業では、毎月成績を発表して、下位の社員は解雇される仕組みです。私の感触では、上位20%か30%程度に入っていると思っていたので安心をしていたのですが、なぜか下位に入っていて、その場で解雇されました。驚きましたが仕方ありません。しかし、数日後、会社から連絡があって、解雇はミスだったというのです。

私の名前は「周子濤」ですが、その会社には同級生の「劉子濤」と一緒に入社したのです。彼は、入社しても仕事をせず、毎日会社でゲームで遊んでいました。私が解雇された時、なぜ私が解雇されて、彼が解雇されないのだろうと不思議に思いました。会社はミスの内容を説明してくれませんでしたが、私と彼の名前を取り違えたのだと思います。

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▲労働仲裁委員会に対する仲裁、調停の申し立ては、ミニプログラムからできるようになっているケースが多い。テック企業を中心に労働仲裁、調停事件が増えている。

 

会社が別の会社の入社面接をセッティング:ウェブデザイナー。勤続3年

私はテック企業でウェブデザイナーをしていましたが、その会社は大きくないため、さまざまな仕事をこなさなければなりません。さらに、大きな顧客を失ったため、ウェブデザインの仕事が減りました。そこで、社長が私に競合製品の分析をしてほしいと言います。それを1日かけて報告書を完成させましたが、なぜそんなに時間がかかるのかと叱責されました。普通なら2時間でできる仕事だと言うのです。

その後、人事担当者がやってきて、会社のウェブデザインの仕事が減少をしている。他の業務もできるようにしないと、この会社で生き残っていくのは難しいというような話をします。それで理解しました。ウェブデザイナーのリストラが始まろうとしていたのです。

しばらくすると、人事担当者から、ある企業の入社面接を受けないかという電話がきました。腹が立ちました。会社の状況が悪化をしてリストラをしなければならなくなるのは仕方のないことです。でも、だったら、直接私にそう告げればいい。それを、私の知らないところで、私の入社面接を勝手に設定しているのです。

結局、私はその申し出を受けました。これ以上、この会社で仕事をする気になれなかったからです。法律の規定により2ヶ月分の退職金を要求しました。会社は承諾をしましたが、私が5日間の有給休暇をとっていたことを発見して、休暇分の4000元を減額してきたのです。人事担当者の主張によると、有給休暇は会社の福利厚生として用意されているもので、退職する人には適用されず、自己都合の欠勤扱いとなるというのです。

それはおかしいと反論すると、人事担当者は「もう次の就職先が決まっている段階で、トラブルを起こすと、私たちは次の会社への紹介状が書けなくなる」と脅すようなことを言います。

会社でリストラが始まったら、会社に身を委ねてはいけないということを学びました。会社の状況が悪くなったら、自分が率先して動いて、次の就職先を見つけ、離職した方がずっといいということを学びました。

 

退職補償金を支払わずに済む2つの方法:テック企業CEO。創業6年

私は1週間で100人以上をリストラしなければならない状況に追い込まれました。しかし、リストラをするにも資金が必要です。規定の退職金+補償金1ヶ月分を支払わなければならないからです。私は人事部に何かうまい方法を考えるように命じました。今は反省していますが、さらに、「さもないと、君たちをリストラすることになる」とまで言ってしまったのです。

一般的なリストラの方法は2つあります。ひとつは配置転換をすることです。社員にしてみれば、自分の希望とはまったく違った仕事をしなければならなくなるので、多くの社員が自発的に辞職していきます。規定の退職金は支払う必要がありますが、解雇補償の+1ヶ月分は支払わなくて済みます。

もうひとつは、部門の責任者にリストラを命じる方法です。責任者は採用の決裁権を持っているので、解雇もできます。そして、責任者に部門の社員全員を解雇させ、最後に残った責任者を解雇するというやり方が一般的です。しかし、責任者もそういう会社のやり方をわかっているので、部門のほぼ全員を引き連れて、他企業に移籍をしたり、起業することがあります。こうなると、自発的な退職なので、やはり補償金は支払わなくて済むことになります。

そういうことを考えなけれならないほど、私は追い込まれていたのです。会社のお金はほとんどなくなっているのに、新たな投資が決まらない。必死でした。

幸いにも社員から訴えられることはありませんでしたが、いつ訴えられてもおかしくありません。企業の経営は面白い仕事ですが、リストラだけは二度とやりたくありません。

 

昼食は歩きながら食べるほど忙しい。オンライン教育サイト講師。勤続1年

私は、ある教育企業で、クラス講師を務めていましたが、会社から突然、講師の編成からは外れるという通知があり、同時にオンライン授業のアシスタント講師にならないかと言われました。

しばらく考えて同意しました。アシスタント講師と言っても、実績を積めば、正式なオンライン講師に昇格できます。そうすると、クラス講師よりも報酬は高くなるからです。しかし、異動してみてわかりました。アシスタント講師と正式なオンライン講師はまったく別の仕事で、アシスタントは授業に関わることなく、多くの事務処理をこなさなければなりません。この仕事を続けていても、授業スキルは身につかず、正式な講師に昇格する可能性はほとんどないのです。

それでも1年は仕事を頑張りましたが、2年目になってもう無理だと感じました。新設されたばかりのオンライン授業に配属され、新しく参加する生徒も多かったのですが、やめる生徒も多く、保護者は要求が多く、不満をぶつけてきます。ほとほと疲れてしまったのです。

保護者への対応で、昼食を取る時間もなく、毎日コンビニに軽食を買いに行って、帰り道を歩きながら食べるという具合でした。

授業が始まる前に、生徒からの質問に答える業務もしていましたが、さほど重要な質問は多くないため、生徒に授業が終わってからにしてくれないかと告げました。すると、これが大きな問題になってしまったのです。2人の保護者が、話が違うとクレームをつけてきたのです。その生徒は、授業が終わった後は、別の補習授業に出なければならず、授業前でないと質問ができないのだと言うのです。

主管は、過去にも同様のクレームがあったことを挙げ、夏休みの補習授業が終わったら辞職してほしいと言ってきました。直接、校長に事情を訴えましたが、まったく無駄でした。

現在、退職補償金をどうするか、会社の返答を待っているところですが、補償金に納得がいかなければ、法廷で争おうと考えています。その会社は、今でも人材募集を行っていて、誰かが私と同じ目にあっていると思うと、切ない気持ちになります。

 

妊娠したら解雇:テック企業人事。勤続8年

私が入社した頃、女性である社長は息子をほしがっていました。でも、3人子どもを産んで、いずれも女の子だったのです。その後、ある女性社員が、男の子の双子を出産すると、社長はとても悔しがって、その社員が男の子を産む運気を奪っていったと言います。最初は冗談だと思っていましたが、その社員を解雇してしまったのです。これはとんでもない会社に就職してしまったと思いました。

それからも、妊娠をしたから、夫が人民解放軍にいるからなどという理解に苦しむ理由で、解雇するように人事部に命じてきます。それに逆らうこともできず、私は解雇される社員にこっそりとどのような法的措置が取れるかをアドバイスすることしかできませんでした。

2018年に私自身が妊娠をし、その月の10日に会社に妊娠を報告すると、14日に解雇通知を受け取りました。私の同期でも、2人が妊娠を理由に解雇されています。私はそれでも健康な子どもを出産することができましたが、私の同期は出産と解雇が重なって苦労をして流産をしてしまいました。

私は仲裁委員会に申し立てをし、仲裁案が提示されましたが、会社はそれを不服としたため、現在法廷で争っています。時間の浪費だとしか思えません。妊娠が原因で解雇されたことを立証する証拠集めに膨大な時間がかかるのです。

テック企業は、先進的に見えて、社長の個人的な嗜好が社内でまかり通ってしまうところがあります。特に、女性社員の妊娠については、男性CEOの無理解、女性CEOの嫉妬により、つらくあたられる場合があります。女性の方は、妊娠をしたら、すべての電子メールを保存し、社内での会話は録音をしておくことをお勧めします。

 

明日に続きます。