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ネズミの侵入、従業員のマニュアル違反も人工知能が検出。リモート店舗管理の悠絡客

深夜の飲食店に排水口から侵入するネズミ。マニュアル違反行為をする従業員。このようなものを人工知能が検知をするという悠絡客のシステムが広がっている。特にコロナ休業期間に導入をし、コロナ後に備え得るという例が増えていると彭湃新聞が報じた。

 

夜中に飲食店に侵入するネズミを感知する人工知能

7月9日から11日まで、上海で世界人工知能大会が開催された。その中で注目されたのが、人工知能技術を使って、飲食店、洋品店、薬局、自動車販売店、コンビニなどの業務を総合的に支援する「悠絡客」(ヨウルオカー)が大きな話題となった。

顔認証、行動分析、商品識別など単機能のシステムというのは今までにいくつもあるが、悠絡客のようにすべての機能を統合してワンパッケージにしているシステムは多くはない。

また、その機能のひとつとして、夜中に排水溝からあがってくるネズミを自動検知する機能があり、多くの飲食店が頭を悩ましている問題であることから話題になっている。

 

実は難しい夜間侵入するネズミの画像検知

飲食店のネズミ問題は、多くの飲食店関係者が触れたがらない問題だ。排水溝の構造上、その飲食店がいくら衛生的にしていても、ネズミは外から侵入してくる。その地域全体で対応しなければならないが、なかなか簡単ではない。多くの飲食店が、一通りの対策をし、「お客さんの前にさえ出てこなければ」それ以上の対策を講じようとしない。

画像解析によって、ネズミの侵入を感知することも、技術的に簡単ではない。ネズミは厨房の照明を落としている暗闇の中で出てくるし、ネズミ自体が灰色で認識しづらい。

悠絡客の沈修平CEOは、彭湃新聞の取材に答えた。「ネズミの認識率を上げるのは簡単ではありません。今、無数の人工知能企業が登場していますが、高い精度で厨房環境でネズミを識別できる技術を持っているところは多くありません。私たちの技術では、ネズミの進入場所を特定できる他、厨房内での経路も記録できます」。

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▲今までなかった深夜に侵入するネズミの検知。照明が落とされる中で、灰色のネズミを検知し、行動経路を追跡する画像解析技術の開発は簡単ではなかったという。

 

店舗をリモート管理するところから出発した悠絡客

2009年に創業した悠絡客は、飲食店の店内カメラを提供する事業から始まった。オーナーや本部が店舗に行かなくても、店舗内の作業の様子をリモートで見られるというものだった。

しかし、顧客からさまざまな要望があり、人工知能開発チームを設立、現在では顔識別、人体識別、行動分析、物体識別などの技術を開発してきた。

大きな機能のひとつは顔識別と人体識別により顧客を把握することだ。顔識別により顧客を識別し、データベースと照合し、会員であるか、購入額が多い顧客であるか、どのような嗜好を持っているのかなどを接客前に知ることができる。さらに、人体識別で店内での行動を追跡し、店内でどのようなルートを取るかを記録し分析することができる。また、商品を物体識別することも可能で、どの顧客がどの商品棚の前に止まるかなどの分析もできる。

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▲店舗を訪れた来店客の服装、姿勢などを検出し、移動経路などを自動追跡する。来店客の行動分析に使われる。

 

従業員のマニュアル違反行為も自動検出

また、従業員の分析もできる。どの従業員がどのような動きをしているかを記録することができる。

また、姿勢の分析も可能で、特に飲食店の厨房ではしてはならない動作をしていないかを識別し、記録することができる。「床に落ちたものを拾う」「調理器具などで排水溝の詰まりを直す」「手袋をしないでで顔や首を触る」「帽子やマスクを着用していない」。このような動作があった場合、自動的に記録される。管理者は後に該当する従業員に映像を見せて注意をすることができる。

また、物体識別も可能で、火災時の避難通路に一時的でもものを置くなどの行為も識別ができる。

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▲従業員の姿勢を画像解析し、床のものを手で拾うなどのマニュアル違反行為を検出する。

 

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▲消防法などの関連で、荷物を置いてはいけない場所に荷物が置かれることも検出して通知する。


人工知能を使ってリモート管理。現在165万店舗に導入

つまり、悠絡客がやっていることは、オーナーや本部による監視の自動化だ。複数の店舗を管理しなければならないオーナーや本部は、リモートカメラで管理をせざるを得ないが、営業時間中カメラの前に座っていることはできない。そこで、悠絡客は人工知能技術を使って、顧客が望む把握したい行動を識別できるように進化をさせてきた。現在では、飲食店、洋品店などを中心に、165.6万店舗に導入されている。

 

コロナ休業期間に人工知能導入工事が増えている

悠絡客が人工知能技術を導入し始めた2014年ごろは、導入を進めても、「ほんとうにそんなことできるの?」という反応がほとんどで、顧客企業に人工知能技術とは何かという実例を見せるところから始めなければならなかった。2018年頃から、テンセントやアリババ、百度が盛んに人工知能技術を活用するようになり、その辺りから風向きが変わったという。

新型コロナの感染拡大では、顧客企業の多くが休業をすることになったが、休業期間中にコロナ後を見越して、悠絡客のシステムを導入する動きもあり、売上は昨年とほぼ同じで、今年2020年の下半期は昨年よりも成長できる見込みが立っているという。

悠絡客は、2013年から米国のベンチャーキャピタルKPCB、中国の東方富海、理成基金、用友幸福基金、招商局などの投資を受けていたが、2018年にテンセントの大型投資を得てからは、テンセントと協調してビジネスを展開している。

テンセントは、WeChatペイを核にして、小売店のビジネスをデジタル化する「スマート小売」を進めていて、悠絡客のシステムもこのスマート小売のひとつの要素として、今後も拡大していくことが見込まれている。