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リモートで生き物を育てる「クラウド飼育」。ザリガニ養殖が大人気

コロナ禍で外出が制限されると、クラウド飼育が人気となった。市場に出かけて自分の目で品質を見極めて飼うことができなくなったため、直接、農場の豚や牛、鶏を予約購入して、飼育している様子をライブ配信などで確認するというものだ。安心をして食材が買えるだけでなく、娯楽としても人気が出ていると文化産業評論が報じた。

 

クラウド飼育。人気は豚

ライブ配信を利用した「クラウド飼育」がにわかに盛り上がっている。農園などで飼育されているザリガニ、鶏、ミツバチ、豚、牛、お茶の木などを購入し、成長過程をライブ配信などで見ることができる。出荷できる段階になると、食品として加工され、自宅に配送されくるという仕組みだ。

また、猫や犬などのペットをクラウド飼育できるサービスも登場している。自分のペットを購入し、提供業者が代理で育ててくれるというものだ。所有者は、スマートフォンのテレビ通話などを利用して、「自分のペット」と遊ぶことができる。

新型コロナの感染拡大が厳しかった今年2020年2月に盛り上がり、EC「タオバオ」のライブ配信では、このようなクラウド飼育系のライブ配信が昨年同時期の4.75倍にも増加した。もっとも多かったのが、豚で、それに猫、犬が続いた。

 

1トンのザリガニを事前予約。クラウド飼育で完売

今年の4月1日、湖北省のザリガニ養殖で有名な洪湖市のザリガニ養殖業者、王文娟さんは、新型コロナの感染拡大で、ザリガニ需要が低迷したことをなんとかするため、タオバオで飼育の様子をライブ配信することにした。すると、飼育している1トンのザリガニに予約が入った。出荷できる時期に、予約購入をした人にすべてのザリガニを宅配して、完売となった。

王文娟さんにとっては、事前に売上金が入る、完売するということから、事業を継続する目処が立った。購入者にとっては、買い物や外食にいくことも控えているところに、養殖のすべての過程が見られる王文娟さんの試みは安心をして購入をし、食べることができる。

王文娟さんは、現在でも週1回のライブ配信をして、ザリガニの養殖の様子を伝え、養殖しているザリガニは予約で完売する状態になっている。

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▲ザリガニの養殖をする王文娟さんは、養殖の様子をライブ配信してみたところ、予約注文が殺到。1トンのザリガニが完売した。現在でもクラウド養殖を続けている。

 

豚をグループ購入、牛乳も人気

同じく4月には、大手飼育企業もライブ配信に乗り出した。豚の飼育を行っている網易未央は、EC「Tmall」で、豚の飼育のライブ配信を始めた。子豚を買うことができ、その育つ過程をライブ配信で逐次見ることができる。出荷できる状態になると、豚肉に加工されて宅配されてくる。

中には、豚一頭の肉は多すぎることから、自然に消費者同士がSNSで仲間を募り、まとめ買いをするようになっている。そのグループでは、豚が育つ様子を眺めながら、おしゃべりをするのが楽しみのひとつになっている。

5月になると、金典牛乳がEC「京東」でライブ配信を始めた。消費者は、牛を選んで、その名前をつけることができ、月に1回ライブ配信でその牛の現在の状況を見ることができる。そして、その牛からとった牛乳が送られてくるというものだ。

6月には、牛乳メーカー「認養一頭牛」が、ゲームと組み合わせたクラウド飼育を始めた。このゲームでは、牧草を与えるなどして牛を育てることができる。牛が育つと、ポイントがたまり、認養一頭牛の乳製品と交換ができるというものだ。30万人以上がこのゲームを楽しみ、実際の農場の様子を届けるライブ配信には100万人以上が視聴した。

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▲認養一頭牛は、クラウド飼育とゲームを組み合わせた。ゲーム内で牛を育てると牛乳がもらえる。また、実際の牧場の様子もライブ配信されている。

 

作業は農家が代行するクラウド農園

江蘇省揚州市李典鎮田橋村では、クラウド農園を始めた。近隣の市民に畑を貸し出すが、作業そのものは農家が行い、畑の様子は24時間ライブ配信されている。市民が休日に借りた畑を訪れ、農作業を体験することもできる。

市民にとっては、すべての生長過程が見られることから、安心をして野菜を食べることができ、休日には農業体験もすることができる。この活動に参加した900戸の農家にとっては、収入が年に2000元から4000元増えることになる。

 

クラウドでペットを飼う「雲吸」

また、犬や猫といったペットの飼育を代理で行い、ライブ配信やテレビ電話で自分のペットと遊べるというサービスも人気になってきている。昼間留守にすることが多い都市住人は、なかなかペットを飼うことができないからだ。

中国ではペットを可愛がることを「吸う」と表現する。顔を近づけて、頬ずりする様子が、まるで飲み物を飲んでいる姿に見えるからだ。そのため、このようなペットをクラウドで買うことは「雲吸」と呼ばれている。

お手軽すぎるという批判的な目で見る人もいるが、飼育環境が用意できない人でも気軽にペットを飼うことができ、ペットファンが広がることや、飼育が困難になっても飼育放棄に結びつかないことなどを評価している人もいる。

このようなクラウド飼育は、ビジネスとしてはまだまだ小規模であるものの、話題性があり、今後も広がっていくと見られている。

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▲中国でも以前から、猫や犬の動画をアップして、それを楽しむという人が多くいた。このような楽しみ方は「クラウド猫」=「雲吸猫」などと呼ばれる。ペットを飼育代行して、ライブ配信などで楽しめるというサービスが登場している。