中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

続け書きOK、空中に書いてもOK。漢字入力の効率を一気に高めた「百度インプットメソッド」

アルファベットに比べて漢字入力の効率が悪いのは仕方のないことだ。しかし、百度は新しいインプットメソッドで入力の効率を高めるさまざまな工夫に挑戦している。指やペンを離さずに続け書きをしても認識してくれる連写、空中に指で文字を書いても認識してくれる機能などを搭載したとIT那些事児が報じた。

 

漢字圏が悩む漢字変換問題

ITの発展に、日本や中国が不利である要因が漢字だ。漢字は一文字で意味を持ち、アルファベットに比べて情報集積度が高い。そのため、少ない文字数で意図を伝えることができる。これは読む時には効率的だが、その代わり、入力(書く)のに手間がかかる。アルファベットであれば、キーボードから直接入力できるのに、漢字はそこに変換というプロセスをかませなければならない。

 

意外に難しい拼音入力

そこで入力方法にさまざまな工夫が必要になる。中国では一般に拼音入力が使われる。拼音とは漢字の音をローマ字で表したものだ。しかし、この拼音をマスターするには、かなりのトレーニングが必要だ。例えば「山」はShan、「上」はShangとgがつく/つかないの違いがある。

「中国人はこの微妙な発音を使い分けている」と言われるが、現実はそうでもない。中国で、きれいな標準語を話す人というのは意外に少なく、多くの人が方言やなまりを持っていて、中国人でも微妙な発音の違いがわからない、気にしていない人がたくさんいる。また、使い分けている人であっても、意識をしているわけではなく、自然に身についた発音をしているだけで、いざ「gがつく、つかない?」と尋ねられると、少し考えなければわからないというという人が大半だ。

ちょうど、日本の鼻濁音「が」のような具合だ。標準語(東京方言)では、「学校が」と発音した時の最初の「が」は破裂するように強く発音するが、最後の「が」は鼻を通し柔らかく発音する。しかし、話している本人は意識はしていない。また、こういう発音の使い分け自体が次第にされなくなっている。

中国の拼音も同じで、実際の発音とのずれが大きくなってきているのに、それを意識してスペルを覚えていかなければならない。ある程度の教育を受けた人は拼音入力をするが、苦手と感じている人も多い。そのため、最近の拼音入力は多少の間違いは類推をして漢字を表示する機能がついていることが多い。

f:id:tamakino:20200902104636p:plain

▲使われている入力法は拼音入力が多いが、音声入力、手書き入力を使う人も多い。特に40歳以上では手書き入力がいちばん多くなっている。「中国サードパーティーインプットメソッド市場専門分析2019」(易観)より作成。

 

音声入力、手書き入力も意外に多い

その他、五筆字形入力法というものもある。これは漢字のパーツを縦棒、横棒、左払い、点、鉤の5つのパーツに分けて、入力したい漢字がどのパーツで成り立っているかを指定して入力するものだ。

確かに、会話を速記できるほど入力速度は速くなるというが、覚えるまでにたいへんな労力がかかる。そのため、五筆入力を使うのはごく一部の限られた人だ。また、漢字の筆画をひとつひとつ指定していく筆画入力法もあるが、これも使うのがごく一部の人だ。

また、音声入力を使う人も結構多い。近年は、音声認識機械学習が使われるのが当たり前になり、誤認識率が低くなっている。そのため、音声入力を使う人はけっこう多い。また、文字を指で書いていく手書き入力もある。

統計を見ると、最も多いのは拼音入力で、それに音声入力が続く。30歳以下の若い世代は多くが拼音入力か音声入力だ。

 

手書き入力を大きく効率化した百度

一方で、40歳以上の人に限ると手書き入力が多い。しかし、手書き入力は簡単だが、入力に時間がかかるというのが難点だった。

百度がリリースしている「百度インプットメソッド」では、この手書き入力を大きく改善した。手書き入力の新しい機能として、畳写、連写の2つがあり、さらにβ版だが凌空手写というユニークな機能も内蔵されている。

 

指を離さず、どんどん書いていける

畳写は、1文字を手書きし、その文字が消える前に次の文字を上書きして書くことができるというものだ。楷書で書く場合は認識率が高く、単語辞書も参照されるため、スマートフォンなどで書く場所が1文字分しか取れない場合でも、どんどん手書き入力していくことができる。手書き文字入力で、1文字入力した後に待つ時間がなくなる。

さらにすごいのが連写だ。これは文字を連続して書いてよく、そこから文字を判別してくれる。正式な草書で書く必要はなく、ただ筆画をつなげて、指やペンを離さず書いてしまえばいいのだ。書くスペースが広ければ、次の文字を横に書いてもいいし、畳写と同じように前の文字に上書きをしてもいい。

手帳にメモを取るようなラフな感覚で、どんどん入力していくことができる。

f:id:tamakino:20200902110537g:plain

▲連写は、指を離さず続けて文字を書いても認識をしてくれる。正式な草書ではなく、適当な続け書きでも認識率は高い。おそらく単語などからも推測をしているのだと思われる。しかも、前の文字の上から重ね書きをすることもできる。手書き入力としてはかなり効率が高くなる。

 

空中に書いた文字も認識してくれる

さらに、現在はβ版だが、凌空手写という機能もある。これはインサイドカメラを利用し、指で空中に文字を書いて入力するというものだ。1文字書き終わったら、手のひらを開くと文字が認識される。連写を空中で行う感覚だ。

認識率は、今のところ、正確に入力できることの方が少ないレベルだ。しかし、中国人は習慣的に、人に文字を教える時に、指で空中に書いたり、相手の手のひらに指で書いたりする。凌空手写は、このような習慣に近く、1文字や2文字を入力するのであれば、意外に便利かもしれない。

日本では、文字入力はフリック入力が登場して以来、大きなイノベーションは起きていないが、中国では漢字という不利な条件があるため、いまだに入力方法がさまざまに工夫をされ、進化をしている。このような連写、凌空手写が可能になったのも機械学習の成果のひとつだ。文字入力の世界も、今後まだまだ大きく変わっていくことがあるかもしれない。

f:id:tamakino:20200902104641j:plain

f:id:tamakino:20200902110816j:plain

インサイドカメラを使って、空中に指で文字を書いて入力する「凌空手写」。掌を開くことがリターンキーの働きをする。文字が確定され、指の軌跡がクリアされる。