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国際的な人工知能高級人材の29%は中国人。米中関係悪化が人工知能研究に与える影響とは

米中の関係悪化が、米国の人工知能研究や産業への応用に悪影響を与えるのではないかという研究結果が報告された。今や、米国の人工知能の最先端研究人材の29%は中国の大学が供給しているからだとニューヨークタイムズが報じた。

 

ペンタゴンのプロジェクトにも中国人研究者が参加

この調査はNeurIPS 2019(Conference on Neural Information Processing Systems)に提出された1400件以上の論文から175の論文、671人の著者について調べたもの。NeurIPSは人工知能機械学習分野のトップクラスのカンファランス。

国防総省ペンタゴン)は、軍事に人工知能を応用するプロジェクト「プロジェクト・メイブン」を立ち上げた。これはグーグルの人工知能研究者12人のチームと協働して行うものだった。ところが、12人のうち2人が中国人だった。

国防総省は特に問題ないという見解だった。このプロジェクトは純粋な研究で、国防秘密や機密データに触れるわけではないからだ。

しかし、米中の関係悪化により、米国の先進的な研究に中国人が関わることが制限されようとしている。このことが多くの先進的研究者の頭を悩ませているという。米国の最先端人工知能研究は、もはや中国人抜きでは成立しないところまできているからだ。

シンクタンク「マクロポロ」の調査によると、人工知能関連の国際学会で採択され発表された論文の著者の1/3が中国人であり、出身国別では最も多かった。また、その中国人のほとんどが、米国に住み、米国の大学や企業に所属をしていた。

 

中国の大学を卒業し、米国に留学、就職が半数以上

中国は人工知能研究を重点研究分野と定め、各大学の人工知能関連研究に多額の投資を行っているが、学生たちは中国の大学を卒業すると、自由で、最先端の応用がされている米国の大学や企業に所属をしたがる。

中国の大学を卒業し、学士学位を取得した人工知能分野の高級人材(ほとんどが中国人)の54%が、米国で修士、博士の学位を取得し、やはり54%の中国人が米国で働いている。

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▲中国の大学を卒業した人工知能高級人材の54%は米国の大学院に進学し、その後米国企業で職を得ている。

 

ビザ発給の取り消しは、米国の人工知能研究に打撃を与える

一方で、米国政府は、中国人民解放軍と関係のある大学と関係する留学生、研究者のビザを無効にすることを議論している。

これは中国の人工知能戦略を破壊するが、米国の人工知能応用分野も破壊することになる。それどころか、マクロポロのアナリスト、マット・シーハン氏は深刻な懸念があるという。それは、もし米国が中国のトップ研究者たちのビザを取り消せば、中国政府は彼らを大歓迎して中国の大学や企業に迎える政策を打つだろうということだ。人工知能分野での、米国の優位性が失われ、この分野で中国に抜かれてしまう危険性があるという。

 

高級人材の出身大学で最も多いのは中国

NeurIPSの論文の調査では、著者が大学時代、大学院時代、卒業後、どの国で論文を書いているかを調べた。すると、大学時代は中国で書かれた論文が29%と最も多いが、大学院以降は米国が圧倒的に多くなる。これも、中国の大学を卒業した中国人が、米国の大学院に留学をし、米国企業で働いていることを示している。

つまり、米国の人工知能研究分野では、中国の大学出身者=ほぼすべてが中国人の勢力が最も多くなっているのだ。

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人工知能高級人材の、大学、大学院、就職の3つのステージで、どの国にいたかを分析したグラフ。高級人材の29%が中国の大学を卒業している。そのほとんどが中国人だと推定できる。しかし、高級人材の半数以上は、米国の大学院に進み、米国の企業で働いている。つまり、中国人の多くが米国に留学をし、職を得ていると推定できる。出身大学=出身国だと見做せば、国際的な人工知能高級人材の中で、最も大きな勢力はすでに中国人になっている。

 

米中の関係悪化が、人工知能に与える影響

国防総省では、外国人が機密プロジェクトに加わることを制限している。しかし、人工知能の分野は別扱いになっているという。グーグルが参加をしたプロジェクト・メイブンでは、ドローンで撮影した映像から車両や建築物を画像解析して、種類などを識別する研究を行っていた。これは軍事研究とはいうものの、その技術は一般産業にも広く応用できるもので、論文の公開も制限されていない。

人工知能の研究者の間には、得られた知見を積極的に公開して、世界の研究者で共有し、さらに発展させたいという空気感がある。国防総省も、そのような事情を理解し、研究課題を設定し、民間の研究者の協力を求めている。

しかし、米中の関係悪化で事情が変わりつつある。グーグルの一部の従業員から、国防総省の軍事研究にグーグルが関わることに対しての抗議があり、グーグルはプロジェクト・メイブンの契約を更新することを辞退した。

また、シアトルのアレン人工知能研究所のオレン・エツィオーニ氏によると、米国政府の中国人研究者に対するビザ取消政策を懸念して、中国人研究者の求職が大幅に減少しているという。

米中の関係悪化は、互いの国益をめぐり、さまざまな駆け引きがされるのだろうが、少なくとも最先端の人工知能研究にとっては、誰も得をしないどころか、全員が損失を被ることになるのではないかと懸念されている。

 

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