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なぜ香港ではECが成長しないのか。その3つの理由

中国では、コロナ禍で、ECの需要が急増し、ECに対する投資も活発になっている。一方で、香港はECが成長をしない。その理由は3つあると銀河集団が報じた。

 

コロナ禍でも成長する中国のEC

中国のECが成長をしている。コロナ禍で、さまざまな産業が休業、縮小する中で、ECへの投資案件が増加している。

中国の新型コロナの感染拡大期は1月下旬から3月上旬まで。「2020年4月中国EC業投資データ報告」(網経社)によると、感染拡大期間、ECに対する投資案件の数も投資金額が急増した。特に3月は、昨年同時期の7.36倍になっている。終息をした4月になると投資件数、投資金額ともに減少をした。

元々ECが普及をしているところに、外出制限などの影響でEC需要が大きく高まった。これを見越して、ECへの投資熱が生まれている。終息後、各ECはこのような投資資金を使って、さらに成長をしていくことになる。

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▲中国本土のEC投資は、新型コロナの終息が見えた3月に急増をした。2019年には個人消費の20.7%がECによるものだったが、2020年はこの数値が大きく上昇すると見られている。

 

ECが成長しない香港

一方で、香港のECは奮わない。香港は「買い物天国」と呼ばれ、中国からも海外からもショッピング目的の旅行が多い地域であるのに、なぜかECは発展しない。

中国国家統計局の統計によると、2019年の中国の個人消費は41兆1649億元(約618兆円)。このうち、ECでの消費額は8兆5239億元で、個人消費の20.7%を占めている。ところが、香港のEC消費額は、個人消費のわずか4.7%でしかない。

 

香港最大のECはHKTV mall

香港でECが発展をしない理由は、香港の嫌中市民感情があるために、アリババ、京東、拼多多といった中国の巨大ECがなかなか受け入れられないことが大きい。香港最大のECは「HKTV mall」。香港電子網絡が運営するECだ。

香港電子網絡は、通信会社の城市電訊が地上波テレビ局開設を目指して設立された放送局だが、中国政府の意向に沿わない香港独自の内容の番組制作を目指していたため、テレビ局としての免許が下りなかった。2013年には、この事件に納得がいかない市民がデモ行動を起こしている。結局、香港電子網絡はネットとワンセグによる放送を行なっている。HK TVmallは、香港電子網絡内のテレビショッピング番組と連動したECとなっている。

この他、香港ではeBay、アマゾンなどを利用する人が多い。とは言え、ほとんどの人は店舗で買い物をしている。日本の2018年のEC化率は6.22%なので、香港は日本以上にECを使わないということになる。

なぜ香港では、ECが発達をしないのか。銀河集団は3つの理由を挙げている。

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▲香港最大手のEC「HKTV mall」。750万人という市場であるため、中国の巨大ECのような成長は期待できない。

 

理由1:店舗の利便性が高い

ひとつの理由は、小売店舗の利便性が高いということだ。香港は、中国本土よりも早く発展したため、小売店舗が充実している。香港のマンションでは「下に降りれば買い物ができる」状態になっている。マンションの下層階が商店街になっていることが多く、市場、スーパー、電子製品店、化粧品、雑貨などの店があるのが普通で、中には都市鉄道の駅まで備えているマンションもある。

住民にとっては、雨の日であっても傘を持たずに買い物ができる。逆に言うと、中国本土では、店舗が近くにないためにECが発達したということもできる。

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▲香港の典型的なマンション。下層階が商店街になっているところが多い。中には鉄道駅まで備えているマンションもある。この利便性がECに対する需要を抑制している。つまり、香港市民はECをそれほど必要としていないのだ。

 

理由2:物流コストが高くつく

もうひとつの理由が物流コストが高いことだ。香港は土地が狭いために空間コストが高くつく。そのため、ECの巨大倉庫に適した土地がない。中国本土では、高速道路や鉄道などが整っていれば、郊外の土地の安い場所に巨大倉庫を作ることができる。

また、物流系の人件費も、中国の2倍になるため、ECの魅力のひとつである低価格化を実現することが難しい。さらに、道路交通の規制もあるため、三輪車や電動バイクといった低コストで走ることができ、小回りもきく配送車を利用することもできない。

 

理由3:市場が小さいため投資が行われない

3つ目の理由が、ECに対する投資があまり行われないことだ。香港はわずか750万人の都市であり、香港市場で高いシェアを握ったとしても、750万人の利用者が限界になる。投資家たちは、無限に成長する企業に投資をしたがっており、成長空間の大きい中国本土の企業に投資をしたがる。

香港のECに投資があまりされないため、成長も限定的にならざるを得ないということになる。

 

小さくても完結した市場に巨大ECは入りづらい

アリババは以前から香港進出に挑戦をしているが、香港の高コスト状況、規制、市民の嫌中感情などに阻まれている。香港市場の小ささを考えると、強い熱意で香港進出をするという気運も生まれづらい。

香港は、小さい市場ながら、すべてがそろっていて、完結している。それにより、中国本土のテック企業が入りづらい状態になっている。一方で、香港は外に対しては開いている。貿易、金融などで外貨を稼いで、香港は成長をしてきた。香港は、生活スタイル、生活習慣の点でも、中国とは同じではないのだ。