中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

大量導入前夜になった中国の自動運転車

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明日、vol. 031が発行になります。

 

中国が、自動運転車大量投入の前夜を迎えています。滴滴出行は、上海でロボタクシーの試験営業を始めました。エリア内では、運転手は操作せず、すべてを自動運転するというものです。

上海の嘉定区の10km四方ぐらいのエリア限定で、事前予約をしたモニターを1日に30組程度乗せています。現在は、ほとんどがメディア関係者で、なかなか予約が取れないそうです。

このエリアは、上海の虹橋空港の北側で、F1が開催される上海国際サーキットのあるエリアです。東京近辺でいえば、幕張メッセ地区のような地域です。

 

もちろん、始めたばかりですから、メディアはいろいろ面白おかしく報道しています。ロボタクシーといっても無人ではなく、運転席には運転安全員が、助手席にはエンジニアが同乗しています。自動運転が難しい状況では、運転安全員が手動運転を行いますし、常にエンジニアがシステムのモニターを行なっています。

メディアでは、出発に戸惑って数分間止まったままだったとか、自動運転車は遠回りをしてでも右折ばかりするなどと報道されています。中国は右側通行なので、右折は簡単ですが、左折は対向車に注意しなければならず難易度が高い運転になります。そこで、システムはミスを起こしづらい左折を優先してルートを決めているのではないかというのです。

あるいは、脇道から侵入しようとする車を見つけると停止してしまいお見合い状態になるとか、速度の遅いオート三輪があっても抜かそうとせずに、後ろを徐行しながら走るとか、さまざまな「まだ運転がこなれていない」状況であることは確かなようです。

とは言え、この試験区域には、地下鉄の駅もあり、ホテルなどもあります。走るのは専用道路ではなく一般道で、上海中心地ほど交通量は多くなくても、一般車両が走っている地域です。

 

滴滴出行は、このロボタクシー投入に強気で、2030年までに100万台のロボタクシーを投入すると宣言しています。

また、百度バイドゥ)は、長沙市、滄州市ですでにロボタクシーの試験営業を昨年9月から始めています。長沙市では45台のロボタクシーを投入するという大掛かりな試験営業で、段階を経て、そのまま正式営業に入ることを前提とした試験です。

当初は、滴滴と同じように長沙市民限定で事前予約してもらうことで乗車できるというやり方でしたが、現在は全面開放され、専用のdutaxiというアプリから、誰でも空きがあれば乗ることができるようになっています。先に自動運転の開発を始めていた百度としては、今回の滴滴の上海での試験営業に大きな刺激を受けたことは間違いありません。近々、百度側にも大きな動きか発表があると考えるのが自然です。

 

このロボタクシーはL4自動運転と呼ばれます。

自動運転にはレベル0からレベル5までの区分がされています。

レベル0:すべて人が操作する

レベル1:ペダル操作、ハンドル操作のいずれかを自動化。オートブレーキ、車線維持など。

レベル2:ペダル操作、ハンドル操作の両方を自動化。高速道路でのオートクルージングなど。

レベル3:一定の条件下ですべての運転を自動化。ただし、システムが状況により、人側に運転操作を戻す。一般には高速道路や郊外バイパスなどでの自動運転。

レベル4:一定条件下ですべての運転を自動化。ただし、人が運転に介入できる。

レベル5:人が介入しない。完全自動運転。

 

このうち、レベル3以上が「自動運転」と呼ばれます。

このレベルの違いは、運転者の側から見ると、理解しやすくなります。レベル3では、システムがいつ手動運転を要求するかわかりません。運転手はいつでも手動運転ができる状態であることが必須になります。そのため、運転者は、自分が運転するのと同じように状況を把握しなければならず、スマホ操作や映画鑑賞、居眠りはできません。

「あれ?日本ではL3の自動運転が解禁になり、運転中にスマホを見てもいいと報道されているけど?」と思われた方もいるかもしれません。改正道路交通法で、L3自動運転が認められましたが、自動運転可能な条件は「高速道路で同一車線を時速60km以下の低速走行している」場合です。この場合は、スマホを見たり、テレビを見たりしてもかまいません。しかし、高速道路を60kmで走るというのは、周りの車にすれば迷惑にもなりかねない走行で、あまり現実的ではありません。もちろん、それ以上の速度での自動運転をしてもかまいませんが、その場合は、「運転者が自動運転装置を使って、運転を行っている」扱いになるので、通常の運転と同じようにスマホを見たりすると違反になります。

まずは、リスクの少ないところから、自動運転を解禁していくということなのだと思います。

 

レベル4でも運転者は乗車しなければなりません。一定条件下では、運転者は安全監視も操作も必要なく、寝ていてもかまいませんが、条件下を外れると、人が運転しなければならなくなるからです。例えば、一定条件が「高速道路の走行」でしたら、高速道路を降りたら手動運転する必要がありますし、一定条件が「基準を満たした道路の走行」でしたら、生活道路に入る時には手動運転する必要があります。

ただし、このレベル4で、無人運転を実現する方法がないわけではありません。それはバスなどの固定路線を走る車両です。あらかじめ固定路線の道路環境を整備して、自動運転の条件を外れないようにしてやれば、手動運転の必要がなくなるので、運転者が乗車する必要がなくなります。5G通信を活かして、リモートで走行状況を監視し、緊急時にはリモートによる停止、リモートによる操作を可能にすることで、無人運転を実現しようという試みも行われています。

レベル5では、すべての状況で自動運転となるので、運転者は必要なく、中でスマホを使ったり、眠ったり、好きにすごせることになります。

中国は今、このレベル4自動運転をさまざまな分野で実現しようという段階にきています。

 

中国の自動運転が進んだのは、もちろん人工知能などを含めた技術水準が上がったこともありますが、地方政府が積極的に試験区域を提供していることも大きく貢献しています。むしろ、北京、上海、長沙、重慶などでは、積極的に自動運転の試験エリアを開放し、「世界で初めて完全自動運転車が走る都市」にする競争を行っているほどです。

中国の都市が、自動運転に積極的になったのは、百度のロビン・リーが2017年に起こしたある事件が大きなきっかけになっています。

 

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vol.027:中国に残された個人消費フロンティア「下沈市場」とは何か?

vol.028:MaaSにいちばん近い企業。滴滴出行の現在

vol.029:店舗、ECに続く第3の販売チャンネル「ライブEC」

vol.030:コロナ終息後、中国経済に起きている5つの変化

 

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