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自動運転の大量投入が始まる。実戦投入される7つの領域

中国では、自動運転の実証実験、試験営業の段階が進み、大量投入の前夜になっていると言われる。7つの領域で、この1、2年で自動運転車の大量投入が始まり、5年ほどで普及をすることになると蓋世汽車が報じた。

 

自動運転の大量投入が始まる7つの領域

蓋世汽車が、自動運転車の大量投入が始まると指摘した7つの分野とは、「無人配送」「無人清掃」「閉鎖区間内物流」「幹線物流」「ロボバス」「ロボタクシー」「自働パーキング」。多くの人が期待している乗用車の自動運転化にはまだ時間がかかり、当面は「自働パーキング」などの単機能から自動運転を体験していくことになる。

特に、滴滴出行が上海にロボタクシーを投入し、2030年までに100万台を投入すると発表したことが各方面に衝撃を与え、にわかに自動運転界隈が実戦投入に向けて動き出している。

 

百度は全面開放、滴滴はモニター試験のロボタクシー

ロボタクシーは、百度バイドゥ)がすでに長沙市、滄州市でロボタクシーの試験営業を始めている。L4自動運転で、監視員が運転席に座り、状況に応じて手動運転をするというものだ。当初は、事前にモニター登録をした人しか利用できなかったが、現在は誰でも利用できる段階に進んでいる。

また、滴滴出行も上海でモニター登録者による試験営業を始めている。滴滴は2030年までに100万台のロボタクシーを導入する計画を発表している。

国電動汽車百人会スマートネットワーク研究院の朱雷氏は、百人会場景研究報告会でこう語った。「ついこの間まで、ロボタクシーを利用するには専用のアプリを使う必要がありました。しかし、今ではみなさんが日頃使っている百度地図や高徳地図などからロボタクシーを利用できるようになっています。それだけ、ロボタクシーが私たちに身近になっているということです」。

朱雷氏は、ロボタクシーの試験営業が次々と始まる理由を2つ指摘した。ひとつは中央政府、地方政府の積極政策により、自動運転可能なエリアが広がっていること。もうひとつが関連部品の劇的な低価格化だ。「国内レーザーレーダー技術の進歩により、多くが国産品でまかなえるようになりました。これによりコストは1/4、ものによっては1/10になっています。このレーダーの低価格化が、今後起きてくる大量投入のきっかけになっています」。

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長沙市、滄州市に投入されている百度のロボタクシー。すでにモニター試験を終了し、長沙市民であれば誰でも利用できる状態になっている。

 

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▲滴滴が上海で始めたロボタクシー。滴滴は2030年までに100万台のロボタクシーを投入する計画を進めている。

 

百度のロボバスはすでに営業運転を開始

ロボバスの分野では、百度とアモイ金龍が共同開発した「アポロ」(L4自動運転)がある。2019年7月には、累計走行距離が5万kmを突破し、乗客数も6万人を超えた。

現在、アポロは30都市で、通勤バス、公園内のシャトルバスなどに利用されている。条件が整っている場所での利用では、監視員が乗車しない無人運転を行っているケースもある。

バスは固定路線を走行するため、ロボタクシーよりも実戦投入がしやすい。

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百度のアポロ、ロボバスはすでに30都市で運用されている。公園、企業内のシャトルバスが多いが、公道を走行する運搬、通勤バスなどにも使われている。

 

無人配送は閉鎖区域に投入、実戦投入も始まっている

無人配送の分野では、美団(メイトワン)、ウーラマなどの外売(フードデリバリー)企業、京東物流(ジンドン)、菜鳥(ツァイニャオ)などの物流企業が、研究段階を終え、小規模生産を行い、数百台規模の試験投入を始めている。その中でも進んでいるのが、新石器科技で、2019年5月には、西安市のロケット発射基地に100台の無人販売車を納入した。見学者や隣接する公園で、走る自動販売機として活用されている。

無人配送車は現在の40万元から60万元という価格が、3年以内に8-15万元程度になると見られています。レーダーの国産化が低価格化の決め手になっています。大学や工場などの閉鎖空間での配送業務から導入されていくことになります」と朱雷氏は言う。

美団無人配送首席サイエンティストの夏華夏氏は、低速の無人配送車は3年から5年で大規模投入されると言う。「無人配送車は、研究と試験に大量の資金が必要になりますが、大量生産、大量投入は、研究、試験から比べれば大量の資金を必要としません」。ただし、普及には2つの前提が必要になると言う。ひとつは、無人配送が他の方法よりも運用コストが低い状態であり続けること。もうひとつは、大規模運用をする管理設備、例えば自動駐車場、充電設備、修理工場などが整備されることだという。

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▲新石器の無人配送車。スマホ決済で商品を取り出せるようになっていて、走る自動販売機として公園などの特定区域内に投入されている。

 

工場内物流では自動運転がすでに使われている

閉鎖区間内での物流も自動運転車がすでに投入されている分野だ。具体的には鉱山、港湾施設、空港、工場などだ。馭勢科技の無人運転EVが、自動車メーカー「上汽通用五菱」の河西工場、宝駿工場に75台投入され、工場内の物流を受け持っている。試験運用ではなく、すでに16の固定路線を設定し、日常業務に組み込まれている。

一般公道を走る幹線物流でも、図森、智加科技のロボトラックの試験導入が進んでいる。

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▲工場内では、製造部品を自動運転EVなどで運搬するというのが当たり前になりつつある。

 

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▲幹線物流を担うトラックの自動運転化も実証実験が進んでいる。すでに高速道路などの環境が整っている状況で、運転手が運転をしない自動運転は始まっている。

 

無人清掃車もすでに普及が始まっている

無人清掃車はすでに実用化され、普及が始まっている。智行者の無人清掃車「蝸小白」は、2019年後半に20の省市に導入され、学校キャンパス、マンション、観光地、遊園地などの清掃業務に投入されている。蝸小白は米国、スイス、ドイツ、サウジアラビアなどにも輸出されている。

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無人清掃車はすでに普及が始まっている。閉鎖される公園、企業、学校などが主体だが、繁華街の広場などの開放区域での夜間清掃なども使われるようになっている。

 

乗用車では自働パーキング機能が注目されている

乗用車の分野では、AVP(Automated Valet Parking=自働パーキング)が注目されている。一定条件下の駐車場では、自動で駐車してくれるというものだ。すでに各自動車メーカーが、今年と来年にAVP搭載車の量産に入ることを表明しており、にわかにAVP搭載乗用車の競争が始まろうとしている。

7つの分野で、自動運転は、実証実験がかなり進み、実戦投入目前になっている。自動運転は、開発に時間がかかるが、量産に時間はかからない。大量投入が始まれば、普及は早いと見られている。わずか5年で、自動運転車が珍しくなくなることもじゅうぶんに考えられる。

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▲パーキングに自動で車庫入れしてくれるAVP機能。高速道路などでの自動クルージング機能の次は、AVPが乗用車の自動運転機能として注目されている。