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盛り上がるライブEC。しかし、高い返品率に大きな課題

網紅、商店主、農産物生産者などが直接商品を紹介するライブ放送を行い、その場で商品が購入できるライブECが新しい販売チャンネルとして注目されている。一方で、ライブECの返品率は50%以上になるとも言われ、大きな課題となっていると社交電商伝媒と報じた。

 

タオバオから始まったライブEC

2020年、ECの世界が大きく変わった。ライブECが急速に盛り上がってきたのだ。

ライブECとは、ライブ放送を利用して商品を販売する仕組み。EC「タオバオ」が以前からタオバオライブの機能を提供していて、そこでタオバオの販売商品を紹介するライブ放送を行っていた。視聴者はその場で商品を購入、決済することができる。商品が売れると、ライブ放送主に決められた手数料がもらえる。テレビショッピングとアフィリエイト広告を合体させたような仕組みだ。

以前は、網紅(ワンホン、インフルエンサー)と呼ばれる人たちのライブECが中心になっていた。トップ網紅の薇婭(ウェイヤー)クラスになると、11月11日の独身の日セールにはライブECで27億元(約410億円)の商品をたった1日に売り上げる。これは、中国の一般的なショッピングモール1年分の売り上げに相当する。異常な爆発力を持っている。

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タオバオのライブEC。スマホで見ることができ、コメントをつけて、その場で質問をすることもできる。トップ網紅は、セール1日でショッピングモール1年分の売上をあげる。


営業自粛をする商店主がライブECに参入

これが、新型コロナの感染拡大で新たなライブ主が参入してきた。営業自粛をしている商店主たちだ。感染拡大期には閉店をしなければならない、営業してもお客はこない、政府からの補償は何もないという中で、商店主たちは、自らライブ放送に出演して、自分の商品を売り始めた。さらに、物流が滞ったため、農民も自らライブECを使って農産物を売り始め、それを県長(県知事)が支援をして、県長がライブECに出演して農産物を売ることも目立つようになった。

困窮した商店主、農民たちはライブECに活路を見出し、ライブ放送プラットフォームもそれを支援した。

こうして、ライブECは網紅だけでなく、販売者、生産者も参入するようになった。

 

返品率が異常に高いライブEC

ところが、このライブECが思わぬ問題に直面している。それは返品率が高いのだ。例えば、女性向け衣類では、一般の店舗小売では返品率は3%程度であると言われる。これが一般的なECになるとセール時には30%に達することもあるという。ところが、ライブECだと50%から60%という異常な返品率になっているという。

多くの場合は、サイズ違いであり、交換をすればすむ。しかし、中国では「レシートなし」「現物なし」「理由なし」でも返品を受け付ける三無返品が一般的になりつつある。そのため、理由の不明な返品で返金を求められるケースも多いという。

なぜ、ライブECでは返品率が異常に高くなるのかが問題になっている。

 

返品率が多いのは「快手」

社交電商伝媒は、まず本当にライブECの返品が多いのかどうかを確認することから始めた。各ライブECプラットフォームは、返品率に関するデータを公開していないので、消費者クレームプラットフォーム「黒猫投訴」を利用した。ここは、消費者が、消費者問題に関する情報交換をする場所で、業者に対するクレーム情報を投稿できるようになっている。

ここから、ライブECの返品に関する投稿の数をカウントした。必ずしも、数値が高いからといって返品率が高いとは限らないが、ある程度の傾向はわかってくるはずだ。

すると、「快手」「淘宝」(タオバオ)の返品が突出して多いことがわかった。このうち、タオバオはそもそも購入者数が圧倒的に多いので、返品も多いのはある意味当然。一方、快手、抖音(Tik Tok)は歴史が浅く、利用者数はタオバオに比べると少ない。つまり、快手は利用者数がさほど多くないのに、返品は多い。快手に何らかの問題が潜んでいることがわかる。

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▲ライブECを行う「快手」「タオバオ」「Tik Tok」の返品数。快手が飛び抜けて多い。黒猫に投稿されたエントリーを社交電商伝媒がカウントしたもの。

 

返品理由は品質問題と虚偽宣伝

また、返品理由をまとめてみると、ライブECの場合、品質と虚偽宣伝が突出している。つまり、ライブ放送を見ている時はそうでもなくても、実際に送られてきた商品を見たら、あまりにも品質が悪かったという場合と、ライブ放送で言っていたことと違った部分があったという理由だ。例えば、ライブECで茅台酒を購入した消費者は、届いた茅台酒の品質があまりにもひどいという理由で返品をしている。その人は、温度管理をしていない場所に長期間放置されたものではないかと訴えている。

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▲ライブECで返品をした理由。多いのは虚偽宣伝(ライブECの内容と実際の商品に違いがある)と品質の問題だった。黒猫に投稿されたエントリーを社交電商伝媒がカウントしたもの。

 

ライブ配信主になるためのハードルが低い「快手」

ライブECの返品率の高さは、品質の問題のある商品が、快手で、虚偽宣伝をする内容で紹介されていることに原因がありそうだ。

では、快手の何が問題なのだろうか。

社交電商伝媒は、快手のライブECのハードルの低さを指摘している。タオバオの場合、ライブECで消費を販売するには、さまざまな条件をクリアしなければならない。身分証などを使った実名登録をすることはもちろん、タオバオですでに一定量の取引をしている必要がある。また、消費数が常に5種類以上あり、直近30日間で3個以上の商品が売れ、直近90日間の売り上げが1000元以上なければならない。つまり、通常のタオバオ店舗としてある程度の実績がなければ、ライブECはできないようにしている。ハードルとしては決して高いものではないが、詐欺的な商品をライブECで売り切って逃げようとする業者は排除できる程度になっている。

一方で、快手では、「アカウント登録をしてから7日以上」「ファンが6人以上」「直近7日間で、通常のライブ放送を1分以上実施している」の3つの条件をクリアすればライブECが始められる。

つまり、詐欺的なライブECをしようと考える業者が、快手に集中している可能性がある。

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▲中国消費者協会の調査によると、ライブECを使わない理由でいちばん多い回答は「品質が不安」だった。「ライブEC消費者満足度オンライン調査報告」(中国消費者協会)より作成。

 

安心を確立することがライブECの課題

コロナ禍で困窮をした商店主や農民を救済するために、ライブEC開始までのハードルを低く設定したことは正しいことだった。しかし、コロナも終息をし、不正な方法で儲けたいと考える業者がライブECに入り込むようになっている。

「ライブEC消費者満足度オンライン調査報告」(中国消費者協会)によると、「ライブECを利用しない理由」を尋ねたところ、最も多かったのが「商品の品質が保証されないのが不安」という回答が圧倒的に多かった。すでに消費者の中には「ライブECは品質が不安」というイメージができあがりつつある。

コロナ禍で生まれた生産者、販売者によるライブECというジャンルが定着をしようとしている。仕組みを整えて、消費者が安心して買い物ができる環境にしていく必要がある。