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指を触れずに音声で行き先階を指定「完全無接触エレベーター」

北京市の海淀病院に音声で行き先を指定できる無接触エレベーターが導入された。既存のエレベーターに、後付けで設置ができるため、病院を始め、オフィスビル、学校、ショッピングモールなどに広まっていくと北京設計之都核心区が報じた。

 

北京海淀病院に無接触エレベーター

新型コロナウイルスの感染拡大で、公共空間のエレベーターのボタンが問題になっている。不特定多数の人がボタンに触るため、接触感染の不安があるからだ。指で触れることがどの程度のリスクであるかはまだはっきりしていないが、インフルエンザなどでは接触感染する経路として、ドアノブとスイッチがよく取り上げられる。そのため、以前から、インフルエンザの季節になると、指先ではなく、手の甲側でエレベーターのスイッチを押す習慣をつけている人もいる。

北京市の海淀病院では、エレベーターに音声操作システムを導入した。エレベーター内にタブレットが設置され、「小易、小易」のウェイクワードの後に「○階」と言えば、その階のボタンが押されたことになる。指はどこにも触れることのない「完全無接触エレベーター」だ。

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▲エレベーターに取り付けられたディスプレイ。音声で行きたい階を伝える。防犯カメラの機能も備えられている。画像解析による顔認証、音声による声紋認証などの機能追加も考えられている。

 

病院、オフィスビルなどに広がる音声操作エレベーター

このシステムを開発したのは、北京の声智科技。人工知能を使ったプロダクトを開発している。

このシステムは、普通語だけでなく、四川語、河南語、粤語など8つの方言に対応している。また、監視カメラ、管理室とのテレビ電話にも対応している。

開発は簡単ではなかったという。自宅のリビングや静かなオフィスという理想に近い環境で、ウェイクワードと内容を音声認識するのは難しいことではない。しかし、エレベーター内は人が会話をし、しかもマスクをしている人が多いため、このような環境で、ウェイクワードを検知させるために、騒がしい状況での学習をさせる必要があったという。

また、エレベーターに設置する際も、大きな改造が必要にならないように、工夫をする必要があった。現在、北京大学第三病院など12箇所での設置作業が進んでいる。病院を手始めに、オフィスビル、ショッピングモール、マンションなどに広げていきたいという。

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▲エレベーターのボタンが接触感染源になるということから、さまざまな工夫をした押し方がネットにアップされた。

 

画像解析防犯カメラ機能も同時搭載

声智科技では、この「AIエレベーター」は、感染対策ではなく、新日常として定着させていきたい考えだ。

カメラによる監視は、人が監視をするだけではなく、画像解析から、急病、暴力事件などを自動検知し、通報する仕組みや体温などの自動測定をする仕組みなども追加していきたいという。さらに、現在、エレベーターに乗れる人数をソーシャルディスタンスにより制限をしているが、何人乗るかは利用者任せになっている。これも画像解析により、人数が多い場合は警告を出す、場合によってエレベーターを作動させないといった機能が望まれている。

また、要望が多いのが、声紋認識だという。エレベーターに「5階にいって」などという命令をしたときに、その音声の声紋認識を行い、事前に登録していない人の声紋であった場合は、エレベーターが動かないなどだ。

声智科技は、自社の音声認識技術を小米、百度、ファーウェイなどのスマートスピーカー音声認識に提供している。米国と中国では、いまだにスマートスピーカーが好調に売れ、普及率が上がり続けている。公共空間でも、「音声で操作する無接触」が定着していくかもしれない。

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▲声智科技は音声系の人工知能技術が核心技術になっている。小米、百度、ファーウェイなどのスマートスピーカーに技術提供をしている。