中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

投資資金を焼きつくす「焼銭大戦」。10年で8つの大戦(下)

中国で新しいサービスが登場すると、必ずといっていいほど起こる「焼銭大戦」。各サービスが大量の投資資金を使って優待クーポンなどを大量配布する競争だ。資金を焼きつくして、1つか2つのサービスが生き残り、その他はすべて灰になる。この10年で、少なくとも8つの大規模な焼銭大戦が起こったと人人都是産品経理が報じた。

 

新サービス登場で必ず起こる焼銭大戦

さまざまな分野で新しいサービスが登場する中国では、しばしば「焼銭大戦」が行われる。焼銭とは、各企業が大量の投資資金を使って、大量の優待クーポン配布や大型のポイント還元を行い、消費者を惹きつけようとするものだ。

当面の間、消費者は得をすることができるので利用する人が増える。その分野で生き残った企業は、焼銭大戦以降、安定した収益を得ることができる。しかし、敗退した企業は大量の資金を焼きつくして灰になり、投資資金はすべて無駄になる。いったい、焼銭大戦は世の中にとって有益なのだろうか、有害なのだろうか。

 

外売大戦でフードデリバリーサービスが定着

2015年には、外売大戦が勃発した。2009年に餓了麼(ウーラマ)が創業し、フードデリバリーサービスが始まった。この時、ウーラマは注文金額の30%から50%の優待を行っていた。しかし、この時は、外売市場がまだ小さく、外売の習慣を定着させるために必要な投資だと思われていた。しかし、2013年に美団と百度が参入し、競争が始まった。

2015年になると、焼銭大戦が白熱化し、ウーラマは10億ドル、美団は20億ドルの資金を調達した。2015年末には、各社とも資金が底をつき、まず百度外売が脱落してウーラマに吸収合併された。これをきっかけに焼銭大戦が鎮静化していった。

美団、ウーラマともに大きな損失を出したが、外売大戦により、外売市場は3倍以上に成長している。美団はこれをきっかけに生活サービス全般に進出をし、ウーラマはアリババの新小売戦略の重要な要素となっている。外売大戦が、中国人の生活習慣を変えたことは確かだ。

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▲ウーラマの創業者、張旭豪(左から2人目)。上海交通大学時代、友人の食事を代わりに買いにいったことがウーラマの原点。驚異的な成長をし、外売という今までになかったサービスを定着させたが、アリババに買収をされ、張旭豪はウーラマを去った。

 

大量の放置自転車を生み出したレインボー大戦

2017年にはシェアリング自転車大戦が勃発した。2015年に北京大学から始まったofo、上海から始まったMobikeが、「中国新4大発明のひとつ」ともてはやされた(残りの3つは、EC、高速鉄道QRコード決済)。2016年になると、追従する企業が大量に出現をした。各社ともイメージカラーを決めることが流行し、アプリのアイコンもイメージカラーで彩られたため、さまざまなシェアリング自転車アプリを入れると、スマホの画面がカラフルになる。ここから「レインボー大戦」とも言われる。

主要な40社が大量に自転車を投入し、優待を行った。Mobikeは最高で1日4000万元(約6.1億円)のクーポンを配布したこともある。優待だけでなく、利用してもらうために大量の自転車が市中に投入された。必要量の数倍の自転車が投入され、街に自転車があふれることになり社会問題にもなっていった。

その結果、ofoは実質的な破綻状態、Mobikeは美団に売却という勝者のいない結果になっている。

しかし、面白いのは、Hello Bikeが結局最終的な勝者となっていることだ。Hello Bikeはシェアリング自転車大戦の最中、過熱している大都市を避け、地方都市や観光地のシェアリング自転車サービスに集中をしていた。急成長ではなく、地道に成長する道を選んでいた。すると、大都市部でofoとMobikeが相次いで破綻をした。空きができたところで、Hello Bikeは大都市に進出をし、過剰投入にならないように慎重にサービスを拡大していった。現在では、シェアリング自転車の利用は、生活の中に定着をしている。

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▲ofoの創業者、戴威。利益を度外視し、自転車を普及させたいという夢でofoを創業した。しかし、焼銭大戦で消耗し、過剰投入で社会問題を起こし、現在は事実上の破綻状態になっている。

 

新小売大戦終結後にコロナ需要で再び火がつく

2018年には新小売大戦が勃発した。新小売とは、2017年にアリババの創業者、ジャック・マーが提唱した新しいビジネスモデルで、「オンライン小売とオフライン小売を融合した販売形態」のことだ。店舗とECを並列させるのではなく、融合させる点がポイントだ。これで消費者は「店舗に行く/自宅でスマホで」「持ち帰る/宅配する」を自由に組み合わせることができるようになる。店舗で商品を自分の目で確かめて購入後、重たいものは宅配してもらうとか、キャンプに出かける前にスマホで注文し、店舗によって商品をピックアップするなど、さまざまな購入方法が取れるようになる。

アリババが新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)を展開すると、京東などのEC、永輝などのスーパーが次々と新小売業態の展開を始めた。各社とも大幅な優待を行い、消費者を惹きつけたが、2019年になると、結局、生き残ったのはフーマのみだった。他社は撤退をするか、成長できないままでいる。これで、新小売大戦は自然終結していった。

ただし、2020年1月から3月のコロナ禍により、新小売スーパーの需要が急増し、死に体になっていた各社新小売スーパーが息を吹き返している。状況によっては、第2回戦の新小売大戦が始まるかもしれない。

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▲アリババが展開する新小売スーパー「フーマフレッシュ」。他の新小売スーパーはフーマに勝つことができない。大量出店を可能にしたアリババの資金力もひとつの勝因になっている。

 

100億元あげちゃうキャンペーン大戦

2019年には百億補助大戦が勃発した。ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)が急成長をし、ECの分野で利用者数、流通総額第2位の京東を抜き、第2位に躍り出て、アリババさえも視野に入れる躍進をした。ソーシャルECは、SNSを使ってまとめ買いをする仕組みで、うまく利用すると驚くほどの低価格で商品を購入することができる。その情報がSNSで拡散するため、爆発力があり、大量に商品が売れる。

この拼多多に対抗するために、アリババは「タオバオ特化版」をスタート。京東も「京喜」をスタートと、ソーシャルECサービスを始めている。

拼多多はこれに対抗するために、百億補助キャンペーンを始めた。これは拼多多が100億元の資金を用意し、特定の商品に補助金という形で割引販売をする仕組みだ。特に、iPhoneの百億補助が大きな話題となった。iPhone仕入れ値が高いため、各EC、販売店も大幅な割引ができない。しかし、拼多多では百億補助という形で実質的な大幅割引をしたため、拼多多利用者を大きく増やすきっかけとなった。しかも、百億補助は、100億円の補助金がなくなったところで補助金は打ち切りという早い者勝ちでもあることから、多くの消費者を惹きつけることになった。

すると、今度はアリババや京東も百億補助に相当するキャンペーンを行っている。百億補助大戦は現在も継続中だ。

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▲近年、急成長をして、中国EC第2位の座を京東から奪った拼多多の創業者、黄崢。消費力の小さい地方市場をねらうという誰も考えなかった手法でソーシャルECを成功させた。

 

コールドスタートには有効な焼銭大戦

焼銭大戦は、その最中にいると、「盲目的な投資」「自滅の道を歩む」という点が目につき、愚かな行為に見える。一部の消費者は、焼銭大戦の最中は消費者は得をできるが、勝者が決まると優待は削られ、利益の回収が始まり、消費者は結局、企業に毟り取られることになると主張しているが、専門家たちは焼銭大戦には社会にとっても大きな利点があると見ている。それは、新しいサービスが始まるコールドスタート状態では焼銭大戦がきわめて有効な手法であるからだ。新しいサービスはどういうものかわからないので、多くの人が利用するのを躊躇する。体験させるために優待はきわめて効果があるのだ。

 

勝者は、利益をあこぎに回収せず、次のサービスに進む

勝者が決まり、焼銭大戦が集結をすれば優待は減少し、消費者が得をできる分量は少なくなる。しかし、そこで勝者が利益を回収するために、過剰な利益を貪るようになれば、そのサービスそのものが終わってしまう。多くの勝者は、勝ち得たサービスを起点にして次のビジネスを考え、そちらで利益を出そうと考える。例えば、2014年からはWeChatペイとアリペイの紅包大戦が始まっている。スマホ決済の普及率を高めるために、現金に相当する紅包を大量に配布した。これにより、スマホ決済の利用率が大幅に上がり、スマホ決済を起点に外売、新小売などのビジネスが登場している。また、外売は飲食物だけでなく、一般商品も扱うようになる即時配送へと進化をしている。

焼銭大戦は確かに大きな投資金額を焼きつくすことになるが、その代わりに社会基盤を築くことができ、その社会基盤の上で次のビジネス、次の社会基盤を構築できるようになる。焼銭大戦は、社会を進化させる原動力になっていると評価する専門家が多い。