中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

投資資金を焼きつくす「焼銭大戦」。10年で8つの大戦(上)

中国で新しいサービスが登場すると、必ずといっていいほど起こる「焼銭大戦」。各サービスが大量の投資資金を使って優待クーポンなどを大量配布する競争だ。資金を焼きつくして、1つか2つのサービスが生き残り、その他はすべて灰になる。この10年で、少なくとも8つの大規模な焼銭大戦が起こったと人人都是産品経理が報じた。

 

新サービス登場で必ず起こる焼銭大戦

さまざまな分野で新しいサービスが登場する中国では、しばしば「焼銭大戦」が行われる。焼銭とは、各企業が大量の投資資金を使って、大量の優待クーポン配布や大型のポイント還元を行い、消費者を惹きつけようとするものだ。

当面の間、消費者は得をすることができるので利用する人が増える。その分野で生き残った企業は、焼銭大戦以降、安定した収益を得ることができる。しかし、敗退した企業は大量の資金を焼きつくして灰になり、投資資金はすべて無駄になる。いったい、焼銭大戦は世の中にとって有益なのだろうか、有害なのだろうか。

 

グルーポン大戦。勝者は美団

2010年、千団大戦が勃発した。千団とは共同購入のことだ。米国でグルーポンが人気になると、中国にも共同購入に拉手、美団、窩窩、満座などを始めとして5000社以上が参入をした。そこにグルーポンも中国に上陸、焼銭大戦が始まった。

2011年は、この千団大戦が白熱し、補助、広告、販売業者の獲得などに大量の資金が費やされた。しかし、2011年後半に、各社とも資金が底をつき、9割以上が倒産、営業停止をしていった。その中で、生き残ったのは、アリババの巨大投資を引き出すことができた美団(メイトワン)だった。

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▲美団の創業者、王興。グルーポン大戦ではアリババの巨大資金を使った焼銭大戦を行ったが、その後、アリババと袂を分かち、テンセントの巨大資金を利用するようになる。そして、現在、アリババやテンセントを脅かす存在に成長してきた。戦略家としてテック業界から一目置かれている。

 

利益なしで販売するECvs量販店大戦

2012年には、EC焼銭大戦が勃発した。その震源地はEC「京東」だった。日用雑貨は京東で購入する人が多くなっていたが、当時、家電製品は量販店で買うのがまだまだ一般的だった。商品について、説明をしてほしい、自分の目で見たいと考える人が多かったからだ。

これを、ECで購入する習慣を広めたいと考えた京東の創業者、劉強東(リウ・チャンドン)は、思い切った作戦に出る。それは「3年間、京東は利益なしで家電製品を販売する」というものだった。

しかも、量販店の国美、蘇寧は10%以上の利益を乗せているので、京東での販売価格は、国美、蘇寧よりも10%安くなると宣伝した。

口だけではなく、5000名の調査員を国美、蘇寧の2000店舗に派遣をし、価格を調査させて、京東の販売価格が10%以上安くない場合は、価格をすぐに引き下げると宣言した。消費者には、国美、蘇寧で家電を購入するときは、決める前にスマートフォンを取り出して、京東の価格を確かめてほしいと訴えた。もし、そのとき、10%以上安くない場合は、通報してくれればすぐに価格を改定すると宣伝した。

このやり方に国美、蘇寧はすぐに反応し、さらにECの易迅、当当も同様のキャンペーンを始め、ECvs量販店の焼銭大戦が勃発した。大量の資金が費やされたが、家電製品は大量に売れた。しかも、ECで家電製品を購入する習慣が広まった。数ヶ月後に、政府商務部、発展改革委員会価格監督局などから、価格表示の違法性が指摘をされた。○%割引という時は、自社の平常価格と比較しなければならないからだ。それでも、京東にとっては大きく飛躍するきっかけとなった。一方の量販店では、経営が苦しくなっていった。

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▲京東の創業者、劉強東。家電製品では3年間利益を出さない宣言、量販店よりも安くする宣言をして、量販店から顧客をECに奪っていった。商務部から価格表示の違法性を指摘されかねない危険な手法だった。

 

全員が不幸な結果に。旅行サイト大戦

2013年にはOTA焼銭大戦が勃発した。OTAとはOnline Travel Agentのことで、いわゆる旅行予約サイトのことだ。この分野では、携程(Ctrip、シエチャン)が圧倒的なシェアをとっていた。創業者の梁建章はすでにリタイアをし、海外に移住して悠々自適の生活を送っていた。しかし、2011年頃から、芸龍、去哪児などのOTAが大量の資金を使い、大幅割引で飛行機、鉄道、ホテルなどの販売を開始した。これにより、携程の売上が圧迫され、株価は20%以上も下落してしまった。

この事態に、創業者の梁建章が復帰をし、OTA焼銭大戦が始まった。どのOTAも数十億元の資金を投入したと言われた。

結果、携程の株価はさらに下落をした。資金を調達するために、株式を百度、プライスラインなどに売却することにもなった。芸龍、去哪児は資金が底をつき、携程傘下に入ることになった。

しかし、OTA焼銭大戦は終わってはいない。途牛、同程、驢媽媽、飛猪などのOTAがあり、大規模な優待を行っている。中国人が旅行好きな理由のひとつは、OTA焼銭大戦が長期化していて、低価格で旅行に行けるということもある。

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▲旅行予約サイトCtripを創業した梁建章。大きなシェアを握り、成功後、セミリタイアをして海外生活を送っていたが、振興の旅行予約サイトが焼銭大戦を仕掛けてきたため、急遽、現役復帰をすることになった。

 

ウーバーも撤退せざるを得なかった網約車大戦

2014年には、網約車大戦が勃発した。網約車とはネットで予約する車のことで、タクシー配車アプリを使ったタクシーやライドシェアなどのことだ。2012年に滴滴、快的のタクシー配車サービスが登場すると、両社の間で網約車大戦が始まった。滴滴がテンセントの投資を受け、乗客には10元割引し、ドライバーには10元の報償金を与えるというキャンペーンを行った。すると、アリババの投資を受けている快てきは、10日後に同じキャンペーンを始め、20日後には滴滴がさらに優待を積み増しし、数日後には快的が追従するということが何度も繰り返された。最終的にはタクシーの方が地下鉄やバスよりも安くなり、実質的に無料で利用できた時期もあるほどだった。しかし、これでスマホでタクシーを呼ぶ習慣が定着をした。歩いて1分の野菜市場に行くのにもタクシーを使うという人が続出したと言われる。

この網約車大戦は約4ヶ月続き、合計で20億元(約300億円)が費やされ、結果として滴滴と快的は合併をすることで、この網約車大戦は終結した。しかし、第二幕がすぐに始まった。2014年にウーバーが中国の上陸をした。滴滴は焼銭大戦で対抗をした。結果、2015年に滴滴は100億元(薬1500億円)の損失を出し、ウーバーは10億ドル(約1000億円)の損失を出した。ウーバーは中国市場を放棄することに決定し、ウーバー中国の株式を滴滴に売却して、中国から撤退をした。

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滴滴出行の創業者、程維。徹底した焼銭大戦で、ライバルを潰していく。快的打車、ウーバー中国を資金消耗戦で打ち負かした。

 

明日に続きます。