アップルが自社工場を持たず、EMS(Electronics Manufacturing Service)を利用して、製品を製造していることはよく知られている。また、アップルが利用しているEMSとしてフォクスコンの名前もよく知られている。しかし、アップルが利用しているEMSはフォクスコンだけではない。8社あり、そのうちの6社が台湾系だ。製造拠点は、中国に14カ所、米国に2カ所、欧州に1カ所、南米に1カ所となっていると落水三千的魚が報じた。
アップル(アイルランド)
アップルはファブレス企業といっても、まったく製造をしていないわけではない。アイルランド、コーク市に拠点を置くアップルは、欧州、中東、アフリカの本部として1980年に設立された。アイルランドは、欧州の中でも最も法人税が安い国であることから、税逃れをするための拠点という報道もあるが、このアイルランドのアップルでは、iMacを製造し、6000人以上の人が働いている。
▲アイルランドのアップル内の工場。税逃れのための拠点とも言われたが、実際にiMacを製造している。
BYD(中国深圳)
元々はバッテリー製造企業。その技術を活かして、EV(電気自動車)に進出している。2010年から、アップルとの取引を始め、外装部分の組み立てを担当していると言われるが、アップルとの契約により業務内容は公開できないため、詳細は不明。しかし、アップル製品のバッテリーを供給していることはよく知られている。
コンパル・エレクトロニクス(中国崑山)
1984年に創立されたノートPCメーカー。iPhoneとiPadの製造を行っている。当初はiPad miniのみの製造だったが、その後、iPad Airの製造を獲得、南京工場でもiPad Pro、iPad minni4の製造を始めるなど、アップルのEMSとしての地位を拡大している。
本社は台湾台北市で、中国子会社が江蘇省崑山にある。社員数は5万名以上で、ベトナムに工場を建設中。
▲コンパル。アップルのEMSとして地位を拡大中。iPadの製造が中心になってきている。
フレックストロニクス(テキサス州オースティン)
2014年から「米国産」Macの製造を行っている。MacProはフォクスコンが製造していたが、2013年に新型のMacProからフレックストロニクスが製造をしている。それまで、製造コストの4%から5%が人件費で、これを抑えるために人件費の安い中国を中心に生産していたが、中国の人件費が高騰することで、輸送費が節約できる米国工場が有利になってきた。本社はシンガポール。アップルはオースティン工場を建設するにあたって、1億ドルの投資を行っている。
▲フレックストロニクス。シンガポール企業で、米国産MacProを生産している。
鴻海精密工業/富士康(中国深圳×2、上海、成都、鄭州、太原、ブラジル)
アップルが利用しているEMSのうち、最も有名な企業。本社は台北市で、鴻海精密工業(ホンハイ)が社名。この鴻海科技の中国大陸向けの名称が富士康、その英語名がフォクスコンだ。
2007年のiPhone登場から2010年までは、フォクスコンがiPhone製造のすべてを担当していた。しかし、アップルは1社だけに頼るのはリスクが高いと考え、iPad Air 2ではフォクスコンとペガトロンに分散して製造している。さらにiPad Proでは、フォクスコン、ペガトロン、コンパル3社7工場に分散させている。
また、iPhoneも分散して製造する方式となり、iPhone 7はフォクスコンとペガトロン、iPhone 7Plusはフォクスコンとウィストロンが製造している。
なお、ブラジル工場は苦戦をしており、すでにiPhoneの製造は行われていないという報道がある。また、インドでもiPhone製造を始めようとしているが、こちらも頓挫をしていると言われる。
▲アップルのEMSとして有名なフォクスコン。本社は台湾のホンハイ。ブラジルやインドに生産拠点を置こうとしているが、苦労をしている。
インベンテック・アプライアンシズ(中国上海)
インベンテックとアップルの付き合いは古く、90年代のPDA「Newton」の製造に遡ることができる。この時は、技術上の問題や製造上の問題が生じたため、実際の製造は行なわれなかったが、それ以来、アップルの中では技術力の高いEMSとして名前が挙がるようになった。
iPodの製造でもインベンテックへの製造委託が模索されたが、この時はインベンテック側が、携帯電話や携帯音楽プレーヤー、GPSなどの製造委託で手一杯で、アップルはフォクスコンにiPod製造を委託、それからフォクスコンへの依存度が上がっていった。インベンテックはハードディスク型のiPodを製造し、フォクスコンとクアンタがメモリー型のiPodを製造した。
現在、インベンテックはiPadや小米製品などを製造している。
▲インベンテック上海工場。アップルとの付き合いは古く、90年代のNewtonに遡ることができる。現在は、iPadの他、小米(シャオミ)製品を生産している。
ペガトロン(中国上海、崑山)
台湾系のEMSで、iPhoneとiPadの製造を行っている。2014年からiPadの製造を始め、上海ではiPad Proの製造を行っている。アップルが複数のEMSに製造を委託する方針に乗って、2014年にはiPhone6の3割ほども製造した。2015年からは、iPad製造からiPhone製造に軸足を置くようになっている。
▲ペガトロン。現在はiPhoneの製造を主力にしている。
クアンタコンピュータ(中国上海、常熟、カリフォルニア州フリーモント)
1988年に創業した台湾企業。iPhone、iPad、iPod、MacだけでなくApple Watchも製造している。2014年にMacBookとiPodの生産量が落ちていったために、インベンテックと争って、AppleWatchの製造を獲得した。現在、Macの製造はアイルランドのアップルと、フレックス、クアンタの3社で行われている。
しかし、AppleWatchの不良品率が高く、クアンタは苦労をしている。そのため、フォクスコン、ウィストロン、インベンテックでもAppleWatchの製造が始まるとも言われている。
▲クアンタの製造現場を視察するティム・クックCEO。AppleWatchの製造も行っている。
ウィストロン(中国崑山)
2001年に創業した台湾企業。iPhoneの製造を行っている。2015年に経営が苦しくなったが、iPhone 7Plusの生産を獲得することで経営は持ち直した。